日本経団連タイムス No.2935 (2009年1月22日)

日本経団連労使フォーラム開催

−直面する経済危機の打開策や春季労使交渉の課題など探る


日本経団連は8、9の両日、都内のホテルで「第112回日本経団連労使フォーラム」を開催した。

全国の経営トップや人事・労務担当者ら約450人が参加した今回のフォーラムは、「激動の時代を切り拓く-労使一丸となって新たな飛躍を」を総合テーマに、直面する経済危機の打開策や今年の春季労使交渉における課題・対応策などを探った。

1日目の冒頭、開会あいさつと基調講演を行った御手洗冨士夫会長は、現下の経済情勢は極めて厳しいとの認識を示した上で、今年の春季労使交渉・協議においては、(1)雇用の安定を重視した交渉・協議(2)ワーク・ライフ・バランスの推進(3)労使による自社の経営課題の共有と労使一丸による難局の打開――が重要であることを強調した。

続いて、東京大学大学院教授の伊藤元重氏が「2009年・日本経済の行方」と題して講演。この中で伊藤氏は、円高を前提とすれば、輸出企業はよりグローバルな展開を求められることや、医療・教育・住宅などの内需が拡大する可能性があるが、そのためには制度改革が不可欠であることなどを指摘した。

次に、日本経団連の川本裕康常務理事は、今年の春季労使交渉における経営側の基本的なスタンスを示した『2009年版経営労働政策委員会報告』の要点を解説。今年は特に雇用の安定への努力が求められる点を強調した。

続いて、「挑戦を続ける経営とは」をテーマに、大橋洋治全日本空輸会長、鈴木正一郎王子製紙会長、高木晴夫慶應義塾大学大学院教授が鼎談。「経営者と社員の徹底したコミュニケーションを通しての目標、ビジョンの共有化が最も重要」「労使一体となってビジョンを明確化し、イノベーションを追求していく必要がある」「場の展開を読み取れる力を持ったリーダーを発掘し、しかるべきポジションにつけなければならない」などの意見が出された。

1日目の最後に登壇した連合の團野久茂副事務局長は「労働組合が果たすべき役割」について講演し、「日本再生のためには、中間層の復元、消費の回復、将来不安の解消が必要」と述べるとともに、労使がマクロの視点を持ち、産業力を復活させることが重要との考えを示した。

2日目はまず、「今次労使交渉に臨む方針」と題して、産別労組リーダーと企業の労務担当役員がそれぞれ講演を行った。

西原浩一郎自動車総連会長、中村正武電機連合中央執行委員長、河野和治JAM会長の産別労組リーダー3氏からは、厳しい経済情勢は十分認識しているとした上で、「賃金引き上げは景気対策・内需主導経済につながる」「組合員の生活防衛のため、物価上昇を踏まえた適切な賃金水準の向上を」「配分のひずみを修正すべきである」「雇用の安定は当然のことであり、政労使が痛みを分かち合うかたちで対処すべきである」「賃金格差の是正を図るべきである」「企業の永続的発展は人が支えるものであり、もっと人に投資すべきである」などの意見が出された。

一方、宮崎直樹トヨタ自動車常務役員、大野健二日立製作所執行役常務、平山誠一郎J.フロントリテイリング執行役員業務本部人事部長の企業労務担当役員3氏は、各産業・企業が置かれている現状は極めて厳しいと述べるとともに、「今次交渉は賃金・賞与に関して極めて厳しい姿勢で臨まざるを得ない」との認識を示した。その上で、働き方やワーク・ライフ・バランスの問題、メンタルヘルスを含めた健康問題、介護施策などについて労使間で話し合うべきであると指摘した。

続くパネルディスカッションでは、キヤノンの浦元献吾執行役員人事本部長、高島屋の明比実也執行役員人事部長、花王の青木寧執行役員人材開発部門統括の3氏をパネリストに、三菱UFJリサーチ&コンサルティングプリンシパルの吉田寿氏をコーディネーターに迎え、「全員参加型社会の人事・賃金・雇用戦略」について議論を交わした。この中で、「中長期的にみれば日本は、少子・高齢化、人口減少により若年労働力が減少し、国民全員参加、異なる国籍の労働力受け入れで持続的成長を実現していかなければならない」との認識で一致、そのために必要なものとして、人間尊重主義や優れた企業理念、双方向コミュニケーション、社内情報共有化、中長期の事業戦略と人材育成のリンケージ、ワーク・ライフ・バランスへの取り組み、健康管理体制の強化、高年齢者を活用する仕組みの整備、福利厚生の均等化、グローバル人材開発ポリシー、社員の意識調査による組織の健全性診断などが挙げられた。

最後の特別講演「世界潮流の中の日本-アメリカ新大統領就任を前に」で、慶應義塾大学教授の手嶋龍一氏は、オバマ新米大統領が今後10年間でクリーンエネルギーに1500億ドルの投資を行う「グリーン・ニューディール政策」を実行に移す考えであると述べた上で、日本企業もこれに積極的に参加していくべきであるとの見解を披露した。

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