日本経団連タイムス No.2975 (2009年11月19日)

「経済危機下の財政政策」

−コッタレリIMF財政局長が講演/財政制度委員会



講演するコッタレリ氏

日本経団連の財政制度委員会(氏家純一委員長、秦喜秋共同委員長)は10月29日、東京・大手町の経団連会館で会合を開催し、IMF(国際通貨基金)のカルロ・コッタレリ財政局長から、「経済危機下の財政政策」をテーマに説明を聞いた。
概要は次のとおり。

1.主要国財政の現状と見通し

1930年代の大恐慌以来、最悪の経済危機に直面するなかで、各国政府は大規模な財政政策を打ち出した。G20諸国の財政収支赤字は2009年、10年とGDP比9%強まで悪化し、政府債務残高は14年までにGDP比120%に達する見通しである。景気刺激策による歳出増と経済活動の縮小による歳入減という二つの要因によって、財政赤字は拡大しているため、景気刺激策を止めただけでは財政問題は解決しない。すでに、日本とイタリアの政府債務残高はGDP比100%を超える水準となっているが、他の主要国も同じ状況となった場合、国債市場にどのような影響が表れるかわからない。

2.財政健全化に向けた戦略

財政健全化に向けては、経済成長力の強化と基礎的財政収支(プライマリーバランス、以下PB)の改善により、政府債務残高をGDP比で正常な水準まで引き下げ、安定化させることが必要である。

例えば、当初の政府債務残高がGDP比で100%である国を想定する。この国で、1人当たり歳出規模を維持したまま、経済成長率を1%高めたケースを試算すると、政府債務残高は10年で29%減少する。ただし、経済成長率については、経済危機の影響や改革の進捗に関する不確実性が大きい。したがって、財政健全化に向けてはPBの改善も進めるべきである。

先進国では今後高齢化の進行が財政圧力として高まるため、PBの改善に向けて、年金や医療改革に取り組む必要がある。年金の支給開始年齢の引き上げは、労働供給や消費の面でも望ましい。しかし、年金や医療費の削減は政治的に難しいことから、他の歳出改革にも取り組む必要がある。例えば、まず景気刺激策の停止によってPBは1.5%改善できる。

次に、社会保障費を除く支出をGDP比23%まで凍結したうえで、2%の実質成長率を達成すれば、3.5%改善する。また、歳入改革として課税ベースの見直し(炭素税導入による外部不経済の是正)などを行えば、3%改善できる。

3.現在必要とされる財政政策

景気は最悪期を脱しつつあるものの、依然として先行きは不透明であり、財政を引き締めるには早過ぎるが、政府は財政健全化に向けた姿勢を示しておく必要がある。その手段として、第一に、政府は自らが抱える債務の支払能力を確保する道筋を打ち出すことで、市場の信認を得るべきである。第二に、財政の透明度の向上、中期的な財政フレームの明示など、景気を悪化させるリスクのない取り組みを進めるべきである。第三に、社会保障改革により、経済成長を阻害することなく、財政規律に対するコミットメントを高めるべきである。

◇◇◇

当日はコッタレリ財務局長の説明に続き、提言案「経済危機からの早期脱却と生活の充実・安心に向けた財政政策を望む」の審議が行われ、委員会として了承した。

【経済政策本部】
Copyright © Nippon Keidanren