日本経団連タイムス No.3002 (2010年6月24日)

中期目標達成には真水部分の引き下げを

−「日本の今後のエネルギー環境政策の方向」
/茅・地球環境産業技術研究機構副理事長が常任理事会で講演


日本経団連が2日に開催した常任理事会で、地球環境産業技術研究機構の茅陽一副理事長が「日本の今後のエネルギー環境政策の方向」をテーマに講演した。
講演の概要は次のとおり。

■ 25%削減目標の困難性と対応

2020年における温室効果ガス排出量の削減目標として、麻生政権の下では05年比で15%削減を掲げた。これに対して、鳩山政権の削減目標は1990年比で25%削減であった。これは、05年比では30%削減に当たり、麻生政権よりも15%も削減幅が大きい目標である。

90年以降の日本のGDPとCO2排出量を比較すると、2000年以前は同じような伸び率であり、2000年以降も多少の違いはあるが比例している。今後、GDPの2%成長を達成しつつCO2排出量を25%削減するためには、両者の動きが反対となるような全く新しい手法が必要となる。

欧州の限界削減費用は1トンCO2当たり20〜30ユーロだが、日本では麻生政権の目標で1万〜3万円、鳩山政権の目標では4万〜9万円に上り、ヨーロッパの20倍以上の費用となると試算されている。

■ 排出権取引制度をどう考えるか

25%削減目標を達成する手法として、排出量にキャップをかけ、それ以上の排出分については、罰金を課すか、同等の排出権を購入することを義務付ける手法である排出権取引が注目されている。しかし、排出権取引制度に対しては、さまざまな疑問がある。

まず、25%削減の対象は民生部門が主であるはずだが、排出権取引制度は主に産業部門を対象とする制度である。この点はあまり取り上げられていない。産業部門は自主行動計画等を通じてすでに排出削減に取り組んできているため、排出量を大きく削減することは期待できない。90年時点の温室効果ガス排出量を100とすると、08年時点で産業部門は90以下となっており、地球温暖化対策に関わるロードマップ(以下、小沢試案)では、2020年時点での排出量は80程度とされている。他方、小沢試案では、08年時点で140である家庭部門と業務部門を半減させようとしている。

また、キャップの決め方が問題となる。公平で、かつ経済とのバランスがとれたキャップを決めるのは非常に困難である。

■ 実現可能な中期目標

25%削減目標を達成するためには、まず真水部分の目標を引き下げ、それ以外の削減分は京都メカニズムを利用することが考えられる。また、民生部門での省エネルギー化を大幅に進めるために、住宅に建物断熱の利用を義務付ける制度も考えられる。

実現可能性を考えると、2020年目標の真水分は、90年比で10〜15%減にすべきだ。また、民生のエネルギー需要を抑制することが重要であり、ある程度の規制もやむを得ないかもしれない。

【総務本部】
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