日本経団連タイムス No.3003 (2010年7月1日)

第99回ILO総会が閉幕

−HIV/AIDS勧告をほぼ全会一致で採択


6月2日から18日までスイス・ジュネーブで開催されたILO(国際労働機関)の第99回総会に日本経団連代表が参加した。昨年に続き、HIVおよびAIDSに罹患した労働者の権利保護や、効果的な予防策などについて討議を行い、出来上がったHIV/AIDS勧告をほぼ全会一致で採択した。また、家事労働者のディーセント・ワーク(働きがいのある人間らしい仕事)促進や、雇用確保に関して各国が遂行すべき政策、ILOの役割について討議した。討議結果の詳細については、ILO本部のウェブサイト(URL=http://www.ilo.org/global/lang--en/index.htm)を参照のこと。
主な討議の概要は次のとおり。

■ 家事労働者のためのディーセント・ワーク(基準設定、第一次討議)

世界で1億人以上と推定されている家事労働者(炊事・子守・介護などの家事を雇い主の家の中で行う労働者)の多くは、低賃金や長時間労働などの状態にある。そこで家事労働者のディーセント・ワークを促進するための国際労働基準策定を目指して初めて討議が行われた。

策定する基準を強制力のある条約とすべきだと主張する労働者側と、勧告にとどめるべきだとする使用者側が歩み寄ることができず、投票の結果、「勧告によって補足される条約」の採択を目指すことになった。討議の焦点となった家事労働者の定義については、広範にとらえ、家庭で仕事に従事する雇用関係にあるすべての労働者とすることになった。また、策定する基準の適用除外となる労働者の範囲は、他の労働者と同等以上の保護がされており、労働の性質上適用除外せざるを得ない労働者とされた。今回の討議を踏まえて来年も討議し、条約策定を目指す。

■ HIV/AIDSと仕事の世界(基準設定、第二次討議)

アフリカを中心に職場でのHIVおよびAIDS対策が急務である。こうした認識から、昨年に続き、HIVおよびAIDSに罹患した労働者等の権利保護や、各国が取り組むべき予防・治療・支援策などの枠組みに関する勧告策定のための討議を行った。

勧告案には、HIVの状態を理由とする労働者・求職者・求職申込者の採用上、雇用終了上の差別の禁止、およびHIV検査の強制禁止といった原則が盛り込まれた。各国政府の政策については、特に予防対策を重視する方針を示し、(1)正確、最新かつ適時・適切なかたちでのHIVに関する情報の提供(2)HIV感染リスクの低減や行動様式の変革を促す包括的教育プログラムの確保――を求めた。

討議の最後で、労働者側が同勧告の実効性を高めることを目的とする決議案を提出し、その結果、ILOの予算措置や技術協力を強化し、ILO憲章に基づいて加盟国政府からILO事務局に定期的な報告を行うといった内容の決議も採択された。

勧告案は総会全体会議の投票で、ほぼ全会一致で採択された。

■ 戦略目標「雇用」に係る討議(一般討議)

ILO事務局が加盟国のニーズ等を把握し、これをILO活動に的確に反映させるため、ILOの4つの戦略目標((1)雇用(2)社会的保護(3)社会的対話(4)労働の基本的原則と権利)を順に総会で取り上げ、反復的に討議することを2008年の総会で決定している。今回は「雇用」について、遂行すべき政策やILOの役割を討議し、結論文書をまとめた。

結論文書は、世界経済の回復にもかかわらず、各加盟国の雇用情勢が依然厳しい状況であることを踏まえ、加盟国政府に、(1)雇用回復に重点を置いたマクロ経済政策の推進(2)雇用創出を担う企業の活動を支援する環境整備(3)労働者に対する生涯学習の機会の提供(4)雇用関連のILO条約の批准促進――などを喚起している。またILO事務局に対しては、加盟国の雇用政策への支援強化のため、データ・情報提供能力等を高めるよう求めた。さらに、国際的に経済・金融政策と雇用政策の協調を進めるため、ILO事務局に国際金融機関等と早急に協議を行うよう要請した。

◇◇◇

ILO総会期間中の6月2日、アジア太平洋経営者団体連盟(CAPE)の総会を開催した。役員改選を行い、御手洗前会長の後任として、アズマン・マレーシア経営者連盟会長をCAPE会長に選出した。また15日には、CAPEの代表者が、国際労働組合総連合アジア太平洋地域組織(ITUC‐AP)と定例懇談を行い、経済危機からの回復の方策について意見を交換した。

【国際協力本部】
Copyright © Nippon Keidanren