日本経団連タイムス No.3004 (2010年7月8日)

欧州の金融・経済情勢について懇談

−白井・慶應義塾大学教授と/OECD諮問委員会2010年度総会


10年度事業計画など承認

日本経団連のOECD諮問委員会は6月30日、東京・大手町の経団連会館で2010年度総会を開催し、委員長に斎藤勝利第一生命保険副会長を新たに選任するなど役員改選を行うとともに、2010年度事業計画・収支予算について原案どおり承認した。議案審議に先立って、来賓の白井さゆり慶應義塾大学教授から、欧州の金融・経済情勢について説明を聞くとともに懇談した。白井教授の説明概要は次のとおり。

ギリシャの財政危機
〜IMF、EUによる支援策でも市場は安定せず

ユーロ圏全体のGDPに占める割合が3%にすぎないギリシャで発生した財政危機が、欧州経済への懸念を呼んでいる。

09年10月に発足したギリシャ新政権が09年の財政赤字見通しをマイナス4%から同12%台へと大幅修正したことを受け、12月に三大格付け会社がギリシャ国債を格下げ、国債長期金利が上昇し、財政危機が表面化した。財政危機の原因は、政府財政データへの信認低下(大幅修正、公的債務の過少報告)、身の丈に合わない歳出拡大(公務員給与、年金給付)の継続、脱税・過少所得申告の横行、金融・経済危機を受けた景気刺激策の実施による財政赤字の悪化等である。

2010年5月に発表されたIMF、EUによる1100億ユーロという史上最大規模の支援プログラムにより、ギリシャはデフォルト(債務不履行)を当面回避することができた。しかし、支援の条件となっている厳しい財政再建が途中で挫折するリスクがあること、また、2012年までマイナス成長が続く見通しのなかで公的債務残高の対GDP比が2013年には150%にまで上昇する見込みであること等から、これらの支援策や欧州中央銀行によるユーロ圏の国債・社債の買入れ決定等によっても市場の安定にはつながっていないのが現状である。

欧州経済に対する懸念
〜財政危機・銀行危機併発のおそれあり

現在、EU27カ国中、20カ国が過剰財政赤字となっており、ギリシャを含むPIIGSと呼ばれる国々は問題が大きい。特にポルトガル、スペインは公的債務が高い水準にあるのに加えて民間対外債務が大きいのが特徴である。国債が相次いで格下げされるなか、5月には、財政危機に陥ったユーロ導入国の支援を目的として、総額7500億ユーロの「欧州安定化メカニズム」が発表された。

欧州では、(1)同安定化メカニズムに関する合意によって各国は厳しい財政再建を義務付けられており、それに伴う景気の下振れリスクがあること(2)フランス、ドイツはじめユーロ圏の銀行が相互に国債を大量に保有していること(3)スペインの貯蓄銀行はじめ住宅バブルの破綻で傷ついた銀行問題への対処が不十分であること――から、財政危機と銀行危機が併発する懸念がある。6月にはスペイン中央銀行が大半の銀行の資産査定の実施・公表を決定、EU首脳会議も、EU域内の大手銀行の資産査定の結果を7月に発表するとしており、それらの結果に注目が集まっている。

ユーロはこれまで過大評価されており、適正相場に戻ったという見方もできる。しかしながら、上記資産査定の結果等によっては、さらに下落する可能性もある。

【国際経済本部】
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