日本経団連タイムス No.3004 (2010年7月8日)

企業と学校現場をつなぐ教育コーディネーターの役割聞く

−教育と企業の連携推進ワーキング・グループ


日本経団連は6月28日、東京・大手町の経団連会館で教育問題委員会「教育と企業の連携推進ワーキング・グループ」(小川理子座長)を開催し、教育コーディネーター組織として実績のある特定非営利法人スクール・アドバイス・ネットワーク(SAN)の生重幸恵理事長、および墨田区教育委員会の学校支援ネットワーク本部事務局の森本芳男氏を招いて、教育コーディネーター組織の役割や教育現場と企業をつなぐうえでの課題、企業への期待などについて説明を聞くとともに意見交換した。

■ 生重氏説明

まず生重氏から、SANの活動は、杉並区で、地域の個人や企業が学校教育に協力できる内容、例えば小学校の英語教育、環境教育、理科実験への協力や、放課後、週末のスポーツ・文化活動等の体験学習への協力に関する情報を収集・整理したうえで学校側に伝える「学校教育コーディネーター事業」から始まり、現在は、杉並区だけでなく東京都や国の委託事業を受託するなど全国的に活動しているとの説明があった。

生重氏は、いわゆる出前授業に関して、コーディネーター組織が学校と企業をつなぐ際は、まず学校側のニーズやルールを理解し、そのうえで、学校側の要望と企業側が提供したいプログラム内容の中間をとるよう調整していると述べた。

また、SANの活動の第二の柱である「キャリア教育コーディネーター事業」について、生重氏は、同事業が求められる背景として、早期離職率が高いことや就職時期が近づくにつれて、逆に将来の目標を見失う傾向が強いことなど、現代の日本の若者が抱える問題を指摘した。その理由として、初等中等教育を通じて子どもたちが、学校における学びが将来の自分たちのキャリアにどう役立つかが見えず、学習に対する意欲や関心を失っていることを指摘。子どもたちの学習意欲を高めるためには、小中学校におけるキャリア教育を通じて、外部の大人が使命感や誇りをもって働く姿を見せることで、子どもたちに働く意義や、今の学習が将来のキャリアにどのように役立つかを理解させる必要があると述べた。そのうえで、すでに多忙を極めている教師には、キャリア教育授業の実施に求められる授業内容の立案や外部講師への依頼などさまざまな調整事項をこなすことは不可能であるため、外部講師とのネットワークを有し、教師と協働できる外部のキャリア教育コーディネーターが必要であると指摘。SANでは、今後、キャリア教育コーディネーターへの需要がさらに高まることを踏まえて、全国でコーディネーターの研修事業を行うとともに、コーディネーター組織間の全国的なネットワークづくりを進めていくとの説明があった。

■ 森本氏説明

引き続き説明を行った森本氏は、OECDの学力到達度調査でも、日本の子どもたちの学力は全体として国際的にも上位にあるが、問題は、他国と比べて、勉強が楽しくない、勉強が生活のなかで役立たないと考えている割合が高いことであり、大人も加わり社会総がかりで教育を行い、子どもたちに将来への夢や目標を与えつつ、学習意欲を喚起する必要があると指摘した。また、墨田区において、区内の学校と地域社会の企業・団体を結ぶ新たな仕組みとして、2009年4月に教育委員会の中に「学校支援ネットワーク本部」を発足させたと説明。ネットワーク本部の具体的活動として、地域コーディネーターを置き、学校側のニーズの把握や外部講師との連絡調整を行うとともに、教師向けに「学校支援ネットワーク・ニュース」を発行し、外部講師・団体が提供できる授業のねらい・内容、対象学年、授業形式などの情報を整理して提供していること、その結果、09年度には中学校29校を対象に165名の外部講師の協力を得て、延べ3981名の生徒に授業を実施したことなどの紹介があった。

最後に、森本氏からは、子どもたちに働くことの大切さや、社会で生きていくために必要な力について教えるキャリア教育は、教師だけでは対応が困難であり、なるべく多くの企業にキャリア教育授業に協力してほしいとの要請があった。

【社会広報本部】
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