日本経団連タイムス No.3006 (2010年7月22日)

エグゼクティブ法務戦略セミナー開催

−「ガバナンス」をテーマに


講演する菊地弁護士

日本経団連事業サービス(米倉弘昌会長)は7日、東京・大手町の経団連会館で、日本経団連と連携し、森・濱田松本法律事務所弁護士の菊地伸氏を講師に迎え、「日本経団連エグゼクティブ法務戦略セミナー」を開催した。同セミナーは経営法務の知識の取得とその戦略的活用を目的として、企業法務に携わる役員を対象に7回シリーズで行われるもので、第1回となる今回のテーマは「ガバナンス」。菊地氏の説明は次のとおり。

■ 会社法改正作業の開始とその背景

法制審議会会社法部会において、諮問第91号をもとに現在、会社法改正についての審議が行われている。企業統治のあり方および親子会社に関する規律が審議の二本柱とされており、会社が幅広いステークホルダーからの一層の信頼を得ることがうたわれている。私的な利益を保護する法律である会社法と公益を保護する法律である金融商品取引法を統合し公開会社法を制定すべきとする意見や、経営の効率性への規律の観点からガバナンス体制を変更すべきとの意見、従業員が企業経営に参加することによる企業のパフォーマンス向上を目的に従業員監査役を導入すべきとする意見など、各方面からさまざまな提案がある。しかし、改正の必要性があるのかが根本的な問題であり、また、提案されている制度が必要性を充たすかという点を検討する必要がある。

■ 改正を考えるうえでの背景事情の変化

日本におけるコーポレート・ガバナンス改革は、主に不祥事に対応するための監査役の機能強化であった。米国のコーポレート・ガバナンス論が強い米国企業をつくるという政策目的に従ってなされてきたのとは対照的である。2005年の会社法制定もガバナンス設計を自由化することが基本方針であった。こうした流れのなかで委員会設置会社制度の導入は唯一の特異な事例といえる。ガバナンスの制度設計を考えるにあたっては現在、大きく変化しているコーポレート・ガバナンスをめぐる状況をよく踏まえる必要がある。効率性に関しては、機関投資家の議決権行使の影響力が大きく増加しており、個人株主も総会において株投資家としての立場からの発言を積極的にするようになり、経営者も株価を意識し、事業戦略の説明に細心の注意を払うようになってきているなど、株主側も経営者側も意識が大きく変化しているさなかである。
裁判所も、コンプライアンスについて厳しい判断を示し、経営判断についても数量的にどの程度のデメリットがあるかを検討すべきとするなど厳密な判断を求めるようになってきている。
また、有価証券報告書における持合株式の保有理由開示、国際会計基準導入などを受けて、わが国のガバナンスの特殊性を支えてきた持合状況に大きな変化が予想される。
改正の議論にあたっては、以上のようなガバナンスをめぐる背景事情の変化をよく踏まえる必要がある。

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次回講座は「金融=リーマンショック以後の金融規制強化と上場会社規制への影響」をテーマに7月29日に開催する。同セミナーは7回シリーズで開催されるが、各回ごとに受講することも可能である。問い合わせ・申し込みは日本経団連事業サービス(電話03‐6741‐0042)まで。

【経済基盤本部】
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