日本経団連タイムス No.3009 (2010年8月12日)

大学の国際化と留学生受け入れ拡大に向けた取り組みを聞く

−東京大学・田中副学長から/教育問題委員会


日本経団連は7月28日、東京・大手町の経団連会館で教育問題委員会(川村隆委員長、石原邦夫共同委員長)を開催し、東京大学の田中明彦理事・副学長から、東京大学の国際化と留学生受け入れ拡大に向けた取り組みについて説明を聞いた。
田中副学長の説明概要は次のとおり。

■ 留学生の受け入れ拡大における課題

東京大学では2009年、濱田純一総長の就任を機に、向こう5年の行動シナリオ「フォレスト2015」を発表した。そのなかの重点課題の一つが大学の国際化である。国際化に向けた取り組みとしては、以前より、海外からの留学生の受け入れ拡大に努めており、今年度の留学生総数は2872名と学生全体の10%弱となった。しかし、内訳をみると、研究者として大学院で学んでいる留学生がほとんどで、学部生は約400名にとどまっている。これは留学生との交流を通じて学部の日本人学生の国際化を図るという観点からはマイナスであり、学部レベルでの留学生受け入れ拡大が今後の課題である。

また出身国別内訳をみると、中国が927名、韓国が639名、台湾が154名と東アジア地域が6割を占めている。東アジアからの留学生が多い理由は、東アジア諸国の学生は大学レベルの勉強に必要とされる高度な日本語を比較的容易に習得できるのに対し、英語圏の学生が日本語を習得するのは困難であることや、東京大学の知名度が欧米では東アジアほど高くないことなどが挙げられる。

■ 「グローバル30」における取り組み

このような実態を踏まえ、留学生として世界から優秀な人材を集めるために、日本語を要件としない英語のみによるコース設置の必要性を感じていた。ちょうどその折、政府が2020年までに留学生の受け入れ30万人を目指す「留学生30万人計画」のもとで、「国際化拠点整備事業」(グローバル30)として国際化の拠点となる大学の募集があり、これに応募した。「グローバル30」の認定要件は、英語のみによる学位取得可能なコースの設置や留学生の受け入れ体制の整備等で、09年度には13大学が採択された。東京大学では、これまでに38の英語コースを設置、または設置予定で、今後さらに増やしていく。

今後の課題は、グローバル30のもとで、留学生にとって魅力的なコースをいかに設置するかである。単に英語で授業を行うのみでは、欧米の大学とイコール・フッティングとなるにすぎない。また海外での留学フェア・説明会の開催などのプロモーション活動を通じて、東京大学の知名度アップを図ることも必要である。さらに奨学金の拡充も重要である。米国の大学などは、優秀な留学生には奨学金を提供して囲い込みを行っているのに対し、日本の場合、奨学金はすでに日本の大学で学んでいる学生が対象で、留学生の渡日前に支給できるものがない。日本に留学するか、欧米に留学するかを迷っている学生に日本を選んでもらえるよう、これからは渡日前に支給できる奨学金も必要となる。

■ 企業に対する期待

留学生を日本に呼び込む最大の誘因となるのは、日本の大学を卒業すれば将来、良いキャリアが築けるようにすることである。今後、「グローバル30」の英語プログラムにより学位を取得した学生が卒業するようになると、日本語は堪能でない有能な学生も出てくる。その際、日本企業にはぜひ、彼らを積極的に採用してほしい。

【社会広報本部】
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