日本経団連タイムス No.3012 (2010年9月9日)

知的財産権テーマに開催

−エグゼクティブ法務戦略セミナー


説明する野口氏

日本経団連事業サービスは日本経団連と連携し、8月25日、東京・大手町の経団連会館で森・濱田松本法律事務所弁護士の野口祐子氏を講師に迎え、「日本経団連エグゼクティブ法務戦略セミナー」を開催した。同セミナーは経営法務の知識の取得とその戦略的活用を目的として、企業法務に携わる役員を対象に7回シリーズで行われるもので、第3回となる今回のテーマは「知的財産権」である。野口氏の説明は次のとおり。

■ 技術開発、特許について

2010年に閣議決定された知的財産推進計画では、(1)国際標準化の獲得を通じた競争力強化(2)コンテンツ強化を核とした成長戦略の推進(3)知的財産の産業横断的な強化策ー―の3つの戦略が掲げられた。そのなかで、特に日本技術を国際標準として採用してもらう取り組みの推進による国際競争力の強化が求められている。これまで、国際標準化の取り組みとしては、提案数や国際幹事の数を増加させるという戦略が取られてきたが、技術の標準採用につながっていないという問題がある。産業横断的な意思決定構造に問題があり、企業間の利害調整方法を見直し、代表者に授権をすることが必要である。

特許法制度改革については、2009年12月に特許庁の特許制度研究会から報告書が出されたが、直ちに法律改正につながるものではない。最近では、国際的な審査情報を共有し、審査の迅速化と質の向上を図る取り組みが進んでいる。また、特許庁の特許審査は最新の技術に関して十分対応できないことから、技術に詳しい研究者に公知文献を提供してもらい、質の良いものだけを通すという「 Peer Review 」の実験が08年に行われた。しかし、参加研究者のインセンティブに課題があり、今後、集合知のサービスとして多くの人から情報を集めるためには、参加者に対して目に見える短期的なメリットを提供できるスキームとすることが必要である。

現代は Big Data の時代と言われるように研究データの大量化、高度化、複雑化が加速度的に進んでいる。国際競争力維持のためには、日本も欧米のように研究者の相互連携のためのデータ共有センターを置き、イノベーションの活性化を図る必要があるが、データの共有については反対論・慎重論があり、国の政策的判断による指導力が求められる。

■ コンテンツ関連政策について

著作権に関するトピックとしては、現在、ACTA(模倣品・海賊版拡散防止条約)の合意に向けての交渉がなされている。これは、2006年に日米合同で提案されたものであるが、2010年に妥結される方向で調整されており、この条約を受けて日本のアクセスコントロール回避規制が強化される可能性が高い。

プロバイダー責任については、近時米国で Viacom vs. YouTube 訴訟の地裁判決が出された。この事件では、ネットワーク上の素材が著作権を侵害しているかについて、デジタルミレニアム著作権法(DMCA)の解釈としてプロバイダーの「認識」が争点となったが、裁判所は具体的な個々の著作物について著作権侵害を知ったときにだけプロバイダーは責任を負うと判断した。この判決の背後には、米国のプロバイダー産業を振興するという考え方があるが、それに対して日本のプロバイダー責任法制は米国よりも厳しい内容となっている。日本でも、プロバイダー産業を育成すべきかが問題となるが、突き詰めるとコンテンツ産業といずれの国際競争力を強化させるべきかという問題である。

【経済基盤本部】
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