日本経団連タイムス No.3014 (2010年9月30日)

「労働法制の近未来」で講演

−「ハイブリッド型規制」の必要性、荒木・東大大学院教授が指摘/労働法規委員会


「労働法制の近未来」をテーマに
講演する荒木・東大大学院教授

日本経団連は17日、東京・大手町の経団連会館で労働法規委員会(三浦惺委員長)を開催し、荒木尚志・東京大学大学院法学政治学研究科教授を招き、「労働法制の近未来」をテーマに講演を聞いた。荒木教授は過去30年間の労働法の立法過程を振り返ったうえで、今後の労働法制のあり方として、実体規制と手続規制を組み合わせた「ハイブリッド型規制」の必要性を指摘した。
講演の概要は次のとおり。

■ 労働法の展開

労働法制は近年、規制緩和だけが進んだと理解されがちであるが、(1)規制緩和(2)再規制(3)新規制――の3つが同時に進行したといえる。規制緩和は、労働者派遣法の制定と要件緩和、職業安定法における有料職業紹介の緩和が代表的である。再規制は労働市場・産業構造変化に対応するための法改正であり、労働基準法、高年齢者雇用安定法、最低賃金法などが政策課題に対応して改正された。新規制は新たな価値・事象に対応した新規制の導入であり、男女雇用機会均等法、育児・介護休業法、パートタイム労働法、労働審判法、労働契約法などが制定された。

■ 労働法規制のあり方

就労形態が多様化し、企業を取り巻く利害関係が複雑化するなかで、規制のあり方を考えていく必要がある。国家がルールを直接規定する実体規制だけでは、規制が複雑化するだけで、労働者自身が自らの権利を理解できず、結局は権利が実現されにくい。ヨーロッパでも規制の主体が国家から産別労使、企業労使等へと、規制の分散化の方向に進んでおり、当事者の労働条件設定を尊重する手続規制を組み合わせることが必要となる。当事者自らが設定したルールであれば、その内容について熟知しており、ルール遵守の意欲が高く、実効性も高いからである。手続規制を導入することで、法規制をシンプルなものにとどめ、実態にあった規制内容にすることができる。

手続規制導入にあたっての最大の課題は、手続規制を行い得る担い手をどのようにつくるかである。労働者が多様化するなかで、「従業員代表制」を導入するべきではないかという議論に発展してくると考える。

【労働法制本部】
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