日本経団連タイムス No.3014 (2010年9月30日)

持続可能な年金制度構築の課題など聞く

−社会保障委員会年金改革部会


日本経団連の社会保障委員会年金改革部会(山崎雅男部会長)は10日、東京・大手町の経団連会館で会合を開催し、みずほ年金研究所の小野正昭研究理事から、「持続可能な年金制度構築に向けた課題および今後の公的年金改革の方向性」をテーマに説明を聞いた。概要は次のとおり。

政府は、6月に新年金制度の「中間まとめ」を公表し、7つの基本原則を示した。これから想定される新年金制度をイメージすると、基礎年金を税方式化して最低保障年金とし、報酬比例年金を全被保険者に拡大した所得比例年金を組み合わせたものと思われるが、次の点で疑問がある。

第1に「新たな制度の創設の必要性」である。企業年金では、制度の「設計」と「管理運営」は分けて考えるのが当然である。したがって公的年金でも、「年金記録問題」という管理運営の問題から「新たな年金制度の創設」という設計の問題に展開することは論理構成が弱いのではないか。仮に設計変更が必要であるとしても、パラダイマティックな変更が必要なのかどうかについては、実現可能性を含む十分な検討が必要である。

第2に「財源シフトの必要性」である。社会保障国民会議のシミュレーションによると、基礎年金を税方式化した場合、追加税額は消費税率換算で2025年ごろまでにプラス3.5%、マクロ経済スライドによる給付調整を行わないと、さらに追加財源が必要となる。また、ミクロ試算においても、勤労者世帯は差し引きで負担増となり、低所得者層ほど相対的負担額が大きくなる、年金受給者は租税負担が増加するなどの結果となっており、税方式に国民の支持が得られ、実行可能か疑問である。

第3に「新旧制度を明確に区分する」との考え方である。旧制度を凍結した場合、新制度は当面、巨大な積立金が形成される一方で、旧制度は深刻な資金不足に陥り、立ち行かなくなる。そこで変更後の保険料は新制度における拠出記録として記帳された後に、旧制度を含む制度全体の給付に充てられると考えるのが自然である。これらを踏まえると、新制度では「明確に区分する」ために仮想の個人勘定がふさわしいと判断しているとも考えられる。

第4に「所得」比例年金の設計である。例えば、現行制度において、さまざまな収入、所得基準があるが、新制度のもとで第1号被保険者を含めた場合、正確性・納得性のある所得捕捉、賦課ベースの定義は困難とみられる。また、賦課ベースを変更すれば、再分配の構造が大きく変わるのではないか。

第5にアセスメントの必要性である。公的年金制度の議論では、スウェーデンの事例が取り上げられることが多いが、今後100年で8000万人もの人口が減少する前提のわが国に導入しても機能しない。外国の制度を模倣することが必ずしも公的年金制度の安定、国民の老後の安心にはつながらない。制度改革に関するシミュレーションを経て、実現の適否を判断すべきではないか。

【経済政策本部】
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