日本経団連タイムス No.3020 (2010年11月11日)

エグゼクティブ法務戦略セミナー開催

−消費者政策テーマに


講演する三好弁護士

日本経団連事業サービスは10月12日、日本経団連と連携し、東京・大手町の経団連会館で森・濱田松本法律事務所弁護士の三好豊氏を講師に迎え、「日本経団連エグゼクティブ法務戦略セミナー」を開催した。同セミナーは経営法務の知識の取得とその戦略的活用を目的として、企業法務に携わる役員を対象に7回シリーズで行われるもので、第5回となる今回のテーマは「消費者政策」である。三好氏の説明は次のとおり。

■ 消費者庁の最近の動き

消費者庁の発足から1年以上が経過し、これまでさまざまな消費者政策が行われてきた。例えば、事故対応については、昨年11月には、米国製ベビーカーの製品事故に関し、ホームページ上で消費者に注意喚起を図るとともに、リコールおよび再発防止策を含めた安全対策を徹底するよう指導がなされた(今年2月にリコール内容を公表)。また、事故情報の一元管理については、今年1月から「消費者ホットライン」(事故やトラブルにあった消費者に最寄りの消費生活センター等の窓口を案内するサービス)を全国で開始し、4月からは各省庁・機関のデータベースをリンクさせた「事故情報データバンク」が稼働している。消費者安全法に基づいて関係省庁および地方自治体から消費者庁へ通知があった消費者事故は、今年9月9日時点で2186件(うち重大事故等は557件)であると発表されている。そのほかにも、「消費者基本計画」(今年3月閣議決定)に基づいて作成された今後5年間の工程表に従って、PIO‐NET(全国消費生活情報ネットワーク・システム)の円滑な活用、リコール情報の収集・提供のあり方、事故調査機関のあり方、食品表示に関する一元的法律の制定等について取り組むことが予定されている。

これらの実績については一定の評価がある一方で、発足時に期待されていた消費者行政の司令塔としての役割を十分に果たせていない(集約した事故情報の分析・活用が不十分等)といった批判もあり、スタッフの増員(予算獲得)、各省庁との緊密な連携が、消費者庁の今後の課題といえる。

■ 集団的消費者被害救済制度について

集団的に生じた消費者被害について、少額被害の場合や悪質商法の場合には、現行制度では救済が不十分であるとして、日本においても諸外国で見られるいわゆるクラスアクション(集合訴訟制度)や行政による被害者救済を検討すべきとの指摘がある。そこで、消費者庁設置法附則6項に基づき、昨年11月に消費者庁に「集団的消費者被害救済制度研究会」が設置され、制度の検討が進められてきた。

同研究会は、「集合訴訟制度」に加え、主に悪質商法を対象として事業者に課徴金等を課す「行政による経済的不利益賦課制度」、被害回復の前提として財産を差し押さえる「財産保全制度」について検討し、今年9月に報告書を公表した。

集合訴訟制度については、訴訟の第一段階として原告を代表する者が訴訟を提起し、責任原因を確認する判決を得て、二段階目で個々の被害者が訴訟参加する二段階型や、自ら裁判に参加しない旨の除外の申し出をしない限り原告として判決の効果を受けるオプトアウト型、被害者が自ら申し出をすることにより原告となるオプトイン型などが提案されている。

集合訴訟には法的根拠の乏しい訴訟が提起されるといった濫訴のリスクが存在し、それはリーガルコストの増加を招き、最終的には、商品価格への反映により消費者に不利益を及ぼすことになる。したがって、対象となる被害および訴訟追行要件の限定など、裁判所による強力なコントロールによる濫訴の防止が求められる。事業者としても、適切な制度設計がなされるよう、今後の議論を注視していく必要がある。

行政による経済的不利益賦課制度については、今後、不利益を賦課し得る法的根拠や賦課する金銭の算定方法を検討する必要がある。また、財産保全制度についても、いかなる方法による保全を認めるのかをはじめ、比較法的な観点も含めて検討を深める必要がある。

消費者基本計画では、いずれの制度についても2010年夏を目途に論点整理、11年夏を目途に結論を得るとされている。

■ 不当表示違反(景表法違反)と対策

消費者庁設置に伴い、公正取引委員会が所管していた景品表示法は消費者庁に移管された。しかし、人員不足等を理由に、不当表示に対する措置命令・警告の件数が急減しているのが現状である。もっとも、今後は組織体制の拡充とともに不当表示規制にも厳しく取り組むことが予想され、さらに、集団的消費者被害救済制度の一環として不当表示への課徴金導入も議論されていることから、不当表示違反のリスクは減少していないと考えるべきである。不当表示を防止するためには、表示全体から一般消費者がどのように理解するかという多角的な検討が必要であると同時に、社内審査体制の確立、社内審査過程の書面化、合理的な根拠を示す資料の適切な管理が重要となる。

■ 求められる企業対応

まず、事故防止策・事後対応策の徹底や再確認が求められる。国民やマスコミは消費者問題に大きな関心を有しており、また、適格消費者団体による消費者トラブルに対する提訴の動きも活発化している。消費者団体による独自の食品データベースの構築等の動きもある。このような状況において、万一、事故が発生し、また事後対応で不備があった場合には、大きな信用リスクとなる。苦情・クレームに至る前の不平・不満(小さなシグナル)を設計にフィードバックする態勢の構築が必要である。

また、消費者への積極的な情報開示・コミュニケーションが求められる。「事故情報データベース」の開始等により消費者の事故情報へのアクセスが容易となり、製品の安全性等についての関心がさらに高まっている。したがって、自社のホームページ上で消費者目線での情報開示に務めるなど、消費者とのコミュニケーションを強化する必要がある。

【経済基盤本部】
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