日本経団連タイムス No.3021 (2010年11月18日)

「ピンチをチャンスに変える〜国と地方の役割」

−東国原宮崎県知事が常任理事会で講演


講演する東国原知事

日本経団連が4日に開催した常任理事会で、宮崎県の東国原英夫知事が、地域経済の活性化に向けた取り組みをテーマに講演した。講演の概要は次のとおり。

■ 口蹄疫の発生と県知事としての限界

今年4月20日に宮崎県都農町の牛に口蹄疫が発生し、8月27日に終息するまでの4カ月以上にわたり、ウイルスという見えない敵と戦った。約29万頭の牛豚を殺処分する前代未聞の災害であったが、内外からの援助もあり、ウイルスを宮崎県の外に出すことなく終息を迎えることができた。

経団連にも、企業マルシェと銘打った宮崎物産展を開催していただくかたちで支援をいただいた。また、来年は九州での経済懇談会を宮崎で開催していただく予定である。こうした協力に感謝申しあげたい。今回の口蹄疫は、ウイルスの感染力が非常に強力であり、牛よりも1000〜2000倍感染しやすいと言われている豚が感染し、2例目の口蹄疫が発生した川南町に家畜が密集していたため、被害が拡大した。

口蹄疫の発生を通じて、危機管理に対する意識が低かったという問題があらわとなった。1951年に制定された家畜伝染病予防法(家伝法)やその指針が実態と乖離していた。4月21日に川南町で発生を確認し、その1週間後に豚への感染を確認した。口蹄疫の潜伏期間は1週間なので、この時点で予防的に殺処分すべきであったが、家伝法の下では、口蹄疫への対応は農林水産省の食料・農業・農村政策審議会家畜衛生部会牛豚等疾病小委員会で対応を検討する必要があり、すぐに全頭殺処分することは認められなかった。殺処分の埋没地も処分した農場内に行わなければならないとされており、現実的ではない。

4年前に宮崎県知事に就任した時から国と地方の壁を感じていたが、今回の口蹄疫の発生で、それが決定的となった。ウイルスへの対応は国の役目であるが、宮崎県も「県が責任を持って対応する」と言いきれなかった面もあり、非常にもどかしかった。

私は「ピンチをチャンスに変える」という言葉を大事にしている。今回の大きなピンチも、国と地方の役割分担を変えるチャンスにしたい。

■ 行政の今後の課題

行政は法とマニュアルに基づいて粛々と作業をしようとしすぎるきらいがある。

例えば、宮崎県内で鳥インフルエンザが発生した時に現場を見ようとしても、前例がなかったので一苦労だった。時間の感覚や公費への意識が弱く、「役所の常識は非常識」と感じることもある。これを一つずつ変えてきた。国との関係で言えば、地方分権一括法により、国と地方の法律上の立場は対等となったが、現実はそうではない。そうした点で、県知事としての限界を感じている。

「人口が減少して経済が縮小するなかで、どのように活力を発揮するか」を考えなければいけない。これまでの日本は、外国の文化を輸入して加工することを得意としてきたが、現在の日本は他国よりも少子化、高齢化が進んでおり、まねをする国がない。その際、法人税率を下げることは当たり前のことだが、地方税の減収をどう補うか。また、EPAやFTAの推進は20年前からの課題であり、そのための農業の強化は族議員や官僚任せではいけない。地域を活性化するためには、これまでの行政の意識や制度を変えて、規制を緩和し、新しい発想で課題に取り組まなければならない。

【総務本部】
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