日本経団連タイムス No.3021 (2010年11月18日)
シリーズ記事

昼食講演会シリーズ<第7回>

−「21世紀の国富論」/デフタ・パートナーズ・グループ会長 原丈人氏


日本経団連はこのほど、東京・大手町の経団連会館でデフタ・パートナーズ・グループの会長で財務省参与である原丈人氏を招いて第7回昼食講演会を開催し、181名の参加を得て、「21世紀の国富論−日本から新たな産業、価値観、資本主義を世界に発信せよ」と題した講演を聞いた。講演概要は次のとおり。

■ 新産業創生と公益資本主義

現在日本を覆う経済の停滞を取り除くためには、2つの分野でわが国の産業人が果敢に挑戦するしか方法はない。1つ目は、コンピューターITの次の基幹産業を興すこと、もうひとつは新興発展途上国への進出を欧米中国とは違ったかたちで行うことだ。そして、これらの挑戦を可能にするのは公益資本主義など、イノベーションを支える新しい資本主義の思想である。

私は1985年から、米国シリコンバレーを中心に、情報通信分野の革新的な技術を生み出す可能性を持つ企業家を育ててきた。最近では、「フォーティネット」という情報セキュリティー分野の小さな会社を発掘、社外取締役として経営を担った。2000年には10数名だった従業員が現在は数千人に、企業価値も東証一部上場の有力エレクトロニクスメーカーに匹敵する規模となり、昨年11月にナスダックに株式を公開した。

新しい技術は産業を牽引し新たな雇用を生み出すが、他方で長期間の研究開発を必要とする。しかし、近年、短期的に結果を出さなければ経営者は株主から認められない不幸な時代に入ってしまった。せっかく株式を公開しても、悪質なヘッジファンドが、ストック・オプションを持つ経営陣と利害が一致するよう、短期的な視点から株価をつり上げる。その結果、新たな技術が生まれないばかりか、経済の停滞や貧富の格差拡大など、社会の不安定さを生み出している。

これらの根底には、市場にすべてを任せる「市場万能資本主義」と、会社は株主のためのものという「株主至上資本主義」がある。この2つが合体し、研究開発など時間のかかるビジネスモデルよりも、すぐ結果を出せる金融資本主義型のビジネスモデルがもてはやされることになった。正当化のため、ノーベル賞級の経済学者がつくり上げてきた理論を援用している。

私が1985年に設立したアライアンス・フォーラム財団ではこれらの問題を早くから提起し、従来の資本主義に替わる概念として「公益資本主義」を提唱している。2007年に財団内に公益資本主義研究部門を設立、株主だけでなく従業員や顧客、社会など企業のステークホルダーすべての利益を考えたほうが会社は利益が出せるという理論構築を行っている。11年からは日本の大学に研究センターを設け理論研究を深めると同時に、実現のための政策提言、法律や金融などの制度設計、途上国での公益資本主義的経営の普及へと活動を進めている。同時に、デフタ・パートナーズを日本で稼動させ、フォーティネット社のような次世代の新産業を担う企業を育成する計画もある。

■ 日本の新たなかたちでの新興国への貢献

先進国のみならず、開発途上国でも、民間の営利企業を通じた社会貢献活動として新興国の援助を行っている。バングラデシュでは、世界最大級のNGOであるBRAC(バングラデシュ農村向上委員会)と組んで、2005年にブラック・ネットという通信事業会社を設立した。WiMaXなどの最新技術を日本よりも5年も早く用い、都市部のダッカだけでなく、地方部での通信事業を行い、特に農村地帯のデジタルデバイド(情報格差)解消に貢献している。また、ブラック・ネットはNGOのBRACが直接民間企業の株主になることで、利益を貧困層の自立や教育などに使用することができる。世界銀行の論文集でも理想的な途上国支援モデルとして取り上げられた。

また、ザンビアでは最先端の映像圧縮技術であるXVDを用い、通信インフラの未整備な同国における大学間での遠隔教育プロジェクトを開始、5月にはルピア・バンダ大統領をはじめ閣僚などが参加した開通式典を行った。

このような活動を通じ、アフリカなどの開発途上国で、欧米型の「株主資本主義」的な開発でも、「国家資本主義」的な中国型でもない、「公益資本主義」に基づいた第3の途上国開発の道筋をつけていく。進出した国々での利益の1〜2割程度を相手国の国民にとって一番必要な栄養不良対策、水、教育、医療などに現地のNGOなどを通じて直接支援する。この新しい方式は途上国にとって大変望ましい支援形態となる。

賛同が得られれば、今後アフリカ、アジア、中南米で一緒に活動していきたい。世界で必要とされる日本をつくることが事業の目的である。

【総務本部】
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