日本経団連タイムス No.3024 (2010年12月14日)

「わが国における公的統計の現状と課題」

−森・法政大学教授に聞く/経済政策委員会統計部会


わが国の公的統計については、かねてより速報性や精度をめぐる問題点が多く指摘されてきたが、昨年GDP統計の速報値と改定値の間で大きなブレが生じたことや、推計ミスが発覚したことなどから、統計制度全体に対する不信感がこのところ急速に強まっている。

そこで、日本経団連の経済政策委員会統計部会(竹原功部会長)は11月30日、東京・大手町の経団連会館で会合を開催し、法政大学の森博美教授から、わが国における公的統計の現状と課題について説明を聞き、意見交換を行った。概要は次のとおり。

■ わが国統計制度の歴史

終戦直後、統計制度の早急な立て直しが求められるなかで、当初、制度機関に強力な企画権限を持たせる「統計制度改善案」が構想された。しかし、法制定の過程でこの改善案は骨抜きとなり、各省がそれぞれ所管の統計を作成する「分散型」の体制が整備された。その後の法改正も、分散を強化するかたちで行われ、結果的にわが国は、世界的にも稀な超分散型の統計システムを持つこととなった。その結果、仮にグッド・プラクティスがあってもそれらが府省間で共有されることはなく、政府の統計機構全体として取り組むべき課題はほとんど手付かずの状態で今日に至っている。長年の間に蓄積した制度疲労の払拭が統計改革の最重点課題とされたのはこのためである。

わが国統計の将来を予測すると、回収率の低下など、調査環境の悪化は不可逆的に進行し、統計予算や人的資源の拡充もほとんど期待できない。その一方、人口減少が進み、経済成長率が低下するなかで、統計ニーズは多様化・高度化し、より詳細で質の高い統計が求められるものと考えられる。こうした条件のもとで、わが国の公的統計のあり方については、基本的な発想の転換も含め、鳥瞰的な視点からの見直しが必要である。

■ 海外における統計制度の展開

海外の統計制度もその多くは分散型であるが、調査環境の悪化に対応して、すでにビジネス・レジスター(各種統計調査および行政記録を情報源とする事業所母集団データベース)を統計調査の基盤として整備し、統一企業コードの導入により、調査統計さらには行政記録から得られた統計情報を相互に緊密に連携させることで分散型の弊害を克服するとともに、質の高い統計の作成が可能になっている。また、海外では統計を公共財として提供することが政府の責務とされており、統計を社会的な情報資産として利用する観点から、調査票情報の二次利用促進やそのためのデータの一元管理が進められている。

■ 21世紀型の統計システムの構築に向けて

こうしたなか、わが国の統計法も2007年に全部改正され、「統計=公共財」という理念が新たに盛り込まれたが、国民や政府の間では、プライバシー保護の考えが根強いため、統計情報の積極的な活用は進んでいない。また、分散型システムの弊害克服に向けた取り組みも不十分なままである。

今後の公的統計改善に向けては、統計作成の基盤としてビジネス・レジスターを早急に構築することで統計の精度を高めると同時に、体系的に保管された調査票情報の積極活用による一部の調査の代替などにより報告者の負担軽減を図る必要がある。そのためには、収集された統計情報の有効活用の障害となっている統計作成府省間の縄張り意識や、プライバシーに偏重した考えを改めて統計情報を有効に活用できる仕組みを構築することが、今後半世紀以上にわたって継続すると予想されている人口減少社会に対する統計面での処方箋でもある。

【経済政策本部】
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