日本経団連タイムス No.3041 (2011年5月19日)

提言「公的統計の活用による的確な現状把握と政策決定に向けて」公表

−統計行政の抜本的見直し求める


日本経団連は17日、提言「公的統計の活用による的確な現状把握と政策決定に向けて」を公表した。

わが国は、人口減少・少子高齢化、グローバル化、IT化など、多くの変化に直面している。さらに、今回の東日本大震災は日本経済全体に大きな被害をもたらしており、将来の見通しはかつてないほどに不透明になっている。

こうしたなか、経済構造の変化を的確にとらえる公的統計へのニーズが高まる一方で、公的統計の信頼性や利便性が低下し、報告者負担が増大している。そこで提言では、公的統計の改善に必要な対策を示している。

1.GDP速報を中心とする経済統計の信頼性向上

近年、経済統計をめぐる環境変化のなかで、GDP統計を中心とする経済統計の精度は徐々に低下し、景気実態との間で乖離が生じている。特に、2007年以降の世界的な金融危機と景気後退のなかで公表されたGDP速報は、現在大幅に下方修正されており、金融危機の当初、景気実態が過大評価されていた可能性がある。

政府はもちろんのこと、企業の景況判断にも経済統計は大きな影響を与えているため、経済統計の歪みは政府・企業における意思決定の歪みにつながる。こうした観点から、提言案では、経済統計の精度・信頼性の向上に向けて、GDPの推計方法見直しや、その材料となる基礎統計の整備、統計人員・予算の重点配分による統計作成部局の体制強化を求めている。

2.利用者利便性の向上

会員企業へのアンケート調査の結果、主な景気関連統計41本のうち、企業の半数以上が毎回利用しているものは、わずか4本のみとの結果になった。利用しない理由としては、公表時期の遅さや、インターネット上の使い勝手の悪さ、さらに先ほど述べた精度の悪さなどが挙げられている。今後は、こうした点を改善し、利用者利便性を高めていく必要がある。

3.企業の報告者負担軽減

同じくアンケート調査によると、オンライン化の進展にもかかわらず、報告者負担は軽減されておらず、むしろ増大傾向にある。報告者負担の軽減に向けては、不要な統計の廃止、統計作成官庁の一元化、報告のさらなるオンライン化などが求められる。

4.統計行政の抜本的な見直し

公的統計の改善を図っていくうえでは、個別統計の問題点に対応するだけではなく、縦割り型の統計行政を抜本的に見直していく必要がある。具体的には、政府の統計委員会の権限強化などにより、企画立案機能を一元化することに加えて、高度な統計作成職員の育成や、統計の統廃合と新たな統計の整備を進めていくことが求められる。

5.震災からの復旧・復興に向けて

東日本大震災に際し、統計調査において特に必要な施策として、(1)既存の統計調査を着実かつ継続的に行うこと(2)今回の震災に伴う急激な経済変動によって、統計が景気実態と乖離しないよう、適切に処理を行うこと(3)各種統計調査の回収や集計が困難になるなかで、統計の信頼性が低下する事態を避けるための工夫を行うこと――の3点を挙げている。

【経済政策本部】
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