日本経団連タイムス No.3041 (2011年5月19日)

東日本大震災への取り組み聞く

−日本政策投資銀行・荒木副社長から/金融制度委員会


日本経団連は4月20日、金融制度委員会(奥正之委員長)で、提言「震災対応において金融面での万全の措置を求める」の審議にあわせて、日本政策投資銀行(政投銀)の荒木幹夫副社長から、東日本大震災に対する政投銀の取り組みについて聞いた。荒木副社長の講演の概要は次のとおり。

東日本大震災は「大地震」を発端とする巨大複合災害となっている。阪神・淡路大震災等にも見られるように、大地震は、物理的な直接被害だけではなく、域内の経済活動低下等の間接被害をもたらすため、復興には数年単位の時間がかかる。大地震と同時に、想定を超える「大津波」が発生し、被害が広範囲になった。さらに、福島で「原子力発電所事故」が起こり、放射能汚染という「見えない恐怖」が広がるとともに、「電力供給障害」も発生した。このように今回の震災では、5つの災害が複合的に同時に起きている。これに加え、東北地方に集積していたものづくりの拠点が被災したことによる「大規模なサプライチェーンの途絶」という、世界的に未経験の事態も生じている。世界中の産業が大きな影響を受けており、各企業が海外生産を含め供給体制の複線化を検討しているが、国内産業の空洞化につながるおそれがある。

したがって、被災地の産業とインフラの復興だけではなく、わが国の産業そのものへの信認の維持についても、長期構造的な施策を含めた対応が重要となる。足元での資金繰り支援とともに企業の財務基盤の強化や、サプライチェーンの再構築が求められる。政投銀としては、大震災対応として、次の取り組み方針で進めている。

まずは、株式会社日本政策金融公庫法に基づく危機対応業務も活用した支援対象企業への直接融資が基本となる。現在、損害担保・利子補給は中小企業や組合向けには措置されているが、中堅・大企業への適用も検討中である。被災地の地場企業支援については、政投銀による直接融資だけでなく、地元地銀との連携を通じて、より広範な対応を進めたいと考えており、地銀のネットワークや情報を活用したファンド創設も考えている。

サプライチェーン再構築や大規模プロジェクトへの対応については、メガバンクや国の施策等と連携していく必要がある。サプライチェーン再構築を中心とする産業向けの対応としては、業界団体などと協力しながらの基金創設のほか、被災企業の業績回復までのつなぎやマーケットへのアクセスを維持するための財務基盤維持・強化等のために、資本性資金の供給が必要な局面も今後あるものと考えている。このあたりへの対応については、例えば、メガバンクと共同設立した事業再生ファンドのノウハウなどを活用できるものと思っている。また、資本性資金の供給等を通じ、震災前からの大きな課題でもあった国際競争力強化・成長戦略の実現に向けた産業再編等を加速させていくことも念頭に置いている。インフラ整備の面では、阪神・淡路大震災と異なり、財政力の弱い自治体が被災しているため、広域的なマスタープランが必要である。総合特区制度等の活用とともに、政投銀としては事業者や他の金融機関などとともに連携しながら、PFI事業等へのアイデアを出し、可能なところから速やかに対応したい。

【経済基盤本部】
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