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第3回経団連PRTR(環境汚染物質排出・移動登録)調査結果報告

経団連第3回PRTR調査の概要

2000年6月16日
(社)経済団体連合会

  1. はじめに
  2. 産業界は、1991年に制定した経団連地球環境憲章の精神に則って、環境に配慮した経済活動を行なうよう努めている。化学物質対策についても、産業界の環境保全への自主的な取組みの一環として対応してきた。例えば、健康への影響が明らかであり、既に大気汚染防止法、水質汚濁防止法、労働安全衛生法、化審法などの種々の法律によって規制されている物質については、法の規制を遵守し厳重な化学物質管理を行なってきた。一方、低濃度・長期暴露によって、人の健康等に影響を及ぼす恐れのある化学物質については、事業者による自主管理を促進し、環境保全上の支障を未然に防止することを基本として取組んできた。
    経団連では、このような事業者による化学物質の自主管理を一層促進するために、97年より経団連PRTR調査を実施してきており、今回、第3回調査結果をとりまとめた。昨年の第2回調査では、回答率及び参加業界団体の拡大、カバー率の向上といった点で改善が見られた。また、第1回調査データとの比較を行なうとともに都道府県毎の排出・移動量のデータの公表を行い、化学物質の排出・移動状況をわかり易く示すよう試みた。
    第3回調査にあたっては、第2回調査と同様、下記の目的ならびに基本方針に基づき、

    1. 回答率及び参加業界団体の拡大、
    2. カバー率の一層の向上、
    3. データの整合性の確認と制度の向上、
    4. データ分析の実施、
    を課題として調査を実施した。

  3. 目 的
    1. 産業界による化学物質の自主管理の取り組みの推進
    2. 化学物質は、社会生活を豊かにしていく上で必要不可欠なものであるが、取り扱いなど適切な管理を怠ると、環境・健康・安全に対して悪影響を与え、生物や環境を脅かす物質として作用することもある。
      一方、現在製造、使用されている5万から10万種とも言われる化学物質を従来の法規制で管理することは不可能となっており、化学物質の自主管理において事業者の自主的取り組みが強く求められている。
      そこで、産業界においては、事業者が自ら取り扱っている化学物質の環境への排出量、移動量を把握することにより、潜在的に有害な環境汚染物質の適正なリスク評価・リスク管理を行うためのツールとして活用していくこととする。

    3. 社会とのリスクコミュニケーションの促進
    4. 調査結果を公表して、自主活動の透明性を高め、社会からの信頼を確保するためのリスクコミュニケーションの一助として活用する。

  4. 基本方針
    1. 経団連が現在実施しているPRTRを最終形態とは考えず、必要に応じ改善を図っていく。
    2. 経団連加盟団体以外にも更に広く参加を呼びかけ、PRTRを全産業の自主的な取り組みとして推進していく。
    3. 排出量削減に向けた産業界の自主的取組みの基礎データとして活用する。
    4. 化学物質の生産から廃棄までの一貫したリスク管理を考える基礎データとして活用する。
    5. データの公表については、当面は産業界全体としての排出量とするが、社会とのリスクコミュニケーションを進めつつ、順次ブレークダウンしたデータを公表することを目指す。

  5. 調査結果の概要
    1. 調査結果参加団体及び企業数
    2. 第3回調査には、第2回調査から1団体増え合計44団体より報告があった(別表1参照)。参加44団体がそれぞれの会員企業3,724社に調査を依頼したところ、約70%にあたる2,596社から回答があった。第2回調査では、3,302社に調査依頼し、このうちの約75.5%の2,492社から回答があった。企業の回答率は低下したが、各団体が第2回調査より調査を依頼する企業を拡大したため、参加企業は104社増加した。
      また、調査対象物質の日本全体の総取扱量に占めるカバー率(*)を推計したところ、昨年同様、物質あたり平均約84%であった。

      カバー率=参加44団体から報告された取扱量の合計/日本全体の総取扱量
      日本全体の総取扱量=日本全体の生産量(通産統計値等)+使用量(生産量で代替)+輸入量−輸出量

      参加業界団体数

      回答企業数

    3. 取扱い及び排出・移動実績
    4. 今回の調査対象である172物質(別表2参照)のうち、取扱い実績の報告があったのは、前回より1物質増え158物質であった。このうち、大気への排出のなかった物質は47物質、公共用水域への排出のなかった物質は65物質、土壌への排出のなかった物質は131物質、いずれの環境排出もなかった物質は41物質、廃棄物としての移動実績のなかった物質は26物質であった。また、排出・移動ともになかった物質は、17物質であった。

      取扱い実績及び排出・移動のあった物質数

      注:報告対象データは、第1回調査については1996年度、第2回調査は1997年度、第3回は1998年度のデータである。

    5. 環境媒体毎の排出量、移動量
    6. 環境への排出量は、大気への排出量が一番多く、総排出量の約96.7%を占めている。公共用水域への排出量は総排出量の約3.2%、土壌への排出量は約0.2%であった。
      物質毎に見ると、大気への排出割合の多い物質が83物質、公共用水域への排出割合の多い物質が33物質、土壌への排出割合の多い物質は1物質であった。
      大気への排出量が最も多かった物質は、トルエンで65,609トン、次いでキシレン類の41,140トン、ジクロロメタンの19,284トンであった(表1参照)。
      公共用水域への排出量が一番多かったのはジメチルホルムアミドの765トン、次いでアルミニウム化合物599トン、ホウ素及びその化合物の358トンであった(表2参照)。
      土壌への排出量が多かった物質は、キシレン類の101トン、亜鉛化合物の54トン、トルエンの37トン等であった(表3参照)。
      次に、移動量(廃棄物として事業所外に移動した量)についてみると、1万トン以上の移動があったのは、亜鉛化合物の24,740トン、トルエン13,072トン、クロム化合物(六価以外)の10,556トンの3物質であった(表4参照)。

    7. 有害大気汚染物質の自主管理計画対象12物質の排出状況
    8. 改正大気汚染防止法では、有害大気汚染物質について事業者の自主管理を促進することにより、排出抑制対策を進めていくことを一つの柱としている。産業界は、優先取組物質の内、自主管理の対象となっている12物質については、95年度の排出量をベースとして、1999年度の排出量を約30%削減すべく自主的取組みを進めている。
      今回調査の結果、これら12物質の大気への総排出量は35,129トン(第2回調査結果は42,773トン、第1回調査結果は43,401トン)であり、自主管理計画に基づいた削減努力が着実に成果をあげていることが認められる。排出量は、12物質のうち、ジクロロメタンが19,284トン、ベンゼンが3,327トン、トリクロロエチレンが3,209トンとなっており、この3物質で、12物質総排出量の約73.5%を占めている。(表5参照
      なお、通産省発表の有害大気汚染物質に係る自主管理状況に関するデータによると、自主管理計画策定団体の98年度までの削減率の平均は、95年度比で29%となっている。

    9. 排出・移動量の前回調査データとの比較
    10. 環境への総排出量の約96.7%を占める大気への排出について、前回調査から増加した物質の増加量を合計すると1,483トンであった。一方、前回調査から減少した物質の減少量の合計は13,473トンであり、減少量が増加量を大幅に上回っている。大気への排出量が前回調査より1000トン以上変化した物質をみると、1000トン以上増加した物質がなかったのに対し、ジクロロメタンが3,303トン、トルエンが2,641トン、トリクロロエチレンが1,278トン、それぞれ減少した。
      物質数で見ると、今回大気への排出実績のある111物質のうち、前回より排出量が増加した物質は28、減少した物質は67、変化が殆ど見られなかった物質は16であった。ちなみに、第2回調査においては、大気への排出実績のある109物質のうち、前回より排出量が増加した物質は51、減少した物質は36、変化が殆ど見られなかった物質は22であった。
      このように、大気への排出量は減少しており、各企業・業界の自主的取組みが成果をあげつつあると言える。

      大気への排出が増加/減少した物質数

      次に、移動量(廃棄物処理業者に委託して場外へ持ち出し、適切に処理された量)については、フタル酸が1,388トン、クロロニトロベンゼンが1,051トン、トルエンが1,001トン、それぞれ前回に比べて増加している。

    11. 都道府県別の排出量
    12. 都道府県毎の排出量・移動量(別表6参照)について、各都道府県毎に、大気への排出が最も大きい物質の排出量についてみると、10トン未満だったのは2都道府県である。同様に、10トン以上100トン未満だったのは8都道府県、100トン以上1,000トン未満だったのは16都道府県、1,000トン以上10,000トン未満だったのは21都道府県である。なお、全国ベースでの大気への排出量が多い上位3物質(表1参照)について見ると、25都道府県においてトルエンが1位となっている。キシレン類については6都道府県、ジクロロメタンについては9都道府県において1位となっている。
      公共用水域及び土壌への排出量は、各都道府県とも大気への排出量に比べると圧倒的に少なく、最も大きい物質についてみると、10トン未満だったのは18都道府県である。同様に10トン以上100トン未満だったのは16都道府県、100トン以上1000トン未満だったのは11都道府県、1000トン以上排出した都道府県はなかった。また、2都道府県では、公共用水域及び土壌への排出実績がなかった。
      移動量も、大気への排出量に比べると少ない。移動量が最も大きい物質が10トン未満だったのは1都道府県である。同様に10トン以上100トン未満だったのは14都道府県、100トン以上1000トン未満だったのは20都道府県、1000トン以上だったのは12都道府県であった。
      なお、第2回調査では準備が間に合わなかった等の理由から、都道府県毎の報告がなかった8団体のうち、今回新たに6団体が報告を行なっており、ベースが異なるため、前回調査データとの比較は行なわない。

  6. 第3回調査のまとめ
  7. 第3回調査実施にあたって掲げた4つの課題のそれぞれの実現状況については以下の通りである。

    1. 回答率及び参加業界団体の拡大
    2. 第3回調査では、参加業界団体は、前回の43団体から1団体増えて、44団体となった。回答企業数は2,596社で、前回の2,492社から104社増加した。但し、調査範囲が拡大したため、企業の回答率は、前回の約75.5%から約70%になった。

    3. カバー率の一層の向上
    4. 物質毎のカバー率(対象物質の全国の総取扱量に対する44団体における取扱量の割合)を推計したところ、前回と同じ約84%となった。この理由として、対象物質を大量に取扱う企業は、第2回調査の段階ですでに参加していることが挙げられる。

    5. データの整合性の確認と精度の向上
    6. 3回にわたって調査を実施したことで、データ集計に習熟してきた。また、各団体の数値の経年変化をみることが可能になったため、前回よりも正確にデータの整合性の確認を行なうことができた。この他、物質の定義が周知徹底されつつあることが判った(例えば、第2回目から塩化水素は塩酸を除きガスを対象とすることとしたが、第2回、第3回の2回の調査を通じこの定義がほぼ周知された)。

    7. データ分析の実施
    8. 前回とのデータ比較を行なった結果、大気への排出は着実に減少していることが判った。大気への排出量について前回調査から増加した物質の増加量を合計すると1,483トン、一方、前回調査から減少した物質の減少量の合計は、13,473トンであり、減少量が増加量を大幅に上回った。物質数でみると、第2回調査より増加した物質が28物質であるのに対し、減少した物質は67物質であった。また、有害物質の自主管理対象12物質の総排出量についても、第2回調査に続き、第3回調査でも減少(第2回調査に比べ18%削減)している。自主管理計画に基づく産業界の排出削減努力が着実に成果をあげていると言える。


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