[ 日本経団連 ] [ 意見書 ]

石炭への課税に対する見解

2002年11月19日
(社)日本経済団体連合会

国内にエネルギー資源を有しないわが国において、国民が安心して生活を営むとともに、産業の発展を通じ安定的な経済成長を維持するためには、将来を見据えたエネルギー政策の確立や諸制度の整合性の確保が不可欠である。とりわけ、エネルギー・環境関連税制やエネルギー特別会計のあり方は、エネルギーに係る国家戦略の根幹を成すものであり、その対応を誤れば、産業の空洞化を加速することにも繋がりかねない。また、民生・運輸におけるエネルギー消費が過半を占める状況において、関連税制のあり方は、産業界のみならず、国民一人一人の日常生活に深くかかわる問題である。
日本経団連では、2001年5月に意見書「エネルギー政策の重点課題に関する見解」をとりまとめ、エネルギーの基本政策における、安定供給・環境保全・経済活性化の3E(Energy Security, Environment Protection, Economic Growth)の同時達成の重要性を提言してきたところである。総合的なエネルギー政策のあり方に関しては、産業界としても引き続き検討を進めていく所存であるが、8月下旬に経済産業省から経済財政諮問会議等で示され検討が進められている石炭への課税(石油税の見直し)については、以下の諸点から問題が多い。

1.慎重な検討プロセスの必要性

エネルギー・環境関連税制や地球温暖化に対する経済的手法のあり方等については、すでに、総合資源エネルギー調査会報告書(2001年7月)、地球温暖化対策推進大綱(2002年3月)等、様々な場において検討が行われてきたところであるが、未だ最終的な結論を得るに至っていない。今回の提案は、過去の審議会等の検討経緯や整合性を無視した形で進められつつある。制度見直しにより直接間接に影響を受ける各層の参画の下に、納税主体の納得を得つつ、省庁横断的な検討を進めるべきである。

2.エネルギー政策との整合性

石油危機後のわが国のエネルギー政策は、石油への過度な依存から、ガス、原子力、石炭や新エネルギーへの供給源の多様化による安定供給に主眼が置かれてきた。エネルギー資源の無いわが国においては、将来的にも各々のエネルギー源の特性を踏まえた多様化政策が不可欠である。石炭に関しては、石油危機以降、エネルギーセキュリティー向上や高コスト構造是正のための代替エネルギー源として拡大政策が図られており、税制面でも政策の整合性を維持する必要がある。
また、従来のエネルギー政策との齟齬は、膨大なコスト増に繋がりかねないことに十分留意すべきである。

3.地球温暖化対策との整合性

本年3月の地球温暖化対策推進大綱において決定された通り、温暖化対策としての経済的手法については、環境保全上の効果、マクロ経済や産業競争力等への影響等について十分に見極めつつ、総合的に検討を進めるべきである。また、大綱がステップ・バイ・ステップのアプローチをとっていることを踏まえ、第一ステップ(2002年から2004年まで)の自主的取り組みを中心とした対策の効果を見極めた上で、温暖化対策税制は、第二ステップ以降(2005年以降)において検討すべき問題である。その際には、エネルギー・自動車関連諸税をはじめとする既存税制との調整やエネルギー関連特別会計の使途の見直し等も含めた、総合的な検討が行われるべきであり、石炭や石油の一部にのみ、先行して経済的手法を導入することは適当でない。

4.国際的な視点での検討の必要性

エネルギー源のほとんどを海外に依存していること、企業が国を選別する時代であること、環境問題は地球規模での協力が必要であることを踏まえれば、税制を含むエネルギー政策は、国際的な視点を重視しつつ検討されなければならない。例えば、発電用燃料等のエネルギー転換に関しては、各国とも原則非課税であるのに対し、わが国においては石油税などが課されており、高コストの一因となっている。また、石炭に関しても、米国やドイツ、フランス等では非課税であり、わが国において新たに石炭課税が導入されるならば、国際的な整合性を欠き、わが国企業の国際競争力を著しく低下させ、経済活性化への足枷となる。さらに、大量の石炭輸入国であるわが国で石炭課税が導入されれば、他のエネルギー源の需給構造へも大きな影響を与える。

以 上

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