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WTOカンクン閣僚会議に向けた緊急提言

【分野別詳論】


A.日本経団連にとっての重要項目

1.投資ルールの構築

日本経団連は、国際投資ルールの構築を最重要課題の一つと位置付けている。マルチラテラルの投資ルールの策定は、その後のラウンド交渉を通じて内容を深化させ得ることから、二国間協定と比して、より一層の投資環境の安定性、透明性、予見可能性の確保につながる。
WTO新ラウンド交渉では、カンクン閣僚会議における全加盟国の合意を経て本交渉が開始されることになっている。現在は、作業部会において、ドーハ閣僚宣言に沿った項目ごとの検討が進められており、昨年12月には、一般理事会に対してこれまでの事実関係等を取りまとめた報告書が提出された。
日本経団連は、作業部会を事実上事前交渉の場と位置付けた上で、実質的な交渉を行うことを求めてきた。カンクン閣僚会議にいたる同部会の議論をふまえ、閣僚会議では、他のシンガポール・イシューとともに、投資に関するルール策定交渉の開始が合意され、新ラウンド期限内に交渉が終結することを強く求める。
策定される投資ルールは、発展途上国の開発政策に十分配慮しつつ、日本経団連にとって優先度の高い「透明性」及び発展途上国に受け入れ可能な「自由化」に重点を置いた形にすべきである。また、GATS(モード3)がサービス産業による直接投資を規定していることに配慮しつつ、統一的な産業分類を設定した上で、非サービス産業分野へのGATSの自由化方式導入の可能性について検討すべきである。(なお詳細は、日本経団連提言「国際投資ルールの構築と国内投資環境の整備を求める」(2002年7月)を参照)

2.自然人の移動の自由化

日本経団連は、まず専門的・技術的な分野の自然人が障壁なく自由に世界中を移動できるような制度の実現を求める。こうした人の移動に関して、日本経団連は、(1)経営者、管理職、専門職等、教育訓練や能力開発目的を含む全ての企業内移動、(2)個人契約に基づく移動、(3)一時的な滞在による自然人の移動に特に強い関心を有しており、各国がこうした自然人の移動について約束することを求める。なお、企業内転勤については、「本社、海外の支社・支店、子会社、関連会社間における一時的移動」と定義されるべきと考える。
自然人の移動は、サービス貿易の一つの形態(モード)として交渉が進んでいるが、こうした人材はサービス貿易に従事する分野に限定されるわけではなく、各国がサービスを含む全ての分野において門戸を開放することを求める。また、非熟練労働者の移動についても、先進国は、場合によっては経済需要テストに基づく数量制限を行った上で、幅広い分野における受入れ自由化を前向きに検討すべきである。あわせて、先進国は、非熟練労働者の受け入れに向け、制度を含む国内環境の整備に努める必要があろう。
サービス貿易交渉における各国のイニシャル・オファーは、まだ不十分ではあるものの、EUは、契約に基づくサービス提供者を約束対象として明示したり、大学卒業の能力開発目的の企業内移動を経済需要テストを課さずに自由化する等、率先して約束しており、日本経団連は、こうした動きを歓迎する。わが国を含むその他の先進国も、EU同様、今後の交渉において、自ら積極的に約束表の改善を行っていく必要がある。
さらに約束表を超えて、各国が、入国・滞在関連規制の透明性の確保、入国・滞在関連手続の簡素化・迅速化を実現することを求める。(なお詳細は、日本経団連提言「WTOサービス貿易自由化交渉 人の移動に関する提言」(2002年6月)を参照)
なお日本経団連は、日本における外国人の受け入れ問題について検討を進めており、 (1)外国人の受け入れを前提とした社会的システムの構築、 (2)グローバル経営下での専門的、技術的分野の外国人受け入れ円滑化、 (3)日本企業における雇用契約、人事制度、組織運営の改革、 (4)留学生受け入れの拡大と日本国内における就職の促進、 (5)企業ニーズを踏まえた研修・技能制度の改善、 (6)国内で雇用需要がありながら、日本人では供給不足になる分野を中心に外国人の受け入れ実現 等に関する意見を取りまとめ、来年3月を目処に公表する予定である。

3.その他の重点分野

(1) サービス貿易交渉の促進

日本経団連は、サービスが、経済活動全体のインフラとして、またそれ自体が重要なビジネスとして、世界経済の発展に貢献すると考えており、それにもかかわらず、先進国、発展途上国ともに自由化が未だ不十分なため、その潜在力が発揮されていないと認識している。

[現状と評価]

サービス貿易交渉は、2000年初よりビルト・イン・アジェンダとして始まり、2001年11月のドーハ閣僚会議において新ラウンド交渉に統合された。その後、2002年6月末のイニシャル・リクエスト提出、2003年3月末のイニシャル・オファー提出といった期限を過ぎたが、発展途上国を中心として、現在までのイニシャル・オファーの提出国数及びその内容は、自由化の進展を示しているとは言い難い。日本経団連は、サービス貿易自由化のため、各国がカンクン閣僚会議に向けて、積極的にリクエスト、オファーを提出するよう求める。

[総論]

日本経団連は、カンクン閣僚会議をサービス貿易交渉の中間レビュー会議と位置付けており、今後さらに交渉が本格化するよう大きく期待している。なお、サービス貿易に限定されない分野横断的事項である自然人の移動については既にA.2において、電子商取引についてはA.3.(4)において詳述している。

  1. リクエスト・オファー交渉
    ア.わが国自由化レベルの引き上げ
    わが国が提出したイニシャル・オファーは、いずれの分野においても既存の国内法の範囲に留まっている。諸外国からのリクエストの中には、日本経団連としても、是非実現を図って欲しいと考える分野もある。特に分野横断的な自然人の移動等については、日本がさらなる自由化に取り組むことを強く求めたい。
    イ.先進国による自由化レベルの引上げ
    米国、欧州委員会、カナダ、オーストラリア、ニュージーランド、スイス、香港といった先進国地域は既にイニシャル・オファーを提出したものの、その内容の多くは、既存の国内法の範囲に留まっているだけでなく、現在の約束表から新たな自由化がなされていない分野もある。今後、日本経団連は、日本政府を通じたバイラテラルの交渉或いは直接の働き掛けによって、自由化レベルの大幅な引き上げを求めたい。また、MFN免除登録措置は、10年以内の撤廃が原則であり、早急な撤廃を改めて求める。
    ウ.発展途上国による自由化レベルの引き上げ、早期のイニシャル・オファーの提出
    日本経団連は、多くの発展途上国に対して、早急にイニシャル・オファーを提出するよう求める。また、提出されたオファーの自由化のレベルが低い場合には、サービス貿易自由化によるメリットの理解増進も含め、働き掛けを強めていきたい。また、MFN免除登録の出来る限りの撤廃を求める。

  2. ルール
    ア.国内規制
    日本経団連は、各国において規制の透明性を向上させるとともに、不必要に貿易制限的となる規制が導入されないことを望む。こうした観点から、日本経団連は、2003年3月に国内規制作業部会において、日本政府が提出したペーパーを全面的に支持し、今後これをベースとして交渉を加速させることを求める。なお、特に透明性の側面に関しては、A.3.(6)において詳述する。
    イ.セーフガード(ESM)
    セーフガード措置の策定については、サービス貿易を数量的に測ることが出来ないといった技術的な困難性を指摘せざるを得ない。少なくとも当面は策定の必要はないと考える。
[セクター別]
  1. 金融サービス
    各国に対して、「金融サービスに係る約束に関する了解」に基づき、約束表を改善することを求める。特に各国は、多くの金融サービス分野において実質的な参入障壁となっている、外資出資比率制限、支店・子会社の設立制限、役員・従業員の国籍・居住要件、地理的制限、業務範囲の制限、経済需要テスト等に基づく内外差別的規制を撤廃すべきである。

  2. IT関連サービス・電子商取引
    各国に対して、(1)コンピュータ関連サービス、電気通信サービスの中の付加価値電気通信サービスに関する完全な自由化、(2)技術進歩による新たなビジネス形態の発展を促進する自由化約束の達成、(3)日本政府がリクエストで提示したITサービスのコンピュータ関連サービスにおけるオファーの提出、(4)IT関連サービスが約束表の様々なセクター分類の組み合わせにより達成されることに鑑み、既存の約束表の枠組みを最大限に活用した包括的な自由化約束、を強く求める。
    電気通信サービスでは、基本電気通信交渉を踏まえた約束表の改善を求める。特に、外資出資制限の改善、免許付与条件の透明化、内外差別的な国内規制の撤廃等が重要である。また、参照文書は基本電気通信サービスにのみ適用され、付加価値電気通信サービスには適用されるべきではないと考える。
    コンピュータ関連サービスでは、すべてのサブセクターを網羅した自由化を求める。コンピュータとネットワークを活用したITサービス、例えばホスティング、データセンター、アプリケーション・マネジメント、アウトソーシング・サービス等は、コンピュータ関連サービスと位置付けるよう求める。
    また既存の約束表上、複数のセクターにまたがる新たな形態のサービス、例えばウェブホスティングによるオンライン・バンキング・サービス等の自由化を実現するため、各国は、関連するセクター全ての自由化約束を達成することを求める。

  3. 海上運送サービス
    海上運送サービスは、広範なビジネスに関わる重要な分野であるにもかかわらず、GATSの規律が及んでいない。こうした中、本年3月には52カ国が共同で全ての加盟国が交渉に参加することを求めるペーパーを提出しており、日本経団連はこれを全面的に支持する。特に、各国は、国際海上運送サービス及び海上運送の補助的サービスの自由化、ならびに港湾サービスへの無差別なアクセス及び利用の確保を進めるべきである。

  4. 航空運送サービス
    いわゆるソフト・ライト3分野については、各国における約束表の実施、ならびに自由化約束の推進を求める。また、グランド・ハンドリング、空港マネジメント等の現在はGATS対象外のサービスについて検討することも重要である。なおハード・ライトについては現在の二国間体制を維持すべきである。

  5. エネルギーサービス
    日本経団連は、エネルギーサービス貿易自由化の重要性を十分に認識しており、市場アクセスと内国民待遇に関する交渉が進むことを歓迎する。ただし交渉に当たっては、エネルギー・セキュリティや供給信頼度の確保、ユニバーサル・サービスの維持等の公益的課題と効率性の両立を図ることが不可欠である。各国のリクエスト・オファー交渉については、まず分類に関する議論を加盟国間で十分に行う必要がある。

  6. その他

    ア.流通サービス:
    各国に対して、外資参入制限、出店規制、用途規制等の改善を求める。
    イ.音響映像サービス:
    先進国においてもほとんど約束がなされていない国があり、約束表の大幅な改善を求める。特に、内外差別的な国内規制の改善が重要である。
    ウ.建設・エンジニアリングサービス:
    各国に対して、外資出資比率制限、事業形態の制限、内外差別的な国内規制等の改善を求める。
    エ.自由職業サービス:
    各国に対して、国籍や職務経験要件の緩和等を求める。
(2) 非農産品市場アクセスの改善

自由な輸出入を通じた効率的な資源配分、並びに自由な貿易を通じた経済発展の促進を可能とするため、先進国・発展途上国ともに、未だ多く残されている高関税品目、多様な非関税障壁の削減・撤廃を進めるべきである。
WTO新ラウンド交渉においては、非農産品市場アクセス交渉グループで交渉が進められており、本年5月には、交渉グループの議長より、モダリティの基本要素に関する第一次提案が出された。同提案に対しては、先進国・発展途上国ともに異論が出され、5月末の期限内のモダリティ合意は達成することができなかった。
日本経団連は、モダリティ合意が、カンクン閣僚会議で行われることを強く望む。そのためにも、今後より一層交渉を加速化させる必要がある。
なお、日本経団連の議長提案に対する意見及びモダリティ合意に際した要望は以下の通りである。

  1. 関税引き下げ方式(フォーミュラ)
    先進国と発展途上国で、実質的にも同様の引き下げ効果を持ち、高関税を是正するような共通のフォーミュラを採用すべきである。議長提案は、スイスフォーミュラ類似のフォーミュラであるが、平均関税率の要素が組み入れられているため、同一品目について平均関税率の高い国の削減幅が小さくなる。その結果、一般的に高関税の発展途上国が関税削減に取り組まなくても良いこととなりかねず、国毎の関税格差の是正が図られない懸念がある。また、今後交渉により決定される係数の値次第では、関税がほとんど引き下げられない結果も想定される。
    なお、林水産物や皮革・履物等の関税引き下げが困難なことは認めるが、わが国を含む各国の適切な対応により交渉を進展させることが重要と考える。

  2. 分野別アプローチ
    フォーミュラと併せて、分野別アプローチも議論することが求められる。日本経団連は、家電(含 デジタル家電)・同部品、自動車・同部品、事務機器、自転車、ゴム及びその製品、ガラス及びその製品、陶磁器、カメラ、時計、玩具、一部鉄鋼製品、電子部品、チタン及びその製品、工作機械、建設機械、紙、ベアリングが関税撤廃・引き下げの対象となることを要望する。また、繊維分野及び化学分野については、ハーモナイゼーションを提案する。
    あわせて、IT関連の急速な技術の発展と融合を考慮し、情報技術協定(ITA)の対象品目及び参加国の拡大を推進することも重要である。

  3. 追加的モダリティ
    フォーミュラ及び分野別アプローチに基づき関税撤廃を行った後、各加盟国がゼロゼロ、ハーモナイゼーション、リクエスト・オファーによりその補完を行うとする議長提案を歓迎する。なお、3%以下の低関税率の撤廃も重要と考える。

  4. 非関税障壁
    残存する非関税障壁についてはできる限り撤廃し、内外企業による自由なビジネス活動を保障すべきである。このような観点から、対象とする非関税障壁の明確化及び検証を継続し、当該障壁についてはリクエスト・オファー方式、セクター別方式、分野横断方式を含むモダリティにより交渉を行うとする議長提案を歓迎する。なお、リクエスト・オファー方式、セクター別方式を用いた非関税障壁の撤廃については、同方式による関税障壁の撤廃と平仄を合わせつつ検討を進める必要がある。
    発展途上国は、まず関税の譲許率(HSコードのカバー率)を100%にまで引き上げるとともに、各国の経済発展段階や社会政策に配慮しつつ、関税の削減・撤廃に努めることが望ましい。但し、ビジネスに係る規制や手続の不透明性、不安定性の是正を強く求める。

(3) アンチダンピング(AD)協定の規律強化

日本経団連は、AD措置の恣意的かつ保護主義的な発動により、国際通商システムの安定が妨げられ、輸出側はもちろん、ユーザー産業や消費者も被害を蒙ってきたという日本経団連の主張が、世界中で受け入れられ始めていることを歓迎する。AD協定の規律強化は、関税引き下げの効果を減殺するAD措置の濫発を防ぐとともに、発展途上国の輸出を促すことにもつながる。
AD協定の見直しについては、ルール交渉グループにおける交渉項目の一つとして議論が進んでいるが、これまで、わが国を中心とする関心国が共同で出したペーパーを軸に交渉は順調に進展しており、今後は具体的な協定の改訂案をめぐる交渉が本格化するものと考える。
日本経団連は、こうした交渉の進展を高く評価しており、カンクン閣僚会議後も、引き続きシームレスに改訂交渉が進展することを強く求める。
日本経団連は、関心国による共同ペーパーの33項目の全てについて懸念を共有しており、具体的な協定の改訂が必要であると考える。この観点から、関心国によるサンセット、レビュー、ファクツ・アベイラブルに関する詳細な共同ペーパーは具体的な改訂案の土台になると考える。その他の項目についても、こうした提案が出されていくことを期待したい。
原則としては、AD措置の発動に関して、合理性、公正性及び適正手続を確保することが不可欠である。具体的な項目としては、(1)ダンピング・マージンの計算、(2)損害の決定、(3)調査、レビュー及びその他の手続きに係わる項目を中心として、広範な見直しが行われることを求める。加えて、関心国による共同・ペーパーでは指摘されていない、(1)産業確立の遅延に関する詳細な規程、(2)暫定措置の行使タイミングの明確化、(3)セーフガード措置調査との関係に関するルールの明確化を求めたい。

(4) 電子商取引の発展(電子商取引に関するワークプログラム関連)

IT及び電子商取引の発展を促す上で、国際的な自由貿易の促進を目指す新ラウンド交渉が果たす役割は極めて大きい。
IT及び電子商取引関連分野では、(1)貿易上のソフトウェアの取り扱いの明確化、(2)今後の技術進歩に伴う新たなビジネス形態についてのマーケットアクセスや内国民待遇等の確保の方策、(3)先進国及び発展途上国がIT・電子商取引の発展の重要性について共通理解を醸成し、国際的な議論が進展することが当面の課題である。
カンクン閣僚会議においては、主として分野横断的な課題についての検討を促進する役割を担う電子商取引に関するワークプログラムのより一層の活性化を目指した積極的なイニシアティブが求められる。また、ソフトウエアの取り扱いについては、物理的な媒体(例えばCD−ROM)による取引がデジタル化(ダウンロード)された媒体による取引に代わってもGATTが適用されることを求めるが、少なくとも従来と同等の自由化約束の取り扱いは確保されるべきと考える。さらに、電子商取引の関税不賦課の恒久化を求める。
なお、APECが2002年10月に採択した「貿易とデジタルエコノミーに関するAPEC政策の実施のための声明」(ロスカボス宣言)については、APEC加盟国のみならず、全てのWTO加盟国がその実現に努めることが重要と考える。

(5) 貿易円滑化ルールの構築

貿易手続の明確化、簡素化、調和化は、経済界の貿易関係手続に関する負担を軽減するだけでなく、各国政府の行政効率の向上につながる等、貿易に携る全ての関係者の利益となる。ドーハ閣僚会議においても、ほとんど全ての加盟国がその利益に理解を示していた。
日本経団連は、物品理事会において行われている交渉準備作業の成果をふまえ、カンクン閣僚会議で他のシンガポール・イシューとともに、貿易円滑化に関するルール策定交渉の開始が合意され、新ラウンド期限内に交渉が終結することを強く求める。
なお、ルール策定にあたっては、税関手続に留まらず、貿易手続を幅広く対象とし、GATT関連条文に含まれる透明性、正当性、予見可能性、最小規制、無差別等の基本原則に基づいたものとすべきである。特に煩雑で時間がかかる通関手続きの簡素化・迅速化、不確実な関税還付制度の改善、貿易手続き規則や手数料の明確化等の問題の早期解決が求められる。さらに、アジア太平洋経済協力会議(APEC)や世界税関機構(WCO)を始めとする他の会議体や国際機関等の成果も取り入れていく必要がある。

(6) 透明性の確保

日本経団連は、各国において国内規制の透明性が確保されることを強く求める。国内規制に関して、(1)規制の策定プロセス、(2)規制そのもの、(3)実際の運用といった全ての局面における透明性の確保は、世界における自由な貿易・投資活動に対する不必要な障害を除去するだけでなく、各国が進めている自由化のメリットを実際のビジネスにおいて享受するためにも不可欠である。
サービス貿易交渉においては、透明性に限定されず国内規制に関するルールの策定を目指して交渉が進展しており、日本経団連は交渉の加速化を望む。また政府調達の透明性についても、カンクン閣僚会議において交渉が開始されることを求める。前述の通り、投資ルールにおいても透明性の要素が不可欠である。
透明性については、既にTBT協定やSPS協定に規律が存在するが、日本経団連は、各国政府が経済活動に関わる全ての分野において国内規制の透明性の確保を自主的に約束することを望む。具体的には、全加盟国が経済発展段階に応じて、(1)法制度の透明性の向上、(2)許認可等における規制当局の裁量を是正するルール作り、(3)国内法・制度の制定・改廃に関する事前申立て手続・制度の整備の導入というステップを踏んで、透明性の向上を目指していくことを求める。あわせて国内規制が必要以上に負担とならないことを望む。(なお詳細は、「日本経団連WTOミッション ポジション・ペーパー」(2002年9月)を参照)

B.その他の課題

以下は、カンクン閣僚会議において議論になり得る項目等について、日本経団連の当面の考え方を示したものである。

1.貿易と環境

日本経団連は、新ラウンド交渉において貿易と環境についても充分な成果があがることを期待している。
既に交渉が開始されている多国間環境協定(MEAs)に関する議論については、WTOとMEAs上の特定の貿易義務に関する共通の理解を構築することを支持する。また、環境財及びサービスについては、これまでわが国企業が培った環境保全技術を提供する機会の拡大を促すものであり、交渉の加速化を求める。
環境ラベリングについては、カンクン閣僚会議で、(1)議論の対象の明確化、(2)TBT協定上の環境ラベリングの扱いに関する解釈の明確化、に関してどのように取り組むかを決定することを要望する。(なお詳細は、日本経団連提言「貿易と環境ラベリングに関する基本的立場」(2003年3月)を参照)

2.TRIPs協定と公衆衛生(医薬品アクセス問題)

日本経団連は、人道的な見地から、一部の発展途上国にとって医薬品アクセス問題の解決が重要であることを認識している。関係者間で調整が進められ、カンクン閣僚会議に向けて、本問題が解決に向かうことを求める。

3.地域貿易協定

日本経団連は、地域貿易協定に関する新たなルールが策定される場合には、わが国が今後、地域貿易協定に柔軟に取り組めるものとした上で、既存の全ての地域貿易協定にも適用されることを望む。

4.貿易と競争

日本経団連は、競争に関してWTOにおいて国際的な規律を策定することに中立的である。他方、シンガポール・イシューについては四項目全てについて一括して交渉が開始されることを求める。

5.TRIPs協定の実施

日本経団連は、発展途上国を中心とする多くのWTO加盟国において、TRIPs協定が現場において十分に実施されていないことに懸念を有している。各国が、世界知的所有権機構(WIPO)において進められている、各国国内の特許制度のハーモナイゼーションに向けた動きを踏まえて、各国が知的所有権の実効的な保護に向けた措置を講じることを求める。

以上

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