[ 日本経団連 ] [ 意見書 ]

外国人受け入れ問題に関する中間とりまとめ

−多様性のダイナミズムを実現するために「人材開国」を−

2003年11月14日
(社)日本経済団体連合会
産業問題委員会・雇用委員会

はじめに

私たちは、2003年1月に公表した新ビジョン『活力と魅力溢れる日本をめざして』において、「多様性のダイナミズム」と「共感と信頼」を基本理念としてシステム・制度の改革に取り組み、日本の社会・経済に活力を取り戻すことを提案した。

戦後の日本は、労働力の同質性を力に驚異的な経済発展を実現したが、少子化・高齢化の進展に直面し、専ら労働力の“マス”の力に頼って経済を発展させることはもはや困難になっている。日本では2006年から総人口が減少に転じる。もちろん少子化・高齢化の進展は、企業の事業活動やマクロ的な経済に影響を及ぼす。しかし、2025年度までの期間において労働力人口の減少が潜在成長率を押し下げる程度は年平均で0.2%程度であり、(注1)技術革新を通じてイノベーションを着実に進めていけば十分克服できよう。したがって今後は、国民一人ひとりの“付加価値創造力”を高めていくことが必要であり、そのプロセスに外国人がもつ力を活かすことができれば、経済のさらなる発展につなげていくことは可能である。新ビジョンにおいて提起したように、外国人に「行ってみたい、住んでみたい、働いてみたい、投資してみたい」と思われるような「活力と魅力溢れる日本」をいかにしてつくりあげるかが、その重要なポイントになろう。

世界的には1990年代以降、グローバル競争が巻き起こるなかで高度人材の獲得競争が激しさを増しており、モノ、カネのみならず、ヒトが国境を越えて自由に移動する状況となっている。各国で行なわれている優秀な人材を惹きつけるための取り組みは多様であり、いわゆる「移民法」を制定している国もある。また、1995年に発効したWTOサービス貿易一般協定は、人の移動について規定した初めての多角的な国際協定であり、その後の交渉を通じて自由化が進められてきている。加えて、自由貿易協定(FTA)や経済連携協定(EPA)の締結が時代の波となっており、そのなかでも人の移動の自由化が議論されている。しかしながら、日本では外国人がもつ力を発揮させる状況を戦略的につくり出そうという取り組みは必ずしも十分なされていない。国は、専門的・技術的分野の外国人労働者の受け入れをより積極的に推進する方針を打ち出しているが、実際の取り組みは遅れている。関係省庁には、その現実を真摯に受け止め総合的に施策を展開するとともに、受け入れのためのインフラ整備を急ぐよう求めたい。

一方、企業においては既に、異文化経営(Transcultural Management)の重要性が認識されている。市場の多様化、細分化等に伴い、企業内部の多様性が収益力の源泉となり得ること、また組織に多様性が確保されていることで構成員の想像力、寛容性が高まり、問題の未然防止、あるいは発生した問題の円滑な解決が図られることなど、企業経営上のメリットが期待されていることなどがその背景にある。

したがって、そうした日本企業の期待などを踏まえ、第一に日本に魅力を感じている専門的・技術的分野の外国人、とりわけ研究者、専門家、企業人などの高度人材の受け入れについては、その多様な能力、意欲、技能、知識を発揮できる環境を整えることが必要である。具体的には、大学や官民の研究機関における研究・執務環境や待遇の改善、企業などにおける合理的かつ透明度の高い人事制度の確立、インターナショナルスクール等の子女教育の環境整備、住宅環境の改善、医療サービスの充実などが重要である。

第二に、いわゆる現場で働く外国人の受け入れについては、経済社会と国民生活に多大な影響を及ぼすとの理由から、国は国民のコンセンサスを踏まえて慎重に対応するという方針を打ち出している。しかし、日本企業による海外への生産拠点の移転が加速するなかにあっても、日本国内の製造分野を含め日本人では供給不足となる分野で労働力を確保することは必要である。また介護・福祉分野を中心としたサービス産業、農業などにおいては、女性や高齢者の力を最大限活用するとしても、今後労働力不足が深刻化するという見方もある。加えて、事実上の外国人労働者として既に日系人が日本国内の製造やサービスの現場で働き、厳しい生活を強いられているという現実もある。そうした状況を踏まえ、目下直面している日系人を巡る問題を解決に導き、あわせて将来、日本人では供給不足となる分野で外国人を受け入れる際に無用な摩擦や混乱を表面化させないよう、今から検討を進め、透明かつ安定的な受け入れのシステム・制度を確立することが求められる。その方向としては、在留資格の細分化による受け入れ分野の限定、二国間協定の締結による受入国・人数の限定、いわゆる労働市場テストの実施による日本人の求職者との競合回避などが考えられる。また受け入れに伴う社会的コストを誰がどのようなかたちで負担するかについても検討が急がれる。

日本全体の競争力を高めるために、今後、3年、5年と期限を区切り、施策の展開を図る必要がある。その観点から、専門的・技術的分野の外国人、現場で働く外国人のいずれの場合においても、秩序ある受け入れのために制度改革を急ぐべきである。また昨今、日本国内における若年層の失業率が上昇し、外国人の受け入れは彼らを取り巻く環境をさらに悪化させるのではないかとの声も聞かれる。若年層の雇用促進のためには、より高度な専門知識、技術、技能を彼らが身につけられるよう、産官学が連携してその職業能力・意識の向上に取り組むことが求められる。さらに外国人の受け入れは、日本と近隣諸国との共存共栄の関係を崩すようなものであってはならない。

そうした前提のもと本中間とりまとめでは、まず共通する重要課題について問題提起としてその基本的な方向を示すことにした。今後、企業関係者のみならず、広く国民の間で議論を尽くす必要があると考える。その意味で、本中間とりまとめが一つの契機となり国民的議論が深まることを期待するとともに、日本経団連としても、それを踏まえた上で、本年度末の最終報告において結論を得ることとしたい。また、コンセンサスが得られた分野の受け入れについては、人材開国という観点から、国や地方自治体、さらには企業、大学、NPO・NGOなどの課題を整理した。今後の社会・経済環境の変化や世論の動向を見極めつつ関連諸制度を運用し、随時、それらを柔軟に見直すことを期待したい。

(注1)
日本経団連が試算したところ、2003〜2025年度の潜在成長率(実質)における労働力の寄与度は、女性や高齢者を中心に就業率が今後ある程度上昇することを前提としてマイナス0.2%であった。

I.秩序ある受け入れに向け共通する重要課題の整理

1.国における整合性ある施策の推進

周知のとおり、日本では出入国管理及び難民認定法(以下、入管法という)によって、外国人の在留資格を審査した上で、入国及び就労・就学を認めている。日本に入国し在留する外国人が係る問題は、関係する省庁や地方自治体が一体となって対応すべきところであるが、関係省庁や地方自治体が日常、情報を共有し連携をとりあい、共同して問題解決を図るような体制にはなっていないのが実態である。
1990年の入管法改正以降、外国人の入国・在留は大幅に拡大したが、それに対応して国が総合的な施策を推進したとは必ずしもいえず、外国人が実際に居住し就労する土地の地方自治体が対処療法的に問題解決をあたらざるを得ない状況にある。外国人に対する社会保険の不備、居住環境の悪さなど日本側の問題に加え、在留資格外での就労、子女教育や日本語習得への努力不足、地域コミュニティとの摩擦など、外国人側に起因する問題も含め、その対応は地方自治体に委ねられているのである。
そうした実態を踏まえ、国には、積極的に外国人受け入れに係る政策の舵取りを行なうことを求めたい。具体的には、内閣に「外国人受け入れ問題本部」(仮称)を設け、同本部が外国人受け入れに係る基本的な方針を企画・立案するとともに、入国審査・管理を行なう法務省、査証発給を行なう外務省、日本語習得、子女教育に係わる文部科学省、医療保険、年金、さらには外国人の雇用管理などを担当する厚生労働省、地方自治体への支援を行なう総務省などの具体的な施策の総合調整を行なうことが望まれる。また将来的には、各省庁の所管する外国人受け入れ関連の施策を一元化するために、「外国人庁」あるいは「多文化共生庁」(仮称)といった省庁の設立を検討してはどうか。

2. 就労管理における国と企業の役割

入管法に基づき入国が許可された外国人については、その在留資格に基づき日本国内で就労・就学することが可能となる。そして、企業などにおいて就労した者については、職業安定法施行規則に基づき、国は外国人を雇い入れている企業から雇用状況の報告を受けることとなっている。しかしこの報告は外国人個々の情報を報告するのではなく、企業が雇い入れている外国人をいわば概数的に報告するものである。そのため現行制度では、国として外国人の就労実態を把握できる体制にはなっておらず、これが不法在留の問題を惹起させている一因とも考えられている。
そこで、秩序ある受け入れを実現する観点から、企業が外国人を雇用する際に在留資格の確認を行なうとともに、雇用後も個々の外国人の雇用情報を国に提供するため、これまでの「外国人雇用状況報告」を拡充するなどの制度改革を行なってはどうか。これは、これまで入国管理の枠組みのなかでのみ行なわれていた外国人個々の状況把握を労働政策面からもあわせて行なうという点において、政策の大きな転換となるものである。企業が提供した個人情報は、国においてデータベース化し、情報管理を徹底することを前提に、地方自治体、社会保険庁などの公的機関が活用できるようにし、外国人の就労・生活環境の改善に役立てる。企業が提供する個人情報の内容や雇われる外国人の責務、さらにはその根拠となる法制度のあり方などについては、さらに検討を深めた上で結論を得たい。
また企業が外国人を雇い入れる場合に、日本人とは異なるダブル・スタンダードを設け、日本人より低い労働条件で雇い入れたり、外国人だけを合理的な理由もなく解雇したりすることがあってはならない。労働基準法、最低賃金法、労働安全衛生法などの労働法制について、日本人の雇用の場合と同様に遵守することは企業として当然の責務である。
なお、外国人を雇い入れる企業に対し、外国人雇用税を課すべきであるとの意見もあるが、税制における「公平の原則」に反することから、その導入は慎重に考える必要がある。しかし、外国人の受け入れに伴う社会的コストは一義的にその受益者が負担すべきものであるという意見も強い。その具体的な方法については、最終報告で結論を得ることにしたい。

3.日本企業における雇用契約、人事制度の改革

専門的・技術的分野の外国人の受け入れについては、国が第9次雇用対策基本計画(1999年)や第2次出入国管理基本計画(2000年)などを通じて、積極的に推進する方針を打ち出している。それら外国人の一層の活用を考える際には、入管制度の改善のみならず、企業の側において雇用管理、人事諸制度などのシステムを改革することが必要となってくる。日本企業において外国人を働きにくくしている阻害要因を取り除くことは、日本人にとっても必要なことである。

(1) 異文化シナジーを生み出す経営のあり方

現在、企業経営においてダイバーシティ・マネジメントが必須のものになりつつある。ダイバーシティ・マネジメントとは「多様な人材を活かす戦略」であり、従来の企業内や社会におけるスタンダードにとらわれず、多様な属性(性別、年齢、国籍など)や価値・発想を取り入れることで、経営環境の変化に迅速かつ柔軟に対応し、企業の成長と従業員の自己実現につなげようとするものである。これは、文化的な多様性を活かす経営という意味で「異文化経営」と呼ばれている。
もちろん多様性は、組織の効率的な運営に様々な影響を及ぼす。多様性によって組織の一体感が欠如し、意思決定に要する労力と時間が増大することも考えられる。その一方で、多様性は「異文化シナジー」というべきプラスの効果を組織にもたらす。異文化シナジーを持つ組織では、構成員が互いの違いを認識しつつ、その違いに優劣をつけることをしない。すなわち、異なった方法が創造的に結合されることによって、組織の運営や仕事の進め方において最善の方法が生み出されるのである。
従来の「異文化経営論」では、国ごとの文化の差に焦点をあて、その理解を深めて多様性に対応することによって企業経営を円滑にしていくことに主眼が置かれてきた。しかしグローバル化がさらに進展し、世界規模で迅速な市場ニーズへの対応を求められている今日においては、ことさらに差異を強調するのではなく、ビジネスの共通の価値観を基本として相違点を融合させる、つまり文化を超える経営が必要になる。その意味で「異文化経営」は、新たな次元に入っており、企業はそのなかで外国人の活用も位置づけていくことが求められる。

(2) 外国人を受け入れ、活用するにあたって留意すべき点

日本経団連が今般実施した「外国人受け入れ問題に関するアンケート調査」によれば、外国人を活用している企業は、社内システム上の問題点として「文化・習慣の違い」(42.1%)、「職場内での意思疎通」(41.5%)をあげている(図表1)。また、外国人を活用しない理由としては、そもそも「外国人雇用のニーズがない」か「接客業が中心となるため、言葉や文化の違いがネックになると考える」など、採用後の諸々のトラブルを心配する声も聞かれる。また、外国人受け入れにあたっての日本企業の課題を聞いたところ、「会社・従業員の意識改革」(44.9%)が最も多く(図表2)、その具体的な意見として、「社内のシステムだけでなく、従業員の意識に問題がある。グローバル時代にそぐわない排他的な意識が問題となる」といった声も聞かれた。日本企業が外国人を活用するにあたり課題となるのは、文化、語学、意識といったものであることが窺われる。

図表1−外国人を雇用・活用するにあたっての社内システム上の問題点
図表1−外国人を雇用・活用するにあたっての社内システム上の問題点
出典:日本経団連「外国人受け入れ問題に関するアンケート調査」(2003年10月)

図表2−外国人受け入れにあたっての日本企業の課題
図表2−外国人受け入れにあたっての日本企業の課題
出典:日本経団連「外国人受け入れ問題に関するアンケート調査」(2003年10月)

そうした文化、意識の改革と並んで、日本企業が外国人を活用するために必要なことは、外国人を適正な報酬で有効かつ適切に活用し得る仕組みづくりである。外国人が働きがいを感じ得る仕事と処遇を提供することが不可欠であろう。
近年、日本企業では年功制が見直され、成果主義人事が導入され始めている。雇用形態の多様化も今後さらに進むことになろう。一方、外国人は、多様な雇用形態のなかから自ら適したものを選び、そのなかで自己のキャリア・パスを描きたいと考えている。日本での滞在が短期であっても、その期間で自分に何ができるか、その次のステップとして何をするかを強く意識している。そのような姿勢で仕事に取り組む外国人の眼からすると、日本企業のキャリア・パスは極めて不透明なものに映る。
契約ベースの高度人材の場合、日本企業は国際的な労働市場賃金で外国人を処遇している場合が多い。しかし日本企業の賃金構造は、管理・専門職と生産要員の格差、職務グレード間格差が小さく、ある程度の期間、日本人と同じ処遇を前提にして外国人を研究職として活用しようとする場合、日本企業の報酬水準で海外から優秀な人材を集められるかは疑問である。世界的な人材獲得競争はますます激しくなっており、東アジアの国々の企業でも能力のある人材には高い報酬を与えている。日本企業も、外国人の活用を容易にするよう多様な対応をとることが求められる。
加えて、外国人社員に対する日常生活を含めたケアも必要である。外国人を積極的に活用している企業は、平日の夜などに日本語教育を行なうほかにも、日本に長く住んでいる外国人社員を先輩役として相談員の形で配置する、それぞれの職場でしっかりと面倒を見る庶務係をつける、できる限り海外赴任の経験がある上司をつける、などの工夫をこらしている。
また、外国人を活用するにあたり、コンプライアンス遵守・機密確保のための仕組みづくりも重要な課題となろう。日本経団連のアンケートでも、「固有技術の海外流出」「機密の漏洩」などの不安があげられている。企業は、細かな事項でも契約書に記載することを心がけなければならない。
以上指摘した点は、日本企業の置かれた経営環境のなかにあっては、グローバルな共通の価値観(World Values)と呼ぶことができよう。こうした価値観をベースとして、企業独自の文化と融合させ、異文化シナジーを発揮させていくため、社内の意識を変え、同時にシステム・制度を整えていくことが必要である。

4.日系人の入国、就労に伴う課題の解決

日系人は、現行の入管制度上、その身分や地位に着目した在留資格である「日本人の配偶者等」(主に二世)、「定住者」(主に三世)の資格により在留しており、一般の外国人の資格のように企業等との雇用契約を前提としていない。一般の外国人であれば、雇用契約が成立し在留資格を得た後、離職し無職のまま在留したり、入国時に許可された資格以外の職に就くことは許されないが、日系人はその身分や地位において、厳密な意味で外国人とは扱われず、一般の外国人と比べかなり自由に入国、在留ができるため、かえって将来の生活の見通しや十分な準備が整わないまま日本に入国するケースが少なくない。その結果、入国後、厳しい生活・就労環境に置かれることも多い。
いうまでもなく日系人は、既に日本経済を支える重要な役割を果たしているが、日本経済の長期低迷によって、その生活基盤は揺らいでいる。そうした状況のなかで、安易な入国、在留は本人やその家族にとっても好ましいこととはいえない。生活基盤は、職業とそれによって得られる所得によって確かなものとなる。その前提に立てば、今後入国を希望する日系人については、企業等との雇用契約が整い、日本で安定的な所得を得られる者に対して在留資格を与えることを原則とするなど、現行の在留資格制度を見直すことを検討してはどうか。また、既に入国し生活をしている日系人については、日本語能力検定試験の合格、社会保険への加入、子女教育の努力などを在留資格更新時に確認する制度を設ける方向で検討してはどうか。
なお、「2.就労管理の企業と国の役割」において提案した新しい仕組みは、日系人にも適用する必要があろう。

5.外国人の生活環境の整備

外国人に日本の社会とそれを支えるシステム・制度を理解し適応してもらうとともに、国、地方をあげて受け入れを前提とした体制を整備する必要がある。

(1) 子女教育の充実

日本に入国し在留資格を得て就労する外国人のなかには、子女を連れて生活する者も少なくない。その子女に対する教育については、インターナショナルスクールや外国人学校の場合、母国語による教育が可能であるが、無認可学校か認可されていても補助金が極めて限定的にしか支給されない各種学校となっているため、授業料が相対的に高く、また数も少ないという問題がある。一方、公立学校の場合、当然のことながら日本語による教育のため、子供達に日本語習得へのプレッシャーがかかり、学力低下や不登校に陥るケースもある。こうした事態を回避するため、外国人が集住する地方自治体のなかには、いわゆるプレスクールと呼ばれる教室を小学校内に設け、日本語教育や生活・習慣の指導を行なうとともに、巡回型の日本語指導員やカウンセラー、通訳を配置するなどの取り組みも見られる。また保護者を対象とした学校制度に関する理解を促すための説明会・交流会などを実施している地方自治体もある。
こうした地方自治体の取り組みに伴う経費は、地方自治体が自主的に捻出せざるを得ない。特に教員や通訳、カウンセラーなどの追加的配置の経費に対する国による助成は少ないことから、外国人が集住する地方自治体、先進的な取り組みを行なっている地方自治体を中心に、国による助成の拡大を図ってはどうか。
そもそも日本の義務教育は外国人保護者には適用されていない。そのため、特に日系人の子女の就学率の低さが問題となっている。不就学の状況は、中学、高校に進学するに従い高くなり、非行の温床ともなる。地方自治体や公立学校だけではなく、外国人学校、地域のNPO・NGOなどが協力して、保護者の子女教育に関する理解を深めることが、子女にとっても地域にとっても必要なことであろう。小学生、中学生にあたる学齢の子女の教育を外国人の保護者に義務化することについてはなお検討が必要であるが、入管法上の在留資格付与の要件として子女の教育機関の特定を組み入れることや在留資格更新時において子女の就学状況を確認することなどを組み込むよう検討してはどうか。

(2) 居住環境の改善

日本に入国し職業を確保し、在留資格を得た後に外国人が最初に直面する問題は住居の確保である。企業が社宅を提供したり、民間住宅を斡旋、保証する場合にはそれほど苦労はないが、外国人が自ら住居の確保を行なおうとすると必ず壁にぶつかる。
公的住宅においては、1992年に旧建設省が永住外国人・外国人登録を行なっている者について日本人と同様に扱う旨の通達を都道府県に行なった。その結果、90年代後半から外国人の公営住宅入居者数が増加した。しかし、民間の賃貸住宅では、依然として外国人の入居を拒否するケースが多く、外国人にとって住居確保は、苦労を要するものとなっている。また、外国人が集住する都市では、公営住宅への入居が中心となるが、なかには居住者の20〜40%を外国人が占めている団地もあり、地域のコミュニティとの間でトラブルとなっているケースも少なくない。
これら問題の解決には、地方自治体の取り組みが求められ、実際に対策が講じられているところもある。特に民間住宅における外国人に対する差別的な取り扱いをなくす観点から注目されるのは、川崎市などで行なわれている「外国人居住支援システム」である。民間の賃貸住宅の場合は、外国人の入居に日本人の保証人を求めるケースが多いが、保証人が見つからない場合、地方自治体が設けた「保証システム」を通じて、万が一の場合の損失保証を行なうというものである。まだこのシステムの有用性が理解されていないため利用者が少なく、そもそもこうしたシステムを持たない地方自治体も多いなど課題はあるが、まずはこれを全国的に普及させる取り組みを行なってはどうか。

(3) 社会保障制度の改善、充実

日本で就労する外国人は、医療など社会保障に対し大きな不満をもっている。日本は、1982年に「難民の地位に関する国際条約」を批准し、これに伴う国内法の改正で、国民年金、児童手当、児童扶養手当を外国人にも開放した。また国民健康保険も、1986年にはすべての外国人に加入が認められている。しかし外国人に対する年金、健康保険制度は、必ずしも有効に機能していない。実際、外国人集住都市である豊田市での外国人の健康保険加入率(2000年12月末)は、「健康保険」(8.0%)、「国民健康保険」(46.9%)、「未加入」(45.1%)であり(健保、未加入は推計値)、半数弱が無保険となっている(なかには民間保険に加入している場合もある)。このように社会保障の分野では、医療保険の未加入者の増加とそれに伴う外国人市民の健康問題、医療現場における高額医療費の未払いや医療通訳の問題、国民健康保険制度運営における自治体間の格差や保険料の滞納など、きわめて多様な問題が発生している。
これは、日本の制度が長期雇用労働者を前提にしているため、定住を前提としない外国人の実情に合っておらず、さらに短期雇用を繰り返す外国人も多いため、社会保険への加入が進んでいないということが背景にある。また年金制度についていえば、保険料を6カ月以上納めた外国人が日本に住まなくなった場合、2年以内に請求すれば脱退一時金が支給されるという制度が導入されているが、図表3の通り、被保険者期間が36カ月以上の場合では、支給額は変わらず、保険料を支払うだけ損という状況が生じている。掛け捨てに近い状態になる年金制度への加入を嫌い、これとセットになっている健康保険にも加入しないのである。
国民健康保険では、在留期間が1年以上の滞在または、在留期間が1年未満であっても入国目的、生活実態からみて1年以上日本に滞在すると保険者が認めた者という外国人だけの加入付帯条件がある。緊急医療については、現行の行旅病人及行旅死亡人取扱法では適用範囲が狭く、地方自治体のなかには1993年の群馬県を皮切りに、外国人の未払い医療費を一部補填しているところもある。国の制度としては、1996年度に外国人の未払い緊急医療費への補填制度がつくられたが、その指定を受けている病院(救命救急センター)は限られている。
現在、年金制度、医療制度ともに制度改革が俎上に乗せられているが、いずれも外国人の受け入れという視点を持って検討がなされているわけではない。健保・厚生年金同時加入原則の見直し、外国人就労者で健保除外である者の国保加入の許可、緊急医療費の公的扶助制度の整備、脱退一時金制度の見直しなどが具体的に考えられるが、これらについては最終報告で結論を得ることにしたい。

図表3−年金脱退一時金制度の概要
年金脱退一時金制度
保険料納付期間厚生年金(率)国民年金(額)
6〜12ヵ月0.439,900円
12〜18ヵ月0.879,800円
18〜24ヵ月1.2119,700円
24〜30ヵ月1.6159,600円
30〜36ヵ月2.0199,500円
36ヵ月以上2.4239,400円
*厚生年金の受給額は平均標準報酬月額×率。国民年金は第1号被保険者の納付期間
(4) 公共サービスの提供、地方自治への参加

行政が外国人に対して公共サービスを提供する際、直面するのが言葉の壁である。外国人が集住する都市では、外国人対応の職員の配置や行政パンフレットの翻訳などを行なっているほか、日本語を話せない日系人定住者などに対して日本語教育の機会を充実させてきている。国は、こうした地方自治体の経費に対する助成を充実してはどうか。
加えて、外国人の地方自治への参加も重要な課題である。国会には、永住外国人地方参政権法案(公明、民主、保守提出)が2000年から提出されているが、継続審議となっている。地方自治体では、1990年代に入り外国人による有識者会議を発足させている。なかでも川崎市の「外国人市民代表者会議」(96年12月設置)は、条例で設置が定められた唯一の例であるが、事実上の市政調査権も有し、代表者会議の提言が市政、条例制定に活かされている(外国人高齢者福祉手当の増額、公立学校への多文化教育講師の派遣など)。各地の地方自治体は、こうした先進事例を参考として、外国人の声を地方行政に反映するよう取り組む必要がある。

6.不法滞在者・治安対策の強化

2003年1月1日現在における不法残留者の数は22万人余りで、前回調査時(2002年1月1日現在)に比べ4千人弱減少した。また過去最も多かった1993年5月1日現在に比べ約7万8千人の減少となっている。しかし、70数万人といわれる就労目的外国人のなかで、22万人もの外国人が不法残留となっているという事実は重い。
一方、2002年度中の来日外国人の総検挙人員1万6千人余りのなかで、不法滞在者は8千4百人余りと50%以上を占めている。
また近年日本では、増加する殺人などの重要犯罪の検挙率が大きく落ちてきているが、この背景には、増えつづける犯罪に対して十分な警察官が確保されていないこと、またその裏返しとして警察官の平均年齢が上昇していること(全国41.9歳、東京都42.1歳)などがあると考えられる。
こうした状況を踏まえると、治安対策の強化は緊急を要する課題であり、日本国民はもとより、日本で働き生活する外国人にとっても望まれるものである。まじめに就労・就学する外国人が日本人から白眼視され、また日本人との間で相互に疑心暗鬼が深まるような状況のもとでは、「多様性のダイナミズム」も「共感と信頼」も実現し得ない。国、地方自治体は最優先の課題として取り組む必要がある。
そうしたなか、自由民主党では本年7月、「5年で治安の危機的現状を脱する」ことを目標に「緊急提言」をとりまとめた。警察官、入国管理局、海上保安庁、刑務所など職員の増員、留置場、刑務所、入管施設の整備など治安関係施設の収容能力を改善することをめざし、あわせて「不法滞在者を今後5年で半減させる」との数値目標を掲げている。また民主党も今後4年間で地方警察官を3万人以上増員し、落ち込んでいる検挙率を回復させるとしている。
私たちは、これらの基本的な方向を支持するが、日頃から関係省庁や地方自治体間で外国人の受け入れに関する情報の共有や施策の連携がなされていないと、外国人の就労・生活環境が悪化し、彼らが犯罪に手を染めてしまうような状況に追い込まれることになる。国、地方自治体一体となって整合性ある外国人受け入れ施策を推進しつつ、あわせて警察官の増員や入管施設の整備、入管職員の増員などを通じて治安対策の強化と不法入国の阻止を図るよう望みたい。

II.受け入れの拡大・円滑化を進める分野の具体的な提案

1.専門的・技術的分野における受け入れの円滑化

(1) 現状認識

国は、第9次雇用対策基本計画(1999年)、第2次出入国管理基本計画(2000年)において、「専門的、技術的分野の外国人労働者は、日本経済の活性化や一層の国際化を図る観点から、受け入れをより積極的に推進」することを掲げている。
専門的・技術的分野の在留資格としては、入管法第二条別表に掲げられる23資格の第一の一、二にある16資格のうち、「外交」「公用」を除く14資格(「教授」「芸術」「宗教」「報道」「投資・経営」「法律・会計業務」「医療」「研究」「教育」「技術」「人文知識・国際業務」「企業内転勤」「興行」「技能」)をあげている。
世界的に、専門的、技術的な能力の高い人材獲得のグローバル競争が起こっているなか、国際ビジネスを展開する企業を中心に、14資格のなかでも特に「興行」を除く13資格に区分される人材のニーズは高まっている。しかし、13資格の入国者数の合計は、図表4の通り減少傾向にある。こうした事態は、高度な能力を有する人材を活用して、国際競争力の強化をめざす日本にとって、決して好ましいことではない。

図表4−専門的・技術的分野の外国人新規入国者数の推移(興行を除く)
図表4−専門的・技術的分野の外国人新規入国者数の推移(興行を除く)
出典:法務省入国管理局

企業からの高まるニーズへの対応、多様性のダイナミズムを基本とした経済社会の活性化といった観点から、専門的・技術的分野の外国人受け入れのために具体的な施策を講じる必要がある。

(2) 問題の解決に向けた提案

前述の通り日本では、国の方針に基づいて、専門的・技術的分野の受け入れが掲げられている。他方、経済活動の国際化に伴って、多くの日本企業は、外国人をも活用しながら国境をまたがる様々なプロジェクトを推進している。特に、優秀な人材の円滑かつスピーディな入国、活用は事業成功の鍵である。こうした観点から、現行制度には改善が求められる点が多い。日本経団連会員企業に対するヒアリング及びアンケート調査等でも、こうした要望が多く寄せられている。そこで、国が具体的に以下のような措置を講じるよう提案する。

  1. 在留資格の拡大
    いくつかの在留資格について定義を拡大するとともに、業務独占資格に係る分野について、受け入れ範囲を拡大する。

    〔技術の定義〕

    現在、入管法第七条第一項第二号の基準を定める省令(以下、省令)の「技術」の項の下覧に掲げる活動に関して、全ての業種において、「大学を卒業し若しくはこれと同等以上の教育を受け又は十年以上の実務経験により」とする要件を削除する。現在、情報処理技術者については、情報処理技術に関する試験の合格、または資格の保有を前提に、この要件が緩和されている。全業種にこうした要件緩和を拡大することが求められる。

    〔人文知識・国際業務の定義〕

    省令の人文知識・国際業務の項の下覧に掲げる活動に関して、大学を卒業していない場合に求められる「十年以上の」実務経験という要件を「四年以上の」と改正する。大学卒業に係る年限は通常4年であり、同等年数の実務経験で十分であると考えられる。

    〔企業内転勤の定義〕

    省令の企業内転勤の項の下覧に掲げる活動に関して、申請に係る転勤の直前に外国にある本店、支店その他の事業所において「一年以上継続して」業務に従事するという要件を「一カ月以上継続して」と改正する。外国において採用後、基本的な業務・日本語研修(1カ月程度)を終えた後、すぐに日本において活用したい(外国人としても日本で就労したい)場合に、1年以上という要件は長い。

    〔投資・経営の定義〕

    省令の投資・経営の項の下覧に掲げる活動に関して、投資については「二人以上の本邦に居住する者が従事すること」が要件とされているが、これを削除する。二人以上の本邦居住者が従事しなくても、日本経済の活性化に資する投資を行なう外国人を受け入れることができるようにする。

    〔業務独占資格分野における受け入れ範囲の拡大〕

    弁護士、公認会計士といった「法律・会計業務」、医師、歯科医師といった「医療」においては、前者における、外国法事務弁護士、外国公認会計士を除けば、日本国の法律上資格を有する者が行なうこととされている業務に従事する活動(いわゆる「業務独占資格」)となっており、要件がきわめて厳しい。弁護士、公認会計士、医師、歯科医師については、たとえば、アメリカ、欧州連合加盟国等の先進国、経済連携協定を締結する国、アジア諸国等が認定する同様の資格について、資格要件の緩和によって、在留資格(入国・滞在、就労)を認めるようにする。
    企業活動の国際化に伴い、諸外国の弁護士、公認会計士に対するニーズは高まっている。現在も、外国弁護士による法律事務の取扱いに関する特別措置法、公認会計士法第十六条の二によって一定の業務が認められているが、その範囲は限定されている。また、医師、歯科医師についても、日本人に限定しなくても、業務に支障のない範囲で日本語を習得していれば、その技術を活かすことは可能である。
    これらは、国の総合規制改革会議においても既に指摘されており、国民生活の利便性の向上、当該業務サービスに係る競争の活性化等の観点から、業務範囲の見直し、資格間の相互乗り入れ、資格の廃止等を含めた制度のあり方を見直すこととなっている。


  2. 在留年数の延長

    〔最大在留期間の5年への延長〕

    現在、「外交」「公用」及び「永住者」以外の在留資格に伴う在留期間は、3年を超えることができない(法二条の二、3項)こととなっているが、これを5年に延長する。たとえば、ドイツ、イギリスは5年、フランスは10年となっている。在留期間については、1999年10月に改正が行なわれ、在留期間の延長が行なわれているが、その後の国際的な経営環境の変化を踏まえ、さらに延長することが望ましい。

    〔在留期間の区分の細分化と区分選択の自由化〕

    在留期間は、省令において、14資格のうち、「興行」を除く13資格について、在留期間が3年又は1年となっている(「興行」のみ1年、6月又は3月)。これを5年に拡大するとともに、期間の区分を5年、4年、3年、2年又は1年へと細分化した上で、在留資格認定証明書を申請する外国人が、この区分のなかから、従事する業務に応じた在留期間を選べるようにする。そうなれば、在留期間に応じた基準の明確化が図られるとともに、申請する側の外国人も柔軟な対応が可能となる。

    〔在留期間と有期労働契約期間との整合性〕

    現在、入管当局の指導により、在留期間1年の就労ビザを毎年更新し、雇用契約も1年として毎年更新を繰り返している企業がある。外国人は自己のキャリア・プランを明確にもっており、日本企業で3年、5年と働いて、その間どのような仕事を成し遂げられるかを常に意識している。前述のように在留期間が延長されても、有期労働契約期間が1年では、高度な技術、専門知識をもった外国人を日本企業に惹きつけることはできない。
    在留期間の見直しの際には、有期労働契約期間との整合性をとることが必要である。現行の労働基準法上では、有期労働契約期間は1年(高度の専門的知識を有する者は3年)であり、これが2004年1月より、3年(同5年)に改められる。そのため、在留期間と労働契約期間を3年に合わせることが可能となる。さらに在留期間を5年に延長する場合には、入管法上の在留資格の要件と、改正労働基準法上の高度な専門知識等を有する者の要件を調整することが必要となる。


  3. 在留資格認定証明書不交付理由のさらなる明確化
    外国人が、短期滞在以外の資格において入国しようとする際には、在留資格該当性・基準適合性の要件に適合しているかどうかを法務大臣が審査し、認められた場合のみ在留資格認定証明書が交付される。そして不交付が決定された場合には、別表以上の具体的な理由が明示されない。省令あるいは告示によって、不交付理由がより明確にされれば、入管によって基準が異なるのではないかという疑念を払拭することにもつながる。
    この場合、人権(プライバシー権)の問題にも最大限の配慮が必要である。たとえば申請者の適性等に関する情報のみを公開した上で、審査基準を具体的に明確にされれば、入管行政の透明性を高めるとともに、外国人の側でも申請する際に十分準備を行なうことが可能となる。

  4. 在留資格取得時の手続きに係る処分の簡素化・迅速化
    日本に入国を希望する外国人は、前述の通り、本人または代理人の申請により、審査で認められた場合に在留資格認定証明書が交付され、在外公館においてこれを提示して査証の発給を受けて、入国・滞在、就労が可能となる。在留資格認定証明書の交付申請に当たっては、共通の申請書のほか、在留資格別の書類が必要となるが、在留資格によっては、多くの書類が必要であり、また記入内容・方法等が複雑であるため、多くは行政書士や受け入れ機関がこうした手間を負担している。したがって、不要な書類の提出を求めないとともに、一般にも分かりやすい記入方法とする。
    さらに、法務省入国管理局における書類審査に時間がかかるという問題も指摘されている。個人差はあるが、平均で2〜3カ月、長い場合には半年という審査期間を要するケースもある。こうした状況は、優秀な外国人をいち早く受け入れて事業を遂行したい企業からすれば余りに長いといわざるを得ない。これは、行政手続法上も適用除外となっており、標準処理期間も設定されていない。こうした煩雑な手続きに係る手間やコスト等は、企業がスピード感を持ってビジネスを展開する上で大きな障害となる。煩雑な手続きのため、受け入れを断念するケースもあり、手続きの簡素化が図られれば、外国人自らが申請を行なうことも可能となろう。
    加えて、たとえば過去数年間にわたり申請において不許可になった事例がなく、かつ許可された外国人に関して事故が発生した事例もないような企業等を優良事業者として認定する制度を設け、こうした事業者が代理人として在留資格認定証明書の交付を申請する場合には、特別に迅速かつ簡易な手続きにより、当該申請に対する処分を行なえるようにすべきである。
    なお、イギリスでは、電子申請システムが導入されており、申請書受理後1日で7割、受理後1週間で9割が処理されている。

  5. 社会保障協定の早期締結
    日本との人材交流が活発な国との間において社会保障協定の締結をすることは、海外の優秀な人材を日本に誘致する上でも、きわめて重要である。現在までのところ、日本が締結した社会保障協定はドイツ(2000年発効)、イギリス(2001年発効)の2カ国とのものに過ぎない。
    今般、アメリカ、韓国との間で交渉が実質合意に達したことは評価できるが、引き続き、社会保障制度が整備されている国との間での協定の締結をめざしていくよう求めたい。特に、既に交渉中の国(フランス、ベルギー)、申し入れのある国(オランダ、イタリア、ルクセンブルグ、カナダ、オーストラリア)、その他の重点国(アジア諸国)との協定は、外資系企業が日本に優秀な人材を送り込むインセンティブともなろう。

  6. 高度人材の定住促進に向けた制度(日本版グリーンカード)創設の検討
    専門的・技術的分野の外国人がその能力を日本で十二分に発揮できるようにするためには、彼らが日本において自己のキャリアプランを長期的に考えることができる環境を用意する必要がある。たとえばイギリスでは、2002年1月、科学、金融等の専門技術者の受け入れを拡大する観点から、「高度技能移民プログラム」を導入している。図表5の得点計算方法に基づき75点以上ある場合、求人がなくてもまず1年間の滞在が許可され、さらに最大3年の滞在延長が可能となっている。また合計4年間、高度技能移民として就労した後には、定住が申請できることになっている。
    研究人材など、極めて高度な専門的・技術的分野の外国人の受け入れ、定住の促進は、世界的にみて既にひとつの大きな流れになっている。日本においてもこうした制度・システムの創設に向けて検討を行なう必要がある。

図表5−イギリスの高度技能移民プログラム得点方法
学歴 博士号保持者=30点、修士号保持者=25点、学士号保持者=15点
職歴 学卒レベルの職に5年(博士号保持者は3年)以上就労=15点、
上級レベルないし専門職に2年以上=10点
過去の収入
(年収)
4万ポンド以上=25点、10万ポンド以上=35点、25万ポンド以上=50点
(EU諸国、アメリカ、日本の場合)
就労希望分野
での業績
「例外的な」業績がある場合=50点、「重要な」業績がある場合=25点
一般開業医特別枠 国家保健サービスの一般開業医として就労を希望する
海外の医師を招致するための特別枠
出典:『通商白書2003』(経済産業省平成15年7月)

2.留学生の受け入れ拡大と日本国内における就職促進

(1) 留学生の受け入れ拡大
  1. 留学生受け入れの意義と国の施策
    外国人留学生の日本への受け入れは、諸外国との相互理解の促進、人的ネットワークの形成、国際社会への知的貢献、そして学術研究水準の維持・向上による国際競争力の強化などを図る上で意義がある。
    国は、「留学生受け入れ10万人計画」(1983年)等に基づき留学生の受け入れを進めている。留学生数は、この4年の間に中国などアジアを中心に倍増しており、本計画は2003年において達成された。しかしながら、高等教育機関の在学者数に占める留学生の割合は、図表6の通り、米英独仏豪などの国々と比較してまだまだ低いのが現状である。

    図表6−主要国における留学生の受け入れ状況
    アメリカイギリスドイツフランス豪州日本
    高等教育機関在学者数
    (千人)  A
    8,786
    (01年)
    1,276
    (00年)
    1,774
    (01年)
    2,097
    (01年)
    726
    (00年)
    3,697
    (02年)
    留学生受け入れ数
    (千人)  B
    583
    (01年)
    231
    (00年)
    206
    (01年)
    159
    (01年)
    108
    (00年)
    96
    (02年)
    留学生比率  B/A 6.6%18.1%11.6%7.6%14.9%2.6%
    出典:文部科学省資料

  2. 数の拡大と質の確保
    今後は引き続き留学生の「数」の拡大を図る一方で、留学生の受け入れの意義を踏まえて留学生の「質」を確保する必要がある。特に事実上、就労目的で来日する留学生が増え、その一部が資格外の就労をし、また犯罪に手を染めることが社会問題化している。大学は入学時の選抜厳格化と入学後の学籍管理の徹底などが求められる。留学生の数と質を確保していくためには、何よりもまず世界レベルで競争力のある大学を数多くつくりあげることが重要であり、これは日本人学生にとっても望まれる。
    具体的な方策として、以下の通り提案する。

    〔魅力的な大学教育プログラム構築〕

    まず留学生に対して、人生の貴重な数年を日本で学びたいと思わせる、世界的にみても質が高く、魅力的な大学教育プログラムを用意することが重要である。国際的にも卓越した教授陣を揃え、グローバルなコミュニケーション・インフラとなった英語による講義を充実させるなど、大学が国際的な汎用性という観点から、教育プログラムを見直すことが求められる。各大学が独自の取り組みを行なうよう期待したい。
    加えて、それぞれの大学がどのような教育プログラムを持っているかについて、情報を広く海外に発信する必要がある。そのためには現在在外公館が開催している日本留学説明会などを充実させるとともに、外務省、文部科学省、及び関係諸機関が連携し、ホームページ上で日本への留学情報を積極的に発信することなどが考えられる。
    日本で学び帰国した留学生は、政治、経済等さまざまな分野において日本と母国の架け橋となる貴重な人材である。帰国した留学生には、帰国後の定期的な動向調査などを通じてフォローアップを行なうことも必要となろう。

    〔留学生への生活支援の充実〕

    日本経団連が行なった大学に対するヒアリング結果等から、留学生が実際に日本で生活していく上で最も困っていることは、収入面では奨学金を受給できないこと、支出面で住宅費が高いことなどである。この結果、アルバイトをしなければ、学業以前に生活していくことができない。そうした状況を踏まえ、官民あげて奨学金の充実に取り組む必要がある。(注2)
    国費留学生については、まず対象者を拡大する必要がある。また、一旦支給が決まった留学生には学業成績に関係なく支給し続ける現行の制度を改め、成績不良の場合には支給を打ち切り、注意を促してもなお改善されない場合には帰国を命じるなど、留学生のモラルが高まる仕組みに改める。一方、留学生の9割を占める私費留学生に対しては、公的な奨学金に加えて、民間の財団等による奨学金の充実が必要である。大学側には成績優秀な学生への授業料の減免など、優秀な学生が学業に専念できる環境を整えることを望みたい。
    住宅については、安くて良質な留学生宿舎を確保することが重要である。大学や公益法人が留学生宿舎を充実させることに加え、民間企業が協力して社員寮の一部を留学生宿舎として提供する方法も考えられる。
    2004年4月、日本育英会、日本国際教育協会、内外学生センターなどが統合し独立法人「日本学生支援機構」が設立され、日本人学生のみならず留学生に対する奨学金支給、宿舎提供等の事業を行なう予定である。本機構に対して、官民が一体となって支援することが必要である。

    (注2)
    日本で3番目に多くの留学生を受け入れている早稲田大学では (2003年現在約1,600人)、2001年に留学生の生活実態調査を行なった。その結果から浮かび上がった実態は、(1) 留学生の月平均の支出額は約11万8千円、うち4割(約4万8千円)が住居費である、(2) 7割の留学生は留学生寮ではなく、広さ6畳程度の民間アパートに住んでいる、(3) 奨学金を受けている留学生は5割弱で、7割弱の留学生が週20時間前後、飲食店等でアルバイトをしている。これらの状況から、6割の留学生が現在の生活に経済的な不満を持っている。
(2) 留学生の日本国内における就職の促進
  1. 留学生の就職動向と国の施策
    グローバリゼーションを背景に、日本企業においても国籍を問わず優秀な人材を確保しようという動きが出てきている。また、日本の大学におけるさまざまな研究分野において、既に重要な役割を担っている優秀な留学生の能力に注目する企業が増えている。その一方、日本企業での就労経験を通じたキャリア形成などを動機として、日本企業への就職を希望する留学生も増えている。
    このような動向に対し、国は留学生の「留学」から「就労」への在留資格変更を積極的に認めることとしている。(注3)しかし、実際の在留資格変更は、図表7の通り、申請3,600件に対して許可が3,209件となっている(2002年度、同年度の留学生数は95,550人)。問題は、留学生数に比べて在留資格変更数があまりにも少ないこと、申請に対する不許可率が11%にのぼることである。

    (注3)
    国費留学生は、留学後は本来母国に帰国し、母国の発展のために働くことを基本としているが、専門的・技術的分野の外国人受け入れの促進という方針のもと、国は日本国内での就職を認めている。

    図表7−留学生等からの就職目的の申請者数等の推移
    図表7−留学生等からの就職目的の申請者数等の推移
    出典:法務省入国管理局

  2. 就職促進に向けた方策
    留学生の日本国内での就職は、専門的・技術的分野における外国人の活用にとって有力な方策であり、本人の希望を前提としつつ、積極的に推進する。具体的な方策として、以下の通り提案する。

    〔在留資格制度の見直し〕
    1. 在留資格変更基準の緩和
      在留資格変更の不許可は、大学で学んだ「専攻」と就職する際の「業種」「職種」が一致しないことを理由としているケースが少なくない。専攻と業種・職種が一致していないことを理由に在留資格変更が許可されず、結果として、企業への就職が内定していても就職できないという事態も生じる。このようなことが度重なると、企業は一連の手続きを煩雑に感じ、留学生の採用に躊躇することになる。今日における企業活動においては文系理系を問わず、さまざまな専攻分野の人材を必要としており、このように専攻と業種・職種の一致を厳しく求める制度運用は是正されるべきであり、現行の在留資格変更基準の緩和が求められる。

    2. 就労への橋渡しとなる在留資格の新設
      現行の入管制度では、留学生が卒業後日本での就職を希望する場合、卒業時点で企業から就職内定を得ていない限り、帰国か進学かの選択を迫られる。「留学」から「就労」を橋渡しする在留資格が存在しないことから、日本での就職機会が失われているとの指摘もある。
      日本の大学の正規課程を優秀な成績で卒業した留学生に対しては、将来の進路を決定するまでの期間として、出身大学の留学生センターなどから身元保証を受けることを条件に、1年程度の自由な時間を与える、橋渡しとしての在留資格を新設する必要がある。この期間は専ら就職先を探すことに使われるが、留学生自らが起業するといった可能性を追求することにも活用できる。このような在留資格の新設は、不法就労、さらには治安悪化の一因となるとの意見もあるが、大学の正規課程を優秀な成績で卒業した学生の在留を認めても、それらが助長されるようなことは決してないと確信する。

    3. 日本留学経験者への在留期間の優遇
      日本への留学経験者の日本での就職を促進するため、国は、就労における在留期間を他の外国人就労者より優遇することを検討する必要がある。

    〔就職支援〕

    日本で就職を希望する留学生の多くは、就職活動の留意点や日本の雇用慣行などを内容とするガイダンスなどの開催、インターネットによる就職活動に必要な情報の提供、就職面接会の開催などを期待している。これらの活動は、大学のみならず国、経済団体、留学生の就職を支援するNPOなどがそれぞれ独立して行なうのではなく、相互にネットワーク化して進める必要がある。

    〔日本企業の人事制度改革〕

    日本での就職を考える留学生からは、昇進・昇格、さらには幹部登用の可能性があるかについて、日本企業ではなかなか見えにくいという指摘がある。キャリア志向の留学生は、日本企業では活躍の場が閉ざされていると感じた途端に日本企業への就職を選択肢から除くことになる。優秀な人材であれば国籍を問わずに採用し、平等に処遇するという人事方針を徹底し、さらにこの方針を留学生も含め企業外部に明確に発信することが企業に求められる。

3.外国人研修・技能実習制度の改善

(1) 制度の概要
  1. 基本的な枠組み
    外国人研修・技能実習制度は、開発途上国などの青壮年労働者を最長3年間(研修1年、技能実習2年)、日本国内に受け入れ、技術・技能・知識などを修得させ、帰国後、修得技能を活かし、その国の経済発展を担うことができる人材を育成することを目的とした制度である。
    外国人研修生の受け入れについては、日本企業が、現地法人、合弁企業または外国の取引先企業の社員を研修生として受け入れるケース(企業単独型)に加えて、1990年より、商工会議所や事業協同組合などの団体が第一次受け入れ機関として研修生を受け入れること(団体監理型)も可能となった。さらに1993年には、研修を終了し所定の要件を充足した研修生に、雇用関係の下でより実践的な技術、技能などを修得させることを目的とした「技能実習制度」が創設され、現行制度の枠組みとなった(図表8)。

    図表8−研修・実習制度の基本的な枠組み
    1.開発途上国の人材育成協力
    • 単純労働力として受け入れるものではないこと
    • 講義主体の研修方式に加えて、OJTシステムを採用
    • 技能移転を確保するため、目標と公正な技能評価制度を設定
    • 研修生・技能実習生は、帰国後、修得技能を発揮すること
    2.秩序立った受け入れ
    • より多くの国の多数の青壮年に職業能力の開発機会を提供
    • 受け入れ機関の受け入れ人員枠を設定
    • 研修・技能実習を合わせ在留期間は最大3年
    3.研修生・技能実習生の保護
    • 受け入れ機関は、研修生に対して、安全衛生、保険、生活指導、宿舎等
      について出入国管理法令等に基づき適切に措置
    • 受け入れ機関は、技能実習生に対し、労働者としての位置付けの下に、
      賃金、労働時間、安全衛生、労災補償等について労働法令上の権利を保障
    出典:JITCO資料

    なお、本制度の適正かつ円滑な推進を図る中核的機関として、財団法人 国際研修協力機構(以下、JITCO)がある。JITCOは、1991年に設立された、法務・外務・厚生労働・経済産業・国土交通の五省共管による公益法人である。
    研修と技能実習は、前述の通り同じ目的で実施されているが、図表9にあるように要件や内容に違いがある。

    図表9−研修と技能実習の相違
    研修技能実習
    在留資格研修特定活動
    対象職種入管法令の要件を満たす
    同一作業の単純反復でない業務
    技能検定等の対象となる
    62職種113作業
    取得技能水準の目標技能検定基礎2級技能検定3級
    雇用契約の有無なし(就労は不可)あり(労働者としての扱い)
    受け入れ機関の
    生活保障措置
    生活実費として
    研修手当を支給
    労働の対価として
    賃金を支給
    外国人に対する
    保護措置
    入管法令等に基づく保護労働法令等に基づく保護
    社会保険・労働保険
    の適用
    民間の研修生保険の加入国の社会保険・労働保険の強制適用
    出典:JITCO資料より一部加工
  2. これまでの実績
    JITCO運営による研修・技能実習制度の活用者は、2002年で約6万3千人(研修生約4万人、技能実習移行申請者約2万3千人)にのぼる。10年前と比較すると、研修生、技能実習生ともに約10倍の規模となっている。受け入れ形態別では、ここ数年、団体による研修生の受け入れが急増している。出身国別の構成は、中国が全体の約8割を占めており、インドネシア、ベトナムを加えた3カ国で全体の96.4%となっている。産業・業種別では製造業が圧倒的に多く、なかでも繊維・衣服製造関係が全体の約半数を占めている(図表10)。

    図表10−技能実習生の出身国別構成と産業別受け入れ状況(2002年度)
    図表10−技能実習生の出身国別構成と産業別受け入れ状況(2002年度)
    出典:JITCO資料
(2) 運営上の課題と対応策

技能実習制度が創設されて本年で10年となる。受け入れ人数の増加からも本制度が定着し、製造業を中心に産業界で広く活用されてきていることがわかる。しかし、受け入れ企業によっては、低賃金の単純労働者を確保するために本制度を活用しているといった面もあり、研修生・技能実習生が帰国しても、習得した技術等を活かせる職場が提供されていないケースもあるといわれている。こうした実態は、開発途上国などへの技術移転という本来の目的から乖離している。これが本制度における最大の問題である。加えて、研修手当や賃金を巡る問題、失踪問題などが発生していることも事実である。これらの問題は、研修・技能実習制度を低賃金の労働者派遣ビジネスとして悪用している団体やブローカーなどが介在する場合に多く見られるが、このまま放置すれば日本の信用に係わる重大な問題となる。研修生・技能実習生の人権や労働条件の保護の観点からも、こうした問題は早急に解決されなければならない。
これら問題の解決に向けた対応としては、JITCOが関係省庁との緊密な連携のもと現場の実態を十分把握した上で、送り出し機関ならびに受け入れ機関に対する本制度の趣旨・ルールの周知徹底、適切な助言や指導、各種相談援助などの活動を強める必要がある。さらに、送り出し機関において研修生が適正に選抜される仕組みをつくること、受け入れ機関において各段階で語学・慣習などの教育を徹底すること、研修生・技能実習生のケアを充実することなどが特に重要である。
これらの具体策を考えるにあたり、岐阜県を中心とした繊維産業の事業協同団体における取り組みは参考になろう(図表11)。この受け入れ団体傘下の企業では、前述のようなトラブルはほとんど発生していない。受け入れ機関が自助努力を惜しまず、真摯に取り組むことによって、本制度を巡る様々な問題を払拭することができるという良い例である。

図表11−繊維産業の事業共同団体(受け入れ機関)の取り組み例
  • JITCO推薦の送り出し機関を活用するだけでなく、現地対応窓口(合弁会社等)を設置し、
    自ら研修生の選抜を行い、優秀な人材確保を図る。
  • 研修生の選抜にあたっては、実務試験や知能テストに加え、身元調査を行う。
  • 来日前に、研修手当や賃金の具体額、並びに税金・社会保険等の控除額を提示する。
    あわせて、失踪が重大犯罪であること、これまでにも厳しい処罰が行なわれていること等を
    具体的に説明する。
  • 日本語教育を徹底するため、教育・研修機関を自ら設立する。
  • 研修生・技能実習生に担当カウンセラーをつけるなど、相談・連絡先を明確化する。
  • 各企業を定期的に訪問し、研修手当や賃金の支払い状況を本人に確認する。
  • 受け入れ企業の倒産時等に、研修生・技能実習生への支払いが滞ることがないよう、
    保険見合いの基金の積み立てを行なう。
出典:日本経団連調査

また、本制度に係る問題として、研修生・技能実習生が低賃金の労働力として機能しているために日本人の雇用機会が奪われているのではないかとの指摘もある。しかし今日、国内では日本人に対して求人募集を行なっても応募者がなく、研修生・技能実習生がいなければ事業を継続できない状況にある中小零細企業が多いという事実を見過ごすことはできない。こうした企業では、外国人である研修生・技能実習生を受け入れることで日本人の雇用機会が奪われているのではなく、彼らと共生することで事業が継続でき、その結果、日本人の雇用も守られているという面がある。
このように、本制度は功罪両面をあわせ持ち、制度自体、まだ不完全な部分がある。したがって、まずは、関係者が本制度を巡る諸問題への対応に真摯に取り組むことを求めたい。
さらに将来、これまで日本で外国人を受け入れることが認められていなかった分野において受け入れを行なうかどうかを検討するにあたり、人数・期間の限定、就労管理の徹底、労働者保護などに関する本制度の秩序だった仕組みを活用して試験的に受け入れることにより、その効果や課題などを整理し、本格的に受け入れる際の参考にすることも考えられる。こうした観点からも、本制度を改善し、今後も積極的に活用していくことが必要である。

(3) 制度の改善に向けた提案

上記の考え方に基づき、受け入れ企業、送り出し国のニーズを踏まえ、以下の通り提案する。

  1. 研修・技能実習期間の延長
    研修と技能実習の期間は、合わせて最長3年間となっているが、受け入れ企業、技能実習生の双方から、5年程度まで期間を延長してほしいという強い要望がある。これは、受け入れ企業にとっては貴重な戦力であること、技能実習生にとってはさらに技術レベルを高めたいとの理由によるものである。
    そこで、技能実習2年目終了時までに技能検定3級を取得すること、日本語検定2級を取得すること、受け入れ企業の技能実習制度の適正な運営などを要件に、技能実習生が希望する場合、技能実習期間を2年程度延長することを認めるべきである。
    こうした要件のもとで期間延長が認められれば、これまで以上に、受け入れ企業、技能実習生ともにモラルが向上し、より質の良い技能実習が行なわれることが期待できる。

  2. 再研修・再技能実習の制度化
    入管法では、研修・技能実習を終了して帰国した元研修生・技能実習生の再入国が禁止されているわけではないが、帰国後早々の再研修や、前回の研修と同種・同等レベルの再研修は認められていない。再研修・技能実習が認められるのは、帰国・復職後1年以上経過していること、再研修・技能実習の修得すべき技術・技能・知識・ノウハウ等の水準が管理監督者クラスのそれに該当するなど、研修技能実習目標・内容が前回よりレベルアップしていることなどの基本的な要件が必要とされることに加え、再研修が必要であると認めるに足りる相当の個別の具体的理由があると法務大臣が判断した場合に限られている。現実には、企業単独型の受け入れにおいて一部再研修・技能実習が認められた例があるものの、商工会議所や事業協同組合等の団体監理型の受け入れで認められたケースはほとんどない。しかし、多くの企業が元研修生・技能実習生のうち優秀な人材を再び受け入れたいと考えている。また、元研修生・技能実習生のなかにも、次は生産ラインの管理者としてのスキル、ノウハウを学びたいといった希望を持つ者も少なくない。
    そこで、まず再研修・技能実習が認められる基準を明確化し制度化すべきである。その際、これまで必要とされていた要件に加えて、技能実習2年目終了時までに技能検定3級を取得すること、日本語検定2級を取得すること、受け入れ企業が研修・技能実習制度を適正に運営していることなども要件とすれば、より厳格な運用が可能となる。
    なお、元研修生・技能実習生について「技能」の在留資格による入国と正規就労を認めるべきであるとの意見がある。将来的にはその方向をめざすべきであるが、まずは研修・技能実習制度の枠組みのなかで運用を行ない実績を積み重ねた上で、改めて検討する必要があると考える。

  3. 早期送還制度の導入
    技術・技能等の修得という本制度の目的の達成を担保するものとして、不適格な研修・技能実習の実態がある場合には、期限前でも研修・技能実習を打ち切り、研修生・実習生を帰国させるといった制度を導入することも一案である。
    具体的には、研修・技能実習内容が計画した内容とかけ離れている場合、研修生・実習生の生活や素行に不審な点がある場合、さらには技能検定基礎1級に相当するレベルに到達することを技能実習2年目を履修する「要件」とし技能実習生が当該資格が取得できなかった場合(現在は技能実習1年目終了時に技能検定基礎1級に相当するレベルに到達することを「目標」としている)などにおいて、技能実習を続けることができないようにすることが考えられる。

  4. 対象業務の拡大
    研修の対象となる業務は、取得しようとする技術・技能等が同一の反復(単純作業)のみによって修得されるものでない業務とされているが、介護、美容、理容といった、いわゆる「人の体に触れる業務」については一切認められていない。また技能実習は、現在、62職種113作業が認められているが、その大半が製造業に係る職種である。
    しかし、研修・技能実習が認められていない介護などの分野ついては、諸外国から派遣ニーズがあることに加え、将来、日本人では供給不足になると予想されていることから、対象業務として認める方向で検討を進める必要がある。

以上

日本語のトップページへ