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2004年度日本経団連規制改革要望

−民間活力の発揮を促進するための規制改革・民間開放の推進−

2004年11月16日
(社)日本経済団体連合会

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長期低迷を続けた日本経済は、民間企業の経営改善努力や政府における規制改革をはじめとする構造改革推進に向けた取り組みが実を結び、設備投資を中心とする国内民間需要が着実に増加し、景気回復の過程にある。

この回復基調を持続的な経済成長につなげていくためには、新規産業の創出や新技術開発等による更なる民需の拡大が不可欠で、従来以上に規制改革を積極的に推進し、民間事業者の創意工夫を引き出す環境を整備する必要がある。また、公共サービス分野についてはこれまでは官が独占的に担うことが所与とされてきたが、非効率なサービスが温存されたまま官の事務・事業が肥大化してきたことは否めない。日本経団連の奥田ビジョンに示した、民主導・自律型のシステムに基づく経済社会を実現するためには、「民間でできることは民間に委ねる」という原則の徹底と、官民の役割分担の不断の見直しを図る観点から、積極的に民間開放を進めていく必要がある。

本年4月より、規制改革・民間開放を推進する体制として、民間人を主体とする規制改革・民間開放推進会議ならびに総理を本部長、全閣僚を構成員とする規制改革・民間開放推進本部の二つの組織が新たに設置された。当会がかねてから求めてきた通り、規制改革に優れた知識・経験を有する民間人主体の組織として規制改革・民間開放推進会議が設置されたことは高く評価できる。今後、規制改革・民間開放推進会議による民間の創意を活かした取り組みと規制改革・民間開放推進本部による政治のリーダーシップの発揮が車の両輪となって、より一層、規制改革・民間開放が推進されることを期待したい。

1.「中間とりまとめ」の確実な実現に向けて

規制改革・民間開放推進会議は当面の重点検討事項を「官製市場の民間開放」に絞り、市場化テスト、官業の民営化、主要官製市場の改革、の3本柱について集中的に検討を進めている。8月に策定した「中間とりまとめ」は、市場化テストの導入に向けた基本方針や重点的に民間開放を進めるべき官業が示される等、密度の濃い内容となっているが、重要なことは、いかに「中間とりまとめ」の内容を早期に実現させていくかである。そのため、規制改革・民間開放推進会議には、規制改革・民間開放推進本部との密接な連携はもとより、経済財政諮問会議、特殊法人等改革推進本部参与会議など関係諸機関とも適切に連携していくことが望まれる。
「中間とりまとめ」の実現のためには、特に以下の点について、必要な措置を講じるべきである。

(1) 市場化テストの制度設計に際し留意すべき事項

市場化テストは、現在官が行なっている事務・事業について、本当に官が行なうことが価格と質の両面で国民にとって望ましいことかどうかをチェックする重要な手段である。また、一層の規制改革推進にも資することから、これを政府の事務・事業の単なるアウトソーシングの手段に留めてはならない。市場化テストを公共サービスの効率化や、非効率な組織の見直しを通じた行政改革の実現と、合理的なコストで国民に対して質の高い多様な公共サービスを提供するための手法と位置付けることにより、小泉構造改革の支柱である「官から民へ」を実現する重要な制度となる。
「中間とりまとめ」において、市場化テストの導入に向けた基本方針が示されているが、早期にその詳細について決定し周知を図ることが望まれる。また、市場化テストを真に実効性のある手法としていくため、以下の点に留意する必要がある。

  1. 法的枠組の整備
    以下の諸点を考慮すると、市場化テストの本格導入に際しては市場化テストに関する特別法を2005年中に制定する必要がある。

    ア.関連する規制改革の実現
    現行の法規制の枠にとらわれていては、官民の役割分担を真に再構築することはできない。「中間とりまとめ」にも記載されているとおり、関連する規制改革などを実現する「突破口」として、市場化テストを育んでいく必要がある。
    イ.法的根拠に基づく第三者機関の設置ならびに権限付与
    市場化テストの透明性を確保するためには、中立で高度な専門知識を有する第三者機関を設置して、対象事業の選定や評価基準の策定、入札条件の決定、落札者の決定など、一連の実施プロセスを厳しく監視することが必要である。また、事後的なチェックに基づき、制度の改善を図ることも極めて重要である。こうした第三者機関による監視の実効性を担保するためには、第三者機関を法に基づく機関として、一定の権限を付与することが不可欠である。
    ウ.パフォーマンスを重視した官民競争入札の実現
    現行の会計法は、官による民からの調達を想定しているため、市場化テストのような官民競争入札に対応する仕組みとなっていない。真に実効性のある官民競争入札を実現するためには、上記の特別法の中に会計法に関する特例措置を講じるなどの取り組みを図る必要がある。さらに、その法の制定にあたっては、単なる価格競争だけに陥らないよう、例えば、詳細な仕様を官が定めるのではなく、性能発注を基本とする等、民間の創意工夫が発揮されるようなルールを定めることが重要である。
    エ.公務員の処遇に関する検討
    市場化テストを真に効率的で価値ある公共サービスの提供と適切な予算の実現につながるものとしていくためには、市場化テストの結果、民間事業者が事務・事業を落札した場合の公務員の処遇について、諸外国の例なども参考にしながら、既得権を聖域扱いすることなく、十分な検討を行なっていく必要がある。
    なお、現在、指定管理者制度のもとで、地方公共団体の事務・事業を民間委託する場合の当該事務・事業に従事する地方公務員の処遇が大きな課題となっている。民間開放のツールの一つである指定管理者制度の活用を進めていくために、一般職の地方公務員の派遣先として指定管理者の指定を受けた営利法人を認める等、所要の規制緩和が必要である。
  2. 地方公共団体の事務・事業の早期対象化
    民間に開放すべき事務・事業は、中央省庁以上に、住民に近い様々な公共サービスを提供している地方公共団体に、より多く存在すると考えられる。日本経団連にも、例えば図書館・美術館等の公共施設運営や自動車運転免許更新業務等に関する民間開放要望などが既に寄せられている。当初は国や独立行政法人、特殊法人等の事務・事業を対象とするとしても、早期に地方公共団体を含めた全ての政府部門の事務・事業に対象を拡大すべきである。

  3. 対象事務・事業リスト拡充の必要性
    制度の実施にあたり、最も重要な点の一つは民間事業者にとって魅力ある事務・事業をどれだけ多く対象に盛り込めるかである。しかしながら、民間事業者はそもそも政府部門にどのような事務・事業が存在し、どの分野が民間開放可能かという点について十分な情報を持ち合わせているわけではない。
    そこで、制度の開始にあたっては、民間事業者の一助とすべく、政府の事務・事業の一覧を作成・公表すべきである。民間事業者からの提案募集を行なうと同時に、政府自ら、当該一覧の中から市場化テストの対象となり得る事務・事業を積極的にリスト化する必要がある。さらに、リストの拡充のため、各省庁に数値目標を課して、毎年、事務・事業の一定割合以上を必ずリストに載せることを義務付けること、また、民間からの提案を踏まえて毎年リストを改定すること等が望ましい。
    なお、政府には、対象リストに掲載された事務・事業について、民間会計原則を踏まえ、活動基準原価計算等の手法を活用しつつ、直接的経費だけでなく間接的経費を含めたフル・コストについて、必要な情報を速やかに、かつ、適切に開示することが求められる。

  4. スピード感のある制度運営
    民間事業者にとって魅力ある制度としていくためには、スピード感のある制度運営が不可欠である。例えば、構造改革特区においては、特例措置の提案募集開始から政府の対応方針決定までの処理期間を概ね4ヶ月間に設定しており、このような標準処理期間を設定することも検討すべきである。

  5. 相談・苦情処理窓口の設置
    民間事業者が必ずしも政府が現在行っている公共サービスについて十分な知識を持ち合わせていない点を踏まえ、提案作成段階から気軽に相談に応じ、親身なアドバイスを提供する窓口を置く必要がある。さらに、各省庁が自ら行っている事務・事業を守ろうとして、民間事業者の提案意欲を削ぐような行動を行うケースも想定されるため、提案に係る苦情処理の受け付けと、問題の是正に取組む体制を整えることが必要である。こうした観点から、内閣府内に市場化テストに関する相談・苦情処理体制を整備することが求められる。

  6. モデル事業の実施に際しての留意点
    市場化テストの本格導入に先立ち、2005年度にはモデル事業が実施されることとなっている。モデル事業の成否がその後の本格導入にも大きな影響を与えることから、ぜひともこれを成功させるべく、対象事業にはハローワーク、社会保険庁関連業務など国民の関心の高い事務・事業を選定し、関連する規制改革や競争条件均一化措置を実現していくことが不可欠である。

(2) 官業民営化の推進

「中間とりまとめ」には、当面重点的に民間開放を進めるべき官業として、約80の事務・事業(例 社会保険関連業務、職業紹介・雇用保険業務、運転免許試験、貿易保険業務、国税・地方税の徴収、行刑施設)が示されている。これらの中には、「市場化テスト」の対象とするまでもなく、アウトソーシングが可能なものもある。市場化テストを経ない官業の民営化についても、例えば各省庁に数値目標を課すなどの措置を講ずることにより、積極的に民間開放を図っていくことが望まれる。

(3) 14の重点検討事項の早期実現

「中間とりまとめ」における3本柱の一つである主要官製市場の改革については、「混合診療」の解禁等、医療、介護、教育の3分野から14の重点検討事項が選定された。これらの重点検討事項の多くは前身の総合規制改革会議の時代からの懸案事項である。所管省庁・関係業界等の反対が根強いこれら重点検討事項について膠着状態が続いているために、規制改革・民間開放が進展していないという印象を国民に与えている。規制改革・民間開放推進会議の宮内議長が示した「年末の答申に向けた進め方及び基本方針」(10月12日)に沿って、これらが必ず本年度内に措置されるよう、会議は総力を挙げて取り組むと共に、テーマに関係する規制改革・民間開放推進本部構成員と規制改革・民間開放推進会議の代表者とで詰めを行なう等、新たな推進体制に盛り込まれた仕組みを最大限活用すべきである。
特に、混合診療の解禁について経済界の期待も大きい。患者の選択に基づく医療機関との自由な契約により、患者本位の医療を実現するため、特定療養費制度の拡充に留まらず、いわゆる「混合診療」を解禁すべきである。本件については、総理から年内に解禁の方向で結論を出すよう指示が出されていることを重く受け止め、可能な限り早期に結論を得て実行に移すべきである。
また、規制の見直し基準の策定を早期に開始し、RIA(規制影響分析)の本格導入に向けた検討を進めるべきである。

2.国民のニーズに基づく規制改革・民間開放要望の実現と広報の充実

(1) 集中受付月間における要望の実現率向上

昨年度から開始された全国規模の規制改革に関する集中受付月間の仕組みは、本年度から規制改革・民間開放推進本部固有の業務とされた。去る6月の集中受付月間に対して計487項目もの全国規模の規制改革・民間開放要望が寄せられたが、最終的に政府決定に至ったのはわずか29項目であった。昨年同月の集中受付月間では、全417項目中、67項目が政府決定されており、要望内容の重複等を考慮しても実現率が低いと言わざるを得ない。
新たな推進体制においても集中受付月間が制度化され、提出された全ての要望について、各省庁との折衝結果がHP上で公開されるという透明性の高い対応がなされていること自体は評価できる。今後はより多くの要望が実現されるよう、要望元の意見を十分踏まえつつ各省との折衝にあたると共に、規制改革・民間開放推進本部における政治のリーダーシップの積極的な発揮を期待する。
なお、継続して要望が出されているものの実現に至らず積み残しとなっている全国規模の規制改革要望については、構造改革特区推進本部との密接な連携により、少なくとも特区での実現を目指すなど、国民のニーズに応える対応方策を探るべきである。

(2) 広報の充実・強化による国民の幅広い支持獲得を

規制改革・民間開放を一層推進するためには、経済効果や国民の利便性の向上などのメリットや、誰がいかなる理由で反対しているのか等について、国民に十分説明して理解を得ていくことが不可欠である。しかし、成果の定量的な評価は難しく、また、個別の規制改革・民間開放事項の内容は複雑かつ多岐に渡ること等から、国民全般の規制改革に対する理解が十分進んでいるとは言い難い。
政府は従来よりHP、パンフレット等を活用して規制改革・民間開放の広報に努めているが、更なる取り組みとして、例えば、「規制改革・民間開放白書」を作成し、成果の定量的な分析や過去数年間の規制改革・民間開放の分野毎の進捗状況をまとめる等、分かり易い情報提供が必要である。

おわりに

規制改革・民間開放を推進するための最大の原動力は、日々、ビジネスの現場において規制の壁に直面している民間事業者の規制改革に対するニーズであり、官の独占分野にビジネスチャンスを見出し、より良い公共サービスを提供していこうという意欲である。
以下に掲げる個別の規制改革要望は、今年度、会員各社から寄せられた実需に基づく提案を取りまとめたものである。これらの実現は、民間主導の需要拡大と日本経済の活性化につながることから、政府は真摯な対応を図るべきである。日本経団連としては、これらの要望の実現に向けて最大限取り組んでいくこととする。
また、市場化テストが民間開放推進の新たな手法としてわが国に定着するよう、制度設計や民間事業者からの提案募集等、様々な面で、日本経団連として積極的に協力していくこととする。

以上

各分野の個別要望

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