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「知的財産推進計画2006」の策定に向けて

2006年3月22日
(社)日本経済団体連合会

I 基本的な考え方

これまで知的財産戦略本部において策定された知的財産推進計画に基づき、様々な改革がスピード感をもって行われており、政府・与党ほか関係者の取組みを高く評価するところである。

今後の政策の方向性としては、様々な政策が進展してきている分野にあっては、整備された新たな環境下において、産業界等におけるイノベーションの実現を促進していくことが重要である。

そのためには、中長期的な視点に立って、制度の安定的な運用・活用を行い、その経験や結果を次の見直しにフィードバックしていくことがより重要になっていくと思われる。制度の運用・活用の評価に活動の重点を移していくことが期待される。

また、保護中心から活用の促進に向けた法的環境の整備や活用と権利保護の調整といった保護と利用のバランスの確保や活用へ、国内問題から国際間における特許権の調査結果・審査結果の相互利用や海外の知的財産権侵害に対する対策強化といった国際問題へと重点を移していく必要もある。さらには、世界をリードする知的財産立国の実現に向けた新しい課題に取組むにあたって、予期せぬ弊害を生まないよう、実態の把握を含めて、十分な検討が必要と考える。

一方、2006年度に集中改革期間の最終年度を迎えるコンテンツ・ビジネスについては、2006年度にコンテンツ・ビジネスの基盤整備を完成させ、2007年度からはコンテンツ・ビジネスの飛躍的拡大に向けた攻めの改革をさらに推進すべきである。

わが国のコンテンツ・ビジネスは、急速なデジタル化の進展、中国・韓国等アジア諸国の追い上げによる国際競争の激化、流通市場における模造品・模倣品や中古品問題等急激な市場環境の変化の中で対応を迫られており、決して順調な成長過程にはない。そうした中、デジタル化、ユビキタス化、グローバル化といった環境変化に柔軟に対応しつつ、ユーザーの利便性を確保し多様なニーズに応えることと、クリエイターおよびコンテンツ制作に係る事業者の権利を保護し創造を促進することのバランスをとりながら、ハードの業界とも連携して新たなビジネスモデルを構築し、ジャパン・コンテンツの国内外での利活用をさらに円滑化・拡大すべく、今こそ官民一体となった取組みが必要である。

そのために、コンテンツ関連業界を横断する組織として設立された映像産業振興機構を有効に活用し、産学官一体となった取組みを推進すべきである。その際、政府は映像産業振興機構が行う事業を積極的に支援するとともに、民間としても同機構の運営に協力することが必要である。また、コンテンツ産業は他産業への波及効果も大きく、コンテンツ産業振興政策は、観光振興、文化外交、地域活性化等の政策とも大きく関係する。政府は、関連する諸政策との連携を強化し、シナジーを発揮させるべきである。同時に、日本貿易振興機構(JETRO)、在外公館、国際交流基金等の機関の連携をより一層強化するとともに、コンテンツに係る事業をより一層推進すべきである。

以上をうけ、改革の進捗をふまえつつ、これまでの施策が国際競争力の強化にどれだけ貢献したかについての評価を行うとともに、知的財産推進計画も、中長期的視点をふまえて全体のバランスを確保しつつ重点化を図るべきである。

II 特に推進すべき課題

1.知的財産の活用

(1) ユビキタス時代におけるコンテンツの流通促進のための基盤整備

  1. コンテンツ・ポータルサイトの整備【発展】
    「知的財産推進計画2005」に基づき、わが国の優れたコンテンツを発掘しコンテンツの国内外での2次・3次利用を促進することを目的に、コンテンツの内容や権利者に係る情報等をコンテンツを2次利用したい人々が迅速・的確に入手できるための情報検索サイトであるコンテンツ・ポータルサイトの検討が民間を中心に進められている。
    同サイトは、国内外におけるジャパン・コンテンツの2次・3次利用を促進するための基本的な情報インフラとなるだけでなく、個人のクリエイターや中小企業の作品の流通の円滑化のみならず、ジャパンブランドの海外発信にも資するものである。政府は、同サイトの構築および運営について支援するとともに、中小企業のコンテンツの掲載や海外発信のための複数言語化を支援する等、民間の取組みを補完する形で官民一体となった取組みを推進すべきである。加えて、アジアにおける相互理解促進およびアジアコンテンツ流通の拡大に向け、同サイトを核とした「アジアコンテンツ情報ネットワーク」(仮称)の構築に向けた検討を進めるべきである。

  2. 新たなビジネスモデルの構築に向けたソフト・ハード等業界の連携による環境整備【発展】
    ユビキタス化やコンテンツのデジタル化の推進は、より効率的・効果的なビジネスモデルを可能にする一方で、コンテンツの流通・配信段階でのセキュリティ上の課題や課金のシステム等に関する課題、規格の標準化や著作権法に係る課題等を発生させる。また、エンターテインメント・コンテンツ産業の発展のためには、コンテンツの充実とハードの技術進歩が相互に協調していく必要があり、日本経団連においても、業界横断的なソフト・ハード・キャリア等のコンテンツ・ビジネス関係者トップからなる「エンターテインメント・コンテンツ関係者連携に関する懇談会」を設け、関係者の相互理解を深め課題を整理するとともに、ビジネスの将来像を探っている。
    こうした課題を解決し日本発のビジネスモデルを構築するためには、高度なセキュリティシステムの開発、新たな課金システムの整備、自主ルールの策定、場合によっては法的な整備等も考えられるところであり、政府はこうしたソフト・ハードを含む幅広い関係者の連携の一層の強化を奨励するとともに、課題解決に向け必要な支援をすべきである。

  3. 映像コンテンツのブロードバンド配信の円滑化に向けた環境整備【発展】
    2005年3月に、利用者団体協議会および権利者団体との間で、放送局制作のテレビドラマ番組をストリーム配信する場合をモデルとした料額について暫定的に合意がなされたところである。この合意を契機として、ユビキタス時代におけるコンテンツ流通を円滑にすべく、利用者および権利者は、様々な映像コンテンツのブロードバンド配信に係る合意形成に向けた取組みをより一層推進すべきであり、政府はそうした取組みを奨励・支援すべきである。

  4. ユーザーによるコンテンツの健全な利活用の促進【発展】
    ファイル交換(P2P)ソフトを利用した著作物の違法交換やインターネット・オークション等を通じた模倣品・海賊版の取引により権利者が多大な損害を被っている。コンテンツ・ビジネスを育成しわが国経済社会の健全な発展に資するためには、違法なコンテンツを排除し適法なコンテンツを流通させるとともに、ユーザーに対する著作権についての啓蒙を強化することを通じて、コンテンツの違法な利用を防止し秩序ある利活用を促進すべきである。

  5. 著作権等管理事業制度のより一層の活用【新規】
    著作権等管理事業者による著作権等の集中管理は、権利処理の円滑化につながりコンテンツの2次・3次利用の促進に資するものである。今後コンテンツの配信形態が多様化することが予想される中、映像実演やレコード等業界における著作権等管理事業制度の活用を政府は支援すべきである。

  6. 弾力的な価格設定等、事業者による柔軟なビジネス展開の奨励【新規】
    レコ−ド業界は2001年3月に公正取引委員会が「著作物再販制度の当面存置」を決定する以前から、消費者利益の向上が図られるよう可能な限り再販制度の弾力的運用に努めてきた。今後も、ユーザーに豊かなコンテンツを提供していくために、再販制度の下での弾力的運用に努める。
    2005年度に引続き、消費者利益の向上を図る観点から、事業者による書籍・雑誌・音楽用CD等における非再販品の発行流通の拡大及び価格設定の多様化に向けた取組みを政府は奨励すべきである。

(2) 活用促進に向けた法的環境の整備

  1. ライセンス契約の保護【発展】
    ライセンス契約については、米国と同様、ライセンサーの倒産時や知的財産権の譲渡時においても、包括的クロスライセンス契約を含めて、通常実施権の確保等ライセンシーの立場に影響が出ないようにすべきである。
    ライセンス契約の保護の具体的な制度のあり方については、例えば破産時においては、特許発明の実施または実施の準備をしているにもかかわらず、管財人より契約の解除があった場合等について、法定実施権を確保すべきとの提案もなされている。法整備のあり方について早急に検討を行うべきである。

  2. 知的財産のグループ管理【継続】
    特許権においては,信託業法の改正により、グループ企業内信託のルールが明らかにされたことから、一括ライセンス等グループの知的財産権の管理にあたって、信託を活用すべく検討を進めている例も生じている。受託者が特許管理会社の場合自ら特許を実施していないため損害賠償の額が一部に留まる、受託者が親会社の場合受託した特許を自ら実施できないといった弊害も指摘されている。新しい信託業法を活用した、知的財産権のグループ管理を現実のものとしていくために、課題の解決を図るべきである。

  3. 著作権に係る国民的議論の推進【新規】
    著作権は、権利の保護を図りつつ文化の発展に寄与するだけでなく、適切な利活用を通じてわが国経済の発展に貢献する役割を担っている。また、近年のデジタル化、ネットワーク化の進展に伴い、現行の著作権法では想定されていないようなコンテンツの利活用の形態も生まれている。コンテンツ促進法(コンテンツの創造、保護及び活用に関する法律)の目的もふまえ、権利者の保護とユーザーの利便性のバランスに配慮しながら、ユビキタス時代におけるコンテンツ・ビジネスの健全な発展に向けた、また、諸外国のモデルとなり得るような新たな著作権法体系の構築に向けて国民的議論を推進すべきである。

  4. 著作権の利用に関する権利の法律上の位置付け【継続】
    特許権においては、専用実施権や通常実施権等の権利の実施権について、登録を効力発生要件ないし対抗要件とする等、法律上明確な位置付けがなされている。一方、著作権においては、著作物の利用に関する一般的な権利が法律上規定されていない。今後、著作権ビジネスを発展させていく上では、法的に明確な位置付けがなされた「著作物利用権」を整備していくことが必要である。

  5. デジタル時代に対応した「私的使用」の範囲の明確化【発展】
    映像情報のデジタル化が進む中、IP網を利用したリモートコントロール録画サービス等が登場する一方で、衛星・地上デジタル放送では録画からの複製を技術的に制限する等、個人の私的使用が本来的にどこまで認められるべきかを問われる状況が現れている。政府は、コンテンツに認められるべき「私的使用」の範囲を明らかにすべく、国際条約との整合性もふまえつつ、権利者、利用者その他利害関係者による根本的な議論を促進すべきである。
    また、私的録音録画補償金制度についても、知的財産推進計画2005や文化審議会著作権分科会報告書をふまえ、私的録音録画に関する法的枠組みを抜本的に見直し、具体的結論を得るべきである。

  6. IPマルチキャストによる放送の同時再送信に関する著作権法上の位置付けの明確化【新規】
    IPマルチキャストを利用した役務利用放送は、著作権法上の位置付けが不明確なため権利者からの同意を得にくく、地上波放送の同時再送信が事実上できない状況にある。他方、区域外への同時再送信が認められるならば地方系列局やCATVの運営に大きな影響を与える可能性もある。
    総務省における地上波デジタル普及政策に関する検討において、地上デジタル放送の同時再送信としてIPマルチキャストの活用が指摘されたことから、今後、IPマルチキャストの本格的活用が予想される。そうした中、情報通信審議会および文化審議会著作権分科会の審議や国際的な動向等をふまえ、政府は幅広い関係者の参加のもとIPマルチキャストによる放送の同時再送信に関する著作権法上の扱いについて早期に明確化すべきである。

  7. コンテンツに関するあっせん・裁定制度の改善【発展】
    コンテンツ契約の内容について合意に至らなかった場合について、裁判手続によらず当事者間の紛争を簡易に解決する手段として、政府は、あっせん制度(著作権法第105条)の改善に取組むべきである。
    また、著作権者不明のコンテンツの利用に関する裁定制度(著作権法第67条)については、利用者が行う調査方法の明確化や調査にかかる事務的または経済的負担を目的として手続きの見直しが行われたところであるが、制度の利用状況や国際条約との関係等もふまえ、権利者の適切な保護を確保しつつコンテンツの円滑な流通に資するよう、さらなる改善に向けた検討を進めるべきである。

  8. ソフトウェアに関する日本版バイ・ドール制度の導入【継続】
    政府向けコンテンツについては、受託者または請負者にその成果物に関する知的財産権を帰属できるよう法改正がなされているが、政府向けソフトウェアの開発事業についても知的財産権の帰属を受託者または請負者にすることができるようにすべきである。

  9. 法定賠償制度等の検討【新規】
    インターネットを利用した著作権等の侵害事例においては、侵害回数ないし具体的損害額の立証が非常に困難であるため、法定賠償制度の創設が有効であるとの考えもある。法定賠償制度の創設等を含めて、著作権侵害に係る損害賠償請求や不当利得返還請求等の役割・機能等に関して総合的に検討を行い、結論を得るべきである。

(3) 活用と権利保護の調整

  1. 国際標準化の推進と知的財産政策の調和【発展】
    ISO、IEC、ITU−Tの3つの国際標準化機関の協議の場であるWSC(World Standards Cooperation)において、パテントポリシーの統一化について検討が進んでいること、特に、わが国主導のもとで検討が進んでいることを高く評価する。関係者のさらなる努力により統一パテントポリシーが実現することを期待したい。
    あわせて、全体としてのRAND(妥当かつ非差別的:Reasonable And Non-Discriminatory)条件の設定や非差別の概念の明確化等、RAND条件の明確化を図る必要がある。
    また、多数権利者が存在する技術を標準化する場合には、標準と知的財産権の調整のため、規格/勧告案がほぼ固まった段階で、メンバーの合意により技術専門家と特許専門家からなる専門家グループを設置するとともに、国際標準化機関において、こうした専門家グループの活動を支援すべきである。関係者間で合意された場合には、この専門家グループが、国際標準化機関の外において、パテントプール等ライセンス交渉を目的とした新たな枠組みの創設について取組みを行うことも考えられる。

  2. 国際標準分野における人材の確保【新規】
    国際標準化機関への参加に関しては、企業も一定の役割を果たしているが、国際標準化機関における役割が増すにつれて、一企業のための活動から業界全体のための活動、さらには日本全体のための活動に範囲が広がっていく。特に、日本全体のための活動に取組む場合は、政府としての積極的な支援が必要である。また、政府としても、こうした企業実務経験者を、国際標準化機関における日本の代表や後進の指導者として、積極的に活用していく必要がある。
    また、国際標準化機関には、公的研究機関や大学の研究者が参加する場合が少なくないが、公的な組織として、国際標準化活動への取組みを積極的に評価するとともに、政府も支援を行っていくべきである。
    さらには、理工系大学における標準化教育の強化も必要である。

  3. リサーチツール特許の活用【発展】
    バイオテクノロジー分野では、代替性のないリサーチツールに関する特許が試験・研究の実施を妨げるおそれが指摘されている。
    裁定実施権の活用の是非も含めて、研究における特許の使用の円滑化に関する諸問題について、今後さらなる検討が必要である。

  4. オープンスタンダードの構築・普及と知的財産権の権利行使の調整【継続】
    高度にネットワーク化された社会においては、情報システム同士の組み合わせ効率を高めていく過程においてシステム間の相互依存が高まり、その結果、一つの共通プラットフォームが採用されていくようになる傾向が強い。このようなプラットフォーム上に、世の中で最も優れた技術を迅速に構築し技術革新を強く進めていくためには、プラットフォームがオープンスタンダードを採用するものであること、すなわち、インターフェイス、プロトコル、データやファイルのフォーマット等が開かれた参画プロセスのもとで合意され公開されていることが不可欠である。一方、知的財産権の権利行使によって、オープンスタンダードの構築・普及が阻害されるおそれも存在する。これらオープンスタンダードと知的財産権の関係について、課題の検討を行い、その対策を探っていくべきである。

  5. 権利制限の新設【新規】
    著作権分科会の報告において、出願人への送付を目的とした審査官による非特許文献の複製、特許庁への非特許文献の提出の際の複製等特許審査手続きの実施に伴う複製、また、医薬の承認の際に国に提出すべき研究論文等薬事行政の実施に伴う複製等について、権利制限の規定を設けるのが適当との方向が打ち出されている。法改正の準備を進めるとともに、できるだけ早い段階で、国会に法案を提出すべきである。

(4) アーカイブの整備

  1. 流通促進・文化保全のためのアーカイブの整備【発展】
    映画、放送番組、アニメ、ゲーム、音楽、音声、映画スチール写真等のコンテンツについては、文化資産として価値のあるものが多いにもかかわらず、十分な保全が行われておらず、散逸するに任せている状態にあることも多い。政府は、文化資産として価値のあるコンテンツのデジタルアーカイブ化を積極的に支援するとともに、とりわけ、保存すべきコンテンツの修復・リマスターについては、国の直接的支援のもとに早急にデジタルアーカイブ化を推進すべきである。併せて、東京国立近代美術館フィルムセンターや財団法人放送番組センターの機能を拡充するとともに関連する活動を支援すべきである。

  2. 制作支援のためのアーカイブ整備【継続】
    コンテンツの制作に係る美術や道具、背景画等は、企業・業界横断的に利用できるものも多いが、その保存はスタジオや撮影所ごとにばらばらになされていることが多く、保存コストや美術制作に関するコストが制作費全体を圧迫している。これらの散逸を防ぐとともに、データベースに集約化してアーカイブとして整備し、コンテンツ・ポータルサイトの将来的な活用も含め、作品の制作者が利用しやすくすることについて、国は支援すべきである。

(5) その他

  1. ユニバーサルデザイン化への対応【継続】
    ユニバーサルデザインによる映像の提供は、視覚・聴覚障害者や高齢者等の映像鑑賞人口を拡大し、映像をきっかけとした相互理解の促進にもつながるものであり、映像提供のユニバーサルデザイン化を政府は支援すべきである。

  2. ゲームのレーティング制度の啓蒙普及およびゲームが青少年の心身発達に与える影響の調査【新規】
    ゲームについては、青少年の心身発達に与える影響について様々な研究・議論が行われているが、いまだ実証には至っていない。そうした中、コンピュータエンターテインメントレーティング機構(CERO)により、ゲームソフトの表現内容により対象年齢等を表示する年齢別レーティング制度が実施されているところであり、政府はこうした民間の取組みを支援するとともに、ユーザーへの周知および、青少年の心身発達に与える影響についての調査を進めるべきである。

2.知的財産の創造

(1) 研究開発活動の促進

  1. 産学連携における実態をふまえた柔軟な対応【継続】
    産学連携については、共同研究の数が最近5年間において、2000年度の4,029件から2004年度には9,378件と約2.3倍に増加する等、結びつきが強まりつつあると考える。こうした中、共有特許を企業が自己の事業に活用した場合のいわゆる不実施補償の是非を巡って、産学で意見の違いが見られるところである。しかし、産学連携は、技術の内容、連携の形等により、様々なバリエーションが存在し、一律に契約の内容を決めるのは望ましいことではない。連携の実態に応じて、産学双方にとって柔軟な契約の実現を目指す必要があり、そのため、産学双方によるさらなるコミュニケーションの推進が必要である。
    また、知的財産と研究開発、さらには人材育成と一体となった取組みも大変重要である。

  2. 職務発明に関する継続的な検討【継続】
    職務発明制度については、当面は、企業という様々な人々が集まる組織の一員として、研究者が力を発揮できるような仕組みを作り上げていくことが期待されるところである。
    今後は、企業の運用状況や職務発明をめぐる訴訟の状況も見極めながら、職務発明制度や手続事例集のあり方について不断に検討を進め、産業競争力の強化という目的に照らして制度の評価、見直しを行っていくべきである。
    なお、司法においては、改正法の趣旨に鑑み、企業の研究者と経営者が十分な話し合いを行い、その結果として契約が成立している場合には、その契約の内容を尊重するとともに、併せて既存案件についても、改正法の趣旨を十分に参考とされることを期待したい。

  3. 技術力を持った中小・ベンチャー企業の育成【継続】
    技術力を持った中小・ベンチャー企業の創出は、わが国全体としての技術の裾野を広げていくために、大変重要な課題である。知的財産政策の観点からも、技術力を持った中小・ベンチャー企業への支援を進めるべきである。

(2) コンテンツの制作環境の整備

  1. 映像産業集積クラスターの整備【新規】
    映像産業振興を効率的に進めるためには、日本に米国ハリウッドのような映像産業の集積地を構築することが望まれている。具体的には、(1)映像コンテンツ産業に必要な人材(クリエイター、プロデューサー等)を育成するための大学・大学院、専門学校等の教育機関、(2)映像コンテンツ作品の企画・制作・流通に係る事業者、職能者、(3)映像コンテンツ関係で起業を行う者のためのインキュベーター、(4)映像産業に必要な法律、会計、経営等の専門職種等が特定地域に密集することにより、産学連携をはじめとするそれぞれの主体の相互協力関係が高まり、コンテンツ産業振興の一大推進力となり得る。また、こうした高密度な映像産業の集積は、高付加価値の都市型産業として良質な雇用と他産業への大きな波及効果を有し、地域経済を飛躍的に活性化させるものともなる。
    政府および地方自治体は、映像産業クラスターの整備をコンテンツ産業振興政策の重要な課題として位置付け、産学官一体となった取組みを推進すべきである。

  2. 地域映像制作環境の整備【継続】
    ロケーション撮影には規制が多く、撮影許可の申請も煩雑で、企画・撮影の障害になっている。政府、地方公共団体は、撮影許可のあり方を見直し、各地のフィルム・コミッションに撮影許可申請の窓口を一元化する等の措置を講じるべきである。また、フィルム・コミッションの機能充実を促すため、運営補助策を検討すべきである。
    また、フィルム・コミッションのスタッフとして十分な知識を備えた地域の映像人材を育てることは、地域における映像作品の制作を増やし、地域の活性化にもつながる。政府は映像産業振興機構が行う専門教材開発・セミナー開催等の「地域映像人材育成事業」を支援すべきである。

(3) コンテンツ制作に係る金融・税制措置の整備

  1. 資金調達の多様化に向けた環境整備【新規】
    優れたコンテンツ作品の制作に要する資金調達を円滑化するため、政策金融機関によるコンテンツ制作者等への出融資を拡充するとともに、多様な手段による資金調達が可能となるように民間の金融・資本市場の整備を進めるべきである。
    その一環として、今国会に上程されている信託法ならびに信託業法の改正を確実に実現するとともに、金融取引法(仮称)が過剰な規制とならないよう留意すべきである。
    投資事業有限責任組合制度や有限責任事業組合(LLP)制度の普及に努めるとともに、利用状況を見つつ、必要に応じて制度を改善すべきである。

  2. コンテンツ制作支援税制の創設【新規】
    デジタル化時代に適応したコンテンツの制作・流通を進めるためには、多額の設備投資が必要であり、資金調達力に限界があるコンテンツ業界にとって税額控除制度・特別償却制度等の税制上の支援措置が不可欠である。また、ゲームソフト等のコンテンツ制作が研究開発促進税制の対象となることを周知させ、その活用を促すことが必要である。

(4) コンテンツ産業の近代化支援

  1. コンテンツ統計の整備【発展】
    エンターテインメント・コンテンツ産業の実態を示すデータを整備し、他の産業や諸外国との比較を通じて、エンターテインメント・コンテンツ産業の国際競争力を的確に把握することが、日本のコンテンツが高い競争力を維持するための戦略を立案する上で不可欠である。また、欧米では、個々の作品の実データ(興行・販売実績等)等詳細なデータを業界が公表し、それを研究機関や事業者等が相互に研究することによって、市場のメカニズムやコンテンツのヒット要因等を研究している。
    政府はこうしたコンテンツに係る統計を早急に整備するとともに、映像産業振興機構はじめ民間機関におけるこうしたデータ整備に関する取組みを支援すべきである。
    また、データ取得に関し、映画館を活用したPOSシステムの導入実験の結果をふまえ、政府はシステム構築のためのインフラ整備を支援すべきである。

  2. 業界調査の推進・消費者ニーズの把握【継続】
    コンテンツ産業の実態を把握し、コンテンツ産業の近代化に資するべく、映像産業従事者の雇用形態や所得、クリエイターの就業形態に関する調査、さらには映像視聴者に対するサービスに関する調査について、政府は支援すべきである。
    とりわけ政府は、映像産業振興機構が行う映像産業振興策の調査・立案事業をより一層支援し、映像業界の横断的・継続的連携を促進すべきである。

  3. コンテンツに関する技術開発の推進【新規】
    コンテンツ産業の近代化・国際競争力強化に向け、大学、研究機関、企業等におけるCGをはじめとする先端の映像技術やインタラクティブ技術等の研究開発を政府は支援すべきである。

3.知的財産権の保護

  1. 医療関連行為の特許保護強化【発展】
    医療関連行為の特許保護に関しては、医薬の製造・販売のために医薬の新しい効能・効果を発現させる方法について物質の特許として保護することとなった。しかしながら、物質の特許による保護には一定の限界が存在するため、方法の特許による保護を認めていくべきである。また、先端医療行為に対する特許保護についても、早急に検討を行うべきである。

  2. 劇場上映作品の海賊版対策の強化【新規】
    例えば、映画については、上映中に盗み撮りされた作品がP2Pによりオンライン上で交換されたり、繁華街の路上でそれらの作品がDVDで販売される等、深刻な被害が生じている。劇場内で上映中の映画作品を盗み撮りすることは、著作権法上は、私的利用目的であれば盗み撮り行為自体は著作権侵害に当たらない可能性がある。
    こうした問題の解決に向けて、実効ある取締りに向け、法的な措置も含めた検討が望まれる。併せて、著作権法第30条における「私的使用」の範囲が明確にされることも必要である。

  3. ゲームソフトの中古品流通のあり方の見直し【発展】
    昨今のゲームソフトは長期にわたる開発期間と多額の資金をかけて制作されているが、中古業者により中古ゲームソフトが広範に取扱われていることから、それが発売後間もない新品の市場や、一定期間経過後に発売される廉価版の市場に影響を及ぼし、ひいてはゲームメーカーの経営基盤を圧迫するに至っている。中古流通問題の解決には、消費者の利益に配慮しつつ、中古ソフトの販売によって得られた利益について開発者に還元される仕組みが必要であり、政府は、そのための仕組みの構築に向けてゲームメーカーと流通事業者による協議を支援し、有効な解決策を見出すよう奨励すべきである。

  4. 技術的保護手段等の回避行為に関する検討【継続】
    「知的財産推進計画2005」をふまえ、技術的保護手段の有用性を担保する観点から、接続管理(アクセスコントロール)回避行為への刑事罰の導入について構成要件の明確化も含め検討を行うべきである。

  5. 刑事罰の強化【新規】
    知的財産権の侵害に関して抑止的な効果を考える上で、刑事罰の強化は意義があるが、審議会の報告とは違った形での結果になったことについて、審議会の場で十分説明を行う必要がある。なお、知的財産権は無体物であるためにその権利範囲については争いがあるのが常であるから、刑事罰の適用に際しては、慎重な運用を維持すべきと考える。

4.知的財産分野における国際問題への対応強化と国際展開の推進

(1) 国際問題への対応強化

  1. 世界特許の構築に向けた取組みの強化【発展】
    特許制度は、国ごとに整備されてきた経緯から、現在でも属地主義が大原則とされているが、一方で特許制度の活用は、グローバルに行われている。審査請求の増大に対処する意味でも、日米欧を中心に、審査協力、相互承認という段階を踏んで世界特許システムへの動きを加速すべきである。
    他国で特許となった出願についての審査結果を提出することにより、わが国において簡易な手続きで早期審査が得られるようにするとともに、わが国の審査結果を、他国に提出した場合に早期審査の対象とする構想を着実に進めるべきである。このため、各国の審査クオリティの統一を推進するとともに、審査結果が提出された場合の扱いについての統一的なガイドラインを早急に策定し、審査の効率化を実現すべきである。
    また、日米欧3極ユーザー会合における取組みをふまえて、第一段階として日米欧の特許出願明細書の様式統一を早急に行うとともに、我が国が主導して日米欧の電子出願システムの統一を進めるべきである。

  2. 海外出願のための環境整備【発展】
    海外において特許にかかる費用が膨大であり、そのことが海外出願を阻害する大きな要因となっている。企業におけるコスト負担を減らす観点から、特許庁において、わが国の先端技術開発の成果を積極的に活用して、機械翻訳に関する環境整備を早急に進めるとともに、その公開を行うべきである。

  3. アジア地域の知的財産権制度の充実へ向けたリーダーシップの発揮【継続】
    アジア地域では、中・長期的な各国の技術的発展により、今後、知的財産権の適正な保護が一層重要となってくる。将来、わが国産業にとって最も重要となるアジア地域の知的財産権制度・運用の充実のために、わが国が積極的にリーダーシップを発揮し貢献をしていくことが求められる。
    具体的には、アジアにおける先行技術調査結果・特許審査結果の相互利用、さらには審査の統一を目標にリーダーシップを発揮するべきである。
    また、制度・運用の充実には各国の知的財産人材の育成が欠かせない。現在実施しているわが国専門家の派遣や各国からの研修生の受け入れを通じた人材育成を一層進めるべきである。

  4. 知的財産権侵害物品の水際取締り【発展】
    侵害か否かの判断が難しい特許権侵害品等の輸出取締りに関して、侵害のおそれが誤って判断され、結果として侵害でなくとも、輸出が一時的に止まって、信用の失墜等輸出企業に打撃を与えるおそれがある。十分な濫用防止措置を講ずるべきである。

  5. 海外における模倣品・海賊版対策の一層の推進【発展】
    模倣品・海賊版対策については、実際に政策措置の効果が現れているという指摘がなされている。侵害発生国や地域の対策や水際での取締りの強化等、継続的な対策の実行が期待されるところである。
    コンテンツについては、政府およびコンテンツ海外流通促進機構、不正商品対策協議会、コンピュータソフトウェア著作権協会等の取組みにより徐々に成果が出つつある。とりわけコンテンツ・ジャパンマーク事業については、アジアを中心に着実に実績が上がってきており、政府は同事業の運営を引続き支援するとともに、関係企業の参加を奨励すべきである。また、2005年のG8サミットにおいてわが国から提案がなされた「模倣品・海賊版拡散防止条約」(仮称)の実現に向けた取組みを推進すべきである。
    中国等音楽レコード等の発行に行政機関の許可を要する国においては、審査に必要な書類等の簡素化や申請から発行までの期間をできる限り短縮することが必要である。政府はこれら諸国に対し、審査の簡素化、迅速化を強く働きかけるべきである。

  6. 海外における先使用権制度の整備促進【新規】
    ノウハウとして保持したい技術を守るためには、人材の管理等マネージメントレベルでの対応が、まず大事である。制度的には、先使用権制度の活用が有効策の1つであるが、わが国だけの対応では効果は薄い。海外において先使用権制度の整備は必ずしも十分に進んでいないこともあるので、海外における先使用権制度の整備を働きかけるべきである。

(2) コンテンツの国際展開のための環境整備

  1. コンテンツに係るコンペティション、見本市の抜本的強化【発展】
    2005年度は、東京国際映画祭におけるコンテンツマーケット「TIFFCOM」の一環として国際共同制作マーケット「Tokyo Project Gathering」が開催される等、マーケット機能の強化が図られたところである。現在、ジャパン・コンテンツについては東京国際映画祭、東京国際アニメフェア、東京ゲームショウ等分野ごとに開催され、また2007年秋には、日中韓が中心となりアジア各国のアーティストが一同に会して行う表彰ライブイベント「アジアミュージックフェスティバル」の開催も検討されている。ジャパン・コンテンツの顕彰、海外発信、国際展開を強化するとともに、地域活性化・集客交流を推進する観点から、政府はこうしたイベントの機能強化を支援するとともに、関係業界は各イベントの連携・融合も含めた抜本的強化に向けた取組みを進めるべきである。

  2. 国際共同制作への支援【新規】
    日本映像国際振興協会(ユニジャパン)がフランス国立映画センター(CNC)との間で映画協力覚書を締結した。制作段階から海外の事業者と協同することは、現地でヒットするコンテンツを作るうえで有効な手段となるものであり、政府は、こうした国際共同制作に関する協定・覚書が他の諸外国とも締結されるよう奨励・支援するとともに、協定・覚書の内容が国内において円滑に実施されるよう必要な措置を講じる等、国際共同制作に係る支援を強化すべきである。

  3. 日本コンテンツの海外展開への支援【新規】
    コンテンツの輸出を目的とした海外のマーケットへの出展や字幕の作成は、とりわけ中小企業にとっては負担が大きく、ジャパン・コンテンツの国際展開の阻害要因の一つとなっている。また、国際展開に係る知識・ノウハウは必ずしも体系化されておらず、新規に海外展開を検討している事業者が必要な知識・ノウハウを得ることは非常に困難になっている。政府は、コンテンツの輸出を目的としたマーケット出展や字幕制作を支援するとともに、国際展開に係る知識・ノウハウの体系化・共有についての民間の取組みを奨励・支援すべきである。

  4. コンテンツ産業の国際的連携の強化【新規】
    中国、韓国をはじめとするアジア近隣諸国やアメリカ、フランス等の先進国との間でコンテンツ産業における戦略的アライアンスを進めることは、わが国のコンテンツ産業が国際的に飛躍するために不可欠な条件である。政府は、アジアコンテンツ産業セミナー等の官民一体となった取組みを進め、幅広く国際的連携の道を開くべきである。
    併せて、アジアにおけるコンテンツ産業の共同情報インフラの嚆矢として、現在検討が進められているコンテンツ・ポータルサイトを官民一体となって推進すべきである。

5.有効な特許審査

審査請求の中で特許査定となる比率、いわゆる特許率について、平均5割となっていることに対して、先行技術調査を十分に行っていないからであるとの指摘がある。先行技術調査を十分に行わないため、特許率が低い企業があるとすれば、しっかりした対応を行うことは必要である。しかしながら一方で、権利範囲をぎりぎりまで広くとって出願する場合、解釈の差によって、簡単には認められるとは限らず、特許率は低くなる傾向となる。製品化が遅い研究所の発明や、国際標準の決定が遅くなる規格関連発明のように、タイミングを遅らせた方が、事業に有利なものもある。
様々な企業がある中で、一律に、特許率で知財活動を評価することは適切ではない。企業は、自らの経営・事業戦略に沿って知的財産の創造・保護・活用に努めてきているが、政府としての目標の設定、個別企業の特許率の公表等により、企業に一定の行動を強いることは適切ではない。むしろ、企業の多様な知的財産活動を促進しつつ、あわせて、特許審査の効率化を図る方策を、官民が協力して探っていくべきである。

  1. 審査官のさらなる増員【発展】
    国際的に見て遜色の無いレベルまで、審査官やその役割の一部を担う人員の数を増員すべきである。そのための対策として、任期付審査官の拡大、審査官OBの臨時雇用、ポストドクターの活用、外部委託のさらなる活用を積極的に行うなど、あらゆる手段を講ずるべきである。

  2. 審査手続きの柔軟化【新規】
    審査に着手したら短期間で結論を出すとの審査迅速化への政府の取組みは引続き維持すべきである。一方、審査結果を必要とする時期は、技術の内容により様々であるため、事業予定が明確でなく、必ずしも早急には審査結果を必要としない将来的なものも含まれている。出願後3年以内に審査請求を行う現行制度の下で、企業の多様な知的財産活動を促進させ、かつ審査の滞貨を実質的に減じる観点から、審査の着手時期を延期しても良いとの出願人の要請を認め、適正な時期に権利成立を図れるよう審査手続きを柔軟にすることを検討すべきである。

  3. 審査レベルの均一化【新規】
    審査レベルの不均一さが出願増の誘因になることもあるので、特許が認められるレベルについて、分野毎にきめ細やかな審査の均一化を図るべきである。

6.コンテンツ人材の育成

(1) 求められる人材育成プログラムの支援

  1. ビジネス・プロデューサー育成プログラム、社会人再教育プログラム支援【継続】
    ライブ・エンターテインメントを含めたコンテンツ産業においては、法務、会計・税務、マーケティング等の分野で社外の教育機関等における人材育成のニーズが高い。こうした能力を備えた人材がビジネス・プロデューサーとして活躍することは業界の近代化、市場の発展に大きく寄与する。ビジネス・プロデューサーを育成するプログラムおよび社会人(現役プロデューサー)の再教育プログラムを整備した大学や映像産業振興機構等が行う事業について、政府はより一層支援すべきである。

  2. 最新の技術に精通したクリエイター育成支援【新規】
    デジタル・コンテンツのめまぐるしい技術の発展に対応すべく、最新の技術に精通したクリエイターの育成について政府は支援すべきである。

  3. パフォーマンス人材育成の強化【継続】
    現在、大学・大学院等の高等教育機関において、特にポピュラー音楽や演劇といった分野においては、体系的に知識や技術を習得するためのプログラムが不足している。国際レベルの人材を育成するためには、パフォーマンス技術を学問的に研究、体系化するプログラムや、実技を習得するプログラムを設けた大学等の設置につき政府は支援すべきである。

  4. 融合人材の育成【新規】
    コンテンツに係る人材の専門化・高度化やコンテンツのワンソース・マルチユース等が進む中、プロデューサーやクリエイター、技術者といった異なる職能や、映画、放送、アニメ、ゲーム、音楽といった異なるジャンル等、複数の領域に精通した人材は、複数の領域にまたがる課題や新たなビジネスモデル構築に向け重要な役割を果たし得る。政府はこうした融合人材の育成に向けた取組みを支援すべきである。
    同時に、大学の研究者が研究成果を発表し、産業界がその成果を活用してビジネスにつなげる等、大学・研究機関やクリエイター、民間企業等が情報共有できる場を設けるべきである。

  5. ゲートキーパー育成プログラム支援【継続】
    アメリカ等では、演劇・放送・映画業界から独立した批評家・評論家がエンターテインメント・コンテンツへのゲートキーパーとして、読者に対する高品質の視点を提供している。また、その批評の結果が、新人の発掘やオフブロードウェー作品をブロードウェー作品に押し上げたり、チケットの売上げを左右する等多大な力を有している。
    こうしたゲートキーパーを育てるため、映像産業振興機構等は、批評家・評論家の検定制度を検討するとともに、ゲートキーパーの育成・研鑽の機会を提供すべきである。こうした取組みに対し、政府は支援すべきである。
    また、ゲートキーパー育成の一環として、映像産業振興機構において行う「ベスト/ワーストコンテスト」「コンテンツ・オブ・ザ・イヤー」「人気劇場ランキング」といったイベントに対し、政府は支援を行うべきである。

  6. インターンシップ・プログラム支援【発展】
    コンテンツの制作現場等で学生の実習を行うことは、受入れ側、学生側双方にとって貴重な体験を得る機会となるが、その期間が学生の夏季休業期間を利用した短期的なものであるために、得られる効果も限定的なものとなっている。
    大学等の側がインターンシップによる体験を学習過程の中にきちんと組み込みつつ、政府の支援を拡充することにより、半年程度の長期の実習を可能とすべきである。また、映像産業振興機構等が行う事業を政府は支援するとともに、民間企業においても学生を積極的に受け入れることが期待される。

  7. 小・中・高校生に対するコンテンツ教育プログラム支援【発展】
    青少年の健全な成長と創造性豊かなクリエイターの育成に資するべく、初等・中等教育、高校における教育の中に映像、演劇、音楽の鑑賞や映像制作体験、体験ミュージカルといった体験型のプログラムの設置等を行った小学校・中学校・高校等について、政府は支援すべきである。
    また、コンテンツに限らず、国際競争力のある人材の育成に向け、英語や数学といった基礎学力の向上やインターネット・リテラシー教育に一層努めるべきである。

(2) 海外との交流

  1. 映像産業振興機構と海外映像産業振興機関との連携支援【継続】
    映像産業振興機構は、人材の交流、ロケーション場所の相互提供、各国の映像産業振興策の調査研究、さらには海外の事業者と日本の事業者との共同制作等を支援するため、海外の映像産業振興機関と連携を推進し、映像産業の振興を通じて、相互理解が促進されるようにすべきである。

  2. 海外映像教育機関への留学・講師招聘支援、海外からの日本の映像教育機関への留学支援【継続】
    映像人材の育成を行うにあたっては、諸外国の映像教育機関で実際に映像教育を経験することや、映像教育に従事している講師をわが国に招聘することがノウハウを蓄積する上での早道である。また、日本の映像教育機関に外国人学生を招き、日本のコンテンツへの理解を深めることは、日本の創造力への尊敬を得ることにつながる。海外への留学生や海外から来日する留学生への奨学金や講師招聘にかかる費用について、政府は支援すべきである。

(3) 教育基盤の整備

  1. 映像教育体系確立のための調査支援【継続】
    映像を学問として深化させるためには、制作現場の知恵・知識、技術等を整理、体系化し、理論化・整合化することが必要になる。また、教育の地域間格差を是正すべく、遠隔教育にも使用可能な教材の開発も必要である。制作現場にある暗黙知の理論化や諸外国における映像学の体系化等の映像教育体系の確立に向けた大学等の取組みに対し、政府は支援すべきである。

  2. 映像専門職大学院認証評価機関の設置【継続】
    専門職大学院制度を利用して、映像人材育成を目指す映像専門職大学院が設置されているが、これら大学院は5年ごとに、設置の目的に照らして教育課程、教員組織その他教育研究活動の状況について、認証評価機関の認証評価を受けることとなっている(学校教育法第69条の3第3項)が、現在のところ映像専門職大学院のための認証評価機関は存在していない。映像産業振興機構は学校教育法第69条の4に基づく認証評価機関となるべく、体制を2006年度中に整備すべきである。

  3. 海外映像教育用図書翻訳支援【継続】
    映像人材の育成を行うにあたっては、諸外国の映像教育機関で実際に使用している教育用図書(テキスト)等を翻訳することがノウハウを蓄積する上での早道である。海外映像教育用図書の翻訳について、政府は支援すべきである。

  4. 映像関連高等教育機関卒業生の映像関連産業就職支援【継続】
    映像高等教育機関が輩出した人材が、学んだ能力を社会で適切に生かすことができるよう、卒業生の映像関連産業への就職について、政府および映像産業振興機構は支援すべきである。

7.ライブ・エンターテインメントの振興

(1) 巨大ライブ・エンターテインメント集積地の創造

  1. 観光基本法によるライブ・エンターテインメント集積地の規定【発展】
    ライブ・エンターテインメントを産業として振興していくためには集積化が重要であり、関連の劇場・ホール・アリーナ・映画館等を軸に、コンベンションセンター、ホテル、レストラン、ショッピングセンター等の施設およびソフトが集積することにより、面としての集客力のアップ、消費拡大、雇用促進等の大きな経済波及効果が期待できる。
    「観光立国」日本が世界に誇れる観光拠点として、観光基本法において、ライブ・エンターテインメントを重要な集客資源と位置付けた上で、ライブ・エンターテインメントを集中的に体験できる集積地の構築を規定し、法制、税制、金融、税制等の関連施策を集中的に講じるべきである。

  2. カジノに係る法整備の検討【発展】
    ラスベガスに見られるように、カジノをはじめとするゲーミング・ビジネスをライブ・エンターテインメントと組み合わせることは、集客を地域の利益に結びつけるビジネスモデルとして有効であり、これにより大きな経済波及効果や雇用創出効果が期待できる。アジア諸国(マカオ、マレーシア、シンガポール、ドバイ等)においては、ラスベガス型のカジノを重要なコンテンツとする大規模な都市開発を進めており、このままでは、日本は後塵を拝することになりかねない。ライブ・エンターテインメント産業の活性化のみならず日本の観光産業の振興のためにも、特区制度の活用等も含め、その核となるカジノに係る法整備の検討を進めるべきである。

(2) ライブ・エンターテインメント産業振興策の一元的な推進

  1. ライブ・エンターテインメント産業振興法(仮称)の創設【新規】
    コンテンツ産業の発展のためには、そのシーズであるライブ・エンターテインメントの市場拡大が不可欠であり、ライブ・エンターテインメント産業の振興、活性化を図るために、業界全体として共通課題に対応していくとともに、政府、自治体の支援のもとに官民一体となった取組みを進める必要がある。そのために、ライブ・エンターテインメント産業振興法(仮称)を制定し、関係省庁・自治体が連携して施策を進める必要がある。

  2. 劇場集積のための法整備【新規】
    欧米諸国においては、舞台芸術振興のために劇場法が制定されており、それにより劇場の集積が維持されている。現在、劇場は興行場に区分されているが、劇場の公益性に鑑み、日本においても、一定の地域へのライブ・エンターテインメント施設の集積を誘導、促進するために「劇場法」を制定すべきである。

  3. ライブ・エンターテインメント集積特区の設定【発展】
    既存施設を含めた一定規模以上のライブ・エンターテインメント施設に係る固定資産税・都市計画税・事業所税を軽減するとともに、同時に野外でのイベントを行いやすくするため、野外会場や道路使用許可等の規制を緩和したライブ・エンターテインメント産業活性化のための集積を構造改革特区として設定すべきである。

  4. 法定容積率の上限引上げ【新規】
    ライブ・エンターテインメント施設の新設にあたっては、法定容積率の上限を引上げ、上乗せ分の権利を他者に譲渡することにより得られる利益を、建設費や運営・維持費に充当する等の仕組みづくりや、法整備が必要である。

  5. 租税条約実施特例法の改正【新規】
    租税条約において源泉地国免税とされている外国芸能法人についても、租税条約実施特例法により、いったん国内興行主が源泉徴収を行った上で後日、請求により還付することとされており(租税条約実施特例法第3条第2項、第3項)、事業者の収益を圧迫している。租税条約上の免税芸能法人に該当する場合は源泉徴収を免除するか、簡易な手続きで迅速に還付がなされるよう租税条約実施特例法を改正すべきである。

(3) ライブ・エンターテインメント産業の近代化支援

  1. 出演契約ガイドラインの周知徹底【発展】
    日本経団連ライブ・エンターテインメント分科会にて策定した「舞台出演契約ガイドライン」の周知徹底をはかるべきである。

  2. シアターカレンダーの定期刊行化の実現【発展】
    地域・観光情報を含めたライブ・エンターテインメントのシアターカレンダーの定期刊行化の実現に向け、政府は支援すべきである。

以上

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