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わが国を支えるエネルギー戦略の確立に向けて

〜エネルギー安全保障を中心に〜

2006年5月9日
(社)日本経済団体連合会

I.はじめに

エネルギー資源の95%以上を輸入に依存するわが国において、安定的な国民生活や経済社会の発展を維持するためには、国の確固たるエネルギー総合戦略の確立と推進が大前提となる。かかる観点から、日本経団連では、2003年3月に提言「エネルギー政策の着実な推進を求める」を取りまとめ、安定供給の確保、地球環境問題への対応、国民各層の理解促進の重要性を指摘したが、エネルギーを取り巻く国際的な情勢はその後も激しく変化している。

第一に、アジア諸国をはじめとする著しいエネルギー需要の増大、長期化する不安定な中東情勢、石油資源の枯渇懸念等を背景として、原油価格が70ドル/バレルを突破するなど高騰を続けている。中長期的に見ても、世界のエネルギー需要は2030年までに現在の1.6倍になると予想される一方、資源開発や流通インフラの形成規模とのバランスも不透明であり、エネルギー需給は今後も逼迫を続け、価格も高止まりを続ける可能性が高い。
第二に、中国などがエネルギー権益の確保に向けた積極的な動きを見せる一方、ロシアにおける国営企業によるエネルギー資源の管理強化等、各国の国益優先の動きが顕著となっており、エネルギー資源の政治性がより高まっている。
第三に、2005年2月に京都議定書が発効するなか、昨年のグレンイーグルスでのG8サミットの議論にみられるように、エネルギー問題と地球環境問題の一体的解決が強く求められている。

このように、二度のオイルショック後、安定的な動きを続けてきた世界のエネルギー需給は、中長期的に見て、大きな構造転換期にある。こうしたなか、米国、中国、ロシア、フランスなど主要国では、最近、国家戦略の最重要課題のひとつとしてエネルギー戦略を再構築し、トップ自らが先頭に立ちながら着実に推進している。
わが国においても、本年秋に予定されているエネルギー基本計画の改定に向けて、政府や与党において、新たな国家エネルギー戦略の構築が検討されている。
2003年に策定された現在のエネルギー基本計画では、エネルギーの安定供給と環境への配慮を十分に考慮した上で、市場原理を活用することを基本方針としている。しかし、固有のエネルギー資源をほとんど持たないわが国としては、国際的な需給逼迫の長期化を踏まえ、エネルギーの安定供給面の制約が国民経済、生活に深刻な影響を及ぼすような事態が生じることのないよう、今後のエネルギー戦略においては、エネルギー産業の自由化を通じて形成されてきた国内市場の効率性を機能させつつ、これまで以上にエネルギー安全保障を強化するという視点から具体的施策を計画、推進していくことが不可欠である。とりわけ、政・官・民が一体となって、供給面では長期的なエネルギー源の安定的な確保、需要面ではエネルギー利用効率の向上を目指すものでなければならない。

わが国のエネルギー安全保障が中長期的に担保されるための戦略について、以下に産業界の考え方を示すこととしたい。

II.エネルギー戦略の確立に向けた基本的な考え方

1.政治のリーダーシップによる戦略立案と遂行

エネルギー戦略は国家安全保障に直結する基幹的戦略である。外交、危機管理、研究開発等を含め多省庁にまたがる政策の総合的な立案・実施とともに、地方自治体との連携が重要な課題である。同時に、インフラ整備や研究開発に巨額の投資を伴い、また、人材育成等が不可欠であることから、30年程度の長期を見据えたものでなければならない。
その立案と遂行には、短期的な視点に捉われず、省庁の縦割り、国と地方の壁を打破するだけの、強い政治のリーダーシップが求められる。
現在、政府や与党において、長期を見据えた新たな国家エネルギー戦略が検討されていることは評価できる。その際、戦略の方向性を示す目的で設定される数値目標は、達成に向けた具体的な施策、スケジュール、投資計画に裏付けられた、実現可能なものでなければならない。
また、数値目標だけが一人歩きしないよう、計画の着実な遂行、評価、見直しのPDCAサイクルを継続的に循環する仕組みを構築すべきである。さらに、政策の実施が多省庁にまたがることから、実施にあたっては、関係省庁の横断的な連携と実施状況の一元的な評価のあり方についても検討する必要があろう。

2.官民の明確な役割分担の下での連携

今日のように主要各国が国を上げてエネルギー権益の獲得を目指す状況下では、わが国においても官民が明確な役割分担の下で連携し、戦略的にエネルギーの安定供給を確保しなければならない。今後は、エネルギー安全保障体制を強化する観点から、政府が積極的に主導すべき側面と、企業の主体的な活動に委ねるべき側面を、より明確に峻別しながら戦略を展開していく必要がある。
政府は、まず、外交、危機管理体制の構築、民間のみでは着手困難な資源開発プロジェクトのリスク補完、長期・大規模な基盤的研究開発、新技術の普及支援等に注力する必要がある。同時に、民間企業の国際競争力強化やグローバルな展開による諸外国との関係深化が、わが国のエネルギー安全保障につながることを十分に踏まえ、民間の活動を積極的に支援し、官民を合わせた総合力の強化を目指すべきである。
他方、民間企業は、資源開発の着実な遂行や実用技術の開発ならびにその普及、自主的な省エネへの取り組みを強化すべきである。

3.原子力政策の推進を中心とするエネルギーの最適な供給バランスの追求

世界的なエネルギー需給の逼迫の中で、わが国のエネルギー安全保障を確立していくためには、原子力、石油、天然ガス、石炭等のそれぞれの特性を踏まえたエネルギー源の多様化と供給源の多角化を図り、供給途絶リスクや価格変動リスクに柔軟に対応できるベストミックスを目指していくことが、今まで以上に求められる。
中でも、原子力は、資源供給途絶のリスクが小さく、また、発電段階でCOを発生しないため、地球温暖化防止の観点からも優れたエネルギー源である。原子燃料サイクルによりウラン資源の輸入依存を極めて低くすることが可能であり、さらに、燃料を一度炉に入れれば1年以上交換する必要がないことから、実質的な備蓄能力も備えている。
原子力がエネルギー安全保障上の基幹エネルギーであることを国策として明確に位置づけるとともに、原子力発電は民間の自助努力のみでは十分に推進し得ないことに鑑み、官民が一体となって、原子燃料サイクルを含めた原子力活用の着実な推進を図りつつ、最適なエネルギー供給バランスを追求すべきである。
また、わが国が原子力の平和利用に徹し、高い透明性を維持していることは、国際原子力機関からも認知されており、非核兵器国の中で、唯一、原子燃料サイクル施設の保有が認められている。今後、発展途上国などを中心に、原子力発電への参入が相次ぐことが予想されており、わが国としては、世界の範となる核不拡散体制を維持・向上させていく務めがある。

III.今後のエネルギー戦略のあり方

1.戦略的な資源・エネルギー外交、施策の展開

エネルギー資源の政治商品化が進む中で、近年、中国やインドなどが資源保有国との二国間交渉を基本戦略に据えた権益獲得を積極的に進めている。一方、わが国では、資源保有国との緊密な経済関係の構築や競合する資源消費国との協調が必ずしも十分ではない。また、石油公団が廃止された後、中核となるエネルギー資源開発企業は育成されておらず、自主資源開発を支援する体制が十分に整っているとは言い難い。
今後わが国が、資源供給国に対する交渉力を高めていくうえで、わが国の経済力と石油危機以降培われてきた先進的なエネルギー関連技術・ノウハウという強みを十分に活用していくことが重要である。
わが国としては、強いイニシアティブを発揮し、エネルギー資源の争奪ではなく協調の時代へという流れを作り出していくことで、国際的な需給の安定化にも寄与していく必要がある。わが国外交の重要な柱の一つとして、資源・エネルギー問題、さらには地球環境問題への貢献を位置づけ、あらゆる場を活用して、首脳外交を中心に、政府・与党が一丸となって積極的に行動していくべきである。

(1)資源保有国とのエネルギー分野を含む包括的な関係強化

資源保有国に対しては、FTA(自由貿易協定)やEPA(経済連携協定)等の推進による経済関係の強化、ODA(政府開発援助)等の各種援助の実施によって当該諸国の経済社会に対する多面的な支援・協力を通じた関係強化を図りつつ、安定的な供給体制を維持していく必要がある。
とりわけ、資源の賦存状況や供給余力から、石油等の中東依存度は今後も世界的に高まると予測されており、わが国としては、中東諸国との協力関係をさらに強化していくことで資源の安定供給を維持していく必要がある。特に、GCC(湾岸協力理事会)諸国との間では、FTAの早期締結により、経済関係の一層の強化を図るべきである。
また、自主資源の開発は、供給源の多様化に資するとともに、売買契約に比して長期安定的な資源確保が可能となり、緊急時対応としての役割も期待されることから、エネルギー戦略上、その重要性をより高めていく必要がある。

(2)アジアにおけるエネルギー・パートナーシップの実現

中国やインドなど発展途上諸国のエネルギー消費量の爆発的な増大は、わが国のエネルギー安全保障のみならず、地球規模での需給逼迫や環境問題の中心となる課題である。その解決には各国との間でのエネルギー・環境分野全体の協力や連携体制の確立が不可欠であり、過去にオイルショックや公害問題を乗り越えてきたわが国が果たすべき役割は大きい。
また、中国、タイなどのアジア諸国でも安全保障の観点から石油備蓄への問題意識が高まりつつある。アジア地域での数少ないIEA(国際エネルギー機関)加盟国であり、備蓄制度のノウハウで先んじているわが国としては、各国の費用負担を原則としながら、アジア地域での備蓄制度構築に係る協力を行っていくべきである。
さらには、こうした協力を契機に、現在、ASEAN+3(東南アジア諸国連合+日本・中国・韓国)で進められているエネルギー・パートナーシップの取り組みを発展的に拡大させ、アジア域内のエネルギー問題を協議する消費国間対話の場(アジア版IEA)を設けることも検討に値する。アジア諸国が協調しつつ、中東諸国など資源保有国との地域単位での対話を拡大すること、大規模な共同資源開発やシーレーンの保安強化において連携を図ることは、わが国のエネルギー安全保障にも資することとなる。同時に、こうした場を通じて、省エネや原子力関連技術といった、わが国の優れた技術を有効に活用していくための各国との技術協力や人材交流等の枠組みや方策について検討を進めることも考えられる。

2.エネルギー・環境分野の技術戦略の推進

(1)強固なエネルギー需給構造の実現につながる技術開発力の強化

化石燃料の枯渇が懸念されるなか、省エネ技術、クリーン・エネルギー技術はエネルギー需要の抑制や環境負荷の軽減につながる一方、再生可能エネルギー、創エネルギー技術は供給源の多様化に寄与する。このような、需給両面にわたる、更なる革新的技術の開発により、長期的には世界的なエネルギー需給逼迫の解消や環境問題の解決につながることが期待される。
とりわけ、わが国のエネルギー需要は、人口減少により徐々に伸びが鈍化し、2020年代初頭には頭打ちとなって低下していくことが予想されるものの、依然として世界有数の消費国であり続けるものと思われる。わが国が築き上げた優れたエネルギー関連技術力を更に強化することは、国内の需給構造を強固なものにするなど、エネルギー安全保障を実現する上で不可欠であると同時に、産業競争力の強化にも資するものであり、官民が一体となって取り組まねばならない重要課題である。
エネルギー・環境関連技術は、研究開発から実用化に至るまで、巨額の設備投資やインフラの整備を必要とする場合が多い。そこで、100年程の超長期的な技術戦略ロードマップを視野に入れつつ、10〜20年程度のシナリオを見通しながら戦略的な開発が進められるべきである。
第三期科学技術基本計画の分野別推進戦略の中で、エネルギー分野については、高速増殖炉技術が国家基幹技術に選ばれるとともに、今後5年間に重点投資が必要な戦略重点科学技術として、具体的に14の課題(高性能電力貯蔵技術や先端高性能汎用デバイス技術、等)が選ばれたが、政府は、まずこれを着実に推進すべきである。
さらに、先進的なエネルギー関連技術や省エネ製品等の普及促進に向け、政府は、初期需要の形成、市場環境の整備、国際標準化の支援といった施策を充実すべきである。

(2)技術力を梃子とした戦略的な資源外交や国際貢献

国内需給構造の強化と同時に、エネルギー・環境関連技術力の強化は、戦略的な資源・エネルギー外交を展開する上の重要なバーゲニングパワーとして不可欠である。
また、その積極的な国際展開によって、世界的なエネルギー需給の緩和や地球環境問題への貢献を図ることも重要である。
前述のアジア版IEAやクリーン開発と気候に関するアジア太平洋パートナーシップ(APP)のように、主要国の官民が集い、エネルギーや環境面での協力のあり方を議論する場は有益である。具体的な協力体制の構築に向け、わが国として積極的に貢献していくべきであろう。
さらに、核融合エネルギーの研究開発をはじめとする超長期巨大プロジェクトには国際的な連携が不可欠であり、わが国として積極的なイニシアティブを発揮すべきである。
また、途上国等を含む世界各国でわが国の技術を普及させていくためには、知的財産権の保護や、わが国の京都議定書目標達成にも資するCDM(クリーン開発メカニズム)やJI(共同実施)等の環境整備を急ぐ必要がある。

3.エネルギー供給面からの対応

(1)原子力エネルギーの積極活用

前述の通り、原子力はわが国のエネルギー戦略上、基幹となるエネルギー源である。安全性の確保を大前提として、着実な推進を図る必要がある。
原子力を巡る当面の課題としては、既存の原子力発電所の規制の合理化により設備利用率を海外における90%超の運転実態に近づけることに加え、濃縮や再処理等、国内の原子燃料サイクル施設の順調な稼動などがある。また、中期的には原子力関連技術を支える人材の継続的な育成・確保や、高経年化していく現在の軽水炉を2030年頃を目途に置き換えていく必要があることから、次世代炉の開発や導入が重要である。更に、長期的観点からは、高速増殖炉の実用化や放射性廃棄物の処分対策について、道筋を明示し、具体策を着実に実行していく必要がある。
現在、原子力関連施設の新規立地は長期化の傾向にあるが、原子力活用の推進にあたっては、特に地域住民、首長、自治体や国民各層の理解が不可欠であり、国もその一翼を担うべきである。国・事業者が、事業の安全性の確保、防災・テロ対策を含む危機管理の一層の強化や積極的な情報公開、国際的な核不拡散体制の維持などに不断の努力を続けるとともに、わが国のエネルギー戦略における原子力の重要性を国民各層が共有できるよう、初等段階からの教育等も含めた理解促進策を充実すべきである。

(2)化石エネルギーの有効利用

化石エネルギーは今世紀においても、なお主要な役割を担うものであり、今後も引き続き有効利用を図っていかなければならない。一方、地球温暖化への対応が急務であり、化石燃料起源のCO排出量増大を防止する技術や分離・隔離にかかる技術の開発を重点的に進めることが不可欠である。また、国内外において供給を確保する観点から石油・天然ガス資源の開発を進める必要がある。

  1. 石油
    現在でも石油はわが国一次エネルギー供給量の約5割を占めており、経済性・利便性の観点から今後も重要なエネルギー資源といえる。供給の約9割を中東に依存しており、その供給構造の脆弱性が指摘されているが、世界の原油埋蔵量の約7割が中東地域に偏在している実情を直視した場合、中東諸国との関係強化、中東地域内での供給国の多様化等、現実的な施策によって安定供給を確保すべきである。
    また今後、世界的に増加する重質原油に多く含まれる残渣を機動的に処理できる石油精製能力を配備しておくことが国内需給の安定化にも有効となる。さらに、急激なモータリゼーションを背景にガソリン等の軽質留分の増加が見込まれる途上国にとって、重質油の軽質化技術の重要性は高まっていく。そのため、わが国の有する石油精製技術やノウハウをアジア諸国に対して積極的に提供することは、域内のエネルギー安全保障上も、極めて有意義である。

  2. 天然ガス
    天然ガスは中東以外の地域に広く分散して賦存するとともに、他の化石エネルギー資源に比して環境負荷が小さなエネルギーであり、将来に亘って活用が期待されている。
    なかでも、天然ガスを利用した液体燃料GTL(ガス・トゥー・リキッド)に係る技術開発等を計画的に進める必要がある。
    また、国内における天然ガスの柔軟な融通により安定供給に資する観点から、産ガス国との関係強化の中で、仕向け地を柔軟に変更できる長期契約を可能とする環境作りが望まれる。

  3. 石炭
    石炭は可採埋蔵量が200年以上あり、世界各国に幅広く分布する等、他の化石燃料に比べ供給安定性が高く、経済性に優れた重要なエネルギー源である。
    一方、燃焼段階のCO排出量が大きいなど環境制約も抱えていることから、クリーン・コール・テクノロジーや炭素隔離・貯留に代表される新たな利用方法の普及による環境面の課題克服が急がれる。こうした先進技術を開発している各国と協力して国際的な石炭利用の枠組みをつくり、そのクリーン利用技術を、石炭需要を増やすアジア諸国等へ積極的に移転することによって、地球環境問題と資源の安全保障の両面で国際貢献すべきである。

  4. 非在来型石油、天然ガス資源
    世界には非在来型の石油資源(オイルサンド、オリノコタール等)が1兆バレル以上も埋蔵されていると推定されており、その開発利用が進めば世界の石油需給の緩和に極めて大きな効果が期待できる。また、わが国近海にはわが国の天然ガス消費量の100年分に匹敵するメタンハイドレートが埋蔵されていると推定されており、将来その開発利用が可能となればわが国エネルギー自給率の向上に大きな効果を持ちうる。こうした非在来型資源の開発利用についても、今後一層積極的に取り組むべきである。

(3)再生可能エネルギーの計画的な推進

太陽光発電や風力発電、バイオマスといった再生可能エネルギーには、コストの問題にとどまらず、設置面積当たりのエネルギー密度の低さ、稼働率の低さ、系統連系に影響を及ぼす自然エネルギー特有の不安定な特性など、大規模な普及に向け解決すべき課題も多い。
しかし、枯渇することのない国産エネルギーであると同時に、温暖化対策としても重要な鍵を握るエネルギーでもある。現在、わが国の技術は多くの分野で世界の最高水準にあり、この維持向上は、わが国のエネルギー安全保障上も極めて重要である。再生可能エネルギーについては、こうした潜在性を十分ふまえ、長期的視点に立って、課題解決のための具体的対策を実施し、計画的な推進を図るべきである。

4.エネルギー需要面での対応

(1)エネルギーの効率利用のさらなる推進

わが国は、二度のオイルショックを経て、官民による不断の努力により、世界最高水準の省エネ、省CO型国家を形成してきた。省エネルギー技術の更なる向上は、国内におけるエネルギー需要の効率化につながると同時に、CO排出削減を通じて地球温暖化防止にも資する。
LCA(製造から使用、廃棄までのライフサイクル)の観点からの省エネ技術、廃棄物利用のエネルギー技術、電力ネットワークの効率性を高める電力貯蔵技術、ナノテクノロジーによるエネルギー使用の大幅削減等に係る技術は、間接的にエネルギー創出と同じ効果をもたらす。また、分散型エネルギーや新時代の自動車への普及が期待される燃料電池にかかる技術開発も重要である。また、ICTの利活用は、テレワークなどの普及を通じた人の移動や物流の効率化による大幅な省エネルギー効果が期待されており、その積極的な推進を図るべきである。
今後、最もエネルギー効率の改善ポテンシャルが大きいのは民生分野である。サイクルの長い住宅分野でのエネルギー効率を向上させるよう、様々なインセンティブ措置の充実も含めた長期的な計画の下で、高効率機器や高断熱仕様等を用いた質の高い住宅への建て替え需要を創出する必要がある。
京都議定書目標達成計画でも中心的な施策と位置づけられた経団連環境自主行動計画は、地球温暖化防止対策であると同時に省エネ対策であり、産業界は、着実な目標達成に向けた行動を実践していく。さらに、優れた省エネ製品・サービスの開発、普及を進めると同時に、引き続き、消費者が省エネを進める上での有用な情報提供に努めていく。

(2)省エネ型社会の構築

わが国のエネルギー需要を一層効率化させていくためには、ハード、ソフトの両面から省エネ型社会の構築を目指す必要がある。
ハード面では、今後の社会インフラ整備に当たり、地域冷暖房や高効率の熱供給システムの導入等のエネルギーの面的利用や、渋滞解消に向けた環状道路整備、ITSの促進等、交通システムの改善といった、一層の省エネ型都市づくりという視点が求められる。
また、ソフト面では、国民のライフスタイルの変革や個人の意識改革を促すとともに、省エネ効果も期待されるサマータイムの早期導入もエネルギー戦略の一環として検討されるべきである。
さらに、こうした省エネ型社会の構築に向けて、省庁間の一層緊密な連携が必要である。

(3)国内エネルギー関連制度の見直し

各国がエネルギー資源の権益確保にしのぎを削るなか、わが国のエネルギー安全保障確立のためには、対外的に全てのエネルギー資源に関し安定供給を維持する道を確保しておくことと同時に、国内においては、確保した全てのエネルギー資源の利用効率を最大化していく必要がある。世界的にエネルギー需給が逼迫する中では、予め特定のエネルギー源を選択する余地は少ない。
そのために、今後も、エネルギー資源確保や産油・産ガス国との経済関係強化のための公的金融支援の仕組みを引き続き確保し、資源開発に係る税制を拡充するなど民間企業が進める事業を支援すべきである。
具体的には、海外での探鉱開発事業に対しては、石油天然ガス・金属鉱物資源機構(JOGMEC)のリスクマネー供給機能の強化や海外投資保険の拡充等、民間投資に対する金融支援が十分に実行されるよう配慮すべきである。国際協力銀行(JBIC)による融資保証や長期・低利融資の仕組みの確保は、資源開発プロジェクトに有効であり、アジア等におけるエネルギー関連事業の海外展開に大きく寄与することが期待されている。
また、省エネ対応促進やエネルギー安定供給のために日本政策投資銀行による融資機能を強化するほか、エネルギーの高度化利用につながる投資をさらに促進するため、エネ革税制(エネルギー需給構造改革投資促進税制)の対象範囲の拡充を図るべきである。
さらに、石油代替エネルギー法は、比較的安定した供給の下で、石油依存度を低下させていく目的で制定されたものであり、既に、その社会的な使命は達成したものと考えられる。今後は、全ての化石エネルギーをより有効に活用するという観点から、使用段階でのエネルギー効率性、環境特性を評価できる枠組みに見直していく必要がある。

5.エネルギーの重要性に関する理解促進

(1)エネルギー教育の充実

エネルギー問題はいつの時代にも、人類の生活や経済社会発展の基盤となる課題である。とりわけ、エネルギー資源のほとんどを輸入に頼り、大量に消費するわが国国民としては、国際社会の一員として、わが国のエネルギーを巡る状況について理解を深めておく必要がある。
現在、環境問題に対する意識が高まるなか、初等・中等教育においても環境教育の充実が図られつつある。温暖化問題といった地球規模での環境問題は、世界のエネルギー問題と表裏をなすものであり、環境と同時にエネルギーに関しても、初等教育での充実を図ることが必要である。エネルギー問題に関する正しい理解を教育の早い段階から始めることは、人材育成や民生部門における省エネ型社会の構築にも不可欠であり、わが国のエネルギー戦略においても重要なテーマである。産業界としても、施設見学や教師研修等のエネルギー教育への協力を続けるとともに、魅力あるエネルギー産業を構築することで、わが国のエネルギー人材の充実に努める所存である。

(2)社会全体に対する適切なエネルギー関連広報の展開

教育と同時に、社会全体に対し、わが国のエネルギーを巡る諸情勢につき、国民各層の正しい理解を得るよう、適切な広報を不断に継続していくことが重要である。社会への広報は、わが国のエネルギー戦略のPDCAサイクルを円滑に循環させるうえでのチェック機能にもつながる。また、わが国全体を省エネ型社会へと導いていく上でも不可欠である。産業界としても、引き続き、エネルギー関連広報の充実に努めていく。

IV.おわりに

人類は、20世紀における化石燃料の著しい消費により経済社会の発展と利便性を享受することとなった。21世紀において、我々にはエネルギー問題と地球規模の環境問題を克服しつつ持続可能な発展を可能とする社会を構築するという責務が課されている。
現在、我々はエネルギーをめぐる歴史的な大変革の局面にある。この認識の下、わが国の持続可能な発展に資する新たなエネルギー戦略の再構築とその推進に向けた、強力な取り組みを期待する。日本経団連としても、関連委員会等との協力を図り、民間の意見発信、官民の戦略的な連携を図っていく。

以上

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