[ 日本経団連 ] [ 意見書 ]

生活習慣病予防に係る効率的で質の高い
特定健康診査・特定保健指導の実施に向けて

2006年8月11日
(社)日本経済団体連合会
起業創造委員会
ヘルスケア産業部会

生活習慣病予防に係る効率的で質の高い
特定健康診査・特定保健指導の実施に向けて (骨子)

「高齢者の医療の確保に関する法律」の成立により、平成20年4月から医療保険者による特定健康診査・特定保健指導(以下健診・保健指導)が義務付けられることとなった。当会では、本年4月に「生活習慣病に係わる特定健康診査・特定保健指導のアウトソース推進に向けて」と題する提言を公表し、民間企業が培ってきた技術や知識を最大限活用して国民の健康増進を図り、ひいては国民医療費の適正化に資するよう、保険者によるアウトソース促進に向けた基盤整備の必要性等を求めたところである。
生活習慣病予防の取組みにあたって重要なことは、健診・保健指導の結果、有病者や予備群の大幅な減少という具体的な成果を挙げていくことであり、そのためには、国・地方自治体と保険者並びに民間企業等が共同歩調を取りつつ、(1)健診受診率の向上、(2)効果の高い保健指導サービスの確保、(3)効率的な実施体制の確立を目指す視点が重要であり、以下の諸項目への対応が欠かせない。政府は、これらの事項について関係者の意見を踏まえながら対応を図るべきである。
また、民間企業には、社員が活き活きとした生活を営めるよう健康増進に努める責務があることから、保険者と連携しつつ、社員及び家族の生活習慣病予防のため、経営者自らが率先して健診・保健指導の支援に取組んでいくべきである。

I.健診受診率の向上に向けて

生活習慣病予備群について正確なデータを把握し、適切な保健指導を実施するためには、健診の受診率を向上させることが大前提であり、以下の取組みが求められる。

1.受診意識の醸成

受診率の向上に当たっては、健診・保健指導の対象者が自ら受診する意識をもつ必要があり、政府による精力的かつ継続的な広報・啓蒙活動が期待される。また、各保険者は企業の人事部門と連携し、従業員(被保険者)ならびに被扶養者に積極的に受診を呼びかける努力を行う必要がある。さらに、今後は対象と知りつつ受診をしない者に対する何らかのディスインセンティブを講じることも検討すべきである。

2.受診時の個人の窓口負担軽減

受診に際しての加入者の窓口負担を軽減していくことが受診率向上のために不可欠であり、健診費用の支払に関して、償還払い以外の決済方式を採用すべきである。

3.身近な場所での受診機会の確保

受診機会確保の観点から、各地域の公民館や、民間施設等の生活に身近で人が多く集まる場所を活用した健診を積極的に推進すべきである。

4.郵送による検査の活用

諸事情により外出が困難な者の受診機会を確保する観点から、既に普及しつつある郵送による検査を活用していくべきである。郵送による検査は、健診の受診を促進し、保険者によるデータの把握や対象者の意識向上に大きく寄与し得る。
また、対面型の健診と郵送による検査との間にデータの信頼性に差異があるという指摘に対しては、例えば、郵送による検査のデータについては、疫学統計上は計上しないものの、保険者に対する後期高齢者支援金負担額の加算・減算措置の算定上は組入れる等の柔軟な運用を行う選択肢も考えられる。

II.効果の高い保健指導サービスの確保

保険者による保健指導サービスのアウトソーシング実施にあたっては、保険者が目指す具体的な成果を達成し得る事業者を的確に選別できることが重要である。この点について、アウトソーシング基準案が既に提示されていることは評価できる。今後は、最終的な基準の策定に向けて、幅広く意見を募りつつ、Q&Aの作成等を含めて各項目の明確化や見直し等を行う必要がある。
これまで明らかになったアウトソース基準案については、当面、以下の点について具体化を図ることが望まれる。

  1. 「委託先における保健指導の質の確保は不可欠である」との記載があるが、質の確保のために最低限求められる事項・具体的なイメージ等を提示する必要がある。
  2. 食生活に関する保健指導に関し、「管理栄養士その他の食生活に関する専門知識を有する者」の雇用が義務づけられているが、実際に管理栄養士として指導に当たる人員を十分確保し得るのか、未就労有資格者の就労意欲等を検証する必要がある。
  3. 運動に関する保健指導に関し、運動に関する専門的知識を有する者(例えば、健康・体力づくり事業団が認定する健康運動指導士等)により提供されることとする旨の記載があるが、健康運動指導士と同等の専門知識を有する者については「運動に関する専門的知識を有する者」に該当する旨明確化する必要がある。
  4. 施設に関し、「救急時における応急処置のための設備」という記載があるが、その具体的内容を明確化すべきである。また、保健指導施設に関する諸基準が自宅でのトレーニング・日常生活でのトレーニングメニューの企画を妨げるものではない旨明確化する必要がある。
  5. 「収益事業との区分の明確化」という記載があるが、この基準が保険者の望む効果を挙げるための事業者の創意工夫を一律的に妨げる結果とならないようにすべきである。特に、運営等に関する基準における「保健指導を行う際に商品等の勧誘・販売を行わないこととする」との記載について、その具体的な内容をQ&A等を通じて早い段階で明らかにする必要がある。

III.効率的な実施体制の確立

1.保険者における運営体制の整備

小規模な保険者の場合、人員上の制約等のため、健診・保健指導に係る事業計画の立案、データの分析等を全て独力で行うことは困難とみられる。そこで、これらの業務について、職員に対する教育も含めて民間事業者が支援することを容認すべきである。なお、この場合の民間事業者はあくまでも保険者の業務を支援する立場にあり、最終的な意思決定は保険者自らが行なう。
また、専門職を雇用できない保険者への対応として、業務受託以外にも派遣形態による保健師業務を認めるべきである。

2.データの授受・費用決済等の事務の効率化

健診・保健指導のアウトソーシングを行う場合、実施事業者、保険者、都道府県間のデータの授受、費用決済等の手続が煩雑となる。他方、保険者の大半は、人員上の制約により、健診・保健指導実施機関との契約管理、データの管理、費用精算等について個別に対応することが実務的に困難である。

  1. (1) 非医療機関型事業者による業務受託の容認
    実施事業者と保険者のデータの授受、費用の決済等は膨大な事務作業を伴うため、実施機関との契約と決済処理の簡便化の観点から、民間の取りまとめ事業者の活用を容認すべきである。

  2. (2) 健診・保健指導レセプト(仮称)の導入
    統一フォーマットの下、電子的にデータを管理すべく、「健診レセプト」、「保健指導レセプト」(仮称)を採用すべきである。健診レセプトとは、健診項目と検査結果の明細ならびに費用負担に関する情報が記載され、加入者に対する健診実施報告書と費用請求書を合わせた性格を有するものとする(保健指導レセプトについても同様)。
    審査支払機関等を活用して健診・保健指導レセプトをやり取りすることで、データの授受と費用の決済の一元化が可能となり、保険者側の事務手続の大幅な軽減につながる。加えて、加入者にとっても償還払い方式にする必要がなくなるため、保険者への費用精算申請が不要となり、さらには行政にとっても都道府県が保険者に対する一次窓口の役割を担う必要がなくなる等、関係者のメリットは極めて大きい。
    また、データを健診・保健指導レセプトという統一フォーマットの下で電子的に管理することで、加入者の転職・退職等に伴う、保険者間での円滑なデータのやり取りが可能となる。
    こうした新たなシステムの構築に向けて平成19年度予算で所要の措置を講ずるべきである。また、その際、政府は中小の保険者を対象としたデータ管理支援措置を講じるべきである。

  3. (3) 直接決済の実現に向けた検討
    健診・保健指導のデータ授受・費用決済についても、医療レセプト同様に直接決済を可能としていくべきであり、そのためのオンライン整備が必要である。

IV.その他の論点

1.保険者への財政支援

保険者が財政的に逼迫し、健診・保健指導の事業費を賄えない場合、効率的な事業実施が妨げられるのみならず、受診抑制を生じかねない。加入者に平等な受診機会を与える観点から、基準を明確にした上で国庫補助の追加を検討すべきである。

2.健診価格の地域格差への対応

健診に関しては、同一内容であっても、対象者や保険者によって地域的な価格差が発生する可能性があるため、事業者が自治体から請け負う内容・価格を都道府県ごとにインターネットで公開することで透明性を確保していく必要がある。

以上

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