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平成19年度税制改正に関する提言

2006年9月19日
(社)日本経済団体連合会

I.はじめに

わが国の景気は、漸く回復軌道に乗った。
企業業績の回復等を背景に、税収も順調に伸び、一般会計(2005年度)では、当初予算(44兆円)、補正予算(47兆円)を上回り、49兆円に達した。とりわけ、企業の攻めの経営努力を研究開発促進税制・IT投資促進税制等の支援措置が後押しすることにより、企業の業績は回復し、法人税収は13.2兆円で、3年前と比べ4割近い増収となっている。このような経済活性化による税収の増大こそが一国の維持発展の基礎となる。この流れをより確固たるものとするよう、平成19年度税制改正では、以下のような視点が強く求められる。
まず、経済成長の維持、国際競争力強化の視点である。負の遺産への対応が終わり、構造改革により体質の強化が図られ、国際競争への新たなスタートラインに立ったこの好機を逸することなく、新たな成長を加速させることが重要である。技術革新や生産性の向上といった将来への投資を促進させることにより、少子高齢化社会においても確固たる経済成長を持続させるために政策を総動員すべき時である。また、国際競争は熾烈さを増しており、経済活動のインフラとしての税制の国際的な整合性の観点が一層重要となっている。
次に、中長期的な経済成長と財政健全化を両立させる観点にたった税財政構造の一体的改革の必要性である。先進国中最悪の財政状況を健全化し、少子化、高齢化社会においても、安定的な発展を次の世代に託すためには、成長による税収の確保を図るとともに、国、地方を通じた徹底した歳出の削減と持続可能な社会保障制度の構築が不可欠となる。2011年度において、基礎的財政収支を黒字化するという政府方針を確実に実現するよう、税制面での改革への道筋を明確にする必要がある。
さらに、これらを実現するためには、中長期にわたる視点が不可欠である。平成19年度改正は、活力と魅力溢れる「希望の国」の構築に向けて、過度な単年度主義に陥ることなく、税体系全般の抜本的改革に向けた第一歩と位置づけられるべきである。

II.法人税制

1.実効税率の引き下げ

わが国では、近年、平成10年度、平成11年度の二度にわたり、法人税の実効税率の引き下げが行われ、現在約40%の水準に留まったままである。しかし、元来、法人税率の低いアジア諸国はもとより、EU諸国においても税率引き下げが行われた結果、わが国の実効税率は諸外国と比して約10%の乖離(アジア諸国も含む)が生じ、国際的に高止まりの様相を呈している。
法人税実効税率は、企業がグローバルな活動を進める上での基本的な競争条件の一つであるばかりでなく、内外の投資の活性化、産業の空洞化回避による雇用の確保などを通じた、経済成長戦略の重要な要素である。
社会保険料を含む企業の公的負担が増大するなかで、経済成長のエンジンである企業活動を如何に活性化させていくかという観点から、税制の抜本改革において法人税実効税率の引き下げを図るべきである。また、その際には、法人課税の対象や赤字法人の税負担のあり方など、広い負担の方途についても併せて検討すべきである。

2.減価償却制度の見直し

わが国の減価償却制度は、昭和39年度改正を最後に本格的な見直しが行われておらず、種々の見直しが行われてきた法人税制において残された大きな課題の一つである。景気回復をさらに力強く継続させ、今後の経済成長に結び付けていくためには、減価償却制度を国際的に遜色の無い制度に見直し、順調な企業の設備投資を促進させて産業の国際競争力強化を図っていく必要がある。

  1. (1) 償却可能限度額の撤廃
    わが国の減価償却制度においては、償却可能限度額が取得価額の95%に据え置かれているが、国際的に見て、取得価額の100%の償却を認めていない先進国は無い。取得価額の5%の簿価を残すという合理的な根拠は無く、むしろ、資産の除却時に、一時的に損失計上が余儀無くされることから企業の設備更新の足枷にもなっている。償却可能限度額は早急に撤廃し、100%の減価償却を認めるべきである。また、事業用償却資産に対する固定資産税に関しても、償却可能限度額の撤廃に併せた見直しが不可欠である。

  2. (2) 法定耐用年数の短縮
    わが国減価償却制度の法定耐用年数は、多くの設備において諸外国と比して長く規定されており、投資費用の回収期間において国際的に不利な状況にある。
    そもそも、設備の使用期間は使用条件や改良の有無などで大きく変化することから企業ごとに千差万別であり、使用期間をもって償却期間の基礎とすることには無理がある。むしろ、税務上の償却期間は、設備投資の活性化や制度の簡素化といった観点から検討すべきである。
    単に使用年数を基礎とした償却期間ではなく、国際的なイコールフッティングや経済の活性化の観点を踏まえて、法定耐用年数の短縮や償却カーブの見直しを図るべきである。併せて、耐用年数区分の大括り化や、耐用年数の短縮に係る手続きの柔軟化などを進めるべきである。

3.国際課税

企業活動のグローバル化が進展するなか、企業の自由な国際取引や事業の予見可能性を高める上で、国際課税制度の整備がますます重要になっている。この点に関し、政府において租税条約の改定やネットワークの拡充が図られていることは高く評価できる。
企業が国際的な活動を進める上で、とりわけ国際的な二重課税を迅速に排除する制度が重要である。

  1. (1) 移転価格税制
    移転価格税制について二重課税を排除するためには、現状では、長期間にわたる二国間相互協議を経る必要があり、企業の負担が大きいうえ、租税条約が無い相手国や相互協議が不調に終わるケースでは、二重課税が生じたままとなる。相互協議が成立した場合であっても加算税については調整されない。
    また、現行では、制度の運用面において、特に役務提供取引、無形資産取引等の取り扱い、評価方法については当局の裁量の余地が大きく、十分な企業の予見可能性が確保されていない。とりわけ、本年3月の「移転価格事務運営要領」の改正で加えられた「調査において検討すべき無形資産」については、定義が具体化されないまま運用が拡大されており、早急な是正が必要である。通達による法令の拡大解釈を防止し、国際的な二重課税を確実に防止、排除するため、定義の明確化、事前確認制度や相互協議の迅速化、効率化、担当部署の体制強化が必要である。
    さらに、制度適用の対象となる国外関連者の定義として、発行済株式等の50%以上の保有が定められているが、持分が50%ずつの合弁事業等の場合には、必ずしも支配権を有しているとは限らないことから、形式判断基準は50%超の保有と改正すべきである。
    また、例えば、資源保有国との関係など、課税権の配分が二国間関係に大きな影響を与えることを踏まえれば、経済連携協定(EPA)を活用し、双方の合意や理解の形成に努めることも考えられる。

  2. (2) 外国税額控除制度の見直し
    外国税額控除制度については、実務的な簡便性などに留意しながら、見直しを図るべきである。具体的には、(1)外国税額控除限度超過額及び控除余裕額の繰越期間の延長、(2)間接外国税額控除対象会社の拡大(出資要件の引き下げ、適用対象会社の範囲の拡大)等を図るべきである。
    なお、外国税額控除限度額の計算方法において、わが国は一括限度額管理方式を採用しているが、これは、実務的に簡便であり、また、企業活動のグローバル化の推進に資する特質を有するものと考えられる。限度額管理方式のあり方については実務面への影響も含め慎重な検討が必要である。

4.合併等対価の柔軟化への対応

会社法において施行が1年延期されている合併等対価の柔軟化(いわゆる三角合併の解禁等)については、現行の組織再編税制の基本的枠組みに則した適切な取り扱いを行うべきである。
なお、非居住者が対価として日本市場で流通していない会社の株式を取得する場合には、再編時に課税繰り延べを行うとわが国課税当局が課税機会を失するおそれもあり、租税回避行為防止の観点からの措置も併せて検討することが不可欠である。

5.地方法人課税

  1. (1) 地方法人課税のあり方
    わが国では地方における法人課税負担が重く、企業の国際競争力の向上や地域の活性化を図る上での阻害要因となっている。また、法人所得に対する地方課税(法人住民税、法人事業税)は、わが国法人税実効税率が諸外国に比べても高いことの大きな要因でもある。
    税負担が重いだけではなく、法人所得に対する課税は地域や景気サイクルによる税収のばらつきが大きく、本来地方税として適切な税目とは言いがたいことなど、地方法人課税については、制度自体としても問題点が多く、体系的かつ抜本的な見直しが急務である。
    消費税を含む税体系の抜本的改革の一環として、地方税のあり方についても、本来地方財政を賄うために相応しい税目は何かという観点から再検討すべきであり、法人所得に対する課税は国税に集約しつつ、全体としての法人税実効税率の引き下げを図るべきである。

  2. (2) 償却資産に対する固定資産税
    製造業を中心とする多数の設備を有する企業においては、土地に対する固定資産税と同等かそれを上回る負担額となっており、企業収益を圧迫し、企業競争力に悪影響を与えている。
    もともと、償却資産に対する固定資産税に関しては、税制自体としての問題点が多い。即ち、製造業など特定業界に負担が偏重しており、課税の公平性の面からも問題が大きいだけでなく、税収の面からみても、自治体ごとのアンバランスが大きい。さらに、国際的にも、事業用の償却資産に対する課税は非常に稀である。本来、事業用の償却資産は将来収益を生み出す源泉であり、企業の所得に対しては地方税としても法人住民税・事業税が課されることに鑑みれば、償却資産に対する課税は二重課税にほかならない。土地・家屋と異なり、償却資産に対する固定資産税だけは事業用の資産のみに課税されることも問題である。
    消費税を含む税体系の抜本的改革の際には、地方消費税を含めた地方税の体系についても根本的見直しを行い、償却資産に対する固定資産税については、廃止すべきである。

  3. (3) 地方法定外税等の見直し
    地方法定外税は、本来は、地方自治体の創意工夫に基づき、当該地域における受益と負担の関係に基づいて導入されるべきであるが、現実には、当該地域から移動することができない一部の企業に対象が限られる課税も多い。また、超過課税の採用についても、法人を対象とするものが大半である。このように負担が法人に偏った地方課税については早急に是正すべきである。

  4. (4) その他
    連結納税制度を採用している連結親法人について、法人事業税外形標準課税における資本割額算定上の持株会社特例を適用するにあたり、総資産額から連結子法人に対する個別帰属税額未収金を控除するよう、見直しが必要である。

6.非営利法人(団体)課税・寄付金税制

  1. (1) 非営利法人(団体)課税
    昨年6月政府税制調査会から、新たな非営利法人課税のあり方について基本的な考え方が示されているが、今後のわが国社会における非営利法人(団体)の重要性を積極的に支援する抜本的改革に向け、さらに検討を深める必要がある。
    民間非営利活動は、これまでの多くの公益法人のような主務官庁の活動を補充する役割としてではなく、多元的な社会・経済システムの中で積極的に位置付けられるべきである。このような観点からは、本来、利益(剰余金)の分配を行わない非営利法人(団体)に生じた利益については、原則として法人所得課税の対象外とすべきである。仮に、非営利法人(団体)の行う収益事業に課税を行わざるを得ない場合でも、限定した範囲にとどめるべきである。
    なお、新制度施行後5年間の移行期間において、現在の公益法人が特例民法法人に留まる場合も、非営利である限りは、課税対象とすべきではない。

  2. (2) 寄附金税制
    社会のニーズに対応した民間の非営利活動を支えるよう、企業ならびに個人による公益目的の寄附金を積極的に支援する税制を構築する必要がある。
    企業の寄附に関しては、社会貢献活動を一層充実させるために、現行の一般寄附金を含め、公益目的の寄附に関する損金算入枠を抜本的に拡充すべきである。また、個人の寄附金控除に関しても、個人住民税における扱いの見直しを含め限度額を拡充するとともに、相続財産の寄附についても対象の拡大を図るべきである。公益目的の寄附金には、新制度における「公益法人」や「認定NPO法人」に対する寄附金のみならず、経済活動、非営利活動のグローバル化を踏まえ、国外も含めた一定の非営利法人(団体)に対する寄附金まで幅広く含めるべきである。

7.会計基準改定への対応

資本市場のグローバル化に伴い、米国やEUを中心として、市場のインフラである会計基準の国際的な統合(コンバージェンス)が進められている。わが国でも、「平成21年に向けた国際的な動向を踏まえ、会計基準の国際的な収斂の推進を図る」(経済財政運営と構造改革に関する基本方針2006)ことが政府方針とされ、コンバージェンスに向けた会計基準の見直し作業が加速されつつある。わが国の税制は、確定決算主義、損金経理要件など、企業会計と密接に関係しているが、このような会計基準の見直しに伴い、税制との関係において様々な課題が生じつつある。本年7月には、企業会計基準委員会から「リース取引に関する会計基準(試案)」、「棚卸資産の評価に関する会計基準」などが公表されており、これらに関する税制上の対応を検討する必要がある。それぞれの項目ごとに、わが国産業の競争力や会計と税務の二重管理の要否、企業実務に与える影響などを十分に踏まえた対応を図るべきである。

8.その他

  1. (1) 研究開発促進税制の拡充
    わが国産業が将来にわたって国際競争に勝ち抜き、少子化社会においても安定的な経済発展を維持していくためには「科学技術創造立国」の確立が鍵となる。企業の研究開発投資を促進させ、技術革新によりわが国産業の競争力を高めるよう、控除率や限度額の見直し等を検討すべきである。

  2. (2) 信託法改正への対応等
    先の通常国会から継続審議とされた信託法案が成立、施行された場合、これに伴う税制上の対応が必要となるが、実質的な所得の帰属者に課税を行うという信託税制の基本的考え方に立って検討を進めるべきである。
    また、持分会社や組合、有限責任事業組合など様々な事業形態が可能となる中、形式的な法人格の有無に着目した課税では対応が困難になっており、租税回避行為を防止しつつ、それぞれの事業形態の実態に即した課税のあり方を検討すべきである。

  3. (3) 特定資産の買換特例
    長期保有土地等からの買換特例制度は多くの企業に活用されており、また、日本経済の新たな成長を加速させるため、企業の資産買換えを通じた設備投資を支援すべきである。平成18年12月31日に期限を迎える、特定の事業用資産の買換特例については適用期限を延長すべきである。

  4. (4) 産業活力再生特別措置法関連税制
    わが国企業の生産性向上を推進する観点から、産業活力再生特別措置法に基づく計画認定事業者に対して、(1)革新的な設備に対する特別償却、(2)事業再編に伴う登録免許税・不動産取得税の軽減措置を講ずるべきである。

  5. (5) 役員給与の損金算入
    平成18年度改正において役員給与の損金算入の仕組みが見直されたが、実務上対応が困難な点の修正など、制度の充実を図る必要がある。

  6. (6) 外航海運に係る法人課税
    欧米を始めとする主要海運国において、運航トン数を課税標準とするトン数標準税制が導入されている。海洋国家であるわが国産業の基盤としての海運業の課税のあり方について、国際的な整合性の観点を踏まえた取り組みが必要である。

III.所得税ほか

1.証券税制

  1. (1) 上場株式等の譲渡益・配当課税の特例
    証券税制は、証券市場のより一層の活性化及び「貯蓄から投資へ」の流れをつくり出すための重要なインフラとして位置づけられるべきである。平成15年度改正では、国内の個人投資家を中心とした幅広い投資家が参加する証券市場を構築し、活性化させることを目的として、上場株式等の譲渡益、配当について、5年間の時限措置ながら10%の軽減税率が適用された。その後、徐々に株式市場は活力を取り戻し、個人投資家の売買高や全体に占める個人の割合も増加基調となっている。
    しかし、約1,500兆円のわが国の個人金融資産に占める株式・投資信託の保有割合は、未だ10%程度で米国の30%やドイツの18%を大きく下回っており、さらに「貯蓄から投資へ」の流れの加速や株式の長期保有を定着させる税制措置が必要である。こうした状況を踏まえ、当面、上場株式等の譲渡益ならびに配当に係る軽減税率の適用期限を延長すべきである。
    また、自己株式を公開買い付けした場合の個人株主のみなし配当非課税の特例について、適用期限を延長すべきである。

  2. (2) 受取配当金益金不算入制度
    受取配当金への課税については、課税済所得からの分配に対する二重課税であり、これを排除する必要がある。法人については、本来、全額が益金不算入とされるべきである。平成14年度改正により、減収に対応する措置として、益金不算入割合が50%に削減されたままとなっているが、国際的にも異例な制度となっており、早急な見直しが必要である。併せて、同時期に廃止された特定利子に係る措置を復活させるなど、負債利子控除制度の見直しも必要である。また、個人においても、配当控除を拡充すべきである。

2.少子化対策

  1. (1) 少子化対策に関する問題意識
    少子化対策は、わが国の経済・社会の健全な発展の観点から、喫緊の課題であり、国・地方自治体、産業界・企業、地域コミュニティ、国民といった各主体が連携し、国をあげた取り組みが必要である。国は少子化対策を重要課題として位置付け、わが国のあるべき経済・社会の将来像を提示して、国民的運動を展開していく必要がある。
    少子化対策として、経済的支援を講じるに当たっては、人数の多い団塊ジュニアの世代が、出産期にあるこの5年間を新たな出発点として、子どもを持つ希望のある人々が安心して子どもを産み、育てることができるように、子育て世帯に対する恒久的な金銭的支援に加えて、保育や教育のサービスの量と質を確保するための施策を、同時に進めていくことが必要である。

  2. (2) 子育て税額控除制度の創設
    子どもを持つ世帯、特に乳幼児を抱える若い世帯は中低所得者が多いにもかかわらず、現在の扶養控除は、高所得者ほど税負担の軽減効果が大きくなっている。また、扶養控除とともに、子育て世帯に対する金銭的支援として、児童手当が別途、予算措置されているが、市町村が所得情報や社会保険の加入情報を持っていないため、子どもを持つ世帯にとって、毎年、受給申請するための手続きが煩雑となっている。
    このような問題点を克服し、行政の効率化を高めつつ、中低所得の子育て世帯により配慮する観点から、子育て世帯に対する金銭的支援について、現行の扶養控除と児童手当とをあわせて、「子育て税額控除」に一本化すべきである。その際、課税最低限未満の世帯及び納税額が少ない世帯には、相当額を還付する仕組みまたは手当として支給すべきである。子育て税額控除の金額については、子どもの年齢や人数に応じて、メリハリをつけることも考えられる。
    この新たな仕組みに対する国民の理解を深めていくため、積極的に広報するとともに、源泉徴収票に子育て税額控除の金額を別途明記すべきである。

  3. (3) 企業における取り組みに対する政策的支援
    両立支援の推進に向けた産業界・企業による主体的な取り組みを、わが国全体にすみやかに広げていくためには、先駆的に取り組む企業や、わが国企業の従業員数の7割を占める中小企業について、利用しやすい税財政上の支援措置を講じていく必要がある。

3.高齢者雇用促進への対応

急激な少子高齢化、とりわけ団塊世代の退職による労働力の減少への対応が急務となっている。65歳までの継続雇用は未だ低水準に留まっており、税制上の緊急措置を講じて、高齢者雇用を促進する必要がある。
公的年金等控除との関係も整理しつつ、60歳以上の者が受け取る給与に係る給与所得控除について、当分の間、通常の給与所得控除額に高齢者加算を行う制度を創設すべきである。

4.年金税制

企業年金の運用資産に課税する特別法人税については、平成17年度税制改正において課税凍結措置の延長が図られたが、公的年金給付の縮減に対応して、個人や企業の自助努力を促す観点から、本来、速やかに制度そのものを廃止すべきである。年金税制の基本原則は、掛け金の拠出・運用時は非課税、課税は受給時に行うというものである。
また、確定拠出年金は、公的年金給付の縮減が確実となるなかで、私的年金制度の中核として発展することが期待されている。既存の退職一時金や企業年金から確定拠出年金への移行を行うためにも、拠出限度額のさらなる引き上げが必要である。同時に、加入者からの要望が強い、加入者個人によるマッチング拠出、死亡・高度障害以外の事由による資産の引出し、中途脱退時の少額資産の引出し額の引き上げを認めることも必要である。
さらに、平成24年に廃止される適格退職年金制度について、企業年金制度へと円滑に移行させるための税制措置を講ずるべきである。

5.エンジェル税制の延長・拡充

エンジェル税制において、ベンチャー企業等に対する出資に関し、その後の売却により譲渡益が生じた場合に、課税所得を二分の一に圧縮する措置が講じられているが、ベンチャー企業の創出・発展を促進し、わが国経済の活性化を図る観点から、本措置を延長・拡充すべきである。

6.金融課税一元化・社会保障番号の導入

高齢化社会における金融資産の効率的な活用を促進するよう、金融所得課税の簡素化、二重課税の排除、損益通算・損失繰越による投資リスク低減の観点から、実務面の課題に十分配慮しつつ、金融所得課税の一体化を推進すべきである。
また、全ての納税者の所得を確実に捕捉し、納税者間の公平性を確保することは、税制に対する国民の信頼のもとにあらゆる税制改正を進める上での大前提となるものである。
とくに最近では、社会保険料を含めた公的負担が増嵩していることから、国民が公平感を実感できることがこれまで以上に重要であり、社会保障制度改革の一環として、年金や医療、介護等、個人への社会保障給付を統一的に把握・調整する観点からも、個人への社会保障(ソーシャル・セキュリティー)番号付与の必要性が高まっている。
社会保障と税を通じた共通番号による一元的なシステムづくりも念頭に、早期の導入に向けて、国民の理解をいかに得るかを含め、具体的な検討を急ぐべきである。

7.印紙税

近年、インターネット販売の一般化など、経済取引のペーパーレス化が進展する中で、文書に課税する印紙税については合理性が失われてきており、抜本的な見直しを行なうべきである。

IV.土地・住宅税制

良質な住宅・住環境は、豊かな社会形成に向けた不可欠の要素であり、社会的資産の側面も併せ持つ。しかしながら、わが国の住環境は、防災、安全、環境、高齢化対応などの面で、未だ国民の求める水準を満たしているとは言えない。先に成立した「住生活基本法」の趣旨に則り、良質な新築住宅の取得はもとより、既存住宅の質的向上や円滑な流通に資する税制を構築する必要がある。また、活力ある都市づくり、地域再生のための税制措置を講ずるべきである。

1.住宅投資減税導入に向けた早期検討

現行の住宅ローン減税は平成20年居住分をもって終了する。今後は、借り入れ、自己資金を問わず、また、新築・既存住宅購入、リフォームの区別無く、良質な住宅への投資を促進する恒久的な住宅投資減税の導入に向け、早期に検討を開始すべきである。

2.住宅ローン減税効果の確保

現行の住宅ローン減税については、三位一体改革による所得税から個人住民税への税源移譲に伴い失われてしまう減税効果を確保するよう、控除率・期間の見直しなど、所要の措置を講ずるべきである。

3.社会的要請に基づく住宅リフォーム促進税制の導入

平成18年度税制改正において創設された耐震改修促進税制を拡充するとともに、耐震に備える建替えも支援すべきである。また耐震同様に社会的な要請である、バリアフリー改修、省エネルギー改修、防犯改修についても同様の税額控除制度を創設すべきである。

4.都市・地域再生推進のための措置

平成19年3月末に期限を迎える、都市再生特別措置法に基づく民間都市再生事業及び民間都市再生整備事業に係る税制上の特例措置を延長すべきである。

5.その他

投資法人及びSPCが不動産を取得した場合の不動産取得税の特例措置の適用期限(平成19年3月末)を延長すべきである。また、PFI事業に係る資産の事業期間内での減価償却を認める特例を措置すべきである。
また、良質な住宅取得を促進する観点から、特定の居住用財産の譲渡・買換えに係る特例措置の適用期限(平成18年12月末)、住宅に係る登録免許税及び不動産売買契約等の印紙税の特例措置の適用期限(平成19年3月末)を延長すべきである。

V.環境税について

地球温暖化防止は、人類が直面する最も重要な課題の一つであり、地球規模での有効性を重視し、国際的な連携協力を図りながら対応を急ぐ必要がある。
京都議定書の第一約束期間(2008年〜2012年)が近づくなか、わが国に課せられたマイナス6%(1990年比の温室効果ガス排出削減量)の達成に向けて、国内では、昨年4月、環境税を具体的施策には位置づけない形で閣議決定された「京都議定書目標達成計画」に沿って、政府、国民、産業界がそれぞれ取組みを強化していくべきである。
わが国産業界は、90年代前半から温暖化問題に対する具体的な行動を積み重ねており、その中心となる環境自主行動計画は、着実な成果をあげている。さらに、企業は、自らの排出削減に留まらず、環境・省エネに係る技術開発を加速させ、新たな製品・サービスの提供を通じて、温暖化防止に大きく貢献している。いまや、わが国の環境・省エネ技術は世界トップクラスであり、わが国の発展を支える重要な分野の一つである。国は、企業による新たな技術開発や先進的な技術の内外への普及を支援することで、地球規模での温暖化防止に貢献するとともに、わが国経済の活性化を図るべきである。
経済と環境を両立させる地球温暖化防止対策の鍵は、民間の自主性を重視した行動の変革と技術革新にある。一部には環境税の導入により、国民の行動を変える、あるいは環境目的の財源を充実させるべきであるといった提案があるが、増税によって民間の活力を削ぎ、国際競争力を阻害するばかりか、歳出入の一体的な改革を通じた小さく効率的な政府の実現とも全く相容れない。また、同様の税負担のない近隣諸国への生産の移転を通じて、国内産業の空洞化を引き起こし、いわゆる炭素リーケージにより地球規模での温室効果ガス排出量を増大させる惧れがある。さらに、環境税に、価格上昇による化石燃料の消費抑制効果を全く期待できないことは、過去2年でガソリン価格が2割以上の上昇(2004年7月114円/リットル、2006年8月144円/リットル)を続けているにも関わらず、顕著な消費減退が認められないことからも明らかである。むしろ、現在の原油価格高騰局面では、単なる価格上昇を通じて、国民生活に深刻なダメージを与えかねない。環境税は、地球規模の課題である温暖化防止には全く寄与しないことを銘記すべきである。

VI.道路特定財源

道路特定財源制度は、受益者負担の原則の下でわが国の道路整備の推進に大きな役割を果たしてきた。道路整備需要の拡大に伴い、累次、税目が追加された結果、自動車の取得・保有、燃料消費といった種々の段階において課税が拡大され、また、1974年からは暫定措置として本来の税率の2倍を超える負担が課されたまま、今日に至っている。しかしながら、近時、歳出改革の一環として公共投資が抑制された結果、道路特定財源税収が道路歳出を上回り、2003年度以降、道路整備以外への使途の拡大が図られ、今後、さらに大幅な余剰が見込まれる状況にある。
政府与党は昨年12月に、道路特定財源について、現行の税率水準の維持と一般財源化を図ることを基本方針とした見直しを決定した。道路整備においても重点化や効率化により歳出削減を進めることは当然のことであるが、特定財源において、歳入が歳出を上回る状況が続くのであれば、受益者負担の考え方に則り、歳入面での見直しを併せて行う必要がある。
道路特定財源の見直しを進める際には、納税者たる自動車利用者の理解を得ることが不可欠である。暫定税率を維持したまま使途を変更することは、道路特定財源制度の前提である受益者負担の原則を大きく変えるものであり、納税者の理解を得ることは困難である。まずは暫定税率の速やかな引き下げなどにより、納税者の負担軽減を図り、税制の抜本改革の中で、複雑な自動車・燃料課税の簡素化を進めるべきである。

VII.おわりに

本格的な少子化社会に突入したわが国の安定的な経済成長と財政健全化を実現させるためには、国、地方を通じた歳出の徹底的な削減と併せ、税体系の抜本改革に向けた議論を加速させていく必要がある。「経済財政運営と構造改革に関する基本方針2006」に示された通り、2011年度に国・地方を合わせた基礎的財政収支の黒字化を達成するためには必要な要対応額と歳出削減額との差額は、税制改革によって対応をせざるをえない。
経済成長を維持しつつ安定的な税収を確保していくためには、経済活力への影響が比較的軽微であり、また全ての層へ公平に負担を求める消費税の拡充を中心に据えることが必要となる。基礎年金の国庫負担割合の引き上げへの対応等のみならず、直間比率の是正など経済活性化を確固たるものとする税体系の再構築の必要性を踏まえつつ、早期に税率の引き上げが必要となろう。
政府は、政策議論を深めるとともに、広く国民に対し、消費税を含む税制抜本改革の必要性について理解を求め合意形成を図るべきである。

以上

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