[ 日本経団連 ] [ 意見書 ] [ 目次 ]

教育と企業の連携推進に向けて

教育と企業の連携推進ワーキング・グループ中間まとめ

2007年5月7日
日本経団連教育問題委員会
教育と企業の連携推進ワーキング・グループ

1.基本的考え方

教育再生は国をあげて取り組むべき重要な課題である。企業にとり、人材はその活力の源泉である。子供たちが、大きな夢を持ちその夢を実現できる力を身につけるために、企業も、教育に当事者意識を持って取り組むことが必要である。企業自らも、公教育のあり方に関心を持つとともに、次世代育成を企業の社会的責任の一つとして位置づけ、教育の充実に積極的に協力すべきである。

産業界は、これまでにも、教育のあり方について各種の提言を行うとともに、地域社会の一員として、あるいは社会貢献の一環として、各社の方針に基づき、社会とのかかわりを意識させるプログラムの提供、学ぶべき知識の質・量の拡大に対応したプログラムの提供に取り組んできた。特に、総合的な学習の時間やキャリア教育の導入など、企業の人材やノウハウを学校教育に積極的に活かす機会は増えつつあり、次世代を担う人材の育成に引き続き協力する方針である。

改めて言うまでもなく、教育の再生には、教育界(教員、学校、教育委員会、国など)が、国民の期待に応える学校教育実現の担い手として主体的に改革・改善に取り組むことが不可欠であり、教育界にあっては、学校経営や授業の改善に向けて、地域や企業などの外部人材・ノウハウを活用することに積極的かつ主体的に取り組むことを強く期待したい。

以下、これまでの取組みを踏まえ、本報告では、初等中等教育段階における学校教育と企業の連携を強化する上で解決すべき課題、産業界としての取組み方針、教育界などへの要望を記す。また、当ワーキング・グループでは、今後、教育界が活用しやすい形での情報提供などを目的とした活動を行う予定である#1

2.企業の教育分野の社会貢献活動の現状

「社会貢献活動実績調査結果(2005年度実績)」(日本経団連実施#2)によると、社会貢献活動支出全体に占める教育分野の比率は増加傾向にあり、2005年度で約16%#3を占めており、他分野より高い。

また、日本経団連会員企業34社#4に対し、今年2月に実施したアンケート結果によると、小中高校の児童・生徒・教員を対象に実施している教育分野のプログラムとして、(1)講師派遣など授業への協力、(2)社会体験活動・インターンシップ受け入れ、(3)学校と連携した課外活動への協力、(4)教員対象の講座・インターンシップ、(5)企業独自の教育関連講座、(6)ツール、ノウハウ、資金提供、(7)教育関連NPO支援、など多くの事例が寄せられた。

3.学校教育と企業の連携促進に向けた課題

産業界からは、教育界が、企業との連携に不安感、抵抗感があることに加え、学校と企業の連携プログラム(以下「連携プログラム」とする#5)を実施するうえで、例えば、(1)学校、教育委員会において、教育支援の社会貢献活動を相談する対応窓口が不明確、(2)学校、教育委員会、知事部局(産業部局、労働部局)からの要請が突発的かつ連続性に欠ける、(3)学校側のニーズの把握が難しい、などの指摘がある。

教育界においては、体験活動やキャリア教育など外部(地域・企業)との連携の必要性に対する認識は高まっているものの、(1)外部との連携を担当する教員が多忙、(2)連携プログラム実施の経験や研修の不足、などの問題#6が指摘されている。また、産業界に対しては、(1)どのようなルートで依頼ができるのかが不明確、(2)具体事例の紹介が少ないため、授業にどのように取り入れることができるのかイメージがわかない、などの声が寄せられている。

教育と企業の連携促進、プログラム内容の充実に向けて、教育界の意識改革と企業が組織的かつ効率的に対応できるような仕組みが必要である。教育と企業の連携を促進するためには、教育委員会を中心に、地域毎に関係者(教育界、自治体、企業、経済団体など)が連携プログラムの推進に向けて対話の機会を持つことが重要である。

4.産業界の今後の取組み

産業界は、次世代育成を企業の社会的責任の一つとして位置づけ、以下に取り組む。

(1) 日本経団連は、

  1. 日本経団連ならびに姉妹団体である経済広報センターの教育支援活動の充実を図る
  2. 企業の連携プログラムについての情報発信を強化する
  3. 会員企業、加盟の業界団体などに対し、教育への協力を呼びかける
    (連携プログラムの充実、学校が活用しやすい形態での情報発信など)
  4. 会員企業に対し、社員が学校教育に積極的に参加する機運を醸成するよう呼びかける

(2) 経済団体間で連携を強化し、

  1. 各企業の連携プログラムに関する情報のネットワーク化・共有化に取り組む
  2. 連携プログラムのモデルケース・先進事例などの情報を発信する
  3. 連携プログラムを通じ、企業が求める人材像を教育界に伝える#7

(3) 各企業は、

  1. 各社の受け入れ方針を明確にした上で、学校のニーズに合致した連携プログラム、この他の教育分野の社会貢献活動を充実する
  2. 教育分野の社会貢献活動についての情報を発信する
  3. 社員が学校教育に積極的に参加する機運を醸成する。また、自社の出前授業のノウハウやツールなどを社員に提供し、保護者(地域住民)の立場で地元の学校で活動することを支援する。
  4. 子供たちに悪影響を与えると思われる番組や有害な情報から子供たちを守るための配慮をする

5.教育界、自治体への要望

産業界では、教育と企業の連携プログラムの促進に向けてこうした取り組みを行う方針であるが、教育界、自治体に対しては、以下の取り組みを期待したい。

(1)教育委員会が、学校と企業の連携促進に必要な支援・調整を積極的に行うこと

学校には、企業との連携の前例がないことなどから抵抗がある場合が多いため、以下のような教育委員会の積極的な活動を期待したい。連携プログラムへの教育委員会の取り組みを、教育委員会の自己評価・外部評価の評価項目とすることも考えられる。

  1. 企業との連携促進についての明確なスタンスの表明
  2. 連携プログラムの周知ルートの設定
  3. 学校側のニーズについてのアンケート調査の実施や情報交換の機会の設定
  4. 教員研修への企業協力プログラムの組み入れ
  5. 日程調整#8(急な依頼や複数校からの同時依頼の回避)

(2)学校が組織的に対応する環境整備を図ること

連携プログラムの実施とその充実に向けて学校が組織的に対応することが重要である。学校が企業との連携プログラムを実施するにあたり、なんらかの費用が発生する場合、学校は、予算面での調整がほとんどできない。学校の取り組みを支援するため学校裁量予算を拡大するなど予算面での措置を講ずるべきである。

また、地域や企業など外部との連携を学校や校長の評価項目し、評価結果の公表を義務付けるなど、組織的な対応を促す仕組みも検討すべきである。

(3)学校(校長、教員)が明確な目的意識を持ち、主体的に取組むこと#9

学校側が、企業に授業運営全般(授業の進め方の企画、事前準備、人員など)を安易に任せるようでは子供たちの興味・関心を引き出すプログラムは実現しない。キャリア教育の一環で実施される職場体験においても、学校における事前事後活動が不可欠である。

  1. 事前事後の打合せの実施(生徒の関心の把握、事後の感想文提出など)
  2. 共通の目標設定やスケジュール管理の必要性への理解

(4)自治体の関係部局が連携すること、既存の人材、ノウハウなどを活用すること

複数省の合意事業であっても、現場では、教育委員会、産業部局、労働部局などのルートで、類似の協力依頼がばらばらに寄せられており、窓口を一本化することが必要である。

また、学習コーディネーターの育成の必要性が指摘されているが、各地の社会福祉協議会やNPO支援センターが有するコーディネートやマッチング機能を教育分野で活かすことも重要である。地元の卒業生にコーディネーターや指導員を依頼し、成功している例もある。

さらに今日では、子供の健全な育成を目指し、様々な分野で専門的知識やノウハウを持ち活動しているNPOも多く、このような市民団体の力を活用することも重要である。

(5)国、教育委員会は好事例を把握し積極的に紹介すること

教育と企業の連携活動に対する教育現場の理解を高め、全国の学校や社会教育施設などへの展開を促進することを目的に、国、教育委員会は、企業などが実施する教育との連携プログラムの現状を把握し事例を紹介する。

以上

  1. 教育と企業の連携ワーキンググループ(日本経団連教育問題委員会内に設置)では、教育界と企業の連携の在り方を検討している。企業の教育分野の社会貢献活動は、学校とは直接関係しない地域活動など多岐にわたるが、本報告書では、学校(小中高校)と企業が連携したプログラムに絞って課題を検討した。また、高等教育における連携については、日本経団連では、理工系の高度人材・研究者養成に向けた産学連携の拡充策を中心に提言を行っている。今後、必要に応じ、高等教育分野における連携の実態や今後のあり方などについて取りあげたい。
  2. 2006年8月〜10月実施、日本経団連会員企業、1%クラブ法人会員合計1403社を対象に調査、447社が回答
  3. 2003年度10.0%、2004年度12.6%、2005年度16.1%と増加傾向にある。
  4. 社会貢献フォーラム参加企業(2007年2月、日本経団連主催)参加企業に対する調査
  5. ここでいう「連携プログラム」とは、企業が、学校(小中高校)や教育委員会と協力して実施する講師派遣、体験活動・インターンシップの受け入れ、課外活動、教員対象の講座などのプログラム。
  6. 国立教育政策研究所社会教育実践研究センター 奉仕活動・体験活動の推進・定着のための研究開発「学校における体験活動ボランティア活動のコーディネーター研修プログラムの開発に関する調査研究報告書(平成17年度)」
  7. 日本経団連では、「21世紀を生き抜く次世代育成のための提言」(2004年4月)において、求める人材像を提示しているが、連携プログラムを通じて、求める人材像について共通認識を高めていく。
  8. 学校の年間スケジュールは、前年度の2月ごろまでには決定し、その後のフレキシブルな変更が難しい。例えば、教育委員会が中心となって、各学校の連携ニーズをとりまとめ、年間の大まかな支援スケジュールを立てることができれば、企業としても効率的に的確な対応が可能となる。
  9. ワーキング・グループ各社に成功事例とその成功要因を質問したところ、学校・教育委員会と企業が明確な共通目標を持ち、共に取り組んだことを挙げる回答が多かった。

日本語のトップページへ