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国・地方を通じた財政改革に向けて

2007年9月18日
(社)日本経済団体連合会

1.はじめに

経団連は、2007年1月、今後10年間を見通した経済社会の将来ビジョン「希望の国、日本」を公表した。その中で、すべての国民が、将来への希望を持って働き、暮らしていくことのできる「希望の国」を実現するために、高い経済成長を維持していく中で、国民生活の安心を支える財政の持続可能性を確立すること、また、地域経済の自立を通じて日本全体の豊かさの向上を図る観点から、「道州制」を導入することを訴えた。
これらの課題について、まず、国・地方を通じた財政状況は、緒に就いたばかりの段階とはいえ、徐々に健全化に向かいつつある。
道州制については、政府の「道州制ビジョン懇談会」が設置され、また与党においても鋭意検討が進められるなど、次第に議論が深まりつつある。
また、本年6月に閣議決定された「経済財政改革の基本方針(基本方針2007)」において、「2007年秋以降、税制改革の本格的な議論」を行うこととされている。
こうした状況を踏まえ、本提言では、中長期的な財政健全化目標ならびに国・地方の税・財政関係のあり方について、経済界としての考え方を改めて示すこととする。

2.財政の現状と課題

(1) 基礎的財政収支黒字化後の健全化目標

わが国では、過去数年にわたり、国・地方を通じた基礎的財政収支を黒字化させることを目標に、財政健全化に向けた取り組みが進められてきた。歳出面においては、政府・与党の真剣な取り組みにより、各分野にわたり、着実に削減努力が続けられている。他方、歳入面においても、官民双方の努力によって日本経済が活力を取り戻し、法人税をはじめとした税収が大幅に拡大している。国・地方を合わせた税収額は90兆円を上回り(2007年度当初予算ベース)、かつてのバブル期並みの水準にまで高まっている。今後の経済情勢や歳出削減努力にもよるが、当面の目標である2011年度における国・地方を通じた基礎的財政収支の黒字化達成は必ずしも不可能ではなくなっている。
しかし、楽観は許されない。わが国においては、1980年代後半にも税収が大幅に拡大し、バブル経済末期の1989年度には、かねてからの目標とされてきた特例国債(赤字公債)脱却に成功した。経済が過熱気味だったこともあり、これを機に本来は歳出抑制策がとられるべきだったにも関わらず、歳出は拡大を続け、また、その後のバブル経済崩壊により税収も減少に転じた結果、わが国財政は極端に悪化することとなった。この過ちを二度と繰り返してはならない。
そのような観点を踏まえれば、現在目指されている基礎的財政収支の黒字化は、政府債務残高対GDP比のさらなる上昇を避けるという意味にとどまるものであり、財政健全化に向けての一里塚に過ぎない。実際、2006年7月に閣議決定された「経済財政運営と構造改革に関する基本方針(基本方針2006)」では、小泉内閣における財政健全化の取り組みを「財政健全化第一期(2001〜2006年度)」とし、「第二期(2007〜2010年代初頭)」における基礎的財政収支の黒字化はあくまで「財政健全化の第一歩」と位置づけられている。その上で、「第三期(2010年代初頭〜2010年代半ば)」に向けては、国・地方を通じ収支改善努力を継続し、基礎的財政収支の「一定の黒字幅を確保する」ことを通じ、「債務残高対GDP比の発散を止め、安定的に引き下げることを確保する」こととされている。
もちろん債務残高対GDP比の発散は何としても回避しなければならないが、それで十分という訳ではない。わが国財政の足もとの状況を見ると、国・地方合計の長期債務残高は、2007年度末で773兆円、GDPの約1.5倍と、先進国中最悪の水準に達している。債務残高の内訳を見ると、地方の債務残高は約200兆円(2007年度末)と高水準にあるとはいえ、その増加傾向には歯止めがかかりつつある一方で、国の債務残高は607兆円(同)と極めて巨額な上に、増加傾向に歯止めがかかっていない。これを税収との対比で見た場合、国は税収(交付税等移転後)の15倍超の債務を抱えており、第二次大戦末期に匹敵する状況とされる。このように、わが国財政は依然として危機的な状況にあり、中長期的な持続可能性は全く確保されていない。
とくに、今後のわが国財政を見通した場合、懸念されるのは債務の利払費の問題である。わが国では、長年にわたり超低金利政策がとられてきたこともあり、政府債務残高の急増にもかかわらず、これまでは、利払費の水準が抑制されてきた。1990年代を通じて利払費(一般会計)は10兆円前後で推移し、2000年代に入ってからは、債務残高の拡大傾向とは逆にその額は緩やかな低下が続いた。利払費の急増による財政収支の悪化という事態が避けられてきたことは確かであるが、このことが、債務規模が先進国中最悪の異常ともいえる状況にあるという事実を覆い隠してきた面も否めない。こうした中、2006年7月にいわゆるゼロ金利政策が解除され、金利水準が引き上げられており、また、市場金利も上昇傾向にある。この結果、利払費も、2005年度の7兆円(決算)をボトムとして2007年度には9.5兆円(当初予算)と再び増大に転じている。このまま債務規模が抑制されなければ、わが国財政は、金利負担が新たな債務につながる、すなわち借金が借金をよぶという状況に陥りかねない。
財政の中長期的な持続可能性を確立する観点から、国・地方を通じた基礎的財政収支の黒字化を一つの通過点として、さらに目指すべき財政健全化目標を速やかに設定し、歳出・歳入両面にわたる財政構造改革を継続的に進めていかなければならない。

(2) グローバル化・少子高齢化に対応した財政の確立

わが国は、経済のさらなるグローバル化に伴う国際競争の激化と、人口減少下における高齢化の進展という、内外の大きな潮流変化に直面している。その中で、わが国が引き続き経済の活力を維持し、豊かな国民生活を実現する観点から、それに対応した財政構造を確立する必要がある。
わが国が本格的な少子・高齢社会に突入する中で、社会保障受給者数は確実に増加していく。このため、社会保障制度等を現状のまま放置すれば社会保障給付が大幅に拡大し、これに伴って社会保障に係る公的負担が増大し、財政を大きく圧迫する要因となる。具体的に見ると、今後、高齢者(65歳以上)人口は年3%程度の早いペースで増大し、それに応じて人口に占める高齢者の割合も年々上昇していく。これにより社会保障給付も、足もとの90兆円(2006年度)から2025年度には141兆円(厚生労働省推計)と大幅に拡大する見込みである。とりわけ高齢者医療と介護に係る給付が、経済成長を上回って増大することが見込まれている。
このような社会保障費の増加は、歳出構造の硬直化を招くだけでなく、成長力にも悪影響をもたらす。社会保障費の増大により、税と社会保険料負担からなる国民負担率が増大すれば、経済の活力が削がれることとなる。経団連が本年6月に公表した意見書「豊かな生活の実現に向けた経済政策のあり方」における分析によれば、国民負担率の上昇は、家計貯蓄率の低下と民間総固定資本形成の抑制などの経路を通じて、経済成長率を引き下げる。このままでは、新興途上国をはじめ世界経済が拡大を続ける中で、日本のみが低成長を余儀なくされ、グローバル競争の中でとり残されることになりかねない。
今こそ、社会保障制度の抜本的改革を中心に、国・地方を通じて可能な限り小さくて効率的な政府を実現することによって、国民負担率の上昇を抑制していかねばならない。

(3) 道州制移行を見据えた税・財政制度

経団連は、本年1月に公表したビジョン並びに3月に公表した意見書「道州制の導入に向けた第1次提言」 <PDF> において、わが国に道州制を導入し、各地域の発展・成長を日本全体の豊かさの向上につなげていくことを訴えた。
今後、それぞれの地域が自らの知恵と責任において、自立的に発展・成長していくうえで、地方政府の役割がより一層重要となるが、それは地方において「大きな政府」を作ることを意味するものでは決してない。これから、国・地方の税・財政関係の見直しを進めていくことになるが、これを国対地方の財源争いに矮小化してはならない。必要なことは、国・地方間の役割分担を抜本的に見直すことにより、行政の無駄を省き、民に委ねるべきは民に委ねるとともに、国・地方の事務・事業や人員の重複を排除し、国・地方を通じて「小さくて効率的な政府」を確立することである。同時に、民間の活力を最大限引き出し、地域の活力につなげていくことこそが、今後のわが国が目指すべき方向である。
道州制の導入は、明治期以来100年以上続いたわが国の地方体制を刷新する言わば「究極の構造改革」であり、国民的な議論を通じて腰を据えた検討が求められる。国・地方の税・財政を考える上でも、常に道州制というゴールを見据えつつ、そのあり方を議論していく必要がある。

3.財政改革の視点

(1) 国・地方それぞれの課題設定

当面の目標とされている国・地方を合わせた基礎的財政収支が、引き続き財政健全化努力を進めることによって黒字に転じたとしても、現在の傾向では、マクロで見た地方財政は一定の基礎的財政収支黒字を維持する一方で、国の一般会計は依然赤字が続く見込みであり、国の財政についての持続可能性は担保されない。政府債務残高の大宗は国が発行する国債により占められており、国の財政の健全性が確保されない限り、国債に対する市場の信認をつなぎとめることはいずれ不可能となる。わが国の国債は、現状ではその過半が公的部門(郵便貯金、日本銀行、公的年金等)により保有されているものの、個人や海外部門の保有割合が徐々に増大するなど、国債の保有構造が次第に変化しつつある中で、万が一、国債に対する信認が失われるようなことがあれば、国債価格の暴落、長期金利の高騰という事態につながりかねない。前述のように、わが国財政は長期金利の高騰に対して極めて脆弱な構造となっていることから、利払費の上昇がさらなる財政収支の悪化を招くという悪循環が生じることも容易に予想される。さらに、わが国財政の持続可能性への懸念が、わが国経済そのものに対する信頼性の低下につながれば、円の暴落とインフレ亢進により経済が立ち行かなくなる事態さえ生じかねない。
したがって、国・地方を通じた基礎的財政収支を黒字化した次の段階において、国の一般会計についての健全化目標を早急に設定し、歳出入改革努力を着実に継続していくことが求められる。
他方、地方財政については、マクロ的には基礎的財政収支黒字を維持している。これは、ここ数年、国と歩調を合わせて歳出抑制に努めてきた成果ではあるが、歳出の長期的推移を見ると、国の一般歳出の水準は、1975年度を100とした場合に2006年度には293であるのに対し、地方の一般歳出は330と国の水準を上回っている。とりわけ地方単独事業(一般行政経費及び投資的経費)の水準は426と、500を超えていたピーク時に比べれば削減が進んだことは事実ではあるが、依然として肥大化が否めない状況にある。他方、歳入面を見ると、地方交付税については、三位一体改革の過程においてスリム化が図られ、また、算定方法を大幅に簡素化した新型交付税の導入が行われるなど、一定の改革が進められている。しかし、本来はナショナルミニマムを保障すべき地方交付税に対し、依然として大多数の地方自治体が財源の多くを依存する状況が続いている。長期にわたる景気回復が続いているにもかかわらず、地方交付税の不交付団体は、都道府県ではわずか2団体(2006年度)に過ぎず、市町村では約1,800団体のうちの1割程度に過ぎない(同)。しかも、過去、地方財政計画上の地方交付税額と法定率分との不足額を補填するために、交付税特別会計の借入金が拡大してきた。それにもかかわらず、個別自治体の財政状況を見ると、厳しい状況に置かれたところが相当数にのぼることも事実である。地域による財政力の格差は、根本的には企業立地が都市圏に集中するなど、地域が自立して発展していくための基盤が不十分であることによるものである。道州制という抜本的な制度変更を通じて、地方においても小さくて効率的な政府を確立するとともに、全ての地域が自らの足で立つことのできる税・財政制度を形作っていくことが、最も重要な課題であると言えよう。

(2) マクロ経済との整合性

財政を中長期的に健全化していくためには、経済成長を維持することが不可欠の要件である。バブル経済の崩壊後、経済が長期にわたり低迷する中で、税収も低落傾向が続いてきたが、日本経済が活力を取り戻し、税収も2003年度を底として拡大に転じている。こうした足下の経験で明らかなように、経済が持続的に成長してはじめて税収も改善し、また一定の範囲でマクロ経済が歳出入改革によるインパクトを吸収することも可能となる。逆に、経済が失速すれば、税収が落ち込むばかりでなく、何よりも国民の支持を得て歳出入改革を継続することも不可能となる。
近年の財政改革においては、公共事業費の削減をはじめとして、歳出面の合理化が厳しく図られてきたが、それと同時に、所得税・住民税の定率減税の段階的廃止、配偶者特別控除の原則廃止など、実質的な増税が進められてきたことも事実である。また、厚生年金保険料率も、2004年の制度改正によりそれまでの13.58%から、2017年にかけて毎年0.354%ずつ引き上げられることとなっている。こうした国民負担の上昇はやむを得ないものであったとしても、その影響を軽視することは許されない。
わが国の危機的な財政状況を踏まえれば、財政の建て直しが急がれることは当然であるが、今後、歳出入改革を続けるにあたっては、マクロ経済運営に対して、細心の注意を払うことも欠かせない。

4.今後の財政健全化目標のあり方

(1) 財政健全化に関する中期ルールの検討

財政健全化に向けた取り組みは、長期にわたる努力が求められる。わが国財政は1990年代を通じて悪化の一途を辿った。これと対照的に、多くの先進国においてはこの間、財政改革が進展し、財政の黒字化に成功した国も多い。ただし、2000年代に入ると、オーストラリアやスウェーデン、オランダなど、健全性を維持する国がある一方、アメリカやイギリス、ドイツなど、再び財政収支が悪化した国もある。
各国の財政パフォーマンスの変動要因は、各国固有の事情によるところも大きいが、注目されるのは、1990年代以降、各国において、中期的な財政ルールの設定など、財政健全化に向けた様々な仕組みが整備され、発展を見せていることである。
例えば、アメリカでは、裁量的支出に対する支出キャップや義務的経費等に対するpay-as-you-go(財源の手当てなしに支出増は認めない)原則が導入され、90年代後半には財政収支の黒字化に成功した。ただしその後、国防費等の支出増加により、財政収支は再び悪化に転じており、現在、2012年度までの連邦政府の財政収支の均衡が目指されている。
イギリスでは、1997年に誕生したブレア政権下において、「財政安定化規律」が策定され、これを受けて借入れを投資的経費に限定する「ゴールデン・ルール」と、公的部門の純債務残高対GDP比を40%以内とする「サステナビリティ・ルール」が導入されている。
EUでは、1993年のマーストリヒト条約において、ユーロによる通貨統合への参加基準として、フローの財政赤字対GDP比を3%以内、ストックの政府債務残高対GDP比を60%以内とすることが決められ、これに向け、各国で財政健全化のための努力が進められた。ただし、ユーロ参加後、ドイツ、フランス、イタリアなどでは、再び財政収支が悪化している。
オーストラリアやニュージーランド、スウェーデン、オランダ、カナダといった国々は、1990年代に財政収支の改善に成功し、現在に至るまでその健全性を維持している。これらの国々においては、財政を中期的に管理するためのルールが整備されてきている。たとえば、オーストラリア、ニュージーランドでは、4年間の経済見通しに基づいて歳出を抑制するメカニズムを導入しているほか、スウェーデンは、3年間の歳出総額のシーリングを設定し、景気循環を通じて平均的に財政収支の対GDP比を2%の黒字とすることとされている。オランダも、4年間の実質純支出にシーリングを設定するルールを1994年に導入している。
わが国財政の基本的なルールとしては、財政法第4条において「国の歳出は、公債又は借入金以外の歳入を以て、その財源としなければならない」とされ、同条ただし書において「公共事業費、出資金及び貸付金の財源については、国会の議決を経た金額の範囲内で、公債を発行し又は借入金をなすことができる」とされている。これは、イギリスにおける「ゴールデン・ルール」に相当する。しかし、わが国では、1975年度にいわゆる特例国債(赤字公債)が発行されて以降、バブル経済により税収が拡大した一時期を除き、特例国債からの脱却を果たせず、むしろ特例国債への依存が進んでしまっている。
近年の取り組みとしては、1997年には「財政構造改革法」が制定され、2003年度までに国・地方の財政赤字の対GDP比を3%以内に抑制することなどが目指されたものの、同法は翌年凍結される結果となった。これは、日本経済が1997年末以降、マイナス成長に落ち込む中で、同法が経済の動向に柔軟に対応する仕組みを欠いていたことも一因となった。
その後、2001年6月の「経済財政運営及び経済社会の構造改革に関する基本方針(いわゆる骨太の方針)」や2002年1月の「構造改革と経済財政の中期展望(改革と展望)」などにおいて、2010年代初頭に国・地方の基礎的財政収支を黒字化するとの方針が示され、以降、それに向けた取り組みが着実に進められている。さらに「基本方針2006」では、2011年度において基礎的財政収支を確実に黒字化すべく、社会保障、公共事業、公務員人件費、その他(ODA等)、各分野における5年間の歳出削減プログラムが、数値目標も含めて設定された。
このように、わが国においても、一定の目標を目指して、財政改革を継続的に行う取り組みが進められていることは評価できる。しかし、歳出削減プログラムについては、2011年度までの「基本方針2006」で定められたものしかなく、2012年度以降においても削減を着実に進める道筋は明確となっていない。また、2007年1月の「日本経済の進路と戦略(進路と戦略)」においては、「各年度の予算が目標の確実な達成と整合的であるかどうかを確認しながら、予算を編成する仕組みが必要」とされているものの、経済成長率などマクロの経済動向や歳入見通しを踏まえつつ、複数年を通じて予算をコントロールする仕組みにまではなっていないのが現状であり、わが国においても、諸外国の例も参照しつつ、中期的な財政健全化ルールの整備を図っていく必要があると考えられる。

(2) 財政健全化目標の設定・共有

当面の財政健全化目標である基礎的財政収支の黒字化が視野に入りつつある現在において、次に目指すべき健全化目標を設定することは重要である。ただし、何らかの数値目標を掲げるとしても、財政赤字3%(GDP比)、グロス債務残高60%(同)と、フロー・ストック両面の目標を持つEU、景気循環を通じて財政収支を2%黒字とするスウェーデン、ネットの債務残高をGDP比40%以下とするイギリスなど、フローとストックいずれかないし双方の目標設定が考えられ、また、数値の置き方も各国の経済事情などにより様々であり、裁量の余地が大きい。また、前項で見たように、健全化目標及び歳出入改革を進める手法については、経済の変動に対して柔軟性を持って考えることが重要である。
わが国においては、2011年度における国・地方の基礎的財政収支黒字化の次の段階としては、「進路と戦略」などにおいて、2010年代半ばにかけて基礎的財政収支の「一定の黒字幅を確保する」ことを通じ、「債務残高対GDP比の発散を止め、安定的に引き下げることを確保する」とされているが、一定の黒字幅について具体的な数値目標が示されるには至っていない。
債務残高対GDP比を一定水準へ抑制していくために、基礎的財政収支の一定の黒字幅の確保を中間目標とする考え方は、一国経済の規模と政府債務残高との相対的なバランスをとっていくというものである。債務残高の絶対額が増大したとしても、その増加率と同等かそれを上回って経済が拡大すれば、債務残高対GDP比は一定の値以上には増大しないことは確かである。しかし、わが国の政府債務残高は800兆円近くと未曾有の規模に達し、先進国中最悪の財政状況にある。また、借換債を含む国債発行額は年100兆円を優に超えている。たとえ、経済に対する債務の相対的規模が一定水準に維持されたとしても、今後も安定的な市中消化が可能かどうかは甚だ心許ない状況にあると言わざるを得ない。
こうした状況に鑑みれば、債務残高対GDP比を現在の水準で維持することは適当ではなく、目指すべき明確な目標を設定し、安定的に引き下げていくことが不可欠である。経団連意見書「成長と財政健全化の両立に向けて(2007年1月)」における財政試算#1によれば、2007年度末時点で約116%と見通される国の長期債務残高対GDP比について、歳出入改革を着実に進めれば、遠くない将来において100%以下まで低下することは視野に入るものと考えられる。
このように、債務残高対GDP比を安定的に引き下げる方向で、財政健全化への取り組みを着実に進めていく必要があるが、各年度の歳出入を管理する観点に立った場合、債務残高対GDP比は将来のGDPの見通しによって大きく変わる可能性があり、その結果必要とされる基礎的財政収支の黒字幅も変化すること、また、そもそもSNA(国民経済計算)ベースの基礎的財政収支の値は事後的に作成・判明するものであり、予算編成時に用いることは技術的に困難であること、などの問題が存在する。そこで、債務残高対GDP比の値については中期的に目指す一種の目安目標と置いた上で、これを実現していくために、各年度の予算編成上の基準を置いて管理していくことが考えられる。予算編成上の基準について、まずは、その年の税収により政策経費を賄う基礎的財政収支の黒字化が考えられる。その次の段階としては、債務の利払費までをカバーする狭義の財政収支の黒字化が考えられる。さらには、債務の償還費までを含めた一般的な意味での財政黒字(広義の財政収支黒字化)がある。このうち狭義の財政収支の黒字化が達成されれば、債務残高の絶対額の増大に歯止めがかかり、一定の成長を続ける経済においては、債務残高対GDP比は年々減少していくこととなる。したがって、マクロ経済との関係も勘案した上で、基礎的財政収支黒字化後の次の目標として、狭義の財政収支の改善に向けた赤字縮減を目指すことが選択肢として考えられよう。
なお、上記の考え方は国の一般会計について適用されるものであり、地方自治体の財政健全化については、当面、先に成立した「地方公共団体の財政の健全化に関する法律(地方財政健全化法)」等を踏まえ、適切な基準の下に管理を行っていく必要があり、また、より根本的には、道州制の導入によりそれぞれの地域が経済的に自立可能な税・財政制度を確立していく必要がある。

#1 原則として「基本方針2006」に沿って歳出削減を行うとともに2015年度までに段階的に消費税率を引き上げる(第一段階2%、第二段階3%)ことを想定

5.財政健全化に向けた当面の課題

当面の課題として、2011年度までの基礎的財政収支の確実な黒字化を実現するために、政府の「基本方針2006」でスタートし「基本方針2007」で補強された主要分野における歳出削減プログラムを、着実に実行することが不可欠である。
その後も引き続き、歳出入改革を継続的に行うことが重要であり、前項で述べたように、中期的な財政再建目標を掲げた上で、2012年度以降についても、実効性のある歳出削減プログラムを策定すべきである。

(1) 社会保障制度の一体的改革

わが国が本格的な少子高齢社会に突入する中で、社会保障関係費は、歳出を圧迫する最大の要因となっている。小泉政権下における歳出改革が開始された2001年度から足もとの2007年度までの間の一般会計歳出の変化を見ると、公共事業をはじめ社会保障以外の歳出は計5.2兆円の削減が行われた一方、社会保障関係費については、制度改革を含む削減努力が重ねられたにもかかわらず、計3.5兆円の増加となっている。すでに社会保障関係費は国の一般歳出の45%を占めるまでになっており、今後も年1兆円というペースでの増大が見込まれる。公的年金制度については、2009年度を目途に基礎年金国庫負担割合を1/2に引き上げることとされているが、そのためにはおよそ2.5兆円の財源が必要とされる。また、医療ならびに介護についても、今後給付が増嵩していくことが確実であるが、現役世代に対する保険料負担を可能な限り抑制していくためには、公費負担の役割を維持・拡大していかざるをえない。
こうした状況を踏まえ、医療・介護・年金を中心とする社会保障制度を一体的に見直すことにより、経済の身の丈に合った持続可能な仕組みとしていく必要がある。社会保障制度の持続可能性を確保することは、国民の将来不安の軽減につながり、消費拡大ひいては経済成長にも好影響を及ぼす。そこで、まずは、「基本方針2006」で定められた、5年間で国・地方を合わせた社会保障関係費を自然体に比べ1.6兆円削減するとの目標を、着実かつ計画的に実現していかなければならない。さらにその後も、社会保障給付の伸びを「高齢化で修正した成長率」(名目成長率に公的年金のマクロ経済スライドを考慮した上で高齢化の進行率を加算したもの)以下に抑制すべきである。
具体的な課題として、第一に、かねてより経団連では、医療・介護・年金等の社会保障制度全体の共通基盤として、社会保障番号と社会保障個人勘定を早急に導入し、制度の透明性を高めるとともに、給付の重複排除、事務の効率化、コスト削減を図るべきことを主張してきた。この点については、「社会保障カード」を2011年度を目途に導入するとの方針が示されるなど、政府・与党の取り組みが進展しつつある。今後、こうした検討を加速させ、国民にとって使い勝手が良く、また、社会保障制度の効率化、コスト削減に資するシステムの構築を急ぐ必要がある。
第二に、公的年金制度についてはマクロ経済スライドの導入により基本的には給付と経済成長との整合性が図られる見込みである一方、医療・介護については、現状のままでは、経済成長を上回るペースで給付が増加する見込みである。このため、療養病床の再編と平均在院日数の短縮、包括払い化の一層の拡大や診療報酬の見直し、後発医薬品の使用促進、レセプトの完全オンライン請求化を含む「医療・介護サービスの質向上・効率化プログラム」を着実に具体化する必要がある。加えて、保険者による医科レセプトの直接審査実施のための要件緩和、保険免責制の導入の可能性、さらには終末期医療のあり方などについても検討を深めるべきである。また、介護保険制度についても、現役並所得者の自己負担の適正化や、要介護度の改善に役立つ給付への重点化などの見直しが必要である。これらの取り組みにより、「基本方針2006」で定められた5年間での社会保障関係費削減目標を確実に達成しなければならない。
第三に、公的年金制度についても、給付時に一定以上の所得・資産を有する者に対する基礎年金給付の逓減や公費部分の支給停止、報酬比例部分の支給乗率の逓減に加え、所得代替率の下限の引き下げ、基礎年金の財源方式のあり方などを含め、制度の根幹に踏み込んだ見直しを検討していく必要がある。

(2) 公務員人件費を中心とする行政経費の削減

財政の健全化を進めるために、行政改革を聖域なく推進し、「小さくて効率的な政府」を確立しなければならない。
第一に、行政経費の大きな割合を占める公務員人件費については、「行政改革推進法」や「基本方針2006」などにおいて、5年間で公務員の定員を5.7%以上純減することなどにより、国・地方の公務員人件費を5年間で2.6兆円程度削減(自然体比)することとされているが、本年6月の「基本方針2007」で明記された通り、これをさらに上回る削減を行うことが不可欠である。国民生活に大きな影響を与える歳出入改革を進める以上、外部情勢に関わらず、人件費の抑制方針は貫かれなければならない。とりわけ、地方公務員の給与水準については、地域の民間給与水準との乖離、技術労務職の過大な給与水準、国家公務員給与との比較などの問題を踏まえ、厳しく抑制していく必要がある。
同時に、先に行われた国家公務員法改正を踏まえつつ、採用から退職までの人事管理、能力と実績に基づく賃金・処遇制度のあり方、定員のさらなる見直しなど、パッケージとしての公務員制度改革を推進し、総額としての人件費の抑制と公務員の能力発揮の両立を図っていく必要がある。
第二に、「官から民へ」の原則に基づき、政府の業務を必要最小限に絞り込み、筋肉質の政府としていくべきである。したがって、官民の役割分担をゼロベースで見直し、民間から提案がある事業については、原則として市場化テストや民間開放の対象事業とすべきである。とくに、「基本方針2007」でとりあげられたハローワークや統計調査関連業務については、市場化テストの導入・拡大をより一層積極的に進める必要がある。同時に、現行の独立行政法人についても、全ての法人を対象に、民営化や民間委託の是非を検討し、合理化を進める必要がある。

(3) 公共事業の効率化

公共事業については、過去数年来、削減努力が続けられ、補正予算を含む公共事業費はピーク時の半分の水準と、財政の健全化に寄与してきている。ただし、先進諸外国に比べれば、GDP比で見た投資水準が依然として高いことも事実である。したがって、経済活性化に資する事業への重点化など対象事業の優先順位の明確化や、コスト削減、入札・契約制度改革などの取り組みを通じて、さらなる効率化を進めていく必要がある。

(4) 地方財政の改革

国と地方の税・財政関係については、かねてより、地方交付税交付金、国庫補助負担金により国から地方への巨額の財政移転が行われ、地方の行政ニーズへの対応が図られる一方で、このことが国の財政を圧迫する大きな要因ともなってきた。近年、国・地方を通じた歳出削減が続けられる中で、交付税特別会計の特例借入れの解消が図られている。また、三位一体改革の一環として、国庫補助負担金の改革とそれに伴う国から地方への3兆円規模の税源移譲、約5兆円の地方交付税改革が行われるなど、改革努力が進められている。しかし、地域ごとの財政力の格差は依然として大きい。国の財政も危機的な状況にある中で、かつてのように中央から地方への財政移転の拡大により、これを解決することは望むべくもない。また、交付税特別会計借入金の償還を計画的に推進していく必要もある。地方税、地方交付税、国庫補助負担金、地方債のあり方も含め、道州制の導入を見据えつつ、各地域が自立し、自らの責任と選択の下に地域経済の発展と地方行政の効率化、合理化を進められる税・財政の仕組みを設計していくことが何よりも求められる。

(5) 経済成長戦略ならびに少子化対策への重点配分

財政を着実に健全化していくためには、持続的な経済成長が欠かせない。わが国経済の成長は、イノベーションと生産性の向上に支えられており、歳出全体を厳しく抑制していく中にあっても、先端技術や、宇宙・海洋開発などの国家プロジェクトを推進するための研究開発投資、経済全体の生産性向上に資するインフラ整備などに対しては、重点的な資源配分を行っていく必要がある。
同時に、わが国の長期的発展・存立を考えていく上で、人口の減少傾向に歯止めをかけることが極めて重要な課題である。景気の着実な回復もあり、足もとでは出生率の低下傾向に歯止めがかかる兆しも見られるが、予断は許されない。出生率を長期的に反転・上昇させていくために、必要な一般財源を確保しつつ、次世代育成支援のための施策を効果的に展開していく必要がある。

(6) 歳入改革

財政健全化に向けては、歳出・歳入両面にわたる見直しが要請される。これまで見てきたように、まずは各分野における歳出削減を徹底して行わなければならない。しかし、高齢化のさらなる進展、とりわけ、今後団塊世代が次第に引退し、社会保障を受給する側にまわることを勘案すれば、社会保障給付が傾向的に増大することは不可避である。社会保障制度全体を通じた改革によって公費負担増を可能な限り抑制する必要があるが、それでもなお必要な負担については、将来世代への先送りをすることなく、歳入面の改革により対応していかなければならない。
一方、歳入面の状況を見ると、わが国では、かねてより直間比率の見直しが目指され、かつて7割以上あった直接税の割合は、一旦は50%台まで引き下げられたものの、ここ数年でその傾向が逆転し、足下では再び60%を超えている。逆に、間接税比率は40%台半ばから、30%台に低下している。
間接税の大宗をなす消費税は、国民一人ひとりが広く負担を分かち合うことが可能であり、また、経済活動の国際競争力に与える影響も中立的であることから、これから増大する社会保障費用を賄っていく上で最も相応しい税目といえる。
今後、国・地方を通じて、少子化対策費を含めた社会保障費用を賄うために消費税を拡充するという対応関係を明確にしながら、歳入面の改革を進めていくことが重要である。

図1:歳出入見直しイメージ

(7) 資産・債務改革

財政全体の構造改革を進める上で、フロー面のみならず、政府が保有する資産・債務というストック面の改革も並行して行い、資産売却等による歳入面での寄与を目指すとともに、政府のバランスシートの改善を図る必要がある。
「行政改革推進法」などにおいて、2015年度末における国の資産規模を対GDP比で半減することが目指されており、まずはこれを着実に達成するとともに、独立行政法人、国立大学法人、さらに地方自治体などの資産・債務改革も併せて推進する必要がある。

(8) 公会計整備とPDCAサイクルの強化

中長期的な財政再建目標の実現に向けて、歳出入改革を着実に進める上で、予算編成、予算の執行、決算、翌年度予算への反映の各段階を通じて、透明性の向上と厳格な政策評価を行うことにより、一連のPDCAサイクルとして確立し、財政資金の有効活用を図ることが重要である。企業会計の考え方を活用した財務書類については、これまで、省庁別財務書類、特別会計財務書類、国の財務書類と順次整備が進められてきている。これらを財政状況に関する単なる事後的な説明資料に止めるのではなく、予算の編成段階から適切に活用し、財政活動の効率化・適正化につなげていくために、歳入歳出決算と同時並行的に財務諸表を作成し、翌年度予算編成への活用を可能とした東京都のような先進的取り組み事例も参考としつつ、国においても財務書類の作成・公表時期の早期化など、さらなる改善を図る必要がある。また、政策単位での予算の効率化・適正化を図っていくために、省庁別財務書類の一層の活用、政策評価との連携を進めていくことも必要である。

6.地方財政改革

(1) 地方財政の問題

  1. 受益と負担の不明確さと地方財政の改革の遅れ
    戦後わが国では、社会保障や教育、インフラストラクチャーなどの整備を全国的に進めるため、国から地方への財政移転を行う仕組みが築かれてきた。こうした仕組みは、わが国の戦後復興、高度成長による成果を全国に行き渡らせ、豊かな経済社会を実現する上で有効性を発揮した。
    しかし、わが国が成熟社会化し、また、さらなるグローバル化や少子高齢社会の到来という環境変化の中で、今後は、各地域の自立的発展を国全体の豊かさに結びつけることが求められる。これに対し、現状を見ると、各地域がナショナルミニマムを超えるナショナルアベレージまでの財源保障を求める中で、地方財政の肥大化が進み、現行の国・地方間の税・財政の仕組みは、持続可能性を喪失している。
    地方自治の基本は、地域住民の主体的な選択に基づき、必要な行政サービスとそれに伴う負担のあり方を決定し、効率的に行政を進めるところにある。この点、わが国においては、地域における受益と負担の関係が明確に認識されない結果、財政面での規律が働きにくい状況にある。

  2. 規模の経済性の欠落
    わが国では、47都道府県からなる地方体制が、基本的には明治期以来変わることなく維持されているが、こうした体制は、通信・輸送などの飛躍的進展や、経済活動の拡大・グローバル化など、経済社会情勢の変革に対応したものとはもはや考えられない。国・地方間や、地方相互間での事務・事業や人員の重複、無駄の排除も十分とはいえない。
    現行の国・地方の財政関係においては、前述の通り、国からの地方交付税による財政移転を受けず、財政的に自立した団体は47都道府県のうち現在わずか2団体に過ぎず、地方自治体間に大きな財政力格差が存在することは確かである。しかし、総体としては世界第二位の経済規模を有するわが国にあって、それぞれの地方ブロックは欧州主要国と同等の経済規模を持ち、経済的自立を図ることは本来、十分可能と考えられる。
    市町村レベルにおいては、かねてより「平成の大合併」として、1999年時点では約3,200団体あった市町村数が、いまや約1,800団体まで集約が進められてきている。現行の都道府県体制についても、国と地方の役割分担、税・財政関係を含めた抜本的な見直しを行い、経済的に自立可能な「広域経済圏」を確立することが、今後の重要課題である。

  3. 中央への依存体質
    各地域が自らの知恵を働かせ、産業の振興・誘致を図り、雇用と所得の涵養、税収の増大につなげることが、地域経済の自立的発展への道筋である。
    しかし、現行の国・地方の財政関係においては、地方交付税制度によって不足分が補填される仕組みがとられていることにより、それぞれの地域が自らの努力により税収を涵養し、財政的に自立を図るというインセンティブが失われている。

(2) 道州制における税・財政の基本的考え方

経団連では、本年1月に公表したビジョンにおいて、2015年を目途に、「究極の構造改革」として「道州制」を導入することを主張している。その基本的な考え方は、わが国の地方体制を10程度の「道州」によって構成される形に再編成し、各地域が競い合いかつ連携を深めつつ、主体的に「地域経営」を展開し、地域の経済社会の発展に自らの責任で取り組むことである。
地域の成長力の強化という観点からは、各道州は、高成長を続けるグローバル経済とのリンケージの中で、地域経済を支える産業の育成・誘致を図ることが考えられる。中央への陳情を通じた産業やプロジェクトの誘致合戦という従来型の発想では、日本全体ではゼロサムゲームに陥ることを免れないが、道州ごとの広域経済圏を構築し、それぞれの強みを活かしながら海外経済との結びつきを強め、グローバルに活動を展開する企業の投資や海外企業のグリーンフィールド投資を引き付けることにより、日本経済全体がプラスサムの発展を遂げることが可能となると考えられる。
道州のスケールメリットを活かして、国公立大学及び国・地方の研究機関の再編・統合・連携を行うことを通じて、国際水準の知的クラスターを形成し、地域の産業・企業の生産性向上と新産業創出につなげていくことも重要である。
その際、道路や空港・港湾などのインフラストラクチャーについても、道州が一つの広域経済圏として有機的に結合され、道州内の企業・産業の競争力の強化につながる形で、効率的に整備していく必要がある。
さらに、行政や地方議会のあり方についても、国・地方間あるいは地方相互での重複や無駄の排除が徹底されれば、相当程度の合理化が進むことが期待される。
国・地方の税・財政関係のあり方についても、道州のこのような努力を支える仕組みへと抜本的に見直していく必要がある。その基本的方向としては、各道州が自らの責任において地域経営を行うという考え方に照らせば、財政面における受益と負担の関係を、各道州を単位として貫徹していくことが望ましい。したがって、国・地方の「もたれあい」(「地方分権改革推進にあたっての基本的考え方」(地方分権改革推進委員会))とも評される現行の財政調整の仕組みは可能な限り簡素化・スリム化していく必要がある。また、道州内における基礎自治体に係る財政調整は、基本的に、それぞれの道州の責任において行われることになる。

(3) 道州制における税・財政制度の基本的イメージ

道州制にあっては、国・地方の役割分担は抜本的に見直され、国の役割は国家の存立と国民生活の安心・安全の確保などに集約される。道州は、地域住民の生活向上のため、産業振興・知的基盤の確立、インフラ整備など、自らの知恵と責任に基づく地域経営を通じて、自立可能な広域経済圏を構築していくこととなる。
国・地方の税・財政のあり方は、原則として、国・地方が果たす役割に即して、再設計する必要がある。その際、行政サービスの遂行を確保する上での財政的責任と税源とが整合性を持つ形に整理することが重要である。この点は、今後増大が予想される社会保障負担に歳入増で対応する場合において、とくに留意する必要がある。地方消費税の拡充を求めるのであれば、社会保障給付における地方の責任が増大することは避けられない。
以上の点を踏まえ、今後、道州制への移行に向けて、地方財政の自立と合理化を進める観点に立ち、また、国・地方の役割分担を踏まえつつ、税・財政のあり方を見直していく必要がある。
まず第一に、地方の基本的な税源としては、地域による偏在が少なく、地域の住民が自ら担うことのできる税目が適当と考えられる。個人住民税、固定資産税については、現行でも制限税率は存在しないが、今後、地方自治体と地域住民とが真剣に向き合い、地域における受益と負担の関係のあり方を決定していくことが非常に大切となる。
第二に、地方交付税は、現行においても地方の固有財源とされているが、地域における受益と負担の関係を希薄化させる、法定率分で財源が不足する場合に加算を行うことにより財政規律を弛緩させる、財政調整を国が行うことから国の財政面における裁量的関与を強めている、などの問題点がある。そこで、地方税源の充実・強化の観点に立ち、現行の地方交付税は廃止することとする。その上で、地方交付税の担ってきた財政調整を水平的に行うものとして、例えば地方共有税を設け、従来の法定率相当分を財源とし、交付税特別会計借入金(地方負担分)の計画的償還を進めつつ、道州間での自主的財政調整に委ねることも考えられる。ただし、地方共有税は、各地域の自立的発展が図られる中で、将来的には縮小していくことが予想される。なお、現行の地方法人二税(法人住民税、法人事業税)については、地域間の偏在が大きいことなどに鑑み、全体の規模の縮小を図った上で、基本的に国税の法人税への一本化を図りつつそれに対応する形で地方共有税財源を積み上げることも考えられる。

図2:地方税源見直しイメージ

第三に、社会保障や教育など、全国的に一定水準を保障すべき費用については、国からの財政移転が維持される必要がある。そこで、使途を特定したシビルミニマム交付金として、対象事務事業により、道州または基礎自治体への財政移転を行うことが考えられる。
第四に、地方債については、道州制移行後は、道州が自らの責任の下に自由に道州債を発行し、地域のインフラ整備等を推進することが考えられる。それまでの間、地方債の発行の自由度を段階的に高めていくとともに、あわせて、地方財政の開示制度の拡充・強化、先に成立した「地方財政健全化法」を踏まえた現実的な債務調整の導入の是非などについて、検討を進めていく必要がある。

以上

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