CSR時代の社会貢献活動(中間報告)

2007年12月18日
(社)日本経済団体連合会
社会貢献推進委員会

はじめに

企業活動は、社会の健全かつ持続的な発展があってはじめて成り立つ。そのため、企業は、社会の一員としてより良い社会を築き、支えるという広義の責任を負っている。このような考えの下、日本では1990年代に社会貢献活動が本格化し、各社は基本方針の明文化、専門部署や社会貢献委員会の設置など社内体制を整備し、経営資源を社会的課題の解決に向けて活用してきた。

1990年初めは、バブル経済の余韻が華やかな大型イベントに代表的に見られたが、企業の社会貢献活動は、バブル崩壊後には支出額が一旦縮小したものの、効率性を高めながら地道に継続されてきた。

2000年代に入り、企業の社会的責任(CSR)への取組みが強化されるようになると、各社における社会貢献の位置づけは変化し、CSRの一環として推進する傾向が強まった。

社会貢献推進委員会では、各社の実務担当者が集まる懇談会を中心に、「持続可能な社会を実現するために、企業の社会貢献活動はどのような役割を担うべきか」という問いへの解を見出すべく検討を進めてきた。懇談会では、過去5年間に90回以上の会合を重ね(課題別テーマとスピーカーは資料2参照<PDF>)、CSRへの関心が世界的に高まった背景を踏まえながら、今後重要になる活動領域や推進方法を探ってきた。そこでこれまでの検討成果を中間報告としてとりまとめ、各社がそれぞれ上述の問いへの解を見出す上での参考に供することとした。また、本報告を基に、先進的な事例などを含む、より詳細な資料を「社会貢献ハンドブック」として来春出版する予定である。

I.社会貢献活動の現状

1.社会貢献活動の捉え方

社会貢献について単一の定義はないが、本報告では、社会貢献活動に関わってきた企業の担当者の共通認識として、「社会貢献とは、自発的に社会の課題に取り組み、直接の対価を求めることなく、資源や専門能力を投入し、その解決に貢献すること」と捉えることとした。

すなわち、企業もまた社会の一員であり、社会は企業の存立基盤である。その社会が抱える課題に自発的に取り組み、資金をはじめとする経営資源を投入するのが、企業の「社会貢献」である。しかし、社会には無数の課題があり、1つの企業が全ての課題に対応することはできない。企業は、それぞれの経営理念や社風、事業内容、社会貢献活動の目的などに応じて課題を選んで活動している。

社会貢献活動によって、収益が上がる、宣伝効果がある等の事業上の直接的な効果を期待し、その成果を測定することは難しい。ただし、経営資源を投入する以上、単なる慈善活動で済ませることはできない。社会との関係を一段と深めることによって、会社に社会性と活力を注入する、会社に対する好感度が高まる、社会的なリスクへの感度を高めることができる、より良い社会になることによって会社の永続性が図られるなどの間接的・長期的な効果を想定して進めることが必要である。

さらに、企業の活動や姿勢に対して関心を持つ、株主、従業員、顧客、取引先、地域社会などのステークホルダーに対して、社会貢献活動に取り組む基本理念を明確に示し、その理念に沿った行動がとられたか否かを報告することも大切である。

2.社会貢献活動の実績

このような基本的な考え方で推進される社会貢献活動を、多くの企業が「社会的責任の一環」と捉えている。その傾向は、日本経団連が会員企業と1%クラブ法人会員を対象に1991年から毎年実施している「社会貢献活動実績調査」にも色濃く現れている。2005年度実績に関する調査では、回答企業447社の約9割が「社会的責任の一環」と捉えている。また、「CSR元年」と呼ばれる2003年からの3年間に、半数以上の企業が社会貢献への取り組みを強化しており、「基本方針の明文化」「専門部署や専任担当者の設置」「社内横断的組織の設置」など社内体制の整備も大きく前進した。また、「地域社会への貢献」との位置づけも浸透しており(同調査回答企業の75.2%)、社会の一員としての認識を持って活動を展開している。

社会貢献活動の支出も、近年着実に増加している。2006年度実績に関する調査では、社会貢献活動支出額の1社平均は4億5,400万円と前年度に比べて1億円増加し、バブル期の1991年度(5億2,500万円)に次ぐ歴代2番目の額となった。また、経常利益額の1社平均が過去最高額となったにもかかわらず、経常利益比も2.18%と前年度に比べて上昇している。CSRの一環として社会貢献活動を位置づけ、積極的に展開しようとする企業の姿勢が数字として表れた結果と言える。

II.企業の社会的責任(CSR)の取組み強化

1.CSRの背景

CSRの一環として推進される社会貢献活動においては、CSRへの関心がグローバルに高まった背景や社会の先端的なニーズを捉えて、それを活動に反映させていくことが必要になる。

  1. (1)グローバルな動き
    CSRへの関心が世界的に高まった背景には、世界経済の飛躍的発展や人口増に伴って多様化、複雑化した社会問題がある。地球温暖化、エネルギー問題、水・食料資源の不安定な供給、貧困問題などは、企業活動にとっても深刻な問題となっている。こうした諸問題の解決のために、グローバルに活動する企業に対して、直接または間接的に、何らかの役割を果たして欲しいという社会からの期待が高まっている。

  2. (2)国内における社会問題の顕著化
    翻って、日本国内を見た場合、将来に大きな影を落としかねない社会問題が顕著に現れるようになってきている。いじめ、自殺、暴力、不登校をはじめとする、子どもたちをめぐる問題にどう取り組むか、地震多発国の日本で防災や災害後の復興の力をどう強化するかなど、問題は山積している。こうした分野での国や自治体、NPOの取り組みが活発になっている。企業も地域社会の一員として、このような問題にどう向きあい、役割を果たすか、ということが問われている。

  3. (3)多くのステークホルダーの監視の強化
    さらに、企業活動に対するステークホルダーの期待が高まり、それに伴って企業を見る眼が厳しくなってきている。企業評価の尺度も多様化しており、NGOや消費者団体、労働団体などの情報発信力は、企業や政府、さらには国際機関も注目している。一方、不祥事により企業の存続が危ぶまれるケースも出ていることから、企業側にも社会的利益に配慮しながら事業活動を展開すべきという考え方が定着した。
    これらの社会的潮流を察知して、企業は、社会に対して積極的に経営戦略や事業内容、経営者の考え方を発信するとともに、社会の声に真摯に耳を傾けることが不可欠になっている。

2.CSRへの関心の高まりが社会貢献活動に与える影響

社会貢献は、CSRの構成要素の1つであり、社会との関係を強めていこうとするものである。ただし、CSRとしての社会貢献活動の捉え方は、業種や企業ごとに異なるだけでなく、地域や時代によっても変化する。そこで前述したCSRへの関心の高まりが、企業の社会貢献活動にどのような影響を与えているか、紹介したい。

  1. (1)社会貢献活動に反映すべきCSRの視点
    「社会貢献活動実績調査」で、CSRへの関心の高まりが自社の社会貢献活動に影響を与えていると回答した企業は、297社(2004年度実績回答企業の65.4%)と高い比率になっている。活動に反映している主なCSRの視点について、優先順位の高いものを3つ以内で選んでもらったところ、「企業価値・コーポレートブランドの向上」が最も多く、219社(影響があると回答した297社の78.5%)にのぼっている。「ステークホルダーへの説明責任の向上」は149社(同50.2%)、「活動の実効性や社会へのインパクトの向上」は112社(同37.7%)の順となった。
    特に、社会貢献活動は、企業の資源を社会に拠出することから情報開示は急速に進んだ。「広く一般向けに開示している」と回答した企業は、1993年度には3割だったが、直近の調査では7割に達している。インターネット上での情報提供、CSR報告書等への記載も進んでおり、ステークホルダーから意見を聞く機会を設ける企業も出てきている。
    しかし、一方で、ステークホルダーに説明しやすい活動へとシフトしていき、取り残される分野がでるのではないかという懸念も指摘されている。

  2. (2)企業グループ全体としての社会貢献活動の推進
    企業活動のグローバル化の進展やCSRの背景を踏まえると、国内だけでなく海外も含めた企業グループ全体として、いかに社会貢献活動を推進するか、ということが課題となっている。
    「社会貢献活動実績調査」で、社会貢献活動のグローバルな推進体制について聞いたところ、回答企業の半数近くから「各国・地域、グループ会社(連結対象)が独自に活動している」との回答があった。一方、世界共通のテーマやプログラムの設定、グループ本社主導の活動の創出などの動きも報告されている。
    また、各社がどの程度、企業グループ全体の活動状況を把握しているか調べたところ、242社(回答企業435社の55.6%)が調査を実施している、もしくは調査準備中と回答している。一方で、推進体制や情報収集・共有の仕組みの構築だけでなく、グループ全体にわたる基本的考え方や方針、定義や範囲の明確化などの課題が指摘されている。
    連結ベースでの決算が進む中、今後、企業グループ全体としての情報の把握、共有、発信がますます重要になっていく。グループ全体の一貫性、統一感を確保しながら、それぞれの地域社会が抱える課題にいかに取り組むかという挑戦に直面している。

  3. (3)新たな価値創造への貢献
    企業の社会貢献活動では、これまでも「企業価値」や「社会的価値」の創造が意識されてきた。「企業価値」という面では、社会貢献活動を通じて会社が能動的に社会と関わることにより、会社に社会性と活力を注入する。それが結果的に、多様な価値観を尊重する社風や創造的な社内文化を醸成することにつながる。各社の実務担当者は、このような認識のもと、企業とは異なる価値観や原理で活動するNPOとの対話や協働を重ね、従業員が積極的、自発的にNPOに関わることを支援してきた。また、「社会的価値」という面でも、会社の活動が社会的課題の解決に寄与し、より良い社会づくりに貢献したい、という思いを持って活動してきている。
    今後は、この2つの価値を同時に高める相乗効果のある活動が求められる。すなわち、各社が経営理念に照らし合わして、活動領域や事業活動を展開する地域で優先的な課題を選び、これまで蓄積してきた人材、技術、設備、ノウハウ、情報などが役立つ分野で、革新的な社会貢献活動を立ち上げることがますます必要になる。その際には、社会問題に精通したNPOとの連携が鍵になる。なぜなら、NPOには、企業とは異なる着眼点や発想、現場感覚、専門性などを有しているからである。企業とNPOという異質な組織が、それぞれの資源や特性を持ち寄り、対等な立場で協働することは、課題解決の速度と効果を高めることにもつながる。
    一例を挙げれば、災害被災地支援に関して、国内では「災害ボランティア活動支援プロジェクト会議」、海外では「ジャパン・プラットフォーム」など、企業とNPOが連携する枠組みが構築されており、現地ニーズを踏まえた効果的な支援活動の企画・実施や活動の透明性向上につながっている。

III.今後の方向性と課題

社会貢献推進委員会では、実績調査の結果を踏まえ、各社の実績や課題を共有しながら、企業が社会貢献活動を推進する上での課題を、(1)社会の課題(ア〜オ)と、(2)組織の推進上の課題(A〜E)の2つの視点で整理した。企業毎に重点領域や課題は当然異なり、列挙したものに限定されるものではないが、今後の方向性を示唆するものと考えられる。

1.社会の課題: 新たなテーマや活動領域の発掘

ア.次世代育成:

既に多くの企業が教育や子どもに関わる社会貢献活動を展開している。しかし、いじめ、自殺、暴力、不登校をはじめ、子どもたちをめぐる問題は、日本社会の将来に大きな影を落としかねない。こうした問題の解決も含め、次世代育成のためにどのような貢献ができるのか、これまでの実績も踏まえた検討が必要である。行政、教育現場、NPOが連携し、多様で多層的な教育活動を展開するための仕組みづくりも求められている。

イ.ソーシャル・インクルージョン(社会的包括)社会の実現:

少子高齢化が進展する中で、人々を孤独や排除から救い、社会の構成員として包み込むことをめざす「ソーシャル・インクルージョン(社会的包括)」という概念が注目されている。ともすると社会から阻害されがちな、高齢者、障害者、ホームレス、家庭内暴力の被害者、定住外国人や難民などが社会の一員として活躍できるよう支援していくための取り組みが必要になる。会社や従業員の人権感覚を磨きつつ、異なる存在、多様な文化が共生することによってもたらされる新しい価値や活力を、いかに最大化するかということがテーマとなる。

ウ.ヒューマン・セキュリティ(人間の安全保障)への取り組み強化:

近年、CSRへの世界的な関心が高まってきた背景には、人類の生存そのものに影響を及ぼしかねない社会的な課題が顕著になっていることがある。「ヒューマン・セキュリティ」といわれる人権、生命、環境など人間の安全に関わる取り組みが、経済の持続的な発展にも不可欠になっている。国内だけでなく、グローバルな社会貢献のテーマとしても注目されており、新たなプログラム開発やNGOや国連機関等との連携などが必要となる。

エ.社会起業家精神の醸成:

社会の課題を解決することを第一義として市場の力を使って事業を行う社会起業は、企業の社会貢献が目指してきた、社会システムや価値観の変革とも一致する領域となっている。また、企業内にも、社会の課題に対する革新的な解決策となりそうな事業を起こそうという機運がある。社内外の起業家の育成、支援、連携をどのように進めていくか、ということが課題となってくる。

オ.市民セクターの基盤強化:

企業の社会貢献活動の重要なパートナーとなっているNPO/NGOなどの市民セクターは、社会の変革の担い手としての期待が高い。しかし、その運営基盤は、まだまだ脆弱であり、さらなる基盤強化や人材育成が必要である。また、ステークホルダーが企業に求める説明責任には、支援先の活動や組織運営も含まれるようになってきていることから、双方が社会からの信頼性を高めていく必要がある。産業界として、そして個々の企業として、市民セクターの基盤強化に貢献していくことが求められる。

2.組織の推進上の課題

A.本業/CSRとの関係:

本業で蓄積してきた技術、設備、ノウハウ、情報、人材などを効果的に投入し、国内外の社会問題の解決に向けて、革新的、戦略的な社会貢献活動を展開することが期待されている。その際には、企業側の意図と社会のニーズや課題をマッチさせるための情報収集やアプローチが必要になる。

B.広報宣伝との関係:

社会貢献活動に関する情報公開が進む中、CMや広告などでも社会貢献を扱う会社が増えつつある。また、収益の一部を社会的課題解決のための活動に寄付する商品やサービスも生まれている。しかし、その扱い方によっては、市民から評価されない場合もある。社会問題に焦点をあてる、NPOと連携して啓発キャンペーンを展開するなど、市民の生活や行動に良い影響を与えるような広報宣伝やマーケティングのあり方が求められている。

C.従業員の社会参加支援:

従業員の社会参加を支援することを目的とした社会貢献は、1990年代以降の大きな流れとなっている。最近では、従業員の目を会社の外の課題にも向けることによって、CSRの担い手としての感性や問題意識を養っていくことができるのではないか、との効果も期待されるようになってきた。また、団塊の世代を中心とする退職者が増えている中、企業OB/OGの豊かなセカンドライフの構築を、社会貢献活動を通じて支援することも望まれている。

D.活動評価:

社会貢献活動は、商品、設備・機器、ノウハウ、人材など企業内の資源を社会に拠出することがテーマとなる。したがって、幅広いステークホルダーの支持と共感を得て活動を展開することが求められている。そのため、資源の投入にあたっては、目標を定めるとともに、活動の評価を行い、社内外のステークホルダーに活動をわかりやすく説明することが必要になる。一方、定量的な評価が困難であり、その評価方法は長年の課題となっている。

E.グローバルな活動展開:

企業グループとしての経営やブランド・マネジメントが強化される中、海外も含めてグループ全体の社会貢献活動をどのように展開するか、ということが課題になっている。2004年度社会貢献活動実績調査では、回答企業の約半数が「各国・地域、グループ会社(連結対象)が独自に活動している」と回答しているが、世界共通のテーマやプログラムを設けたいという意向も強まっている。グループ全体の一貫性、統一感を確保しながら、それぞれの地域社会が抱える課題にいかに取り組むかという挑戦に直面している。

おわりに

本報告は、社会貢献推進委員会の実務担当者が過去5年にわたって議論してきた成果を中間報告としてまとめたものである。ここで取りあげた課題や方向性は、各社の事例や実績について情報交換しながら、NPOや有識者との懇談を重ねてきた担当者の現時点での共通認識と言えるものである。これを公表することによって、日本企業が企業活動全体の中で社会貢献活動をCSRの1つの要素として位置づけ、ステークホルダーと連携しながら、さらに大きな社会的成果を生み出す上で役立つことを期待するものである。

以上

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