2008年度日本経団連規制改革要望

〜再び改革を前進させるために〜

2008年6月17日
(社)日本経済団体連合会

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はじめに

日本経団連では昨年5月、「規制改革の意義と今後の重点分野・課題」と題する提言を発表し、規制改革の今日的な意義として、(1) 国民一人ひとりの生活を豊かにする、(2) 地域の自立性・自主性を高める、(3) わが国の国際競争力を高め、国際的なイコールフッティングを実現する、(4) コンプライアンスに優れた企業の取組みを評価し、インセンティブを付与する、の4点を提示するとともに、官業の民間開放や農業、医療など10の重点分野・課題を掲げて規制改革の推進を求めた。

「規制改革の意義と今後の重点分野・課題」の概要

しかしながら、輸出入手続きなど一部の分野を除き、重点分野・課題における規制改革が大きく進展したとは言えず、例えば混合診療のケースなど、一旦決定された改革が官僚の手によって元に戻されるといったことさえ起きていることは、極めて残念である。
規制改革について日本経団連は、官主導の中央集権型社会から民自律の地域自立型社会へ移行するために必要不可欠な改革であると同時に、個人や企業の多様な挑戦・競争の促進と消費者・利用者利益の実現、わが国経済社会のイノベーションにつながるものとして、繰り返しその推進を訴えてきた。政府には、絶えず規制改革の意義と効果を国民に示すとともに、改革を大きく前進させるために、与党と一体となって規制改革をリードするよう求めたい。
本提言では、まず規制改革をめぐる現状について、最近の個別要望の実現状況を評価したうえで、分野横断的に規制改革を推進するため、今後、重要になる視点ならびに実現度合いを高める具体的方策について提案を行うこととしたい。

1.規制改革をめぐる現状
− 日本経団連規制改革要望の実現状況を評価する −

日本経団連では、1993年以来毎年、ビジネスの現場から寄せられた生の声に基づく個別具体的な規制改革要望をとりまとめて政府・与党に提出し、その実現を働きかけてきた。2003年度からは年2回の「集中受付月間」が制度化され、要望の受付から当該規制の所管官庁への検討要請、所管官庁からの回答、当該規制改革に関する実際の措置に至るまでのプロセスが透明になったほか、規制改革会議やその前身の会議でも答申などにおいて要望が多数取り上げられ、実現が図られてきた。
「規制の真髄は細部に宿る」と言われるように、個別具体的な規制改革要望の実現度合いは、規制改革全体の成否を左右する重要な要素である。しかし最近、個別要望の実現度合いは低下している。日本経団連が政府に提出した規制改革要望を見ると、2003年度には「大幅な進展が見られた」「何らかの進展が見られた」との評価を得た事項が全体の48%を占めたが、2004年度には33%、2005年度は30%、2006年度は15%、そして2007年度には20%と、年々低下する傾向が見られる(図表1参照)。とりわけ、「大幅な進展が見られた」という評価を得た事項は、2006年度が4%、2007年度が6%と、2005年度以前の15%程度から大きく減少している。

《図表1 日本経団連提出要望の実現状況の推移》

また、要望の分野ごとに実現状況を見ていくと(図表2参照)、情報・通信、放送分野や廃棄物・リサイクル、環境保全分野、雇用・労働分野や企業年金分野、危険物・防災・保安分野、運輸・貿易諸制度分野などで、日本経団連要望の実現度合いが低くなっていることがわかる。例えば企業年金分野の場合、2006年の「もみじ月間」以降、日本経団連要望の多くが「税制上の措置の拡充を求めるもので、規制改革の検討要望事項の対象とはならない」とされ、門前払いにされている。また、エネルギー分野や金融・保険・証券分野は、要望の実現状況が比較的高くなっているが、子細に見ていくと、検討が行われることにはなったが結論の時期が明確でないなど、満足いくかたちで改革が進んだとは言いがたい。時間の制約等から、要望内容が十分に理解されないまま措置されるものもあることから、規制所管府省とのやりとりなどの時間を十分にとり、理解を深めることが必要であると思われる。

《図表2 要望に一定の進展が見られた割合》

2.今後重要となる規制改革の視点

日本経団連では本年も、会員企業・団体からの要望に基づき規制改革要望をとりまとめ、政府の「集中受付月間」に提出する。その際、以下の通り、分野横断的に規制改革を推進する視点を持つことが重要であろう。

(1) 行政の電子化を通じた国・地方自治体における業務改革の断行

何よりも重要な視点は、国・地方を通じた業務改革の断行により、行政の効率化と行政サービスの質的向上を実現することである。例えば、わが国ではすでに、先進的な電子社会の実現に向けた取組みが開始されている。この実現のためには、行政の電子化と企業におけるIT経営の推進を両輪とし、国民全体を巻き込みながら、ICT(情報通信技術)による社会全体の最適化を図る必要がある。
しかしわが国は、電子行政の実現という面で、先進諸国のみならず隣国の韓国に比べても取組みにおいて遅れをとっている。中央省庁の実態を見ると、業務プロセスの見直しを十分に行わないままIT化が進められ、また地方自治体においても、同一の申請に関する文書フォーマットやシステム環境が標準化されていないなどの問題が指摘されている。国民・企業にとって真に利便性の高い電子行政を実現するには、国・地方自治体を通じた業務改革が不可欠であり、あわせて行政手続きのワンストップ化を図る必要がある。

(2) 官業の民間開放の推進による民間の活動領域の拡大

次に重要な視点は、官業の民間開放である。市場化テストなどの手法により、これまで公の領域とされてきた分野や官業とされてきた事務・事業を民間に開放し、行政サービスに競争を導入することで、公共サービスにおける生産性向上が図られるとともに、民間事業者の事業機会が拡大し、地域経済の活性化にもつなげていくことが可能である。
現行制度のもとでは、官が担っている全ての業務が市場化テストの検討対象とされており、民間事業者が実施を担うことができる事業として、2006年には193件、2007年には131件の意見・要望が公共サービス改革推進室に寄せられている。しかし、国や独立行政法人の事業で実際に市場化テストの対象事業となったものはこれまでにわずかに71事業にとどまっており、それらのうち実際に入札が実施されたのは12事業にすぎない。また、官民競争入札等監理委員会が市場化テストの対象とすることを検討した事業に対して、強い反対の見解が関係府省庁等から示されたという事実もある。
そこで、市場化テストの対象となる公共サービスの選定にあたり担当省庁との協議を経る現在の仕組みを改め、民間から提案があった事業については、官民競争入札等監理委員会の議を経たうえ原則として全て市場化テストの対象とし、官民競争入札または民間競争入札を実施するようにすべきである。また、現在、官民競争入札等監理委員会には、「公共サービス改革基本方針」案や「官民競争入札実施要綱」を審議する権限が付与されているが、公共サービス改革の実効性をさらに高めるため、監理委員会の権限強化についても検討すべきである。

(3) 民間の自発的な取組みの評価、奨励による経済活力の増進

規制政策の視点として、民間の自発的な取組みを評価し奨励することも重要である。近年、企業の多くはコンプライアンスの強化に努めながら事業活動を展開している。官が一部の悪質な企業を取り締まるために一律に事前規制をかけることは、高いコンプライアンス水準を自ら課している企業からすると、改善意欲が削がれる。民間の自発的な取組みを奨励するためにも、コンプライアンス面で優れた企業に対しては、すでに輸出入通関手続きなどで行われているように、より高い自由度を容認するなど、インセンティブを付与すべきである。

(4) 地方への権限移譲に伴う地方自治体による規制強化の排除

地域経済の活性化を通じて、わが国の新たな成長を創造するという視点も欠かせない。その観点から、地方分権改革を通じて地域の自立と創意工夫を促す必要がある。現在、政府の地方分権改革推進委員会において、国から都道府県、市町村への権限移譲について検討が進められているが、日本経団連が「究極の構造改革」と位置づける道州制の導入を見据え、国から地方への権限移譲を大胆に進めるべきである。その際、これまでの取組みにより改革が実現した規制が、分権の名のもとに、地方自治体によってかたちを変えて導入・強化されるようなことがあってはならない。現在でも自治体による規制の上乗せ・横出しが行われているが、自治体ごとに規制の内容や定める基準などが異なるようになれば、国民生活や企業の事業活動にも混乱が生じかねず、特に企業には、競争力を左右する重大な影響が及ぶ可能性もある。環境基準など全国で統一的な基準・規制であることが望ましいものについては、地方による規制の導入・強化を制限するなどのルールを設けることなども必要である。地方自治体には、企業や住民の創意工夫が活かされる社会の実現に向けた規制政策を推進するよう求めたい。

3.規制改革の実現度合いを高める具体的方策

規制改革の実現度合いを高めるため、以下の通り、5つの具体的方策を提案したい。

(1) 集中受付月間制度の改善による交渉プロセスの実効性向上

2003年度にスタートした規制改革要望の集中受付月間制度は、6月の「あじさい月間」、10〜11月の「もみじ月間」と年に2回実施されている。この間、全国規模での規制改革要望を受付け、それぞれ約3ヵ月という短期間で所管府省と協議・折衝を行い、対応方針を決定することを目指している。同制度は、迅速に規制改革を進めるうえで有効な仕組みであり、要望に対する規制所管府省の回答がウェブサイト上に掲載されるといった点で、透明性の高い仕組みとなっている。
しかしながら、現行のスキームでは、短期間に調整がつかない要望や制度上の大きな改革を伴う要望などについては解決が図られにくく、積み残しとなってしまう傾向が強い。また、実現すれば大きな効果があることから、継続して提出されている要望の場合にはことさら、所管府省との議論が平行線に陥りやすく、突破口が開けないケースも見られる。
そこで、年2回実施されている「集中受付月間」を、今後年1回とし、これに続く半年程度を「集中取組期間」とすることを提案したい(図表3参照)。この期間内に、規制所管府省は各要望に対し、時間をかけ真摯に検討するとともに、規制改革会議も規制所管府省との折衝回数を増やすなど協議に注力し、一つでも多くの要望の実現に努める体制とすべきである。

《図表3 集中受付月間制度の改善案》

その際、各年度の「対応方針」や「3か年計画」には必ずしも盛り込めない中長期的な取組みが必要な項目についても、何らかのかたちで取組方針を示すとともに、それに基づく検討状況などを適宜フォローアップして、改革の進展を図るべきである。さらに、過去の「対応方針」や「3か年計画」に盛り込まれ、検討・措置するとされた事項のフォローアップも着実に行い、必要な措置を講じるべきである。

(2) 政治のリーダーシップの強化による規制改革の推進

政府の「集中受付月間」制度が実施される以前は、自民党・行政改革推進本部が規制改革を要望する側と規制所管府省との間に入り、両者の主張を聞きながら要望実現の是非について裁定を下す役割を果たしていた。現在、民間の要望は内閣の規制改革推進本部が検討することになっているが、取組みが大きく進んだとは評価できない。
もとより、国民・企業からの要望は、当該規制が真に必要かどうか、また必要な場合には、どのような理由から規制が必要であるかを客観的に整理したうえで、実現の是非を決定する必要があるが、要望する側と規制所管府省の主張に大きな隔たりがあるような場合には、政治がリーダーシップを発揮して両者の主張を聞きながら裁定することも必要である。与党には、民間要望の実現に向け、規制改革を強力に前進させる体制を整えるよう期待したい。

(3) 構造改革特区制度の積極的活用による困難な規制改革の実現

2002年に導入された構造改革特区制度は、当初、全国規模では規制改革を進めにくい課題について先行実験を行い、一定の効果があがれば全国規模に展開するものとして、長年議論されながら実現を見なかった規制改革の重要テーマを推進する制度として期待された。最近は、地域活性化の一手法として本制度を活用する例も見られるが、過去には農業生産法人以外の法人に係る農地法の特例(農地リース方式による企業等の農業参入)や税関の執務時間外の通関体制の整備等が、構造改革特区での実現を契機に全国展開されるようになった。これらを踏まえ、制度導入の原点に立ち返り、困難な規制改革を迅速に先行実施するために、本制度を積極的に活用すべきである。その際、特例措置の実施状況を評価し、全国展開の是非などについて構造改革特区推進本部に意見を提出する「評価・調査委員会」と規制改革会議の連携を強化するなど、特例措置の全国展開に向けたルール作りを行うべきである。

(4) 規制に関する一覧表の作成による「見える化」の促進

日本経団連はかねてより、規制所管府省が個別の規制ごとに目的や必要性、コストや効果を明らかにするなど、規制を維持するうえでの挙証責任と説明責任を果たすことを求めている。国民や企業の利便性や納得性を高める観点から、法律や法規命令(政令、内閣府令、省令、外局規制等)、行政規則(行政基準、行政指導指針)等に基づくわが国の諸規制について「見える化」を実現するため、一覧表を作成することを求めたい。
いわゆる「サンセット条項」を持つ法律や法規命令等については、各年度ごとに、見直し時期を迎える法律・法規命令等の一覧表を作成して示すことが必要である。さらに、一覧表は省庁ごとに作成・掲載するのではなく、規制改革会議のウェブサイト上で公開するなどして、同サイトを閲覧すればわが国の規制に関する情報が一元的に得られるようにすることも重要である。

(5) 規制の事前評価(RIA)に際しての一層の定量化

2007年10月から、政策評価法に基づき、各府省には、規制を新設または改廃する際に、規制の事前評価(RIA)を実施することが義務付けられた。現在は、総務省が定めた様式に従って各省庁が所管する規制の事前評価を行い、これを総務省行政評価局がチェックする体制となっているが、定性的な分析が多く、行政コストなどの定量的な評価は十分行われていない。また、規制の新設・改廃のプロセスの中に、事前評価が効果的に位置づけられていないといった問題も指摘されている。
そこで各府省は、内閣府経済社会総合研究所などマクロ経済分析を行う部門との連携を強化することにより、事前評価における定量的な分析の割合を高めるよう努めるべきである。また、事前評価の結果公表から規制の新設・改廃までに一定の期間を置き、その間に当該規制の新設・改廃が適当かどうかをパブリック・コメントに付すなどの手続きを経ることにより、国民生活の実態や時代の要請に合った規制とするよう努めるべきである。

以上

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