雇用安定・創出に向けた共同提言

2009年3月3日
(社)日本経済団体連合会
日本労働組合総連合会

日本経団連と連合は、厳しい雇用失業情勢に鑑み、2009年1月15日に発表した「雇用安定・創出に向けた労使共同宣言」により、雇用の安定こそが社会安定の基盤であることを確認し、政府に対し雇用のセーフティネットの整備や、新たな雇用創出策を求めた。

しかし、雇用失業情勢が好転する展望は開けていない。2008年10−12月期の実質GDP成長率が前期比年率マイナス12.7%と歴史的な落ち込みを記録した上、今年に入っても経済状況はさらに深刻の度合いを増し、今後も、世界的な需要減退による輸出の大幅な減少と円高が続くことになれば、さらに厳しい局面を迎えるおそれがある。

こうした危機的状況のもと、日本経団連と連合は、共同宣言を踏まえて緊急協議を重ね、雇用の安定・維持に向けて、個別労使間で具体的に進みつつある取組みを一層積極的に展開するとともに、政府に対して具体的な環境整備を求めていくことを確認した。

わが国が直面している未曾有の難局を乗り越えていくためには、国民の雇用不安を早期に解消していくことが不可欠であるが、そのためには、わが国全体でいかに雇用を維持・創出するのかという視点に立ち、以下の通り、個別労使の努力と、政労使一体となった有期雇用者を含めた雇用の安定・維持の取組みを組み合わせつつ、関係者が持てる力を尽くしていくことが求められる。

なお、日本経団連と連合は引き続き、1月15日の「労使共同宣言」に則り、雇用にかかわる様々な課題解決に向けて必要な対応を機動的に図るものとする。

1.政労使一体となった雇用維持の促進

(1)雇用維持のための環境整備

わが国企業は、これまでも労使の努力を通じ幾多の経済危機を乗り越えてきた。その際、雇用の維持は最優先課題であるとの労使共通の認識のもと、厳しい経営環境にあっても、最大限の取組みを行ってきた。現在の危機的状況においてもこうした労使の基本的な考え方はいささかも変わることはない。
企業労使の雇用維持に向けた取組みを下支えするため、政府が雇用調整助成金の要件緩和や助成率の拡充など制度の大幅な見直しや、住宅の継続貸与を行う事業主への助成など、既に様々な対策を講じていることは評価できる。
他方で、今後、さらなる雇用失業情勢の悪化を覚悟していかねばならないことから、雇用調整助成金の要件等のさらなる緩和、内容の拡充等を行い、雇用維持に向け、一層の環境整備を図っていく必要がある。具体的には、下記(2)の企業の取組みに対する支援策として、1年間の支給限度日数の撤廃あるいは緩和、助成率や教育訓練費の拡充について検討を急ぐことが求められる。また、企業による有期雇用労働者を含めた雇用維持の取組みを後押ししていくことが求められる。
既に、雇用調整助成金の申請や相談件数が増加しているが、こうした制度改善等により、その件数は一層増えていくことが想定される。何より迅速な対応を行うためには、例えば地域の社会保険労務士などの活用を含め、相談・手続業務の充実を早急にはかることが望まれる。

(2)雇用維持に向けた労使間の取組みと法令遵守の徹底

どのような経営環境にあっても、雇用の安定は企業の社会的責任であることを十分に認識し、雇用調整助成金等も活用しながら、労使一丸となって最大限の取組みを進めていく必要がある。企業の経営環境が日を追うごとに急激に悪化している中、個別企業では、配置転換や、休業、時間外労働の削減や時短、さらには雇用情勢の厳しい分野の労働者を例えば出向等により一時的に雇用機会のある分野に企業間レベルでつなぐ等、失業がない形での産業間労働移動の取組みなど、「日本型ワークシェアリング」とも言える雇用維持に向けた様々な方策が考えられるが、労使が十分に話し合いを行い、合意の上で進めなければならない。
なお、雇用維持策の実施に際しては、労働関係法令の遵守はもとより、個別労使で個社の実情を勘案し、徹底した話し合いを通じて労使合意を得ながら、様々な施策を展開していくこととする。
また、雇用のセーフティネットの実効を高めるためにも、各社においては社会・労働保険の強制加入の原則に基づいて改めて加入状況を労使で確認するとともに、取引先等に対してもコンプライアンスの徹底を求めていく。

2.雇用のセーフティネットの強化

労働市場全体を見渡すと、余剰雇用を抱える産業・企業がある一方で、農業や介護、警備をはじめ、現時点でも人材不足が深刻化している分野が存在する。また、今後は、新たな技術開発や製品開発などを通じて付加価値の高い製品・サービスを提供するための企業努力が一層求められているところであり、雇用創出と併せて適切なマッチングが必要である。
こうした観点も含め、現在求められていることは、社会全体で雇用の安定を図ることである。当面は、労働需要の高い分野に向けて円滑な労働移動が進むような環境整備をはかるため、速やかに次のような施策を実施していくことが求められる。併せて、雇用の多様化なども踏まえた雇用保険制度のあり方についても、今後中長期的に検討を行っていく必要がある。

(1)職業訓練の強化

雇用の安定のためには、労働者個々人の技術・技能や知識の向上が重要であり、公的職業訓練の強化が欠かせない。すでに2009年度予算案において、離職者訓練の充実に関する施策が盛り込まれていることから、予算成立後、民間のニーズを十分に踏まえた上で速やかに訓練の内容や期間を充実させ、人材不足に陥っている分野や、新規雇用創出が期待される分野などに対応したメニューを開発し、実施していくべきである。あわせて、わが国の職業訓練全体の充実に向け、労使も訓練施設や人材の提供などについて積極的に貢献すべきである。

(2)職業訓練中の生活の安定

職業訓練の充実と同時に、訓練受講中の生活基盤を安定させることが不可欠となる。現行の雇用保険制度においては、職業訓練の受講期間中であれば、失業給付の基本手当終了後も最大2年間の「訓練延長給付」の受給が可能である。しかしながら、雇用保険制度の基本手当を受給できない就職困難者に対しては、対応できる給付制度が無いことから、本格的な景気回復が見込まれるまでの一時的な措置として、雇用保険等の給付を受給できない者を対象に、その者が公的職業訓練を受講する期間中の生活の保障を確保するため、「就労支援給付制度(仮称)」を創設し、一般会計により財源を手当てするべきである。給付水準などについては08年度の1次補正予算で導入された訓練期間中の生活費の貸付制度を参考にすべきである。
また、年長フリーターや長期失業者等に対する支援策を強化することが必要である。

(3)職業紹介事業の充実

雇用がある分野と雇用が厳しい分野との産業間、地域間のばらつきが大きい中で、政府の職業紹介事業については、現下の厳しい雇用失業情勢を踏まえ、まずは、最低限のセーフティネットとして、全国ネットワークのハローワークの機能・体制を抜本的に拡充・強化すべきである。
さらに、ジョブカフェ(地域の実情に合った若者の能力向上と就職促進を図るため、若年者向けの雇用関連のワンストップサービスセンター)など、重点的に支援が必要な層に対する支援拠点が設置されているが、京都ジョブパーク(京都府において公労使が核となり、ハローワークと緊密に連携しながら、さまざまな就業支援機関・団体が参画する共同運営方式により、相談から就職、職場への定着までを支援)のような先進的な事例も参考にしながら、労働市場におけるマッチング機能を強化し、就職相談や、生活相談、キャリアカウンセリング、職業紹介、定着に向けた支援をワンストップで行える拠点を早急に整備する必要がある。
また、拠点の整備にあたっては、関係省庁や企業・団体など関係者間の連携を強化するほか、労働者の適性を把握して就労へと導くための有効なアドバイスを提供できる、人材不足分野等に精通した人材を各拠点に配置すべきである。中長期的にはそのような幅広い知識を有したカウンセラーを早急に養成していくべきである。

3.政労使一体となった雇用創出に向けた取組み

円滑な労働移動を促進するためには、財政出動、政策減税による需要喚起を始め、産業政策、金融政策、中小企業政策等あらゆる施策を総動員し、雇用の受け皿づくりを行うべきである。
今般、「ふるさと雇用再生特別交付金」(2500億円)により、各都道府県に基金が創設され、地域ブランド商品の開発など、地域の実情にあった創意工夫に基づき、地域求職者などを雇い入れる事業が行われるが、こうした取組みについて労使が積極的に支援していく必要がある。
そこで、こうした基金に対し、企業や労働組合など多様な主体が拠出を行うことができる仕組みを設けるとともに、個々の事業支援に向けて、企業労使のアイデアや人材、施設等を提供していく方策などについて検討していく必要がある。
また、別添に掲げたような、連合が提起している「180万人雇用創出プラン」、あるいは日本経団連が提言した「日本版ニューディールの推進を求める」において示したような国家的プロジェクトなどを実現していくことにより、労働市場全体の安定が期待されるため、政府は積極的にその推進をはかることが求められる。
なお、労働市場全体の安定に向けては、ワーク・ライフ・バランスの観点から、生産性向上をはかりつつ、働き方の改革、暮らし方の改革を進めていくことが重要である。

以上
共同提言に基づく施策のイメージ

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