平成22年度税制改正に関する提言

2009年10月2日
(社)日本経済団体連合会

I.はじめに

昨年の金融危機以降、世界経済が同時不況に陥る中で、わが国経済も厳しい状況が続いている。本年4‐6月期のGDPは5四半期ぶりにプラス成長となったものの、経済の活動水準は依然として低く、また、先行きも、民需の低迷や米国経済の動向など、予断を許さない状況にある。
一方、本格的な人口減少社会が到来する中で、社会保障制度はいたるところで綻びが発生し、財政状況も景気低迷に伴う税収減や累次に亘る経済対策の実施により一段と悪化している。さらに、中長期的な経済活力にも懸念がもたれるなど、国民は、将来に対して明るい展望を描けない状況にある。
景気を一日も早く民主導の順調な回復軌道にのせるとともに、社会保障制度の機能強化、経済成長力の強化、財政の健全化などの重要課題に対応すべく、税制抜本改革のスケジュールを定め、着実に実行すべきである。
日本経団連は、昨年10月、「税・財政・社会保障制度の一体改革に関する提言」を公表したが、その後の経済ならびに政治の状況を踏まえ、本提言において、税制抜本改革の道筋や主要課題について改めて考え方を整理するとともに、経済活性化などに向け平成22年度税制改正で措置すべき事項を示すこととしたい。

II.税体系の抜本改革のあり方

1.税制抜本改革の必要性

(1)少子高齢化に対応した社会保障制度の確立

急激な少子高齢化の進展により、社会保障費の増加は不可避である。また、医療・年金等の綻びを修復し、国民の安心を確保するためにも、社会保障の安定財源の確保が急務である。少子高齢化による人口構造の転換に対応した税体系の抜本的改革が必要である。

(2)経済成長力の強化

経済のグローバル化が今後も一層進行するなかで、雇用を確保し国民生活の基盤を堅持するためにも、経済成長の原動力である企業の国際競争力を強化しなければならない。また、国内での事業活動を維持し、海外からの新たな投資を呼び込むためにも、国際的に整合性のとれた、経済成長を促進する税制の確立が求められている。

(3)財政健全化の必要性

わが国の政府長期債務残高は、GDPの1.7倍と先進国中最悪の危機的状況にある。中長期的な財政の持続可能性を確保するためには、今後10年程度でプライマリーバランスの早期黒字化を図りつつ、債務残高対GDP比を安定的に引き下げることが必要であり、歳出改革・経済成長力の強化とともに、歳入面からの改革が求められる。

2.税制抜本改革の課題

上記の諸問題に対応するために、税体系の抜本的改革は不可避であり、その具体的な課題として次の7点が挙げられる。

(1)持続可能な社会保障制度の安定財源の確保

持続可能な社会保障制度の確立に向けて、その安定財源を確保しなければならない。
消費税は、他の税目に比して経済に与える影響も少なく、国民全体で広く社会保障負担を分かち合う財源として最も相応しい税目であり、社会保障費用の増加分は消費税率の引上げによって賄うことが適切である。
経団連が本年3月に示した提言「今後の財政運営のあり方」における試算では、医療、介護のサービス提供体制の充実をはじめ、様々な綻びが生じている社会保障制度の建て直し・機能強化、少子化対策の充実等を図っていくためには、2015年度までに消費税率5%分(合計10%)の財源を確保する必要があるとされている。さらに、高齢者医療・介護の公費負担割合の引上げ、基礎年金の税方式化など、望ましい社会保障制度の姿を完成するためには、2025年度までにさらに7〜8%分(合計17〜18%)の安定財源の確保が求められるとされている。
税制抜本改革の一環として、景気回復を前提に、かつ国民の理解を得ながら、段階的に消費税率の引上げを進めていく必要がある。

(2)国際的な整合性を踏まえた法人実効税率の引下げ

世界各国が、経済の活性化の視点に立って、法人税率の引下げを進めている。国際的なイコール・フッティングを確立し、内外からの企業の投資の促進を図り、国内の雇用水準を確保する観点から、わが国も30%を目途に法人実効税率の引下げを行うべきである。
法人実効税率が高止まりしている原因に、実質的に法人税の付加税となっている地方法人二税(法人事業税、法人住民税)の存在が挙げられる。地方法人二税は、税収の地域偏在性が高く、また景気動向にも左右されやすいことから、地方の安定財源としては不適当である。地方消費税の充実とともに、地方法人二税の大胆な見直しを図るべきである。

(3)所得税の抜本的改革

所得税の各種控除制度については、税制抜本改革において、扶養控除等の人的控除のあり方について総合的な見直しを進めるべきである。その際、少子化対策、消費税率引上げに伴う逆進性緩和策等の観点からは、社会保障給付や納税に係る番号制度を確立する中で、課税最低限以下の世帯にも税額控除の効果が生じる「給付付き税額控除」の導入を図るべきである。

(4)納税者番号制度の導入

給付付き税額控除の導入に際しては、所得捕捉の公平性、透明性の確保が重要であり、現在検討が進められている社会保障番号などを活用し、納税にも利用できる番号制度を確立していく必要がある。こうした番号制度は、社会保障給付の適確な受給や、各種の行政手続きのワンストップ化を可能にすることで、納税者すなわち国民の利益にも資するものであり、電子政府の構築とあわせて、速やかに検討を進めるべきである。

(5)金融所得課税の一元化の推進

高齢化社会においては、金融資産の効率的な運用を促進させ、企業の円滑な資金調達へと循環させる金融資本市場の活性化が重要となる。国民の資産形成、投資リスク低減等の観点から、実務面の課題に十分に配慮しながら、金融所得について損益通算の範囲拡大および損失繰越の容認など、一元的に課税を行う制度を実現すべきである。

(6)相続税の見直し

相続税については、富の再分配や社会への還元という観点等から、現行制度の見直しを求める声もあるが、その過重な負担は資産の蓄積・形成に対する個人のインセンティブを損なう虞がある。相続税の制度変更を検討する際には、相続税の果たすべき機能、変更理由、税収や課税対象人数への影響等を国民に対して説明し、十分な理解を得ることが必要である。

(7)環境関連税制のあり方

今年7月に、G8諸国に加え新興国も参加して開催されたエネルギーと気候に関する経済主要国フォーラムでは、世界全体の排出を2050年までに相当量削減するという世界全体の目標設定に取り組むことが合意された。今後、全ての主要排出国が参加する公平で実効あるポスト京都議定書の国際枠組の構築が不可欠である。
わが国経済界は、日本経団連環境自主行動計画など温暖化対策に主体的に取り組み、技術開発や省エネ投資により世界最高のエネルギー効率の実現に努めてきた。その結果、わが国は、世界最高水準の低炭素社会を実現している。環境と経済を両立させつつ地球温暖化問題を真に解決する鍵は技術であり、既存の省エネ技術・製品の普及と革新的な省エネ技術の開発が不可欠である。このため、わが国は、企業の活力を最大限活用しながらCO2排出量の削減に取り組むべきであり、そのような観点から、税制のグリーン化を推進することが望ましい。
環境目的に新たな負担を伴う新税を導入すること等については、エネルギー効率が相対的に低い他国への生産移転を助長し、地球全体では却って温暖化が促進され、また国内産業の空洞化につながる懸念があることなどから反対する。

3.税制抜本改革の道筋

危機的な状況にあるわが国経済を早急に立て直すとともに、中長期的な経済成長力の強化、社会保障制度の機能強化、財政の健全化を図るために、上記に掲げた税制抜本改革の諸課題について、政府は、今後5年間程度のスケジュールを明確に示した上で、着実かつ段階的に実現を図るべきである。

III.平成22年度税制改正に関する提言

平成22年度税制改正では、平成21年度税制改正に引き続き、一刻も早く景気を本格的に回復させるよう、イノベーション促進など経済活性化に資する税制措置などを講じるべきである。また、企業グループ内の一体的な経営や企業活動のグローバルな展開に対応した税制の見直しなども重要である。

1.法人課税

(1)イノベーション促進などに係る税制措置
  1. 研究開発促進税制の拡充
    グローバルな競争が激化する中で、資源の少ないわが国が安定的な成長を維持するためには、わが国産業の強みである「科学技術」の優位性を保ち、イノベーションを創出し続けなければならない。研究開発投資は中長期的な利益の源泉であるが、世界同時不況の影響により、企業のリスク負担能力が低下している中では、十分な投資が行われず、将来の成長が犠牲になることが懸念される。また、わが国は、研究費に対する政府負担割合が主要国と比較して最も低い水準にある一方で、諸外国は競い合って研究開発促進税制の拡充を行っており、わが国企業の国際競争力を維持・強化する上で、研究開発促進税制の拡充は必須である。本来、研究開発促進税制全体を法人税法本則に盛り込み、恒久措置とすべきである。
    少なくとも、本年6月に成立した「経済危機対策における税制上の措置」により、平成21、22年度分に生じる税額控除限度超過額の平成24年度までの繰越を可能とする措置および税額控除限度額の時限的引上げ(法人税額の20%→30%)が実施されたことは、研究開発投資の下支え要因になると評価している。研究開発投資の促進は、短期的な景気対策のみならず、中長期的な成長戦略においても重要な課題であり、税額控除限度超過額の繰越期間の3年間への延長および税額控除限度額の引上げを恒久的に措置すべきである。また、今年度で期限切れを迎える上乗せ措置(増加型、高水準型)について延長・拡充を図るべきである。

  2. 情報基盤強化税制の拡充・延長
    ITの利活用による企業の生産性向上が急務であることから、情報基盤強化税制については、適用対象の範囲拡大および適用期限の延長を図るべきである。

  3. 欠損金の取扱いの見直し
    今年7月、経団連は、在日米国商工会議所、欧州ビジネス協会との共同で「欠損金の繰越期間延長および繰戻還付の復活・延長の早急な実行を求める共同提言」を公表した。不況の煽りを受け、多くの企業が赤字決算を余儀なくされているが、それらの企業にとって有効かつ即効性のある投資促進策は、欠損金の繰越期間の延長である。わが国の欠損金の繰越期間は7年間と、アメリカは20年、イギリス、フランス、ドイツ、オーストリアなどは無期限であるのに比べ、非常に不利な制度となっている。一方、欠損金の繰戻還付については、法人税法として規定されながら財源措置として停止されている。平成21年度税制改正において中小企業に限って繰戻還付が復活したが、本来、全ての企業に認められるべきである。これらを踏まえ、欠損金の繰越期間の延長および繰戻還付の復活・延長を実施すべきである。

(2)国際課税

グローバルな競争の激化や人口減少への対応から、わが国企業は生き残りをかけて積極的な海外事業活動を展開しており、海外生産比率は年々上昇している。国際的二重課税の排除や事業の予見可能性の向上に向け、国際的な事業展開に対応した国際課税制度への改善等を図るべきである。

  1. 国際課税制度の改善

    (a)タックスヘイブン対策税制の見直し

    近年、世界各国で法人実効税率の引下げが進められている。シンガポール、マレーシアなどの東南アジア諸国のみならず、多くの日本企業が進出している中国(法人実効税率25%)、韓国(法人実効税率24.2%)でも法人税率が引き下げられ、すでにタックスヘイブン対策税制のトリガー税率(25%以下)に抵触している。今後も世界各国で法人実効税率の更なる引下げが実施されれば、ますます多くの国々がわが国のタックスヘイブン対策税制のトリガー税率に抵触し、海外進出している日本企業の事業展開に影響を及ぼしかねない。諸外国の法人実効税率の動向を踏まえ、現行のタックスヘイブン対策税制の基準を20%未満に引き下げるべきである。また、納税者の予見可能性確保や事務負担軽減の観点から、一定条件を満たす国・地域に所在する子会社についてタックスヘイブン対策税制の対象外とするホワイトリストを導入すべきである。さらに、二重課税排除の観点から非課税とされた配当所得や組織再編が行われ非課税となったキャピタルゲインなどによって、税負担率がトリガー税率を下回る事例が存在するが、税負担率の計算に影響を与えないように措置すべきである。
    企業の海外における拠点配置・グループ企業構成の自由度を確保するため、租税回避行為を目的としない企業の海外事業展開までがタックスヘイブン対策税制の対象とならないよう、物流統括会社などにおける非関連者基準の緩和などの適用除外要件の見直しを図るべきである。また、一旦適用除外要件を満たした子会社について、複数年度にわたって適用除外を認める制度の導入も必要である。

    (b)移転価格税制の見直し

    移転価格税制については、最近、移転価格事務運営要領の改定や事前確認制度の充実などが図られている。一方、昨年の金融危機以降、世界各国が、自国の税収を確保すべく、移転価格税制などを濫用する傾向がみられる。こうしたなかで、国際的二重課税を排除するための相互協議に多大な労力と時間を要するばかりでなく、相互協議を重ねたとしても、相手国で納付済みの税金を取り戻せる見通しが低いといった問題も依然存在し、わが国企業が海外事業を展開する上でのリスクとなっている。まずは、事前確認制度および相互協議の一層の迅速化、効率化が期待される。
    国外関連者要件について、実際には支配権が及ばない株式保有比率50%の場合を除外し、50%超とするなどの見直しを図るべきである。なお、無形資産取引、役務提供取引の取扱いや寄附金課税と移転価格税制との関係などについては、企業の実態・実情を十分に配慮しつつ、納税者の理解・納得が得られるように慎重に執行すべきである。

    (c)その他

    平成21年度税制改正において、海外市場で獲得される利益を日本に還流させ、国内の経済活動の活性化に結びつけるべく、間接外国税額控除を廃止し、海外子会社受取配当金益金不算入制度が創設されたことは高く評価できる。一方、直接外国税額控除制度については、繰越期間経過により国際的な二重課税が排除されない可能性が依然として残されているため、企業の海外活動の制約とならないよう、繰越限度超過額・控除余裕額の繰越期間を延長するなど、適切な措置を講じることが重要である。

  2. 租税条約ネットワークの充実・拡大
    租税条約ネットワークは、二重課税を排除し、わが国企業の安心かつ確実な海外事業展開を確保するための重要なインフラである。ブラジル、中国、タイ、インド、インドネシア、ドイツ、オランダ、ロシアなどの国々との租税条約を改定するとともに、アルゼンチンなどの未締結国との租税条約締結交渉を進め、ネットワークの拡充を図る必要がある。とりわけ、平成21年度税制改正において海外子会社受取配当金益金不算入制度が創設されたが、親子間配当に係る源泉徴収がわが国への資金還流の障害となっている国もみられるため、配当に係る免除規定を備えた租税条約の改定・締結を進めるべきである。また、技術交流促進の環境整備を図るうえで、使用料に係る源泉徴収の減免など、二重課税を排除する措置が必要である。
    また、OECDモデル租税条約や欧米等の租税条約で導入されている仲裁規定について、わが国としても導入に向けた具体的な検討を進めるべきである。

(3)資本に関係する取引などに係る税制措置

企業グループの一体的経営の傾向が強まっていることを受け、平成14年度税制改正において、組織形態に中立的な税制として連結納税制度が導入されたが、現行制度は、事務負担や租税回避行為防止措置により、必ずしも十分に普及していない。子法人の繰越欠損金の持込制限や連結納税グループ内寄附金の取扱い、連結納税グループへの子法人の加入時期、連結納税開始・加入時における子法人資産の時価評価課税などについて、改善を図るべきである。また、100%グループにおける資産の移転や、資本の払戻(自己株式取得)、清算等について、実務面に配慮しつつ、グループ経営の実態等と整合的な税制の導入を図るべきである。

(4)地方法人課税等
  1. 償却資産に係る固定資産税の見直し
    償却資産に係る固定資産税は、企業の設備投資意欲を低下させ、経済活性化を阻害する要因となっている。また、特定の設備型産業に負担が偏重しているため、課税の公平性の観点からも問題が大きい。国際的にみて極めて稀な課税でもあり、縮減・廃止を図るべきである。  また、急を要する見直しとして、平成19年度税制改正において減価償却制度の抜本的な見直しが行われたが、償却資産に係る固定資産税の課税標準の計算方法については旧来のままとなっており、残存価額の廃止など、国税の課税標準の計算方法との整合性を図るべきである。

  2. 事業税資本割の無償減資等の特例措置の恒久化
    資本の欠損てん補のために無償減資を行った法人の法人事業税外形標準課税資本割の課税標準に係る特例については、平成22年3月31日に期限切れを迎えるが、欠損てん補に充てた金額を資本積立金額から控除することの合理性に鑑み、これを恒久化すべきである。

(5)その他
  1. 受取配当金益金不算入割合の見直し
    受取配当金への課税は、法人段階で課税済みの所得の分配に対する課税であり、二重課税排除の観点から、法人の受取配当金における益金不算入割合を引き上げるとともに負債利子控除を廃止すべきである。

  2. 海外投資等損失準備金制度などの延長
    国際的な資源獲得競争が激化する中、わが国は、資源・エネルギーに対する輸入依存度が極めて高く、国際的資源・エネルギー市場の不安定性、探鉱・開発地域における政治経済的なリスクの増加など、脆弱な供給構造を抱えている。
    資源・エネルギーの安定供給に向け、わが国企業による探鉱開発の促進の観点から、海外投資等損失準備金制度および減耗控除制度(探鉱準備金制度・海外探鉱準備金制度および新鉱床探鉱費・海外新鉱床探鉱費の特別控除)の適用期限を延長すべきである。

  3. 産活法に係る登録免許税の特例の延長
    わが国企業の生産性向上を図るため、産業活力の再生及び産業活動の革新に関する特別措置法に基づいた計画に従って会社設立や増資などを行う場合の登録免許税の軽減措置の適用期限を延長すべきである。

  4. 租税特別措置の見直し
    各種租税特別措置は、様々な政策目的を実現するために設けられているが、経済の活性化や企業活動の円滑な遂行など、本来の政策目的と現状を照らし合わせた上で、広く活用され有効に機能している租税特別措置については、恒久措置として法人税法等本則に盛り込むか、少なくとも適用期限の延長を図るべきである。

  5. 税と会計のあり方
    投資活動のグローバル化に伴い、資本市場のインフラである会計基準の世界的な統一化の流れが加速している。このような世界的な動向を踏まえ、今年6月、金融庁企業会計審議会は、「我が国における国際会計基準の取扱いに関する意見書(中間報告)」を公表し、将来、連結財務諸表に国際会計基準の適用を義務付ける方向性を明確に打ち出している。
    わが国税制は、企業会計と密接に関係しているが、国際会計基準の動向が課税ベースの拡大など、わが国法人税における課税所得計算に大きな影響を及ぼさないよう、実務への影響にも考慮しつつ、企業の国際競争力強化の視点から、税制上の対応を図る必要がある。
    さらに、今後、国際会計基準とのコンバージェンスの流れの中で、わが国会計基準の改定が相当程度見込まれることから、個別財務諸表、個別会計基準のあり方についての抜本的な見直しを含め、税と会計の基本的なあり方の整理を行う必要がある。

  6. その他
    企業の経営戦略における自己資本の充実の観点から、特定同族会社の留保金課税の見直しが必要である。

2.土地・住宅税制

内需拡大による景気回復を図っていくためには、経済や雇用への波及効果の大きい住宅投資が極めて重要であるが、足元の住宅市場は、新設住宅着工戸数が低迷を続けるなど、厳しい状況にある。また、土地の有効利用を通じた都市再生は、内外から投資を呼び込み、わが国の国際競争力の強化につながるが、今年に入ってから、地価は、住宅地・商業地ともに下落しており、昨年まで地価上昇の牽引役であった大都市部も急落するなど、土地取引が停滞している。
住宅の取得促進や質的向上、土地・建物の流動化や有効利用を図るため、以下の措置をはじめ、今年(度)末で期限切れを迎える、土地・住宅税制の各種特例の延長を講ずるべきである。

  1. 新築住宅に係る固定資産税の軽減特例の延長
  2. 相続時精算課税制度に係る住宅取得資金贈与の特例の延長
  3. 居住用財産の譲渡・買換えに関わる特例措置の延長
  4. 長期優良住宅に対する特例措置(登録免許税、不動産取得税、固定資産税)の延長
  5. 住宅の質的向上につながるリフォームを促す税制措置の延長
  6. マンション建替事業に係る特例措置の延長
  7. 住宅以外の家屋に係る不動産取得税の特例の延長
  8. JリートおよびSPCに係る登録免許税の特例の延長

なお、長期優良住宅に対する投資減税型の所得税特別控除については、制度の使い勝手を検証し、より活用しやすい制度となるよう改善すべきである。
また、商業用地に係る固定資産税の過重な負担の解消を図るとともに、政策目的が失われた地価税および法人の土地譲渡益重課制度は速やかに廃止すべきである。

3.金融証券税制

海外投資家からの資金を社債市場に呼び込み、企業の資金調達の円滑化を図るために、平成22年3月末で期限切れを迎える民間国外債の利子非課税制度を恒久化するとともに、海外投資家が受け取る振替社債に係る利子の非課税措置を創設すべきである。
自己株式の公開買付けの場合のみなし配当課税の特例については、適用期限を延長するなど、個人株主が自己株式の公開買付けに応じやすい環境を整備すべきである。
少額の上場株式等投資のための非課税措置の具体的な制度設計を行うにあたっては、投資家の利便性および金融機関の実務負担などに配慮する必要がある。
個人投資家が受け取る配当に関して、法人・個人間における二重課税の調整を図る必要がある。

4.年金税制

今後、公的年金給付が相対的に縮減していく中、自助努力による老後の所得確保を図るために、私的年金制度に対する税制上の支援を行うことは極めて重要である。
年金課税の基本原則は「掛金の拠出・運用時非課税、給付時課税」とすべきである。特別法人税は、平成20年度税制改正において適用停止が3年間延長されたが、この原則に反するばかりでなく、国際的にも例のない課税でもあることなどから、速やかに撤廃すべきである。
また、確定拠出年金については、自助努力の必要性の高まりに対応する私的年金制度の中核として普及・発展させるために、企業型における従業員による掛金拠出容認(マッチング拠出)、拠出限度額の更なる引上げ、資産の引出し要件の緩和、加入対象者の拡大などを行うべきである
平成24年に廃止される適格退職年金制度について、企業年金制度等への円滑な移行を行うため、税制上の措置を含めた適切な対応が必要である。

5.自動車・燃料関係諸税

現行の自動車・燃料関係諸税は、非常に複雑で、かつ一部に二重課税が生じているなど、自動車ユーザーに過大な負担を強いるものとなっている。また、道路特定財源が一般財源化されたことにより、受益者負担に基づき道路整備を進めるという従来の課税根拠も失われており、暫定税率や税目の廃止を含め、納税者の理解を得ながら、税体系全体の見直しの中で、総合的に検討していくことが肝要である。
また、税制のグリーン化の推進の観点から、低燃費・低排出ガス認定車等に対する自動車税の軽減措置の維持・拡充および環境対応車(中古車)の取得に対する自動車取得税の特例措置の適用期限の延長などを図るべきである。さらに、景気対策の一環として実施している、自動車重量税ならびに自動車取得税に係る、いわゆる「エコカー減税」の継続も不可欠である。

6.その他

(1)印紙税の廃止

近年、インターネット電子商取引が一般化し、経済取引のペーパーレス化が著しく進展するなか、紙を媒体とした文書のみに課税する印紙税については、合理性が失われており、公平性の観点から、廃止すべきである。

(2)特定輸出申告制度に係る消費税課税の見直し

特定輸出申告制度で許可された外国貨物に係る役務については、一般の輸出申告制度で許可された外国貨物に係る役務と同様に、消費税を免税とすべきである。

(3)原産地証明に係る登録免許税の廃止

先般、経済連携協定に基づく原産地証明法の改正により、認定輸出者自己証明制度が新たに導入されることとなったが、同制度の活用促進の観点から、原産地証明に係る登録免許税を廃止すべきである。

(4)税務関連手続き、書類の一層の電子化に向けた措置

税務関連帳簿書類の電子化に関しては、電子帳簿保存法の厳格な規定により十分な普及が進んでおらず、要件緩和を含め、改善が必要である。また、e-Taxの改善、年末調整の税額通知の電子化、全地方自治体のeL-Taxへの参画など、企業、行政双方の業務効率化の観点から、電子化を促進すべきである。

以上

日本語のトップページへ