日本経団連ASEANミッションに関する御手洗会長報告

2009年12月7日
(社)日本経済団体連合会

1.全般にわたる感想

  1. (1) 今次ミッションは、11月29日から12月5日にかけて、タイ、シンガポール、ベトナムを訪問した。団員14名の各地における各種行事への積極的な参加と発言を得て、経団連のアジア重視の姿勢を内外に示すことができた。
    なお、今回は、会長としての海外出張の26回目にあたり、アジア訪問は16回目となる。
    また、これら3国の政治・経済のリーダーとの間で、経団連が10月11月の2度にわたる提言で示したアジア成長戦略(地域経済統合の推進による市場拡大と貿易投資の活性化、ハードとソフトの各種インフラの整備を通じた成長のボトルネックの解消で、域内格差の縮小と各国の成長基盤の確立を図る)について共通認識を形成するという、所期の目的を達成することができた。
    具体的には、全行程を通じて、訪問各国のリーダーと、わが国の経済界がアジアの経済成長にどのような具体的貢献ができるか、また、経済連携協定の下で両国経済関係をいかに発展させることができるか等をめぐり、踏み込んだ意見交換を行った。
    これらを通じて、アジア諸国の対日期待の大きいことを痛感した。

  2. (2) いずれの訪問国においても、世界同時不況に対応し、景気対策を講じており、早くもその効果が現れはじめている。各国のリーダーの説明には自国経済の景気回復に対する自信が感じられ、各国とも景気回復の途上にあることを実感した。また、訪問の先々で、今次ミッションの訪問は、新たな協力関係を話し合うにふさわしい時期を選んだとの評価を頂いた。
    さらに、わが国とこれら3国との経済連携協定は、両国の貿易・投資の活性化に大いに貢献しており、今後は、関税の引き下げのみならず、地球温暖化・環境保護での協力、サービス貿易の自由化、人の移動の活性化等で、更なる改善が必要であるとの認識で大筋において一致した。
    他方、経済統合を支えるインフラ整備については、わが国の企業を含む民間投資の役割が重要であり、各国が投資・ビジネス環境の整備に努めるとともに、広域インフラ整備に要する大規模な資金調達にあたっては、アジア全体の資本市場を整備することが重要であるとの認識で一致した。

2.国別

(1) タイ

タイでは、アピシット首相、ゴーン財務大臣、カシット外務大臣、チャーンチャイ工業大臣等の政府首脳や経済界代表とアジア成長戦略、両国経済関係の強化、ビジネス環境整備の当面の課題をめぐり、幅広く意見交換を行った。アピシット首相、ゴーン財務大臣といった若い指導者の熱のこもった経済政策の説明に感銘を受けた。
タイは、7,000社といわれる日本企業が進出するわが国有数の投資相手国であり、これまでの産業協力の積み重ねにより裾野産業の集積がある。バンコクには日本企業のASEAN内事業の本拠を置くところも多く、戦略的に重要な位置づけがなされている。また、中間所得層の拡大を背景に国内の消費市場が急成長しており、実際に街中のマーケットは熱気を帯び、今後の高い発展可能性を感じた。
さらに、わが国との経済連携協定(JTEPA)の実効性を確保するため、その下に設けられたビジネス環境整備小委員会を活用し、鉄鋼の強制規格の課題など、両国企業の抱えるビジネス上の問題を取り上げていくことが重要であるとの考えを伝えた。
それから、アピシット首相が面会場所に選び自ら説明されたOSOSセンター(ワンスタート・ワンストップ・投資センター)の開設と外資自由化政策の推進は、投資の円滑化を具現化する同国の姿勢の現れであり、このような取組みを大いに歓迎したい。
なお、タイの民間経済界より、大メコン圏(いわゆるGMS)の経済開発で、メコン域内外の関係国のコネクティビティ強化が重要であり、日本がそのインフラ整備に官民連携(いわゆるPPP)を活用して貢献していくことに対し、期待が表明された。

(2) シンガポール

シンガポール訪問では、リー・クアンユー内閣顧問、ゴー・チョクトン上級相、ターマン・シャンムガラトナム財務大臣およびシンガポール経団連と、経済統合、金融協力、イノベーション戦略などをめぐり、踏み込んだ意見交換を行った。
特に、本年度のAPECの議長国であるシンガポールの経済界からは、サプライチェーン・マネジメントなどの新たなビジネスモデルを海外展開する上で、APEC規模の地域統合であるFTAAP(アジア 太平洋自由貿易圏)の実現が有用であり、そのためにも、TPP(環太平洋戦略的経済連携協定)を積極的に活用すべきであるとの示唆があった。また、米国の参加が必須であるとの認識で意見の一致をみた。
リー・クアンユー内閣顧問からも経済統合推進のため、日本の積極的なアジア域内のインフラ投資の推進が求められた。
ゴー上級相からは、域内インフラ整備の要する資金調達のため、債券市場整備で世界的金融センターを有する両国が協力することが必要であり、通貨監督庁と経団連が、格付け機関の育成を含むアジアの資本市場整備で協議を継続することが提案された。前向きに検討したいと考える。
また、イノベーション戦略の推進についても、両国間の官民連携の推進ならびに海外から有能な研究者を招いているシンガポールの経験が有用との指摘があり、協力の提案があった。この関連で、世界の一流研究者を集めるバイオポリスの視察では、シンガポールが強力な科学技術立国として国際競争に乗り出そうという強い意思を感じた。わが国も参考にすべきであろう。

(3) ベトナム

ベトナム訪問では、チエット国家主席、ズン首相、フック計画投資大臣等の政府首脳や商工会議所代表と懇談した。近年、わが国経済界とベトナムの党や政府要人との交流が頻繁となっており、両者間の信頼関係構築とこれに基づく経済関係の発展に大きく貢献している。
ロック ベトナム商工会議所会頭より、「日越両国は経済関係で、既に戦略的なパートナー関係にあり、経団連と商工会議所の関係強化の覚書を締結したい」との申し入れがあり、これを受けることとした。
チエット国家主席、ズン首相とは、原子力発電所建設、南北高速道路、南北高速鉄道、ホアラック・ハイテクパーク、ハノイとホーチミンの地下鉄の建設等での両国間協力について、踏み込んだ話し合いを行った。
今回の訪問は、日越経済連携協定が10月1日に発効後、経団連としては初めてのものであり、高い期待感をもって経済関係の一層の発展について展望を互いに述べ合うことができた。
また、経済連携協定と車の両輪をなす「日越共同イニシアティブ」の第3フェーズが、昨年からはじまっており、これまでの2回の経験と成果から、投資・ビジネス環境の著しい向上のために、第3フェーズも計画通り履行されることに強い期待を双方が述べた。特に、フック大臣より、行政手続きの全体の30パーセントにおよぶ不要なものを来年、削減するとの決意が伝えられたことは大きな成果であった。
こうしたことを背景に、同国では、他国に先んじて早いスピードで景気回復が進んでおり、今年度は、5.2パーセント、来年度は6.5パーセントと極めて高い成長を実現する勢いであるとの説明を受け、アジア成長戦略を進めていく上で大変に意を強くした。
なお、経団連は、対ベトナム人材支援の一環として、来年から3ヵ年の計画でベトナム国家大学法学課程学生対象の日本法講座の実施に財政支援することとしており、その旨をズン首相に伝えた。

(4) ASEAN

タイ滞在中に、スリンASEAN事務総長と懇談の機会を得て、アジア地域における経済統合や民間の役割、民間の参加促進策などにつき意見交換を行った。特に、広域インフラ整備に係る「アジア総合開発計画」の策定に関し、経団連とASEAN事務局が緊密に意見交換を行うことで基本合意した。

3.アジア・ビジネス・サミット

今回訪問した3カ国の経済界代表に、明年、3月15日に東京で開催するアジア・ビジネス・サミットへの招待を改めて口頭で行ったところ、いずれからも是非参加したいとの回答を頂いた。今次のミッションの成果を踏まえて、アジアの開かれた経済統合、経済成長の基盤作りの実現を目指すとともに、将来課題である東アジア経済共同体の実現に向けて議論を深めていきたい。

以上

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