わが国観光のフロンティアを切り拓く

2010年4月20日
(社)日本経済団体連合会

1.はじめに

日本は現在、産業・雇用の海外流出、少子化・高齢化、財政赤字の拡大、地域の疲弊といった課題への対応を迫られており、将来にわたって経済成長を牽引する役割を担う産業を育成しなければならない状況にある。
対象の一つが観光産業である。観光産業は、旅行業、宿泊業、飲食業にとどまらず、農林水産業、製造業、建設業など異業種とも密接に連携する総合産業である。その裾野の広さゆえに大きな経済波及効果と雇用創出力を持つことから、地域活性化の鍵、ひいてはわが国の経済成長の牽引役となる可能性を秘めている。
現在、政府は観光立国を優先政策課題とし、本年6月に策定予定の「新成長戦略」や、国土交通省の成長戦略会議において、観光を成長分野のひとつに位置づけている。そこで、本年2月に公表した「観光立国を担う人材の育成に向けて〜産学官の連携強化を〜」に引き続き、政府の新成長戦略の動きに対応し、以下採るべき方策を提言する。

2.わが国観光産業の成長に向けた戦略

今後、わが国の観光産業を飛躍的に成長させるためには、国内の潜在的な観光(「娯楽やビジネス、その他の目的のために人々が、まる一年を超えない範囲内で継続的に通常の生活環境以外の場所に旅行し、滞在する活動」世界観光機関より)需要を喚起するとともに、世界的に規模が大きい、または拡大しつつある需要を取り込み、訪日外国人観光客を増やす必要がある。そのためには、第一に、わが国の観光コンテンツの強化や優れた景観の保全により国際競争力を高めること、第二に、そのコンテンツを効果的に発信して観光客を呼び込むこと、第三に、訪れた観光客が不自由なく、快適に観光を楽しむのに必要なハード、ソフト両面のインフラを整備することが課題となる。

(1) 観光産業の国際競争力強化

1.ニューツーリズム #1 の普及と拡大

今後、国内外の新規需要を開拓し、拡大するためには、「団体旅行から個人旅行」、「名所・旧跡巡りから体験型、テーマ性を志向する旅行」へと観光ニーズの多様化が進むことが予想されることから、個々の観光客の嗜好に合わせた商品を提供することが重要である。

  1. 産業観光 #2
    日本は、モノづくりを中心に経済成長を遂げてきたため、各地に歴史的価値のある産業遺産、最先端の技術水準を誇る工場や工場群などが数多く存在する。日本の産業発展の歴史やものづくり技術に強い関心を抱いている外国人は多く、こうした資源を活用した産業観光は、訪日外国人観光客誘致の目玉のひとつとなる。もちろん、日本人にとっても、こうしたモノづくりの現場に触れることは、わが国の経済発展の原点に立ち返る貴重な機会となろう。
    企業にとって、自社の資源・資産を産業観光に供することは、消費者をはじめとする社会とのコミュニケーションの手段のひとつであり、CSR(Corporate Social Responsibility)の一環と位置づけられる。自社の事業や取組み、自社製品に対する理解増進、ひいてはものづくりの面での日本ブランドのアピールにもつながる。他方で、不特定多数の観光客を受け入れる以上、企業秘密の漏洩の防止や、工場内の受け入れ態勢・安全確保には万全を期す必要がある。すでに一般開放されており受け入れ体制が整っているPR施設や企業博物館なども活用しながら、CSRに対する社内の理解を醸成しつつ、前向きに取り組むことが期待される。
    産業観光は、すでに各地で実施されている事例があるが、今後、さらに魅力を高め観光客をひきつけるためには、工場見学やものづくり体験に加え、地域の独自性を出した観光商品を作り上げることが必要である。例えば、テーマごとに関連性のある複数の施設を結びつけ周遊ルートを設定するとともに、地域の歴史・文化と施設内容とを関連付け、ストーリー性を持たせるといったことが考えられよう。そのためには、個々の企業の取り組みに加え、ルート設定やPR、参加者の募集、周遊バスの運行などの面で、広域連携を含め、自治体が大きな役割を果たすことが求められる。

  2. グリーンツーリズム #3
    環境意識や健康志向の高まりとともに、農業や漁業などに対する国民の関心が高まっている。また、訪日外国人観光客の間でも日本の農村風景や農山漁村文化に興味や魅力を感じる傾向が見られることから、グリーンツーリズムの潜在需要は大きいと見込まれる。
    都市と農山漁村との交流は、受け入れ地域の活性化にもつながると期待される。実際、2008年度より、農林水産省・文部科学省・総務省が連携して小学生を対象に「子ども農山漁村交流プロジェクト #4」を実施するなど、政府はグリーンツーリズム普及に向けた取り組みを進めている。また、受け入れ地域でも、民泊受け入れの総合窓口となる協議会を立ち上げ、自前の交流企画を作成し募集するなど主体的な取り組みを始めている。
    農家や漁家が報酬を得て民泊を受け入れるためには、本来、旅館業法上の営業許可の取得が求められることもありうる。また、協議会の活動についても宿泊の手配とみなされ、旅行業の登録が必要となる可能性がある。これらの許可・登録の要件を厳格に運用すると、意欲ある農家・漁家や地域の取り組みを阻害しかねない。グリーンツーリズムはようやく緒に就いたところであり、今後、一定の時間をかけて育成していく必要がある。そのためにも、受け入れ農家・漁家や地域の実情に即した要件を整備し、取り組みを後押ししていくべきである。
    上記に加えて、わが国国土の大部分を占める森林を観光資源として積極的に活用することも考慮すべきである。国立公園を含め、森林における環境保全と観光資源としての活用を両立させるため、適切に管理された林道等やキャンプサイトを含む宿泊施設の整備、森林やこれらの施設等の管理を行う人材の育成と雇用および社会的地位の向上をはかることが求められる。まずは特定地域において自然保護、雇用創出、青少年育成等の多目的なプロジェクトを起案し、実施することが有効である。その際、制度・資金両面において、政府は柔軟な姿勢で支援すべきである。

  3. メディカル・ツーリズム
    日本の医療に対する海外からの期待が大きいことから、海外から患者を日本に呼び込むメディカル・ツーリズムを推進すべきである。
    その際、日本における医療技術の高さ、安全性を海外にPRするためにも、医療機関の国際的な信用度の高さを示すJCI認証 #5 の取得推進について積極的に取組むとともに、外国人医師が日本において多国籍の患者を診療するための制度の見直しや、治療を行う患者の国の医療機関(患者主治医等)との診療情報の共有や情報交換を行うための連携体制を確立するなど、多様な国籍の患者に対応するための環境整備も重要である。加えて、電子カルテシステムや健診システムの多言語対応化、医療情報交換規約の国際標準化、診療ガイドラインの多国籍共通化、他国の保険制度に対応できる体制の構築、ビザの許認可等、外国人患者が治療のために滞在できる環境の整備、などについて検討する必要がある。

  4. エンタメ観光
    わが国のテレビドラマや映画、アニメ、音楽、ゲームなどエンターテインメント・コンテンツは国際的に見ても水準が高く、アジアをはじめ世界中で評価、愛好されている。こうしたエンターテインメント・コンテンツをきっかけに日本に関心を持つ外国人も多い。たとえば、2007年から毎年開催されている「Japan国際コンテンツフェスティバル(COFESTA)」は、「東京国際映画祭」や「東京ゲームショウ」など長い歴史を持ち定評があるイベントで構成される、わが国のエンターテインメント・コンテンツの総合的なショーケースであるが、同フェスティバルを所管する経済産業省と観光庁の連携により、海外からも数多くの訪問客を集めている。また、静岡市は「ホビーの町静岡」というテーマを掲げ、アニメ「機動戦士ガンダム」のプラモデル工場に国内外から見学客が殺到している。
    このように、エンターテインメント・コンテンツは観光客誘致の有力なツールとなることから、コンテンツと観光の連携を戦略的に進めていく必要がある。たとえば、韓国や中国の人気テレビドラマや映画のロケ地となった日本の市町村で、これらの国々からの観光客の急増がみられる。その土地に観光客をひきつける魅力があることが前提ではあるが、テレビドラマや映画はそうした魅力が海外にも知られるきっかけとなり得る。国境を越えた共同制作などにより、企画段階から観光集客効果を計算に入れた仕掛けを創っていくと同時に、舞台となる地域の受け入れ態勢を整えておくような戦略が求められる。

  5. 都市観光
    地域のさまざまな資源の活用を考えるときに、都市そのものを観光資源ととらえる視点も忘れてはならない。外国人観光客が、日本に降り立つ際のゲートウェイとなるのは都市であり、その都市自体が魅力的であることは、観光客をひきつける上で重要である。ニューヨーク、パリ、シンガポールなど世界の大都市は、観光都市としても名を馳せており、東京、名古屋、大阪といったわが国の大都市も、これに勝るとも劣らない観光都市にすべきである。
    都市観光の魅力を高める要素として、その都市を象徴するランドマーク、歴史と現代が調和した景観、単なる買い物にとどまらない非日常感を伴うショッピング、最上級の文化・ファッション・エンターテインメントなどが挙げられる。これらを実現するために、高層ビルばかりでなく歴史や情緒を伝える街並みの保全・創出、水辺の再生による潤いある都市空間・にぎわいの創出、舟運ネットワークを活用したクルージングといった観光資源の開発が求められる。また、大規模かつ複雑な都市を限られた日数でめぐるための観光プランの提案、複数の美術館・博物館に入場できる共通ミュージアム・パスなどの発行、国際学生証による割引の適用範囲の拡大、外国人のショッピングの際の免税手続の簡素化といったことも検討に値する。

  6. その他
    このように、観光の形には数限りないバリエーションがあり得るが、重要なことは、地域の歴史や伝統、文化、地場産業、技術など独自の観光資源を活かし、「ここにしかない」独創的な内容をアピールすることである。
    例えば、愛知県では、織田信長・豊臣秀吉・徳川家康という代表的な戦国武将を輩出した歴史に着目し、彼らにまつわる史跡を周遊ルート化して「武将観光」を推進しており、最近の歴史ブームもあいまって好評を博している。平城遷都1300年祭や伊勢神宮式年遷宮のような地域の歴史の節目となるイベントも、歴史遺産に対する関心を改めて呼び起こす契機となる。
    また、福岡市では、環境保全や高齢化対応、安全・安心に配慮したまちづくりのノウハウを活かし、アジア諸国からまちづくりの視察・研修旅行を積極的に受け入れている。まちづくりノウハウの海外展開は今後のわが国にとって重要な分野となることが予想され #6、それと観光を組み合わせた興味深い事例である。
    さらに、「スポーツ観光」にも注目すべきである。オリンピックやワールドカップなどの大規模なスポーツイベントが、大きな集客力を持つことは言うまでもないが、スキーやゴルフ、スキューバダイビング、パラグライダーなど「体験するスポーツ」、サッカーやラグビー、野球など「観るスポーツ」のいずれにも人を動かす力があり、他の観光と組み合わせることにより、より魅力的な観光商品となろう。

2.MICE #7 とIR(Integrated Resort) #8

MICEとりわけ大規模な国際会議や展示会を誘致することは、訪日外国人観光客数を増やし、会議前後の観光や視察旅行の需要増につながるとともに、わが国の情報を発信するツールとして極めて有効である。また、平日の観光需要を補完し、繁閑の差を平準化するのに貢献する。
大規模な国際会議等を実施するためには、大規模な会議場や展示場、参加者のための宿泊施設、アフターコンベンション施設などのハードインフラと、会議運営や通訳、ケータリングなどのソフトインフラを一体として整備することが不可欠であるが、日本にはそのいずれも不足している。こうしたインフラの整備・維持には莫大な投資が伴うことから、全国各地に分散した形で誘致・推進することは効率的ではない。限られた資源を効率的に活用するために、選択と集中の視点を持つ必要がある。
加えて、施設整備・運営にあたっては、PFI等の手法の活用や固定資産税の減免措置など、政府の協力が欠かせない。同じく言語の課題を抱える韓国が行っているように、国を挙げて通訳を養成することも必要である。また、企業等が単体でMICEを誘致することは難しく、国として誘致活動に積極的に取り組む必要がある。政府・自治体と企業がさらに情報共有を密にし、インセンティブツアーを呼び込むことも重要である。
さらに、カジノも含めたIRの展開が地域振興の観点からも有効であることは明らかである。IRの整備・運営に必要な条件を早急に検討し、将来的には導入を実現すべきである。

3.人材の育成と活用 #9

観光振興による地域活性化の最重要課題は人材育成である。ニューツーリズムは、観光業者が企画し募集するような発地型旅行商品ではなく、地域が企画し集客する着地型旅行商品であり、地域に密着してその地域の観光資源を発掘して観光振興を行う人材の育成が必須である。地域の大学の卒業生、Uターン、Iターンも含めた若者やシルバー人材を、産学官連携による人材交流やインターンシップなどを通じて育成・活用し、観光振興、地域活性化を実現していく必要がある。
また、観光の成長産業化を図るためには、マネジメント力、企画力、行動力に富み、経営改革を含む業界の高度化を推進できる人材の育成が不可欠である。とりわけMICEやIRの分野では、すでに海外で先進的なメソッドが確立されている。企業内研修や大学と企業の連携、海外留学など、産学が連携して、高度な企業経営、実務運営に耐えうる人材を育成することが急務である。

(2) 戦略的な情報発信

1.メディア戦略

韓国やマレーシアなどアジア諸国は、莫大な予算を投じてグローバルなメディア戦略を展開し、観光デスティネーションとしての認知度を確実に高めている。それに対し、わが国のプレゼンスが相対的に低下していることは否めない。
この状況を打開するために、効果の大きいメディアに予算を集中的に投下し、観光地としての日本の魅力をわかりやすく、印象的に世界に向けて発信していく必要がある。たとえば、グローバルネットワークチャンネル等に集中的に予算を投下し、海外向けの訪日観光誘致CMや観光専門番組等を放送することも考えられる。また、視覚に訴えるメディアと併せて、富裕層や女性をターゲットにした雑誌などの媒体も複合的に活用し、日本のイメージアップ戦略を展開したり、前述の、海外の人気テレビドラマや映画のロケを積極的に誘致したりすることも一案である。

2.ビジット・ジャパン事業の選択と集中

現在、ビジット・ジャパン・キャンペーン(以下、VJC)の主な対象は15市場あるが、限られた予算で充分な効果を発揮するために、過去の効果も検証しつつ今後更なる観光客の増大が見込めそうな地域を重点市場として選別するなど戦略的に予算を集中投下すべきである。その際、アジアを中心としながらも、EUや米国など、人口も多く、日本への関心が高い地域・国に対し、重点的にPRを強化すべきである。
外国人観光客の訪日動機が地域ごとに大きく異なる点にも留意が必要である。たとえばJNTO(日本政府観光局)訪日外客実態調査によると、アジア人の最大の訪日動機は「ショッピング」であるのに対し、欧米人の訪日動機は「伝統・歴史」が中心である。従って、海外に対する観光PRに際しては、地域別・国別にそれぞれのニーズを分析し、それに沿った的確な戦略を構築・実施していくことが重要である。

3.ポータルサイトの構築

現在、インターネットやチラシ・リーフレット案内等で日本各地の観光関連情報が提供されているが、一括的かつ網羅的に情報を提供するシステムは充分に整備されず、アクセスされないまま埋もれている情報が多数ある。そこで、JNTOと各地域の連携を密にし、JNTOのサイトを観光客のための統一的なポータルサイトとすることにより、ここにアクセスすれば日本の観光関連情報全てを把握できるようなワンストップサービスを提供すべきである。

4.在外公館等の活用

在外公館等を一層活用し、訪日観光PRを強化すべきである。大使、総領事レベルは、高い意識を持って観光客の誘致に協力している。実務レベルも観光には力を入れている。JNTOの事務所が中心的な役割を担うが、各国政府関係者、外交官等が訪れる大使館や、現地の人々も出入りする領事館などにおいても、魅力的なVJCのポスターやパンフレットの配布、可能であれば待合室に観光地紹介の映像を流すといったPRを行うことが有効である。

5.世界遺産への登録

世界遺産に登録されると世界的に知名度が向上し、観光地として大幅な観光客増加が見込まれる。わが国の世界遺産登録数の増加を目指し、政府、地方自治体、その他関係者をあげて取り組みを強化すべきである。一方で、登録後、オーバーユースに伴う環境破壊や観光需要をねらった周辺の無秩序な開発に伴う景観悪化などの問題も発生している。世界遺産登録に向けた活動を進めると同時に、観光客受入れ体制の整備や景観条例を制定するなどの、持続的に世界遺産登録地が観光地として賑わいを保つような対策も必要となろう。

(3) インフラ整備

1.円滑な移動を可能にする交通インフラ等の整備
  1. 日本への入国の円滑化
    観光客、とりわけ外国人観光客にとっての日本の魅力を高めるためには、まず、日本への入国の円滑化を急ぐべきである。本年10月に羽田空港の再拡張整備がなされるなど、訪日外国人観光客を増やすための取り組みが着々と進行しつつあるが、利便性も担保されなければならない。羽田空港と成田空港の一体的な運用、都心部と成田・羽田各空港間、成田・羽田空港間、関西国際空港と大阪都心部間などのアクセスの改善、CIQ(税関、入管、検疫)手続きの迅速化、トランジット客のための空港内ホテルの充実などを通じた空港利用者の利便性向上を図る必要がある。

  2. 国内移動の円滑化
    また、日本国内の移動を容易にすることも重要な課題である。鉄道、空港、道路といったインフラ相互の連携や、大都市圏の環状道路の整備、ミッシングリンクの解消 #10、ITS(Intelligent Transportation Systems;高度道路交通システム)などICTの利活用による高度交通システムの構築 #11 を図り、周遊バスや観光タクシーなどの地域交通、レンタカーサービスなども含めて、ネットワークとして一体的に整備することが重要である。
    併せて外国人観光客にとっての利便性を高めるために、交通機関における外国語対応の充実、外国人用フリーパス等のサービス・商品の充実などを図ることが求められる。

2.ひとり旅を可能にする情報インフラ等の整備
  1. 観光案内所の拡充
    目的地に到着した観光客が、宿泊や交通、観光施設、飲食店、商業施設など、あらゆる情報を効率よく取得できるよう、空港や主要駅、町の中心等に、ワンストップ型の、多言語対応可能な総合観光案内所を設置することが望ましい。その際、より小さい地区ごとのインフォメーションセンターや施設内の情報コーナーなども含めて、外国人観光客が見つけやすいよう、観光案内所の表示として海外でも広く認知されているiマーク表示を徹底すべきである。

  2. ICTを活用した情報提供
    上述の観光案内所を含め、同じく空港や主要駅、町の中心など観光客が多く集まり、観光情報の受発信拠点となる場所にデジタルサイネージ #12 を設置することにより、観光情報を、従来の掲示板以上に豊富に、かつタイムリーに提供することが可能となる。後に述べる多言語情報の提供にも、デジタルサイネージは強みを発揮する。また、各地のデジタルサイネージをネットワーク化することで、当該地域ばかりでなく日本の他の地域の観光情報もタイムリーに入手できる。さらに、海外の姉妹都市とデジタルサイネージを通じて情報交流することにより、観光客誘致の効果も期待される。政府、自治体は、デジタルサイネージの普及やソフト開発に予算措置を講じるとともに、企業等と協力してコンテンツの充実に努めるべきである。
    併せて、携帯端末を利用した移動支援システム、多言語での観光情報、道路交通情報の提供および通信機能を備えたカーナビゲーションなどの実用化・充実も図るべきである。

  3. 多言語案内表示等の充実
    とりわけ外国人観光客でも不自由なくひとり旅ができるように、利用者の視点に立った情報提供が望まれる。まず、地図や地名表示、交通標識などの案内表示の多言語化を急ぐべきである。
    また、日本の住居表示制度では面に対して地名、地番がつけられているのに対し、海外では道路に対して道路名、番地が割り当てられていることが多く、道路さえ見つければ目的地に容易に到達できる。外国人観光客がひとりで目的地にたどりつけるよう、大通りから路地まで、すべての通りに名前をつけ番地を振るといったことも検討に値する。
    さらに、ホテルや旅館など宿泊施設、観光関連施設における外国人観光客の受け入れ体制も改善する必要がある。特に、言語面での不便・不安を感じる観光客をサポートするために、多言語対応のコールセンターを設置することも望ましい。例えば韓国では、国が4カ国語(韓国語、英語、日本語、中国語)で、内国・外国人対象に観光案内および通訳サービスを提供する行政ダイヤルを設け、24時間対応のコールセンターの設置を支援している。

3.観光を楽しむライフスタイルの実現

以上のような施策に加え、そもそも、国民が観光を楽しむことのできる、ゆとりあるライフスタイル、ワークライフバランスの実現が求められる。その一環として現在、検討されている大型連休の地域ブロック別分散化は、国内需要を喚起し、観光関連産業の雇用創出・安定化にも一定の効果を有すると考えられる。
ただし、企業の休日については、サービス業や観光関連産業など通年で営業するためシフト制を取る業種、製造業や金融業など全国に展開し相互に連携して操業・営業するため一斉休業とする業種など、業種・業態によりさまざまである。したがって分散化の実施に際しても従来通り労使自治を基本とすべきである。また、各種システム、手続等の調整、就業規則や労使協定の改定、国民への浸透には相当の時間を要することから、円滑な導入のためには十分な準備期間を確保し、実証実験を実施することが不可欠である。

4.観光立国を目指す官民の体制強化

(1) 政府における推進体制の一元化

観光政策は複数の省庁に関わることから、政府内における政策立案機能や推進体制の一元化が不可欠である。縦割りの規制による障害をなくすための省庁間の連携や、重複する補助金の整理と窓口の一本化なども求められる。すでに観光庁の設置、観光立国推進本部の発足等により、こうした課題への対応が図られつつあるが、より一層の強化を期待したい。

(2) JNTOの機能強化

JNTOはこれまで、わが国観光情報の海外発信や海外における観光市場調査・マーケティングなどに大きな役割を果たしてきている。しかしながら、今後、より一層の情報発信強化を図るためには、JNTOの機能強化は避けて通れない課題である。
たとえば、現在、VJCは観光庁の事業であるが、実質的には海外に事務所を持つJNTOが事業を展開している。今後、VJC事業をより効果的に展開するためにも、JNTOが直接、実施する形とすべきである。また、JNTO運営費交付金が年々減少しているなかで、企業と連携して独自に事業を実施するなど独自財源を確保する道を探る必要もある。
JNTOが期待される役割をより機動的かつ効果的に発揮できるよう、組織の位置づけ、性格を含め抜本的な見直しが必要である。

(3) 業界団体の再編

官側の組織再編と併せて、民間側としての受け皿機能を強化するために、現状、複数が並立する業界団体の再編・統合を図る必要がある。そのうえで民間の知見が政策に反映されるよう、官民が連携する仕組みを整えることも求められる。

以上

  1. 従来の物見遊山的な観光に対して、テーマ性が強く、体験的要素を取り入れた新しいタイプの観光
  2. 歴史的・文化的価値のある産業文化財(工場遺構などの産業遺産)や工場工房等を見学したり、ものづくり体験を行ったりする観光
  3. 農林漁業体験や農林漁家民泊などを通じ、その地域の自然・文化に触れ、地元の人々との交流を楽しむ観光
  4. 子どもたちの学ぶ意欲や自立心、思いやりの心、規範意識などを育み、力強い成長を支える教育活動として、小学校における農山漁村での長期宿泊体験活動を推進するプロジェクト
  5. JCI:米国の病院認証機関(Joint Commission International)
  6. 『わが国の持続的成長につながる大胆な都市戦略を望む』(2010年3月16日公表)を参照
  7. Meeting(会議、研修)、Incentive(招待、視察)、Convention, Conference(学会、国際会議)、Exhibition(展示会)の4つのビジネス・セグメントの頭文字をとった造語
  8. 大規模なホテルや会議場、アフターコンベンション機能を併設した複合型リゾート
  9. 『観光立国を担う人材の育成に向けて』(2010年2月16日公表)を参照
  10. 『わが国の持続的成長につながる大胆な都市戦略を求める』(2010年3月16日公表)を参照
  11. 『新しい社会と成長を支えるICT戦略のあり方』(2010年3月8日公表)を参照
  12. 屋外・店頭・公共空間・交通機関など、あらゆる場所で、ネットワークに接続したディスプレーなどの電子的な表示機器を使用して情報発信するシステム(≒電子看板)

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