G8ビジネス・サミット共同宣言

(仮訳/英文正文

− 2010年4月28‐29日 於カナダ オタワ −
2010年4月28日

われわれG8の最も代表的な経済団体は、各国政府に対し、政策調整を通じて広範な経済回復と強固で長期的な成長を確実にするよう求めるものである。そのためには、貿易不均衡、財政赤字および構造的な不均衡を是正する必要がある。より緊密かつ実効的な調整によって、原則主義に基づく(プリンシプルベースの)相互監視の枠組みを確立し、国際金融市場の健全性と安定性を確保することが求められる。企業が雇用を提供するためには、保護主義を排除した開放的かつルールに則った貿易体制に対する信頼が必要である。過度の政府支出と債務を解消するための出口戦略は、民間部門の景況感の改善につながるよう、適切なタイミングで、かつ十分な調整を経て実行されなければならない。そうすることが世界経済の持続的な成長にもつながる。

気候変動への対応は、来るべきG8・G20サミットの中心的なテーマではないが、非常に重要な問題であり、この共同宣言で言及しない訳にはいかない。各国政府は、全ての主要な排出国を含む気候変動枠組に関する合意に達しなければならない。それを通じてコペンハーゲン合意の目的を達成するための野心的な目標を設定し、技術の研究開発を促進するとともに、高度に効率的な全てのエネルギー源を含むエネルギー・ミックス実現のための投資に注力しなければならない。

来るべきG20トロント・サミットでは、以上の点について明確な前進をみるとともに、G20ソウル・サミットで達成すべき適切なタイミングでの行動についても合意しなければならない。


2010年4月28-29日、われわれG8経済界首脳はカナダのオタワに集まり、世界経済をめぐる緊急課題について議論した。われわれの関心は、主要な3つの課題、即ち金融・経済危機の再発防止、貿易の自由化促進と保護主義の排除、気候変動問題への対応に関してグローバルな協力を促進し、各国および国際的な制度の実効性を改善することにある。

世界経済が直面する課題は、関係者間の建設的な対話を通じてのみ解決に向け前進をみることができる。われわれは、来る6月25-27日にカナダで開催されるG8・G20サミットにおいて各国政府首脳の検討に供されるよう、ここに提言するものである。

今年は、カナダがG8・G20サミットの双方を主催するということで、G8ビジネス・サミットにとっても特別な年であることを宣言の取りまとめにあたって考慮した。われわれは、G8ビジネス・サミットへのG20諸国からの参加を歓迎する。将来を切り拓いていく上でG20経済界との協力の推進は非常に重要である。

G8・G20サミットにおいて各国首脳が議論する問題の解決にはグローバルな統治の枠組みの改善が必要である。以下に示すわれわれの見解は、強固でかつ雇用を創出する経済環境を実現するための行動を促すことを目的としている。社会的な問題も民間経済部門の活力と成長なしには解決は不可能である。成長と雇用の創出に加えて、広範な社会的な課題の解決にあたって、自発的なプログラムを通じた企業の役割はますます大きくなっている。政府は、それを把握し奨励するとともに、企業の社会的責任活動が、法律的な介入を通じてではなく、引き続き企業主導により発展していくようにしなければならない。

G8経済界首脳は、国際協力の必要性を強調したG20ピッツバーグ・サミットの結果ならびに、6月25‐27日のサミットにおいて、これまでのサミットの宣言について具体的な進捗を示すことの必要性を説いたカナダのハーパー首相の発言を歓迎する。

1.グローバル市場に対する長期的な信頼の回復

世界経済は回復の兆しを見せつつあるが、多くの国の経済成長は政府および中央銀行による景気対策に支えられたものである。景気回復過程は各国によって異なり、依然、先行きは不確実性に満ちている。金融システムは傷んだままであり、景気が回復しているからと言って、政府は必要な金融部門の改革を止めてはならない。金融規制の失敗という過去の過ちを繰り返さないようにする必要がある。各国政府は、それぞれの経済状況に応じて、世界経済に刺激を与えるために講じられた異例の措置からの適切な出口戦略を実行に移さなければならない。財政への信頼を維持するため、各国政府は、歳出削減および成長戦略に重点を置いた、中期的に財政赤字を大幅に減少させるための計画を明らかにしなければならない。

歳出に制約がある中で、政府は主要な経済問題を解決し、政策の優先順位をつける必要がある。行政の一層の効率化、信頼に足るコスト削減策、官民のパートナーシップを通じて資源を再配分し、教育・訓練制度、研究開発、イノベーション、最新のインフラ整備に係る政策の実効性を上げることによって生産性を向上させ、成長と雇用の創出に役立てていくことが重要である。持続的な雇用の創出には民間部門による投資が必要である。それには経済の回復、企業の景況感の改善、失業者の訓練への支援の強化が求められる。

強固で持続可能かつ均衡のとれた景気回復のための枠組みの整備

各国政府は、財政面での責任を果たしつつ、世界経済を持続的な成長軌道に回復させなければならない。世界同時不況を招いた原因を取り除くとともに、次の下降局面の端緒となりうる貿易不均衡、財政赤字、構造的な不均衡を是正するための適切な構造改革が求められる。われわれは、各国政府に対し、企業の活力を最大限に発揮させ、民間主導の経済成長を達成するよう求めるものである。その一環として、各国政府は、企業、特に中小企業にとって適切かつ十分な資金調達手段を引き続き確保しなければならない。

財政の健全化

政府は、公的債務の増大に歯止めをかけつつ、持続的経済成長を確保しなければならない。各国が協調しながら異例の財政刺激策からの出口戦略を適切なタイミングで実施することによって、財政規律を回復し、成長と安定を確保するとともに、投資の促進と労働市場への参加を促す必要がある。予算については、持続不可能は水準にまで膨らんだ政府債務を減少させる一方、長期的な成長を促す効率的な支出を増やすための明確な計画によって配分を変えていく必要がある。投資あるいは雇用に関する税率を引上げ、企業に負担を課すことは、企業による雇用創出と社会保障への貢献を大きく阻害することになる。

金融部門の改革

金融当局は、改革のための国際的枠組を通じて金融システムの健全性と安定性を確保しなければならない。特に金融機関の資本・流動性の適正な水準の確保、規制当局間の協力と相互監視を通じた(自主的・能動的な金融機関の取組みを重視する)原則主義に基づくグローバルな金融監督枠組の確立に優先的に取り組む必要がある。各国の金融システムに係る規制が成長やイノベーションを制約することがあってはならず、金融システムの安定性の回復と企業の資金調達手段の確保を旨とすべきである。また、国際枠組は、公平な競争条件を確保しつつ、各国・地域および各業種の状況の違いを踏まえたものであるべきである。バーゼル銀行監督委員会の規制改革案(バーゼルIII)について、各国政府は、信用供与や融資、さらに経済全体への影響を含め、総合的に評価しなければならない。

雇用の創出

各国政府は引き続き失業問題に取り組まなければならない。多くの失業者にとって、景気が回復したからと言って元の職に復帰できる訳ではない。また、多くのG8諸国の経営者にとって、高齢化が成長戦略に対し、中期的に大きな圧力をもたらすであろう。革新的な製品・サービスを開発し、新しい経済機会を活用できるような技能と経験を有する労働者を輩出するため、各国政府は、教育・訓練の機会拡大に注力しなければならない。これには労働体験とキャリア形成に必要な実習・インターンシップならびに技能を労働市場に適合させるような再訓練プログラムの支援を通じた訓練機会の拡大が含まれる。

2.貿易の促進と保護主義の排除にはグローバルな統治が必要

各国が、実効的で効率的なルールに基づく貿易体制の一層の発展を支持し、多国間・地域・二国間の貿易投資自由化のための協定の締結を通じて市場を開放し、グローバルな取引の重要性を支持することによって初めて、経済が完全に回復を遂げることができる。堅固でルールに基づく貿易は、双方に利益をもたらし、国家と国民の繁栄につながるものであることは、過去の事例が実証済みである。

ドーハ・ラウンドの妥結とFTAの推進

最早WTOドーハ・ラウンドの妥結の必要性に合意するだけでは不十分である。各国政府は、単にドーハ・ラウンドの妥結を唱えるだけでなく、それを超える取組みを示す時である。これまでの交渉の進展に基づき、2010年中に野心的でバランスのとれた妥結を今こそ実現すべきである。残された相違を埋めるとともに、最終的な合意が新たな貿易を生み、国際的な事業のコストを削減させ、企業にとっての予見可能性を高めるため、ハイレベルの政治的なエネルギーが注入されるべきである。二国間・地域の自由貿易協定(FTA)は、多国間のプロセスを補完する措置として、WTOとともに世界貿易の一層の自由化をもたらすものであるべきであり、閉鎖的な「通商クラブ」になってはならない。

貿易障壁の新設抑制・撤廃と保護主義への対抗

各国政府は、貿易・投資に対する障壁の引上げまたは新設、輸出規制の導入、WTOのルールに抵触する輸出促進策の実施を控えなければならない。各国政府は、景気刺激策に含まれている措置を含め景気後退を克服するために採られた、いかなる保護主義的措置も速やかに撤回すべきである。関税、非関税措置、政府調達に係る制限、補助金、輸入に係る煩雑な行政手続き、市場歪曲的な輸出規制など撤回すべき措置は数多い。また、WTO、OECD、IMF、UNCTADとも協力しつつ、保護主義的措置の防止・撤廃に共同して取り組むよう、各国政府を引き続き勧奨する必要がある。

海外投資の促進と一層の保護

各国政府は、対外・対内投資に対する障壁の引上げ、新設を控えなければならない。「国家安全保障の確保」あるいは「戦略的産業の保護」を理由とする外国からの投資に対する制限の対象は、限定的であるべきであり、例外的な場合にのみ適用すべきである。投資に関する国際的な協定には、無差別、内国民待遇、公正・衡平待遇など高い水準の投資保護に関する規定が盛り込まれなければならない。迅速かつ適切な裁判手続、差別的な取扱いや収用に際しての実効的な補償、国家との紛争解決のための企業による国際仲裁へのアクセスの保障なども盛り込まれなければならない。

貿易とビジネストラベルの安全の確保

国境を越えて企業が競争する世界にあって、物品ならびにビジネスパーソンの移動や一時的な入国に対して国境が障害とならないことが極めて重要である。近年のテロ事件を受け、国境措置の強化や渡航の制限の必要性が指摘され、国境における安全確保および旅行者の安全確保のための措置が不可欠となっているが、正規の貿易やビジネストラベルに不当な負担がかからないように運用されなければならない。そのためには、国境措置は、より高い安全と貿易等の円滑化の双方を実現するものでなければならないという明確な指示が必要である。

知的財産権の保護の推進

知的財産は知識経済の鍵を握っている。知的財産の侵害は、正規品および関連するサービスに複製品との不当な競争を強いることになり、また、健康や安全を脅かし、ブランドに対する消費者の信頼を失わせ、組織犯罪の重要な資金源となっているケースも多い。われわれは、各国政府に対し、緊密な協力によって、模倣品、商標侵害や海賊版など不法な貿易慣行に対抗するよう求めるものである。特に貿易関連知的財産権(TRIPS)協定の具体的な執行ならびに模倣品・海賊版拡散防止条約(ACTA)交渉の進展に特別の注意が払われなければならない。

3.ポスト・コペンハーゲン:気候変動に対する地球規模のアクションが必要

2009年のコペンハーゲンにおける気候変動会合(COP15)ではコンセンサスを得ることができなかったが、「コペンハーゲン合意」は、経済大国同士が気候変動に関して長期的な合意に達するための第一歩と位置づけられる。G8経済界は、全ての主要経済国および主要排出国を含む国際協定の構築を支持する。国連気候変動枠組条約がそのための一義的なフォーラムであるが、G8・G20サミットも、低炭素経済につながる合意に向けて経済大国がともに前進するために重要な役割を果たし得る。気候変動に対する地球規模のアクションはビジネス・チャンスにつながる。クリーン・エネルギーの開発促進を含む気候変動問題と、貧困、疫病撲滅などその他のグローバル課題とをバランスよく解決するよう取り組まなければならない。多くの途上国は最も基本的な生活必需品を国民に行き渡らせることにさえ困難を抱えていることから、気候変動問題へのグローバルな取組みにあたっては、エネルギー効率を阻害するそれらの国の浪費的なエネルギー補助金を撤廃するコミットメントと併せ、それらの国々も参加できるような革新的な資金支援の仕組みが求められる。

野心的な国際気候協定の妥結

全ての主要排出国が合意しCOP15で留意するとされたコペンハーゲン合意を基礎とし、国際気候協定には、公平な競争条件が確保でき法的に拘束力のある削減コミットメントによって全ての主要排出国が参加しなければならない。アクションの責任は、官民で共有される。われわれは、共通だが差異ある責任の考え方を支持する。これには、新興国の経済成長と持続可能な発展という二つの目標を達成するために、先進国が、新興国とともに取り組むことが含まれる。各国の気候変動に関する努力について、透明で計測・検証可能な比較を行えるよう、実効的な合意遵守の仕組みが構築されなければならない。経済界は、直接または税や課金を通じて、すでに十分な財政的な支援を行っている。経済界は、将来の追加的な財政支援はどこから行われるのか政府に対し、明示を求める。ポスト・コペンハーゲンの国際枠組で採用されるべき一般原則としては他に、柔軟で多様な温室効果ガス削減策が認められることが含まれる。環境、エネルギー安全保障、経済成長の適切なバランスが確保されなければならない。

クリーンエネルギーと低炭素技術のイノベーション・研究・普及のサポート

気候変動問題を加速させることなく、世界経済が成長を遂げるためには、技術的な革命が必要である。研究開発から幅広い実用化に至るまでには数十年の時間を要する技術が多いことから、各国政府は、民間部門による新エネルギー技術の開発を支援するための計画を策定しなければならない。最適なポリシー・ミックスによって可能となる低炭素経済へのパラダイム・シフトは、利益を生む技術イノベーションを招来する。ポスト・コペンハーゲンの枠組は、エコ・イノベーション、炭素緩和技術、再生可能エネルギー、エネルギー効率に対する先進国・途上国双方での投資と実証実験を、相当程度拡大させることを支援するものでなければならない。資金メカニズムや国際協力は、共同実施やクリーン開発メカニズム、その他のインセンティブ・メカニズムといった柔軟性ツールを通じて、促進されるべきである。炭素市場を活用するという選択肢を選んだ国・地域での炭素市場同士をリンクさせることは、効率性をより向上させ、低炭素・炭素緩和技術への投資に関する協力を促進させる可能性がある。それら新技術の変化・商業化・普及のペースを加速させるためには、研究開発に対する地球規模の共同の支援が必要である。また、「緑の保護主義」の回避、貿易の自由化、投資の安全性の向上、国際標準における協力、調達市場の競争への開放を通じた環境技術に対する貿易投資障壁の解除も求められる。知的財産権の保護も不可欠である。そのための規定を弱めるいかなる措置も、ジョイント・ベンチャーやライセンス供与、その他の技術協力のための民間部門の契約を通じたクリーン技術の開発と普及への努力に逆行するものである。

エネルギー効率のあらゆる可能性の追求

エネルギー安全保障と気候変動に関する政策は相互に補強されなければならない。エネルギー効率の改善とエネルギー源の多様化、エネルギーに対する浪費的な補助金の撤廃は、将来の気候戦略にとって極めて重要である。この枠組の下で、伝統的エネルギー、再生可能エネルギー、原子力を含んだ、バランスがとれ無差別的なエネルギー・ミックスを促進するための全てのエネルギーの選択肢が追求されなければならない。

以上

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