内外価格差の縮小と消費者の選択肢の拡大
消費者の価値観は多様化しており、消費者は自らの値頃感や嗜好にあった商品、サービスを幅広い選択肢の中から選択する、真に豊かさとゆとりを実感できる生活の実現を求めている。
流通構造変革の中で進められている民間事業者による低価格化への取り組みは、供給コストを度外視した一過的な安売りもあり、一部には不健全なデフレ圧力との批判があるものの、大勢は製造業における生産性の向上や流通・物流システムの合理化等に裏付けられた持続可能な対応であり、内外価格差の縮減、所得の実質的増加に貢献している。他方、品質面では、消費者のニーズにあった安全良質な商品の企画・開発が、流通業と製造業の連携を通じて着実に進展しており、消費者選択の幅は顕著に拡大している。
表1 消費財価格の低下 (94年度の対91年度比)
┌────────────────┬────┬───────────────┬────┐
│家電製品:ビデオテープレコーダー│▲29.0%│日用雑貨品:ティッシュペーパー│▲13.4%│
├────────────────┼────┼───────────────┼────┤
│衣料品 :背広服 │ ▲9.0%│酒類:ぶどう酒(輸入品) │ ▲9.4%│
└────────────────┴────┴───────────────┴────┘
(資料)総務庁「消費者物価指数」
消費者利便の向上
高齢化、都市化の進展、女性の社会進出の増大等に伴い、消費者のライフスタイルは大きく変貌しており、流通業に求められるサービスも変わってきている。
大店法の規制緩和等を契機に、大規模小売店は相次いで閉店時刻の延長や休業日数の削減を進めており、働く女性等の買い物の利便向上に役立っている。また、近隣立地・長時間営業・サービス業務提供等、消費者の利便性ニーズへの対応を最優先としたコンビニエンスストアや通信販売等無店舗販売型業態さらには自動販売機等も増加しており、高齢者や過疎地住民等の利便の向上にも寄与している。
表2 スーパー20社の閉店時刻延長の動向
┌─────┬───┬───┬───┬───┬───┬───┬───┐
│ 閉店時刻│18:30 │19:00 │19:30 │20:00 │20:30 │21:00 │22:00 │
├─┬───┼───┼───┼───┼───┼───┼───┼───┤
│改│店舗数│ 8 │ 563 │ 322 │ 380 │ 5 │ 18 │ 9 │
│正├───┼───┼───┼───┼───┼───┼───┼───┤
│前│割合 %│ 0.6 │ 43.1 │ 24.7 │ 29.1 │ 0.4 │ 1.4 │ 0.7 │
├─┼───┼───┼───┼───┼───┼───┼───┼───┤
│改│店舗数│ 4 │ 98 │ 73 │1,112 │ 5 │ 20 │ 12 │
│正├───┼───┼───┼───┼───┼───┼───┼───┤
│後│割合 %│ 0.3 │ 7.4 │ 5.5 │ 84.0 │ 0.4 │ 1.5 │ 0.9 │
└─┴───┴───┴───┴───┴───┴───┴───┴───┘
注)94年5月の大店法の緩和により、閉店時間の届出不要基準が19時から20時
に、年間休業日数の届出不要基準が44日から24日に変更された。改正前と
は94年4月末時点、改正後とは94年5月時点。
(資料)「販売革新」(94年9月号)より作成
表3 スーパー20社の年間休業日数の削減の動向
┌─────┬────┬────┬────┬────┐
│ 休業日数│44日以上│43〜25日│ 24日 │24日未満│
├─┬───┼────┼────┼────┼────┤
│改│店舗数│ 27 │ 559 │ 508 │ 248 │
│正├───┼────┼────┼────┼────┤
│前│割合 %│ 2 │ 41.7 │ 37.9 │ 18.5 │
├─┼───┼────┼────┼────┼────┤
│改│店舗数│ 6 │ 98 │ 870 │ 368 │
│正├───┼────┼────┼────┼────┤
│後│割合 %│ 0.4 │ 7.3 │ 64.8 │ 27.4 │
└─┴───┴────┴────┴────┴────┘
注)同 上
(資料)「販売革新」(94年9月号)より作成
表4 コンビニエンスストア・無店舗販売の販売額の推移
(単位:10億円,%)
┌──────────┬─────┬─────────┬─────────┐
│ │ 1988年 │ 1991年 │ 1994年 │
│ ├─────┼─────┬───┼─────┬───┤
│ │ 販売額 │ 販売額 │伸び率│ 販売額 │伸び率│
├──────────┼─────┼─────┼───┼─────┼───┤
│コンビニエンスストア│ 5,013 │ 6,985│ 39.3│ 8,335│ 19.3│
├──────────┼─────┼─────┼───┼─────┼───┤
│訪問販売 │ 13,101 │ 16,640│ 27.0│ 14,266│▲14.3│
├──────────┼─────┼─────┼───┼─────┼───┤
│通信・カタログ販売 │ 1,359 │ 2,122│ 56.1│ 2,462│ 16.0│
├──────────┼─────┼─────┼───┼─────┼───┤
│自動販売機 │ 1,032 │ 1,382│ 34.0│ 1,569│ 13.5│
└──────────┴─────┴─────┴───┴─────┴───┘
注)コンビニエンスストアとは売場面積が50平方m以上 500平方m未満、かつ売場面
積50%以上でセルフ方式を採用し、営業時間が12時間以上または閉店時刻が21
時以降の業態を指し、多店舗展開や終日営業を行っていないものも含む。
訪問販売とはセールスマン等が家庭等を訪問し商品を販売する形態を指し、自
動車の販売も含まれる。
(資料)通商産業省「商業統計表」
流通システムの総合的効率化
円高等に伴い産業の空洞化の懸念が現実のものとなりつつあり、雇用確保の 観点からも、国内における生産から消費までの全ての経済活動を一つのシステムとして捉え、総合的に効率化することが急務となってきている。
まだ限られた範囲ではあるが、流通業、製造業、物流業等が連携して、情報 技術を活用しつつ、商品企画開発、生産、発注、販売、在庫管理、物流、決済等の業務の全てまたはその一部を統合的に管理、運営し、コストダウンに努める試みが始まってきている。こうした動きもあって、取引慣行、物流、販売管理等の面ではまだまだ効率化の余地があるものの、「製・配・販」の連携、卸売業の総合化・集約化等が進みつつあり、わが国の流通業の非効率性の象徴とされてきた「卸売業の多段階性」の是正も徐々に進展している。
表5 流通業がGDPに占める割合の低下
┌────────────────┬──┬──┬──┬──┬──┬──┐
│ │82年│85年│88年│91年│92年│93年│
├────────────────┼──┼──┼──┼──┼──┼──┤
│流通業の付加価値額/GDP(%)│14.9│13.4│12.9│12.8│12.8│12.6│
└────────────────┴──┴──┴──┴──┴──┴──┘
(資料)経済企画庁「国民経済計算年報」
表6 W/R比率の低下
┌─────┬──┬──┬──┬──┬──┬──┐
│ │79年│82年│85年│88年│91年│94年│
├─────┼──┼──┼──┼──┼──┼──┤
│ 総 合 │2.65│2.93│2.74│2.63│2.69│2.50│
├─────┼──┼──┼──┼──┼──┼──┤
│食料品関連│2.59│2.57│2.58│2.48│2.44│2.22│
└─────┴──┴──┴──┴──┴──┴──┘
注) (卸売業販売額−産業用使用者向販売額−海外向販売額)
W/R比率=──────────────────────────
小売業販売額
(資料)通商産業省「商業統計表」
新事業等の出現と新規雇用創出
「新産業・新事業委員会中間提言」(95年7月)でも指摘した通り、リーディング産業の成熟化とともに、経済の再活性化のため新産業・新事業を創出することが産業政策上の最重要課題となっている。
流通業の分野では、構造変化が進む中で、カテゴリーキラーをはじめ各種ディスカウンター、ホールセールクラブ、アウトレットストア等、大規模小売業を中心に多様な新規業態が出現している。また、ディスカウンター、通信販売業等の業態では外国企業の新規参入も見られる。
この結果、地域、年齢等の面で一部に労働需給のミスマッチはみられるものの、新規雇用が着実に創出されている。
表7 新規出店の増加
┌─────────┬─────┬─────┬────┐
│ │ 91年 │ 94年 │ 伸び率│
├─────────┼─────┼─────┼────┤
│ 小売業合計 │ 160万店 │ 150万店 │ ▲6.6%│
├─────────┼─────┼─────┼────┤
│大規模店:50人以上│ 0.8万店 │ 1万店 │ 23.0%│
├─────────┼─────┼─────┼────┤
│中規模店:49〜5人│ 32万店 │ 35万店 │ 9.7%│
├─────────┼─────┼─────┼────┤
│小規模店:4〜1人│ 127万店 │ 114万店 │▲10.9%│
└─────────┴─────┴─────┴────┘
(資料)通商産業省「商業統計表」
表8 雇用の創出効果
┌──────────┬─────┬─────┬────┐
│ │ 91年 │ 94年 │ 伸び率│
├──────────┼─────┼─────┼────┤
│小売業合計 │ 700万人 │ 738万人 │ 5.5%│
├──────────┼─────┼─────┼────┤
│総合スーパー │ 23万人 │ 27万人 │ 17.4%│
├──────────┼─────┼─────┼────┤
│専門スーパー │ 26万人 │ 37万人 │ 38.4%│
├──────────┼─────┼─────┼────┤
│コンビニエンスストア│ 36万人 │ 49万人 │ 38.0%│
└──────────┴─────┴─────┴────┘
(資料)通商産業省「商業統計表」
製品輸入の増大
行き過ぎた円高の是正、欧米をはじめ海外諸国との経済摩擦の解消の観点から、わが国としては国内市場と国際市場との調和・融合化を推進し、拡大均衡の方向で貿易不均衡の是正に取り組み、貿易黒字を適正水準まで削減することが求められている。
流通業は、国内市場のみならず、国際市場をも視野にいれてグローバルな商品調達を行っている。このことは、製造業における中間製品の輸入と相まって、製品輸入比率の上昇として結実しており、わが国市場は広く国際社会に開かれたものとなるとともに円高差益の還元もより円滑に進んできている。
表9 製品輸入比率の増大
┌─────────┬──┬──┬──┬──┬──┬────┐
│ │84年│87年│90年│93年│94年│95年上期│
├─────────┼──┼──┼──┼──┼──┼────┤
│製品輸入比率 (%) │29.8│44.1│50.3│52.0│55.2│ 57.7 │
└─────────┴──┴──┴──┴──┴──┴────┘
注)製品輸入比率= 製品輸入額/輸入総額 (ドルベース)
(資料)日本貿易振興会「製品輸入動向」