創造的な人材の育成に向けて
〜求められる教育改革と企業の行動〜

5. 教育システムの改革に向けた企業・経済界の支援


企業・経済界としては、創造的人材の育成に向けて、企業自身の改革を図ると同時に、家庭、学校、地域の取り組みに対しても、支援を強化していく。
経団連としては、会員企業に対し、家庭教育、学校教育・地域への支援を一層強化するよう呼びかけるとともに、教育にかかわる規制緩和の推進や、企業の支援活動に関する情報収集・提供など、教育問題に継続的に取り組んでいく。


  1. 家庭教育への支援
  2. 創造性ある人材の育成には、家庭の教育力の回復・向上、中でも、社会経験の豊かな父親が積極的に家庭教育に参加することが重要である。
    しかし、企業・経済界として、直接、家庭教育に踏み込んでの支援は困難との指摘が多いことを考慮すれば、企業としては、各々事情の許すかぎり、家庭教育への「側面的支援」として、従業員が家庭教育に参加しやすくなるよう、一層の環境整備に努めることが期待される。
    有効と考えられる取り組み事例は以下の通りである。

    1. 労働時間、休暇取得面での配慮
    2. 労働時間の短縮、休暇取得の促進などを通じて、従業員が、余裕をもって家庭教育に参加できるようにする。また、ライフスタイルに合わせて自ら時間管理を行うことを可能にするため、フレックスタイム制や裁量労働制を導入・拡大する。

    3. 進学時期における転勤面での一定の配慮
    4. 業務上の事情も考慮しつつ、可能な範囲で、進学時期の子供をもつ従業員に対して、転勤の時期、地域などの面で配慮する。

    5. 地域職制度 (勤務地域を限定して採用) の導入
    6. 地域職制度の導入は、通勤時間の短縮や、単身赴任の解消などを通じて、結果として、従業員が家庭教育に参画する上での環境作りになる。

    7. 育児と仕事を両立しやすい職場環境の整備
    8. 育児休業や育児期の時間短縮勤務制度の拡大・普及に努めるとともに、企業内保育所の整備などについても検討していく。

    9. 子供の職場見学の実施
    10. 子供に親の仕事を理解させ、社会性を養うために、親の職場を見学させる。

    以上に加えて、従業員一人一人が上記諸制度を利用しやすくするような社内風土作りに心がける。

  3. 学校教育・地域への支援
  4. 子供にとっては、学校だけが勉強の場ではなく、現実の社会に接することで多くを学ぶことも必要である。そこで、企業・経済界が有する幅広い情報や資源を教育の現場や地域社会に提供し、その活用に努める。

    1. 教育界との人的交流の推進
    2. 現在、各企業が大学を中心に行っている講師派遣を、初等・中等教育、とくに高校レベルにまで拡大し、産業界の生きた情報を広く学校教育に提供する。また、教員の研修制度の一環として、企業で教員を積極的に受入れ、学校以外の実社会を体験できる場を提供する。

    3. 施設開放、企業見学などの推進
    4. 企業は現在、すでに学校教育や地域社会へ貢献するために企業見学への協力や、企業の保有する施設(グランドや体育館、厚生施設など)の開放、学校教材作りへの協力などを行っているが、今後、この一層の拡大を図る。

  5. 経団連の役割
  6. 経団連では、以上の取り組みを会員企業に働きかけるとともに、自らも教育改革に資するため、以下の点に取り組む。

    1. 教育にかかわる規制緩和の推進
    2. 今回の提言で取り上げた規制緩和要望の実現に向けて、関係方面に働きかけるとともに、新たな規制緩和項目についても検討していく。

    3. 「教育支援ネットワーク」の構築
    4. すでに多くの企業が取り組んでいる学校への講師派遣や企業施設の開放など、各企業のさまざまな取り組み情報を収集・蓄積し、インターネットなどの情報手段も活用しながら、教育界に広く提供していくための「教育支援ネットワーク」を早期に構築する。
      併せて、経済広報センターと連携し、同センターがこれまで実施してきた寄付講座の設置、教員の企業研修の受け入れ、教材の作成などの取り組みを一層拡大する。

    5. 教員の海外派遣研修プロジェクトなどの教育への支援活動の推進
    6. 資金面も含めた教育に対する支援の仕組み作りに取り組む。従来から、大学(院)生や高校生の留学事業、外国人留学生への奨学事業などに取り組んできた(参考資料2.参照)が、これらを一層充実させるとともに、新たなプロジェクトに取り組む。とくに、創造力あふれる子供を育てるには、まず教員が創造性を磨く必要があることから、教員に海外における創造的人材育成の取り組みを実体験し認識を深めてもらうことを目的とする、海外派遣プロジェクトなどを検討する。

    7. 「フォローアップ協議会(仮称)」の設置
    8. 教育にかかわる規制緩和の推進や、教育支援ネットワークの構築、教育への支援活動に加えて、以下のようなフォローアップに積極的に取り組み、提言を実効あるものとしていく。

      1. 提言事項(採用、人事・雇用システムの見直しなど)について、各企業の取り組み状況をアンケート調査などにより取りまとめて公表し、就職を希望する学生が企業・職種を選ぶ上での有効なツールとするとともに、各企業の取り組みのインセンティブとする。

      2. 内外の関係方面との意見交換・交流を進める。具体的には、教育界、政界、労働界との相互理解を図ることによって、教育改革を進展させる。また、海外における創造的な人材育成の取り組みを参考にするため、教育問題に取り組んでいる海外の経済団体などと意見交換・交流する。


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