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COP3ならびに地球温暖化対策に関する見解

1997年9月26日
(社)経済団体連合会

本年12月に京都で開催される国連気候変動枠組条約第3回締約国会議(COP3)に向けて、2000年以降の温室効果ガスの削減目標を決める政府間交渉が大詰めを迎えており、国内での対策についても本格的な議論が始まろうとしている。わが国の経済界は、1991年に発表した経団連地球環境憲章の精神に沿って、自主的な取組みを進めてきた。また、本年6月には、昨年7月に発表した経団連環境アピールを具体化するものとして、36業種が参画した環境自主行動計画を策定し、併せて、行動計画の発表に際して、2010年における産業部門(製造工程)からの二酸化炭素の排出量を1990年レベル以下に抑えることを目標として努力する旨宣言した。こうした取組みを踏まえ、COP3ならびに地球温暖化対策に関する経済界の見解を述べる。

1.温暖化対策は中長期的視点かつ地球規模で考えることが重要である

われわれ経済界は、IPCCの第二次レポートで述べられている科学的知見は、不確実性を残しながらも現時点で最も信頼すべき知見であり、同報告を踏まえ、温暖化対策について世界的な取組みを出来るだけ速やかに実行しなければならないと考える。
地球温暖化は、50年、100年先に影響の現れる問題であるとともに、CO2と人類の活動を切り離す技術的なブレークスルーなくしては、根本的な解決が困難な問題であることは事実である。短期的にとり得る実行可能な対策を最大限推進することは当然であるが、併せて、中・長期的な視野に立ち、対策技術の開発を着実に進め、実効性のある対策を講じていかねばならない。
また、温暖化対策は、地球規模で温室効果ガスの削減につながるものでなければならないことを忘れてはならない。即ち、単に先進国から開発途上国へと排出源が移動するだけの対策は無意味である。今後予想される途上国でのCO2排出の飛躍的な伸びに対応するためにも、先進各国単独の対策に留まらず、省エネ対策についての技術協力、環境ODAの一層の充実等、途上国との協力や他の先進国との協力を図りながら取組みを進める必要がある。

2.柔軟性かつ実効性ある取り組みの枠組みでなければならない

温暖化問題は長期にわたる問題であることや世界全体として削減につながるものでなければ意味がないことを考えると、削減目標、対象年次は柔軟性かつ実効性のあるものでなければならない。また、削減対策も、構造転換や諸施策の実効性を見ながら柔軟に考えることが必要である。
この観点から、共同実施や政府間の排出権取引などの提案は、詰めるべき点も多いが、柔軟性を持たせるものとして検討する必要があろう。特に、共同実施によって発展途上国で温室効果ガスの削減を図ることは、世界規模で排出を抑制するにあたって費用対効果の観点から、極めて有効と考えられる。

3.温暖化対策は政府・国民・産業の協力が不可欠である

(1) 国全体として

わが国産業界は温暖化対策に自主的かつ積極的に取り組んできたが、代表的な温室効果ガスであるCO2の排出は、日常生活や経済活動の基盤であるエネルギー利用に深く係っている。したがって、その削減には、政府・国民・産業それぞれが、この問題を正しく受け止め、問題解決の鍵を握っているとの自覚の下に、主体的かつ協力して取り組むことが必要である。また、CO2を排出しない新エネルギーの開発・普及を促進するとともに、原子力発電についても、国民的合意を図りつつ、国も強力に支援し、積極的に開発と利用を促進する必要がある。さらに、交通システムなど社会経済インフラの整備も進める必要がある。

(2) 産業部門の対策

経済界は、環境自主行動計画を着実に実行し、毎年レビューすることによって目標の達成を図る所存である。特に、今後は、製造工程だけでなく、廃熱等の未利用エネルギーの利用や廃棄物のリサイクルなど、業種を超えた、あるいは部門を超えた取り組みが重要であることを認識する必要がある。こうした視点から、産業界はISO14001による認証制度やLCA(ライフサイクル・アセスメント)を有効な手段として活用していく。
なお、温暖化問題への対応策として、とかく製造工程における省エネの推進、省エネ製品・技術の開発と普及といった規制によるハード面での対策が強調される傾向にあるが、わが国の産業は石油ショックを契機として世界最高の技術水準を達成することによって、過去20年間にエネルギー利用効率を倍近く改善し、CO2の排出を横這いに抑えてきた。規制的手法や経済的手法によって経済的に合わない投資を強いることによって、さらに大幅な削減をしようとすれば、日本企業は生産の縮小あるいは海外への生産移転を余儀なくされ、雇用への深刻な影響を引き起こし、国民経済が成り立たなくなることも有り得よう。
政府には、こうした実態を踏まえ、画一的な規制ではなく、むしろ規制の見直し等により、自主的取り組みへの支援・奨励を要望したい。

(3) 民生・運輸部門の対策

民生・運輸部門からの排出は過去20年間に倍増し、90年から95年までの間においてもいずれも16%前後増加している。民生・運輸部門での対策は急務であり、国民一人ひとりが毎日の生活の中で行動を見直し、無駄を排除し、ライフスタイルを転換することが重要である。企業、事業者も、ビルや店舗での省エネ、貨物輸送や配送の効率化は当然として、低燃費の自動車や省電力型の家電製品、断熱タイプのビル・住宅など、CO2の排出の少ない製品・サービスの開発を通じて民生・運輸部門での排出抑制に協力していく。ただ、これらはコストアップを伴い、なかなか普及しないことも予想される。企業としてもコスト低減に努力するが、消費者・ユーザーがグリーン・コンシューマーとして進んで省エネ型の製品・サービスを選択・購入することを要望したい。政府も自らの調達にあたって省エネ製品の購入を優先するとともに、消費者・ユーザーが購入の際に選択できるよう、情報提供等の環境整備を図ることが期待される。

4.炭素税や炭素・エネルギー税の導入には反対である

二酸化炭素抑制の手段として、炭素税(炭素・エネルギー税を含む)の考え方があるが、理論的なだけでなく、実施した場合に経済に悪影響を及ぼさずに効果をあげるものでなければならない。炭素税には下記のようないくつかの問題点があり、慎重に検討すべきである。
第一に、炭素税は化石燃料の価格を引き上げることによって消費を抑制しようとするものであるが、石油ショック後の一時期、ガソリン価格が1リッター170円程度に上昇した時代でも需要が落ち込まなかったことから考えると、民生・運輸部門での需要抑制効果は疑わしい。また、消費者に温暖化対策を意識させるアナウンスメント効果があったとしても持続するかどうかは疑問である。
第二に、CO2の抑制につながるような高い税率を設定した場合には、わが国のように、天然ガスや原子力等への燃料転換や製造工程におけるエネルギー効率の改善が進んでいる国では、国際競争力が低下することから生産が海外に移転し雇用も減少することになる。国内経済に深刻な打撃を与えながら、世界全体としては排出量が減らないばかりか増える可能性が大きい。国境税調整をすれば解決できるとの考えもあるが、技術的にも政治的にも極めて困難であり全く非現実的である。炭素税は、途上国も含めて世界同時に導入することと、既存のエネルギー税の調整はじめ税の国際的ハーモナイゼーションを行なうことが大前提である。
第三に、低税率の炭素税を導入し、その税収をCO2排出抑制のための補助金に充てる案については、低税率ではCO2の排出抑制効果が期待できないことから、単に環境に名を借りて補助金のための財源調達を図るものとの感を否めない。国をあげて環境問題に取り組むということであれば、環境対策費用は歳出の見直しから捻出すべきであろう。

5.COP3の交渉にあたり日本政府に望む

経済界としては、上に述べた通り、
(1) 目標や政策・措置が現実的な対策に裏付けされた実現可能なものとなること、
(2) 既に取組みを推進している国が不利にならないよう、過去の実績が公平に評価され、衡平が保たれること、
(3) 産業界の自主的取り組みが尊重されること、さらに、
(4) 中長期的な視点に立って、京都合意を絶えず見直す新しい枠組みが確保されること、
を求める。
この点、特殊な事情を抱える欧州が高い数値目標を発表していることから、わが国でも技術的可能性や経済実態とはかけ離れた数字をあげてあたかも可能であるかの如く主張する向きもあるが、既に高いエネルギー効率を実現している日本としては、2010年のCO2排出を90年レベルに抑制するだけでも石油ショックなみのエネルギー消費抑制が必要とみられている。政府は、CO2の削減が、雇用や生産活動など、日本経済の先行きにいかなる影響を与えるか、また、所得や物価への波及など、国民生活にどのような影響を及ぼすかといった点を明らかにし、国民のコンセンサスを得た上で交渉に臨むべきである。

以上

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