豊かな国民生活と経済活性化のための構造改革の提言

1998年 4月21日
(社)経済団体連合会


はじめに

わが国の経済は現在大きな困難に直面している。政府・与党は、昨年10月以降、四次にわたる緊急経済対策を打ち出しており、4月9日には、特別減税の上積みなどを含む新たな総合経済対策を橋本総理が公表している。こうした対策により、少しでも国民の萎縮した心理が好転して、景気回復につながることを期待する。一方で、わが国のさらなる景気の後退は、近隣のアジア諸国の安定的経済発展や、欧米諸国との円滑な経済関係にも深刻な影響を与える。

求められる構造改革

依然として明るさがみられない日本経済の現状を打開し、世界的な大競争時代や少子・高齢化に対応した活力ある経済を作り上げるためには、政府・与党は以下の5つの構造改革を早急に実現する必要がある。

  1. 税制改革の推進
  2. 萎縮している景気の現状を打開するためには、抜本的な税制改革を通じて、所得税・法人税あわせて約7兆円の制度減税を行なう。企業・個人の活力を引き出すためには、税制改革を加速させることが重要である。
    このためには、国・地方を通じた行財政改革を徹底することにより歳出削減を行なうことが前提となる。さらに、財政構造改革目標期限内に直間比率の見直しを含む税制の抜本改革を行うことを踏まえつつ、当面は特例公債の増発により減税先行とすることが必要である。

    1. 個人所得課税
      政府・与党は平成10年分として2兆円の特別減税を追加することとしているが、定額方式は課税最低限をさらに引き上げることになる他、景気浮揚効果は限られている。そこで、平成11年度においては、特別減税に替えて制度減税を実施することとし、現在、所得税・住民税あわせて65%と諸外国に比べて高い水準にある最高税率を、少なくとも50%まで引き下げると同時に、累進税率構造を全所得層にわたって緩和することを求める。
      この改革に要する財源は、添付参考資料の方式を取るとすれば、約4兆円と計算される。

    2. 法人課税
      国税・地方税あわせた法人所得課税の実効税率をできるだけ早期に、期限を明確にして、国際水準並の40%へ引き下げるべきである。そのためには、例えば、法人事業税率を7%下げ、法人税率を2.5%下げることが考えられる。これに加えて、適格退職年金にかかる特別法人税の撤廃、連結納税制度の創設、配当二重課税の排除の仕組みの導入を求める。以上の改革により、総額約3兆円の減税となる。

    3. 納税者番号制度の導入
      個人所得課税の制度減税に際しては、課税の公平の観点から、併せて納税者番号制度の導入等により、所得捕捉の向上を図る必要がある。

  3. 住宅取得の促進と土地流動化・有効利用促進
    1. 住宅取得の促進
      住宅取得促進税制については、速やかに

      1. 控除額の拡大・所得制限の撤廃、
      2. 住民税額からの控除、
      3. 住宅譲渡損失の繰越控除制度との併用、
      4. 2軒目の取得への適用、
      5. バリアフリー施設の増改築に対する優遇措置、
      などを認める。中長期的には、ローン金利全額について所得控除制度を認める。
      また、居住用資産の取得に係る不動産取得税、登録免許税については撤廃し、住宅取得に係る贈与税の特例の拡充について検討する。

    2. 土地の流動化・有効利用促進
      不良債権問題の早期処理のため、土地の流動化の推進が重要である。現在、国会に提出されているSPC法案を早期に成立させるとともに、民間サービサーの創設等関連法の整備を早急に行う。
      容積率の緩和等については、地方自治体が早期実現に向けた具体的な取組みを行うよう、強く促すべきである。
      都市開発については、当面の措置として日本開発銀行の融資対象の拡大、事業費に対する融資限度比率の引き上げを行なう。市街地活性化に資する、商業施設と準公共的施設とを組み合わせた複合開発への優遇措置も検討する。

  4. 公共事業の前倒し・重点化・効率化
  5. 公共事業については、切れ目のない執行が重要であり、平成10年度当初予算における公共事業費を80%程度上期に前倒しして執行する。その場合、景気の回復度合いを勘案した上で、適時補正予算による追加を検討する。
    予算配分については、費用対効果の評価も踏まえて、従来の配分にとらわれることなく、真に必要とされる経済・社会基盤の整備に重点を置く。その場合、行政・教育・医療等の公共機関の情報化、少子・高齢化対応施設の建設、高規格幹線道路や国際拠点空港など物流の効率化に資するインフラの整備、環境関連施設、都市計画道路が重点化の対象になる。
    また、民間の資金や技術力、経営力などを活用した社会資本整備(いわゆるPFI)を推進するとともに、規制の撤廃・緩和による効率化を通じて公共事業のコストを縮減する。

  6. 年金改革
    1. 基本的考え方
      現在公的年金の改革が議論されているが、厚生年金保険は、世代間の負担の不公平などから若年層の信頼を失っており、将来の負担増を考えれば、今後も制度を維持出来るか危惧される。国民が安心して老後の生活を送れるよう、公的年金を持続可能な制度に抜本的に改革し、将来展望を明らかにすることが重要である。

    2. 公的年金改革
      公的年金については、政府が徹底的に情報を公開し、世代間不公平を是正しなければならない。
      具体的には、基礎年金部分は、高齢者にとって最低限の生活保障を行うことを目的として、税による賦課方式とする。また、報酬比例部分は、現役時代の生活水準の一定割合を確保することを目的として、給付水準を引き下げつつ、相当長期間をかけながら積立方式へ移行し、将来的には民営化を目指す。

    3. 企業年金改革
      企業年金については、私的年金として明確に位置づけ、受給権の確保を図りつつ、労使合意に基づく自由な制度設計を認め、税制上の支援措置を講じる。特に、確定拠出型企業年金については、ポータビリティの確保、人生設計に応じた運用、退職金制度の見直しの受け皿等の利点から、その導入を強く求める。また、企業年金の充実のためには、特別法人税を即刻撤廃すべきである。

  7. 規制緩和の推進と高コスト構造の是正
    1. 規制の緩和・撤廃
      世界的大競争の時代にあって、豊かな国民生活を実現するためには、競争を通じた新製品・サービスの開発や、合理化・効率化による生産性の向上が不可欠である。引き続き、規制の緩和・撤廃を強力に推し進め、新事業・新産業を創出し、雇用機会を拡大させていかねばならない。この観点から、情報通信、労働斡旋・派遣等の分野をはじめとする第2次規制緩和推進3ヵ年計画の内容を拡充するとともに、可能な限り前倒ししていく。また、行政改革委員会の最終意見をも踏まえ、こうした政府の取組みを監視する強力な第三者機関を早期に設置する。

    2. 高コスト構造の是正
      高コスト構造は、わが国企業の国際競争力を低下させ、対日投資の阻害要因になっている。経済構造改革の実現には、わが国の高コスト構造是正が不可欠であり、日本型経済システムに起因した様々な問題を解決していく必要がある。
      具体的には、輸送コスト低減のための物流効率化に資するインフラ整備、公共料金制度の見直し、硬直的かつ横並びの労働・商慣行の見直し、標準化の推進による製品の低コスト化があり、公共部門に加え民間の自助努力によっても、解決を図っていかねばならない。

おわりに

今日の景気低迷から脱却するためには、国民・企業に蔓延する、将来不安に基づく閉塞感を払拭するための構造改革が必要である。
政府・与党においては、21世紀に向けて、豊かで快適な国民生活や活性化した経済社会を実現する具体的プロセスを明らかにすることが、最大の景気対策になると認識した上で、構造改革に取り組むべきである。経済界でも、規制緩和等を利用して新製品・サービスを開発することで需要を喚起し、非効率的な制度を見直し、自らの手で経済の活性化を実現していく必要がある。
構造改革により日本を活性化することで、アジアのみならず世界に貢献していくことが出来る。

以 上


参考資料

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