アジア通貨・金融危機に関する特別検討会で出された意見
(意見書「アジア経済の再活性化に向けて」参考資料)

総 論


日本政府への要望

  1. 景気回復による内需拡大
  2. 公共投資、大型減税の導入
    不良債権の処理を含む金融システム改革

  3. 貿易保険の拡充と柔軟な運用
    1. 輸出拡大に貢献する製品の生産に必要な原材料の輸入を促進するため、短期保険の引き受けについては、L/Cの有無に係わらず付保するとともに、引き受けに際しての条件を一層緩和し、対象国を拡大すべきである。
    2. 事業資金貸付保険は、柔軟かつ積極的に運用すべきである。

  4. 輸銀による現地日系企業等に対する投資金融、ツー・ステップ・ローンの利用促進
  5. 市場アクセスの改善(規制緩和、検疫改善、税制改正等)
    1. 日本の市場開放により、アジア諸国からの農林水産物等の輸出増を図るべきである。
    2. アジア諸国向け特恵関税枠を拡大すべきである。

  6. 裾野産業の育成に対する支援
  7. 中長期的な観点から各国経済の持続的発展のためには、輸出産業を支える裾野産業、とりわけ中小企業の育成が不可欠である。技術協力、円借款、輸銀の投資金融などを通じて裾野産業育成に協力する必要がある。
    (裾野産業の未成熟は、現調率アップにも大きな障害となっている。)

  8. 人材育成に対する支援
    1. 人材育成に関する予算ならびに派遣・受け入れ人数枠を拡大すべきである。また、専門家の派遣や研修生の受け入れが円滑に行われるよう、既存の制度の改善と弾力的な運用を通じて、制度間の有機的な連携を強化すべきである。
      (現在は、複数の所管官庁のもとに異なる制度が存在し、ともすれば相互の連携が不十分なまま実施される傾向にある。)
    2. 労働者を一時的に日本に招いて訓練する。その際に必要となるビザの発給条件を緩和するとともに、手続きを簡素化すべきである。
    3. 日本に在住している留学生が日本における学業を継続できるよう支援を強化すべきである。

  9. 金融分野における知的支援
    1. 金融分野において、金融当局の視点から知的支援を行い、民間金融機関では伝授できないノウハウ(金融機関の検査、中央銀行の決済システム等)について指導する。(民間金融機関は研修生受け入れなど、アジア諸国の金融機関との交流を深めているが、そこには金融システムの維持という視点は含まれていない。)
    2. ODAによって金融に関する専門知識を習得できる研修機関を設立すべきである。同時に日本国内において、専門知識を伝授できる人材を育成すべきである。
    3. ASEMにおいて提案されたアジア信託基金(5000万ドル)と同様の機能を含むファンドを、日本としても拡充していく必要がある。(ASEM信託基金は世銀内に設置され、アジア各国での金融セクターの信頼回復のための専門家によるネットワーク構築のほか、債券市場の整備や、不良債権売買市場などの証券化、通貨危機による社会不安を緩和する措置を講ずる財源とすることを想定している。)
    4. 経済や金融の分野における知的支援を積極的に行うために、それらの分野の専門家を当該国に派遣すべきである。

  10. ODAと民間経済協力との有機的連携
  11. 民活インフラ事業を促進するため、例えば、BOT方式によって民間企業が事業主体となり、送電線などの付随インフラについてはODAによって整備する。

  12. 社会的弱者対策への協力
  13. 治安の悪化を防止するために不可欠な失業者対策に協力する。

  14. 広報活動の強化と指導力の発揮
    1. 日本政府がアジア経済の危機克服のために用意した支援策を適切に広報することが重要である。
    2. 日本政府は政治的イニシアティブを発揮すべきである。

  15. 情報収集体制の整備
    1. アジア諸国の金融情勢に関する情報を迅速かつ正確に収集するために、シンガポール等に日本銀行の事務所を開設する。
      (今回の危機発生に際して、情報の面で米国が主導権を発揮した。マーケット情報、現地政府の内部情報、国際金融機関の動向について、日本の金融当局は十分に把握しているかとの疑問がある。)
    2. 日銀は、国際金融機関と連絡をとりながら、通貨危機が発生した際、経済情報を収集・分析できる特別調査団を迅速に現地に派遣できるよう体制を整えておくべきである。

  16. 円の国際化
  17. 円に対する信頼を回復した上で、利用者の立場から日本の金融・資本市場をさらに整備し、円の国際化が進むよう環境を作る必要がある。特に短期国債の流通市場の整備すべきである。

  18. 民間債務問題解決への協力
  19. 民間債務問題の解決には、当該国政府の適切な関与が不可欠である。日本政府としても、他の主要国や国際機関に働きかけるとともに、短期債務の繰り延べ等に関する債権者と債務者との協議が成功裏に行われるように積極的に協力すべきである。

  20. 省庁の縦割り行政の改善
  21. 効果的な対応策を効率的に見出すために、各省が連携を強化し、まとまって調査、検討すべきである。また、通貨・金融危機担当大臣を新たに設置するのも一案である。

アジア各国政府への要望

  1. 経済構造改革の着実な実施
  2. 貿易・投資自由化・円滑化の推進
    1. 経済情勢の悪化に伴い保護主義的な動きが一部に見られるが、中長期的な経済発展のためには、AICOの拡大、AFTAの実現など、自由化への取り組みが重要である。
    2. 許認可手続きの簡素化を要望する。
    3. 外資規制の緩和、撤廃を求める。
    4. スタンドスティル原則の堅持、個別行動計画の実施、透明で具体性のあるロードマップの提示など、APECのボゴール宣言を実行する(途上国2020年、先進国2010年)。

  3. リスク管理体制の確立
  4. 資本取引に対する規制を最終的に撤廃するためには、適切なリスク管理が必要である。

  5. 制度変更後の新制度の確実な実行
  6. 朝令暮改の回避
  7. 法制度の朝令暮改は事業上の判断を難しくするので、避けるべきである。

  8. インフラ整備の継続
    1. 民活インフラ・プロジェクトの中には中止や延期されたものがある。インフラ整備に係わる法制度を整備することでリスクを軽減し、民活インフラ・プロジェクトが促進されるよう環境を整えるべきである。
    2. 外貨建ての公的借款を受け取っているにも拘わらず、国によっては、プロジェクトの発注に際して現地通貨での契約を求めてくるケースがあり、受注する企業が為替差損を被っているので、この点を改善すべきである。

  9. 民間債務問題解決への協力
  10. 民間債務問題の解決には、当該国政府の適切な関与が不可欠である。債権者と債務者との協議への参加、短期債務のロールオーバー等を通じて積極的に協力するべきである。

  11. 経済統計の整備
  12. 現状の経済統計の弱点を今回の危機に照らし再学習し、経済開発の真の発展度を測る手法を構築し、国際的コンセンサスを得るべきである。また、このシステムを逆資本移動の予防メカニズムにも利用できるようにすべきである。

  13. ASEAN諸国の結束強化
    1. AICOの拡大を推進すべきである。ASEAN各国の国際競争力を強化するために域内分業体制の確立が重要である。
    2. AFTAの実現に向けての努力を継続する必要がある。

  14. 人材育成
  15. (タイ政府の人材不足は深刻である。優秀な人は政府ではなく民間企業に流れてしまう。インドネシアは、外国人のテクノクラートを70人ぐらいを雇い、金融・財政政策立案を手伝ってもらっている。)

  16. コンフィデンス回復やキャピタルフライト防止に資する法整備の検討。
  17. あわせて資金還流を促進するシステム構築も検討すべきである。

  18. 破産法整備
  19. 債権売買市場の育成
  20. 民間債務問題への取組み
  21. 返済状況のモニタリングを行い、その状況を債権者に開示し、延滞等問題ある場合には、契約通りの返済を実行するよう、民間債務者に対し行政指導すべきである。

  22. 民間企業の情報開示を進める法整備
  23. 連結ベースの監査済み財務諸表の公開を義務つける等の必要がある。

日本企業の対応

  1. 原材料、食料品、部品等の輸入拡大
  2. 現地社会に根づいた事業活動の維持
  3. 各企業が、事業の継続を通じて粘り強く協力することが必要である。

  4. 民間債務の繰り延べ
  5. 日本の金融機関や企業は短期資金の繰り延べを求められているが、実効性のある実現可能な方策の模索が求められる。

  6. 裾野産業の育成に対する協力
  7. 技術移転の促進、現地調達率の向上等を通じて、現地企業を育成するとともに、国際競争力の強化に協力すべきである。

  8. 企業活動における円の利用促進
  9. 円の利用については、問題があるとは思うが、可能なところから、利用促進に努めるべきである。

  10. 人材育成に対する支援
  11. 政府とも連携をとりながら、民間ベースでの人材育成のプログラムを積極的に進めて行くべきである。研修コースの提供、研修生の受け入れ、奨学金の授与などに取組むべきである。

  12. 現地調達率の向上
  13. アジア諸国の産業基盤を強化する上でも、現地調達率の向上に努めることは重要である。そのためにも、人材育成や裾野産業の育成が必要である。

  14. アジアの産業構造に関する研究
  15. アジア地域の中長期的な発展を促すために、アジア地域全体の産業構造を、経済界として考えていく必要がある。

  16. 日系企業の輸出拡大努力
  17. アジア諸国で事業を展開している日系企業が輸出拡大に努めることが求められている。

  18. 長期的視点にたった投資の維持拡大
  19. 各企業は、長期的な視点にたった投資の維持拡大に努めるべきである。

  20. 技術移転の支援促進
  21. 技術移転を促進するためには、人材育成の視点として日本からの技術者派遣や現地技術者の受け入れ研修を積極的に行なうべきである。また、技術移転上の問題となる事項(知的所有権の保護など)に関する教育啓蒙を促進すべきである。

  22. 現地雇用の維持拡大
  23. 現地の失業問題は社会不安に直結しかねない。現地事務所では、雇用の維持に最大限努力すべきであり、同時に人事施策等の現地化を強力に進めるべきである。

  24. 投資先社会への協力
  25. 現地進出企業は、よき企業市民として行動し、現地の文化や習慣を尊重すべきであり、現地社会の発展に有形、無形に貢献する事で社会経済の回復に努めるべきである。

各国民間企業への要望

  1. コンフィデンス回復のための誠意ある対応
  2. 多くの民間企業は大変厳しい状況にあると思うが、支払いを契約通り履行するよう努めるべきである。(一部の民間企業では、経済構造改革などの成り行き見定めるまで、払う能力があるにも拘わらず支払いを延期している向きがある。)

  3. 企業統治システムの構築
  4. 経済の発展度合を踏まえた企業統治(コーポレート・ガバナンス)を構築すべきである。

  5. 健全な労使関係の構築
  6. 欧米企業による地場企業の吸収・買収が進むにつれて、欧米の基準に従い多くの解雇者が出ることも懸念されている。各国の経済・社会事情を踏まえつつ、健全な労使関係の構築に努めるべきである。

  7. 情報の公開
  8. 連結ベースの監査済み財務諸表を決算後速やかに債権者に提出するなどの必要がある。

  9. 遵法精神の涵養

国際機関への要望

  1. IMF支援の見直し
    1. IMF意思決定の透明化
    2. 各国の国内事情にあった支援策の導入
    3. 新興市場の監視・緊急融資制度の導入、強化

  2. 世銀等による需要の創出
  3. IMFのコンディショナリティーの実行は大変なデフレ効果を伴うので、世銀やアジア開発銀行による生産基盤の強化が必要である。

  4. 通貨危機の再発防止策や金融システム改革に係わる調査・研究体制の充実
  5. 国際資本移動ルールの検討
  6. 短期資金の急激な流出入を防ぐルールを検討すべきである。

先進国政府への要望

  1. 金融市場における各国通貨当局の協調行動
    1. 世界の中央銀行としてのIMFが急激な資金移動の監視機能を高める必要がある。
    2. 為替レートの急激な変動を回避するために協調介入の可能性を検討すべきである。

  2. 金融・資本の自由化速度の調整
  3. 急激な金融・資本の自由化を要求しすぎである。実態に合わせて、途上国には猶予期間を与えるべきである。

  4. 金融・資本取引の仕組み作りへの協力
  5. 金融・資本取引の仕組み作りに積極的に協力すべきである。

アジア諸国政府と先進国政府の多国間協力に関する要望

  1. 安定的な国際通貨システム構築への協力
    1. アジア通貨体制の検討
    2. アジア版国際決済銀行(BIS)設置の可能性の検討

  2. 資金フローの安定化のための国際的協力体制の検討
  3. IMF、世銀の役割の見直し、APEC、ASEMなど地域的枠組み内での協調体制、マニラ合意やアジア基金構想など通貨安定に向けての新たな枠組み作り、国際資本移動のルールの検討等、資金フローの安定化に向けた協力体制の検討が必要である。


日本語のホームページへ