わが国のエネルギーをめぐる情勢と課題
−省エネルギー型社会の実現に向けて−

2.エネルギー問題に取り組むに当たっての基本的考え方


  1. 経済活力の維持と民間の自主的な取り組み
  2. これまで述べた通り、エネルギーをめぐっては、エネルギーセキュリティの確保(Energy Security)・経済活力の維持(Economic Growth)・地球温暖化問題への対応(Environment Protection)といった、いわゆる3Eと呼ばれる課題に直面している。これらの課題は、いずれも極めて重要であり、どれも疎かにすることはできないが、それぞれ互いに補完しあう面を持つとともに、相反する面も多く、同時に全てを解決することは容易ではない。とりわけ、地球温暖化問題への対応は、経済・社会を支えている基本的な財であるエネルギーの利用削減を迫るものであり、対応如何によっては、経済活動や国民生活に大きな打撃を与えることが懸念される。あくまで経済活力を維持しつつ、それぞれの課題のバランスとれた解決を図るべきである。

    そのためには、当面、これまで取り組んできた省エネルギーやエネルギー利用効率の向上などの取り組みを強化すべきことは当然であるが、中長期的には、経済社会そのものを資源循環型社会・省エネルギー型社会へ、即ち、より少ないエネルギー消費で経済・国民生活を支えることができる社会への変革が不可欠である。そうした変革を実現していくには、少なからず痛みを伴うであろうが、費用対効果の大きな効率的な取り組みや競争力向上につながるような技術の開発等を通じて、マイナスの効果を最小限に抑える必要がある。また、民間自らが定めた具体的な目標に向って創意工夫を駆使しつつ、最善策の実現を目指す自主的取り組みが有効であり、あくまでそれを基本とすべきである。これに対し、例えば、エネルギーの使用に直接制限を加える規制的措置は効率性を欠き、また、炭素・エネルギー税等の導入は、経済活動にとって大きな負担増となって、わが国産業の国際競争力の低下を招く恐れがあり、効果の点でも問題がある。

    さらに、中長期的には、エネルギー利用の効率化にも自ずと限界があることや、将来、化石燃料の使用制限が一層強化されるであろうこと等を考慮すると、必要なエネルギーの相当部分を原子力など二酸化炭素の排出を伴わない非化石エネルギーで供給することや長期的には二酸化炭素の回収・固定化技術の確立など革新的な技術の開発を通じて経済活力を維持していくことが必要である。

  3. 各主体毎の取り組みの基本方向
  4. 以上のような基本的考えに立って、エネルギー需要サイドとしての産業界、エネルギー供給産業並びに国など、各主体毎の取り組みの基本方向を示すと、次の通りである。

    1. エネルギー消費産業
    2. 顧客や需要家に製品やサービスを提供している産業界は、その過程において自らエネルギーを消費している立場と顧客がその製品を利用する段階でエネルギーを消費するという二つの立場でエネルギーに関与しているが、そのいずれの場合においても、自主的取り組みを基本にしつつ、徹底した省エネルギーの推進が求められる。

      自ら消費しているエネルギーについては、従来型の製造装置や製造工程における省エネルギーに止まらず、廃熱等の未利用エネルギーの利用や廃棄物のリサイクルなど業種を越えた、あるいは部門を越えた取り組みが一層重要になると考えられる。また、今後は、ビルや店舗での省エネルギーや運輸部門における効率的な輸送・配送等によって民生・運輸部門の省エネルギーを加速させることが必要である。

      製品を提供している立場では、低燃費の自動車や省電力型の家電製品等の提供を通じて省エネルギーに努めるとともに、太陽光発電や風力発電などの二酸化炭素を排出しない発電装置の開発・提供を通じて環境負荷の低減に貢献することが期待される。

      さらに、中長期的には、技術開発を通して、画期的な製法転換や製造プロセスの転換を実現し、経済的競争力の強化と環境負荷低減の両立を図ることが必要である。

    3. エネルギー供給産業
    4. エネルギー供給産業には、環境負荷の低減に加えエネルギーの低廉かつ安定供給という必ずしも整合性の取れない取り組みが求められている。とりわけ、国内一次エネルギーの約40%を消費している電力供給事業者は、原子力の推進をはじめ二酸化炭素排出削減へ着実な取り組みなど、地球温暖化問題対応への大きな期待がかかるとともに、料金の低減という強い要請を受けている。しかも、日常的な電力の安定供給やユニバーサルサービスを損なうことなしに、こうした要請に応えることが求められている。そうした取り組みに当たっては、自主的な取り組みが最大限尊重されるべきであるが、競争原理と、環境対応やエネルギーセキュリティなどの公益的諸課題との整合性を如何にして図るかが今後の検討課題である。

      また、石油及びガスにおいても、一層のコスト引き下げとあわせて、エネルギー転換や輸送工程における省エネルギーや、コジェネレーションシステムの普及や高効率燃焼機器の開発等による環境負荷低減への貢献が期待される。

    5. 国全体としての取り組み
    6. 国には、規制的な措置によるのではなく、民間の自主的な取り組みを最大限活かしつつ、エネルギーセキュリティ、経済成長、地球温暖化問題のバランスのとれた解決を達成することが期待される。とりわけ、二酸化炭素を排出しない原子力発電の推進は、関係企業の努力に加えて、政府による積極的な取り組みが必要である。

      また、国は、交通渋滞の緩和など社会インフラの整備に取り組むことが必要である。さらに、将来にわたってエネルギーセキュリティを確実なものとするために、民間ではリスクを引き受けることのできない、例えば核融合開発やメタンハイドレートの利用技術開発、二酸化炭素の回収・固定化技術の開発などについて、国自ら取り組むとともに、民間の研究開発に対する支援が期待される。

      さらに、近年の民生・運輸部門、特に家庭・旅客部門のエネルギー消費の伸びの高さを考えると、国民一人ひとりが、毎日の生活の中で行動を見直し、無駄を排除し、主体的にライフスタイルを変換することが重要である。この面でも、国の積極的な役割分担や具体的施策が望まれる。


      なお、政府は、98年6月、京都議定書の数量目標達成に向けて4年ぶりに「長期エネルギー需給見通し」を改定し、2010年におけるエネルギー需給の姿を示した。今回の改定は、供給側の対応として、原子力による発電容量を現状比50%以上(標準的な原子力発電所20基程度の新増設に相当)増強すること、また、消費側の対応としてエネルギー消費の伸びをほぼゼロに抑えながら、約2%程度の経済成長を支えていくということを前提にしている。

      しかし、現在の原子力立地の困難さや既に相当高いエネルギー利用効率を達成していること、さらにエネルギーの伸びの多くが民生、運輸部門によるものであること等を考慮すると、相当に厳しい見通しであることを認識する必要がある。


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