APEC活動に対する期待と提言

1998年10月20日
(社)経済団体連合会

APEC(アジア太平洋経済協力会議)は、域内の貿易・投資の自由化、円滑化ならびに経済技術協力を活動の中心として、同地域の経済発展を図ることをその目的としてきた。また、昨年来、アジア諸国は、通貨・金融危機に直面し、APECの対応が注目されている。

今こそAPECは、その存在意義を問い直し、メンバー国・地域ひいては域内の経済発展に寄与するために、実効性の高い施策を推進することが望まれている。こうした観点から、下記の点を提言する。

  1. アジア通貨・金融危機への対応
  2. 経済発展に不可欠な資金の循環を妨げないよう、APECメンバー国・地域は、金融市場や為替取引の自由化路線を堅持すべきである。アジア通貨・金融危機に見舞われた国が、危機打開のために様々な緊急措置を取ることには、やむを得ない面もある。しかし、こうした緊急措置はあくまでも一時的なものであり、貿易・投資の活動を阻害することなく、可及的速やかに自由化路線に回帰するよう期待する。

    以上のような観点から、APECは、域内サーベイランスの一層の充実を図るとともに、メンバー国・地域の金融システムの健全化ならびに金融・資本市場の育成、コーポレート・ガバナンスの強化に向けた協力を更に推進すべきである。また、短期資本移動のモニタリングを行い、弊害を除去するための対応策を検討する必要がある。

  3. 貿易・投資の自由化路線の堅持
  4. APEC活動は、自主的自由化を基本として、アジア太平洋地域の経済成長を目指す壮大な試みである。経団連は、かねてより我が国の自由化推進を主張しており、WTOにおける国際交渉に加え、APECにおける自主性尊重のアプローチをとることが自由化をさらに進めるものとして、その活動を支援してきた。
    以上のような考えに基づき、下記の点を提案する。

    1. 早期自主的分野別自由化(EVSL)の推進
    2. APECバンクーバー会議で採択されたEVSLについては、積極的に進めるべきである。ただし、それは、自主性を重視するというAPECの原則に沿ったものでなければならない。我が国は、APEC加盟国・地域における自由化をリードする立場にあることから、林産物、水産物を含む優先15分野の自由化に積極的に参加することが重要である。

    3. マニラ行動計画(MAPA)の実行
    4. EVSLを推進することに加え、MAPAそのものが着実に成果をあげることが重要である。各国・地域は、自由化の最終ゴールに向かっての具体的なロードマップを明示し、それを確実に実行に移すため最大限の努力を続けるべきである。その際には、その進捗状況を各国・地域の政府が相互に監視できるようにするために、MAPAの内容の透明性を高める必要がある。

  5. APEC組織・活動の集中化・効率化
  6. APECの組織・活動は、次第に拡大・複雑化している。APECは、その実効性をあげるために、絶えず活動のプライオリティーを精査し、APEC組織・活動の集中化・効率化を図る必要がある。この点については、経団連が昨年9月に発表した「APECの発展に向けて−活動の効率化、集中化と民間の積極的な参加の場を−」においても指摘したことであるが、目にみえる改善があったとは言い難い。そこで改めて下記の点を提案する。

    1. 委員会活動への集約
    2. 改革の実施においては、委員会活動は、APECの活動の中心である貿易・投資の自由化、円滑化、および経済技術協力に置くべきである。具体的には、貿易・投資の自由化、円滑化を担当する「貿易投資委員会」ならびに各メンバー国・地域の経済状況を取りまとめる「経済委員会」の他に、APECの中の経済技術協力活動を整理統合した形の「経済技術協力委員会」を新たに設け、活動を集約すべきである。

    3. ワーキング・グループ等の合併及び廃止
    4. その過程において、これまでの経緯あるいは各国・地域の関係省庁の事情等にとらわれることなく、既存のワーキング・グループ等の合併及び廃止を積極的に進めるべきである。

    5. 行財政委員会機能の強化
    6. これら組織の抜本的なスリム化を着実に実現するために、「行財政委員会」の機能を強化する必要がある。その上で、行財政委員会は、各ワーキング・グループの活動状況、予算、決算の監視を毎年厳しく行い、その結果を公表すべきである。

    7. ABAC活動の見直し
    8. APECの諮問機関であるABAC(APECビジネス諮問委員会)の活動については、APEC同様、拡大・専門化しており、すべての活動内容を各国・地域3人の代表のみでフォローすることが実態的に困難となっている。この機会にABAC本来の役割を再確認するとともに活動のプライオリティーを明確にし効率化を図るべきである。

  7. 日本政府への要望
    1. 我が国のリーダーシップの強化
    2. アジア通貨・金融危機を克服する上で、我が国への期待は強く、その責務は重い。そのため、我が国政府は、APECにおいても強いリーダーシップを発揮し、その活動をリードしていくことが極めて重要である。我が国が「村山基金」ほかでAPEC活動費用の約60%を負担していることを考えればなおさらである。

    3. 自由化推進のための国内体制の整備
    4. その前提として、我が国政府は、貿易・投資の自由化を聖域を設けることなく推進し、対日市場アクセスの一層の改善に努めるべきである。その際、関係産業は事業体質の強化を図り、政府は規制緩和を通じて、効率化や生産性の向上を促すことが重要である。なお、自由化の過程で輸入急増などにより国内産業に影響が出る場合には、セーフガード等適切な措置によって対応すべきである。

    5. 対外支援のあり方
    6. アジア太平洋地域の経済発展を図るためには、インフラ開発、とりわけ民活インフラ事業の推進が大きな課題である。APECにおいても、経済技術協力委員会を中心として、民間企業が直接参画できる民活インフラ事業推進のための環境整備を、国連や世界銀行等の国際機関とも協力しながら進めることが必要であり、我が国自らがこの分野における議論をリードすることを期待する。特に、原子力、新エネルギー開発を含めたエネルギー、環境、および産業インフラに関しては、我が国が豊富な経験と技術を有している分野であることから、我が国の経済支援はASEAN各国の産業インフラ・プロジェクトや中国の環境対策への協力等に重点的に取組む方向が望ましい。

    7. 対APEC政策の一元化
    8. 我が国政府は、リーダーシップを発揮するためにも、APECに対して外交戦略および対外経済政策に基づいて総合的に取組むべきであり、APECに係る政策の一元化を図るべきである。また、我が国政府は、民間経済界に対して、APECの年間活動目標、ならびにその進捗状況、および予算内訳、決算報告等を積極的かつ頻繁に公表し、民間がその活動や成果の状況を把握できるようにすべきである。

以 上

(参考資料)

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