[経団連] [意見書] [ 目次 ]

平成12年度税制改正中間提言
「日本経済活性化のために税制改革を求める」

1999年7月27日
(社)経済団体連合会

はじめに

一国の経済力の真の源泉は産業の国際競争力にあり、それを支えるのは自由で創造性に満ちた企業の活動にある。すでに、平成11年度自民党税制改正大綱では、「急速に進展する企業活動の国際化等を踏まえた21世紀を担うわが国の法人課税体系の構築を展望しつつ」「わが国企業の国際競争力を維持・強化する観点から」実効税率を引き下げることが明記されており、法人税改革の目的が、わが国企業の国際的競争力の維持・強化にあることが明らかにされている。
企業は、自らの決断と努力のもとに、事業を再構築し、その組織・形態を進化させ、経営資源をより効率性の高い分野に集中していくことによって、その活力を持続させることができる。企業が、自らの活力を十分に発揮し、事業展開を推し進めてこそ、経済を成長させ、雇用を確保し、一国の財政、社会保障制度を持続的に機能させることができる。
国の果たすべき役割は、企業の自助努力を引き出すための環境整備であり、税制の国際的なイコール・フッティングの確保は、その基本である。
経団連は、先に「わが国産業の競争力強化に向けた第1次提言」をとりまとめ、供給構造の改革を中心とする、産業の国際競争力の強化のために当面必要な制度改革を求めた。経団連の主張の大部分は、さる6月11日に政府が公表した「緊急雇用対策及び産業競争力強化対策について」に反映されたが、「産業競争力強化のための税制」としての具体的措置は、その後の検討に委ねられた。
この中で、特に緊急を要する措置については、税制措置を含め「産業再生法」として今国会において実現に移される運びとなり、小渕総理の英断によるものとして、高く評価される。同法が、わが国産業の再生を図るために欠かせない緊急の措置であることが理解され、迅速な国会審議が行われることを期待する。
しかし、「産業再生法」は、あくまでも時限的な特例であり、国際的なイコール・フッティングに向けて本格的な制度改革が行われるまでの過渡的な対応と位置づけられるものである。わが国経済を長期にわたる低迷から脱却させ、経済を安定的な回復軌道に載せるためには、企業の国際競争力の基盤強化に向けた抜本的な税制改革が必要であり、ここに経団連として、再度、抜本的な法人税制改革の具体的な内容を提言する。
また、合わせて、当面の企業税制の課題に対して、経団連の考え方を明らかにしておきたい。


I.法人税制の国際的なイコール・フッティング

わが国の企業が経営の効率性を追求し、国際競争力を維持・強化していくためには、今なお諸外国と比べて不利となっている税制を抜本的に見直すことが不可欠である。

[1] さらなる国際的イコール・フッティングの実現

平成11年度税制改正において、法人税基本税率の30%への引き下げ、法人事業税率の9.6%への引き下げが行なわれた結果、国税・地方税を合わせた法人税実効税率の40.87%への引き下げが実現した。
経団連では、昭和62年の税制提言において実効税率40%を明示して以来、十数年にわたり法人所得課税の国際的イコール・フッティングの最大の課題として税率の引下げを求めてきたが、今回の改正によって、実効税率は米国並みの水準をほぼ達成し、改革は大きく前進した。
しかし、これで、わが国の法人税制改革が全て完結したわけではない。引き続き、連結納税制度の導入や減価償却制度の改革をはじめとする法人税制の抜本的改革を進め、国際的イコール・フッティングを実現する必要がある。

[2] 連結納税制度の早期導入

企業は、経済環境や需要構造の変化に迅速に対応し、その組織を柔軟に改編していくことが必要である。特に、経営資源の集中や新規事業展開を行なうために、戦略的分社化や企業グループ全体を括り直す動きが進みつつあり、さらに持株会社の解禁によって、本格的なグループ経営の時代を迎えている。
一方、すでに企業会計制度においては、従来の単体重視から連結重視へと方向転換がなされており、税制面でも、グループ経営の進展に対応するために、企業グループを一体とした納税の仕組みである連結納税制度を早期に整備する必要がある。
企業が経営環境に応じた事業組織形態を選択する上で、税制は中立的であるべきである。しかし、現行制度は会社分割、分社化などの組織再編に対して中立性を欠いている。
連結納税制度の導入により、子会社形態を通じて新規事業分野への展開や既存事業の再構築を行うに際しての、キャッシュフロー上のマイナスを取り除き、税制を企業経営に対してより中立的なものに改めることで事業組織形態選択の自由度を拡げ、結果として企業活力の強化を通じて経済の活性化につながる。国際的にも、先進諸外国の大部分が、何らかの形で企業グループを一体として納税する方法を採用しており、わが国においても、連結納税制度の導入は、これ以上先送りすることのできない課題である。
昨年末の自民党税制改正大綱においては、「日本経済を支える企業の国際競争力を諸外国と同等の条件とし、日本経済の活性化を促すため」、「2001年を目途に連結納税制度の導入を目指すこと」が明記されており、政府として直ちに具体的な検討に入ることを求める。

[3] 欠損金の扱い

ゴーイング・コンサーンとしての企業にとって、課税上の期間損益の通算は、中長期的な観点から将来を見据えた経営を行なう上で非常に重要である。
しかし、現行法人税制における欠損金の扱いは、繰越し控除については5年間に止まり、繰戻し還付についても、本則で1年間に限り認められているものの、租税特別措置法により平成12年3月31日まで適用が停止されている。
一方、諸外国においては、例えば、アメリカでは2年間の繰戻しと20年間の繰越し、イギリスでは3年間の繰戻しと無期限の繰越しが認められているなど、わが国の現行制度は明らかに不利な扱いとなっている。欧米諸国とのイコール・フッティングの視点から、過去2年分の繰戻し還付および10年間の繰越しの実現を求める。

[4] 減価償却制度の抜本的見直し

企業が生産効率を高め、新たな事業分野への進出を進めていくためには、減価償却制度が大きな鍵となる。かつて、アメリカと比べて優位にあったわが国全体としての設備ヴィンテージ(平均年齢)は、1996年を境に逆転し、その後、その差は拡がりつつある(日本開発銀行調査)。アメリカの設備ヴィンテージの改善には、税制におけるACRS=加速度償却制度の導入が大きな役割を果たしており、わが国においても、減価償却制度の抜本的な見直しが必要である。また、それにより、民間設備投資の落ち込みに歯止めをかけるならば、わが国経済の再建を確実なものとすることができる。具体的には、以下の改正が必要である。

  1. 現行「減価償却資産の耐用年数等に関する省令」別表一及び別表二を大幅に簡素化した上で、耐用年数を短縮すること。
  2. 現行法人税法施行令第61条第1項一号に規定する償却可能限度額を現行の取得価額の100分の95から、備忘価額を残すまでに改めること。

[5] 研究開発税制

研究開発は、企業が将来に向かって成長していくために不可欠な要素であり、ひいてはわが国全体の産業競争力を左右するものである。
しかし、近年、商品サイクルの短期化、新規技術の開発期間の短縮および研究開発の広範化・高度化等により、本来、必要な研究開発費は増大しているにもかかわらず、不況の中で企業の研究開発支出実績は減少している。
平成11年度税制改正における増加試験研究費税額控除制度の拡充は、研究開発に関する支出を再び増加させる端緒となることが期待されているが、これに加えて、企業会計制度の変更に合わせた税制改正が必要である。
すなわち、企業会計制度では、研究開発に関する支出は、将来収益との対応が不確実な上、実務上客観的に判断可能な資産計上要件を定めることが困難であるため、すべて発生時に費用処理すると改正されたが、これに合わせて、税制においても、現在、繰延資産として5年均等償却を要する外部委託開発による研究用ソフトウエア、ならびに、一定の研究開発用固定資産の取得費用について一括損金算入を認めるべきである。

[6] 課税ベースの適正化

平成10年度税制改正における各種引当金の圧縮・廃止などの課税ベースの大幅な見直しは、国際的な潮流を踏まえた適正化の観点から容認できるものであったが、今後の検討課題とされている以下の項目については、単に税収確保を目的としたものとならないよう、慎重な検討が必要である。

  1. 長期金融商品や金融派生商品
    金融課税さらには金融制度全体のあり方を重視し、国際的な整合性を十分踏まえた対応が不可欠である。
  2. 受取配当
    配当に係る二重課税を排除し、個人株主育成と証券市場活性化の観点からも、インピュテーション方式をも念頭に置いた検討を進めるべきであり、法人が受け取る配当については、全額益金不算入とすべきである。
  3. 寄付金
    一般寄付金の損金算入限度の見直しは、諸外国との整合性の観点からも、公益的寄付金の範囲の見直しと合わせて行なうべきである。
  4. 法定外福利厚生費
    法定外福利厚生費の範囲をどう認識するかという問題や、わが国における雇用慣行、労使関係などを踏まえて慎重な検討が必要である。


II.企業組織再編に係る税制措置

わが国に立地する企業(外資を含め)が、経営の効率性を追求し、国際競争力を維持・強化していくためには、経済環境や構造変化に迅速に対応し、企業組織を柔軟に改編することが必要である。それが、結果として、雇用の創出・確保や、わが国経済の再生・活性化につながる。
税制面では、現行制度のもと、合併、特定現物出資(変態現物出資も含む)、事業革新法に係る共同現物出資について、資産譲渡益の課税繰延べ、あるいは、株式交換・株式移転における株式譲渡益課税の繰延べの措置が存在する。
しかし、米国では、広く、株式取得や営業の譲り受けも含め、企業再編に係る取引き一般について、内国歳入法第368条の定義する組織変更(reorganization)に該当する場合、資産の移転・株式の移転に関して、取得原価を引き継ぎ、企業レベル、株主レベルともに損益を認識しない。この制度の背景には、株主の立場からは、投資対象である企業は組織形態を変更しても、この企業に対する持ち分には実質的に何ら変更がない以上、課税は行わないという考え方がある。また、ドイツにおいても、1995年に組織変更税法が施行され、会社分割等における課税繰延べが規定されている。
この点、わが国税制の企業の組織再編に対する取扱いは非常に限定的と言わざるをえない。わが国においても、企業の組織再編全般(相互会社の株式会社化も含む)にわたる税制上の制度の整備を行なう必要がある。

[1] 会社分割法制の創設に伴う税制措置(所得課税)

会社分割法制については、法制審議会商法部会において、次期通常国会での改正を目指した検討が、前例を見ないスピードで進められていることを高く評価される。
現在の議論においては、会社の資産・負債を二つ以上の会社に分割した上で、新設会社にそれを承継させる方法(新設分割)と、分割した資産・負債を他の会社に承継させる方法(吸収分割)とが取上げられている。その上で、それぞれの方法において、新設会社ないし合併後の会社の株式(ないし合併新株)の全部(あるいは一部)を分割会社の株主に分配する場合と、全く分配しない場合(いわゆる分社化)とが想定されている。
この制度に沿った会社分割を行った場合、以下の税制上の手当てを行う必要がある。

  1. 新設分割ならびに吸収分割において承継される資産の価額が、被分割会社における簿価以下の場合には、被分割会社において資産の譲渡益を認識しないこと。複数の会社が共同して分割により会社を新設する場合も同様である。
  2. 被分割会社における引当金、利益準備金の一部を分割計画書(ないし分割契約書)に定められた分割割合に応じて分割会社(ないし合併会社)に承継すること。
  3. 株式を分配する場合、被分割会社において分割会社株式(ないし合併新株)の譲渡益を認識しないこと。
  4. 株式を分配する場合、株式が分配された株主に対する配当課税や贈与所得課税を行わないこと。
  5. 吸収分割において、株式を分配する場合、合併新株が分配された株主に対する(みなし)配当課税や贈与所得課税を行わないこと。

[2] 現行制度を活用した会社分割にかかる税制措置(所得課税)

新設される会社分割法制に伴う税制措置のみならず、現行制度を活用した会社分割についても、企業組織再編に対する税制の中立性の観点から、同様に課税繰延べが必要である。
まず、子会社株式を親会社株主に交付して、親会社の株式の有償消却を行う場合(アメリカにおけるスプリット・オフと同様の方式)、親会社における子会社株式の譲渡益を認識しないこととともに、親会社株主に対するみなし配当課税を行わないことが不可欠である。
また、子会社株式を親会社株主に現物配当する場合(アメリカにおけるスピン・オフと同様の方式)、親会社における子会社株式の譲渡益課税の繰延べとともに、親会社の株主が受け取る現物配当に対する非課税措置が欠かせない。

[3] 企業組織再編にかかるその他の税制措置(登録免許税、不動産取得税等)

企業グループ全体としては不動産の保有状態に何ら変更のない企業組織変更(合併・分割・分社化・営業譲受)に際しての不動産移転に関する登録免許税については、まずもって軽減が必要である。
また、企業組織再編に対する税制の中立性の観点から、会社分割、分社化、株式移転・株式交換にかかる設立登記・資本増加登記の登録免許税は、合併と同様(1000分の7→1000分の1.5)にすべきである。
不動産取得税については、合併または一定の要件を充たす会社分割・分社化による不動産の取得の場合は、非課税とされているが、組織再編に対する課税の中立性の観点から、すべての会社分割・分社化全般について非課税とすべきである。自動車取得税・特別土地保有税も同様である。

[4] 有限責任事業組合(仮称)の導入

会社分割・分社化の方法は、新たに株式会社を設立(あるいは他の株式会社と合併)することに限定されるわけではない。
米国には、複数の企業が共同して、リスクの高い新規事業に進出するため、あるいは事業の再構築を進めるための手段として、各州法においてLLC(リミテッド・ライアビリティ・カンパニー)、LLP(リミテッド・ライアビリティ・パートナーシップ)という事業形態が認められている。
これは、全ての出資者の有限責任と、税制上の導管としての仕組み(事業体の段階では所得課税を行なわず、その損益を出資者の損益と通算)を備えていることを特徴としている。
わが国においても、これと同種の事業形態を、有限責任事業組合契約として、速やかに創設することが求められる。
昨年、「中小企業等投資事業有限責任組合契約に関する法律」が施行されたが、これは、事業執行をする無限責任組合員とそれ以外の有限責任組合員から構成される組合契約の一種であり、有限責任組合員について、基本的に組合員段階のみの課税が行われることが国税庁通達によって確認されており、有限責任事業組合契約においても同様の解釈がなされるべきである。
なお、有限責任事業組合に対する出資は、金銭その他の財産とし、現物出資の場合においては、他の会社分割・分社化と同様、資産の移転時においては譲渡益課税を繰延べ、後日、当該資産が、売却された場合に、現物出資を行った構成員が自分の資産を売却したものとみなして、譲渡益課税を行うことが求められる。

【有限責任事業組合契約法(仮称)創設の提案】

  1. 有限責任事業組合は、商号中に「有限責任事業組合」であることを明示しなければならない。
  2. 有限責任事業組合の設立には、少なくとも2名以上、50名未満の構成員(出資者)が定款を作成し、その主たる事務所の所在地において登記することを要する。株式会社その他の法人は構成員となることができる。
  3. 構成員の責任は、その出資の額を限度とする。
  4. 構成員が損益の分配に際して定めを置かない場合には、損益の分配は各構成員の出資の額に応じて行なうものとする。
  5. 構成員は定款の定めまたは構成員総会の決議により金銭その他の資産の分配を受けることができる。ただし、貸借対照表上の純資産額を超えて分配することはできない。
  6. 構成員総会は、本法および定款に従い、有限責任事業組合の全ての事項に関し決議をすることができる。議決権は、各構成員の出資の額による。
  7. 有限責任事業組合は、業務執行のために1人以上の理事(仮称)および代表理事(仮称)を置くことができる。理事の選任は構成員総会において行なう。
  8. 構成員の地位は、定款に別段の定めがある場合、または、構成員総会において3分の2以上の同意を得た場合を除き、譲渡できないものとする。
  9. 構成員の脱退は、定款に別段の定めがないときは、構成員総会において3分の2以上の同意を得て行なう。
  10. 有限責任事業組合は、各事業年度毎の計算書類を官報または定款に定める一般日刊紙において公告する。
  11. その他、有限責任事業組合の組織・業務等について必要な事項を定める。

【有限責任事業組合契約法(仮称)創設に係る税制措置の提案】

  1. 有限責任事業組合については、所得課税を行なうことなく、全ての損益を各出資者の持ち分に応じて当該年度の出資者の所得と通算することとする。ただし、それぞれの出資額を超える損失は、それぞれの組合員の損金とはならない。
  2. 有限責任事業組合の創設に際して、現物出資を行なう場合に課税の繰延べを認める。また、資産の移転に係る登録免許税・不動産取得税の課税の特例に係る措置を講ずる。

[5] ストック・オプション制度の拡充

会社の業績と取締役・使用人の報酬を連動させるストック・オプション制度は、株主重視の経営を促し、企業の活性化をもたらすものとして、多くの企業に普及しつつあり、これを一層、使い易いものとする必要がある。
現行法制では、ストック・オプションを付与できるのは、自社の取締役・使用人に限られているが、子会社の取締役・使用人についても付与できることとするよう、商法を改正すべきである。特に、純粋持株会社を念頭においた場合、こうした措置は欠かせない。
併せて、税制上の優遇を受けられる権利行使額(現行:年間1000万円)ならびに取締役の株式保有制限(現行:公開株式の場合、発行済株式総数の10分の1以下)を拡充する必要がある。


III.地方税の抜本改革

地方税の見直しについては、従来、国税改正の波及にかかる部分が大きかった。また、固定資産税等についても、地価変動に伴う手当てとしての改正を超えて、そのあり方の見直しが十分に行われてこなかった。しかし、地方分権に広く国民のコンセンサスを求めようとするならば、地方の自主的な財源としての地方税について、全般的な見直しが不可欠である。

[1] 地方税改革の基本的視点

税負担、特に固定化された税負担は、企業の製品・サービスのコストとなり、さらなる高コスト構造を招いて、産業の国際競争力に影響を与えるとともに、企業が国を選ぶ時代においては、そのことが地域の経済・雇用に悪影響を及ぼす可能性も有している。
地方税においては、様々な種類の課税が行われており、納税者としてはそれぞれの関係性が理解できない。また、超過課税が行われているのは、ほとんどが法人関係税であり、徹底した歳出の削減を行わずに、選挙権のない法人に過大な負担を負わせることは大きな問題である。
地方税の改革を進めるにあたっては、こうした企業の国際競争力や地域経済・雇用に与える影響、税体系の簡素化、地方自治体における歳出削減の状況などを十分に踏まえる必要がある。

[2] 事業税の外形標準課税問題

政府税制調査会の地方法人課税小委員会において、法人事業税への外形標準課税の導入の課題について専門的・理論的な検討が進められている。しかし、法人事業税への外形標準課税の導入による税負担の固定化は、企業の固定的費用を増大させ、経済の活性化を妨げるものである。
企業は、固定的な税負担として、既に、土地・建物に対する固定資産税、フランスの外形課税と類似の償却資産に対する固定資産税、事業所税、住民税均等割などを負担しており、その負担は増大傾向にある。固定化された公的負担としては、これらに加えて、拡大傾向にあり、かつ、介護保険の導入を含め、今後とも上昇が予想される社会保険料を負担している。これらの固定化された公的負担は、国境税調整がきかず、国際競争上、日本に立地する企業を不利な立場に置くとともに、産業の空洞化を招きかねない。さらには、外形課税は、外国税額控除の対象とならないことから二重課税を引き起こし、海外からの投資にも悪影響を与えるおそれがある。
特に、給与総額を外形基準の要素とした場合、労務費負担圧力となって、雇用に悪影響を与えるとともに、ようやく上向きつつある個人消費の足を再び引っ張る可能性もある。
また、新たな外形基準による税の執行には、困難が大きく、納税・徴税実務において過大なコスト負担を要するおそれがある。
さらには、海外で、既に同様の税を実施してきたドイツ、フランスは、外形課税の廃止、縮小が行われており、国際的にも一般的な税制とは言い難い。
地方法人課税のあり方を考えるに際しては、議論を法人事業税に限定するのではなく、他の地方法人課税も対象にするとともに、地方税全体の改革も視野に入れるべきである。地方法人課税については、事業に対する課税である事業税と、法人に対する課税である法人住民税の二つが存在するが、両者の性格の違いは明らかでなく、二つの課税は先進諸外国でも例がない。簡素化の観点から、法人事業税を廃止し、法人住民税に一本化することが求められる。その中で、税収中立を前提としつつ、小規模な範囲で所得課税を均等割に振り替えることは検討に値しよう。また、税収の安定化のためには、法人事業税の外形標準課税ではなく、むしろ、地方消費税の拡充を行なうことが基本的方向である。

[3] 固定資産税のあり方

土地に係る固定資産税の負担が、地価の下落や景気の低迷にもかかわらず、増大傾向にあることは、納税者として納得できない。平成12年度には、評価替えが予定されているが、負担の均衡化を理由に税負担を上昇させることなく、地価安定期であった昭和50年代における税負担の水準を念頭において引下げを図ることが必要である。
また、収益力と比べてみても、経済機能が集積している大都市部の商業地等、大規模工場用地や公的な理由で利用が制限されている土地については、税負担が特に過重となっており、見直しが求められる。


IV.確定拠出型年金制度の導入と年金税制

[1] 確定拠出型年金制度の早期導入

公的年金制度の改革議論が続けられているが、将来にわたって保険料負担の抑制と給付水準の見直しは避けられないものとなっている。そうした中で、国民の老後生活の安定のためには、公的年金と私的年金の組み合わせによる退職後所得の確保が重要な政策課題となる。
また、国民のライフスタイルの多様化、雇用形態の多様化・流動化、産業構造の転換が進む中、円滑な労働移動を促進させることが必要となっている。
一方、従来の退職一時金制度については、新会計基準と税制の不整合により、退職給付債務を全額引き当てても大半は損金算入されない。さらに、外部拠出されていないため、受給権の確保という観点から問題が残っている。また、確定給付型の企業年金は、運用環境の悪化により、追加拠出や基礎率、給付水準の見直しを余儀なくされており、企業、従業員双方にとって不安定な制度となっている。
そこで、国民の老後の所得を確保するための選択肢を広げるために、確定拠出型年金制度の導入が急がれる。

[2] 確定拠出型年金制度の仕組み

今年6月8日、自民党私的年金等小委員会に提示された『確定拠出型年金制度の具体的な仕組みの検討の方向』について、基本的に賛成する。この枠組みに沿って、2000年度導入の実現へ向けて、できるだけ早く、以下の通り税制上の措置を示すことが必要である。

  1. 既存の確定給付型企業年金等から確定拠出型年金への移行
    労使合意に基づき、既存の確定給付型企業年金制度及び退職一時金制度の一部または全部を確定拠出型年金制度に移行する場合、課税が生じないようにする。
  2. 税制について
    確定拠出型年金に係る税制措置は、拠出時・運用時非課税、給付時課税とする基本方針に賛成する。運用段階では運用益だけでなく積立金に対しても非課税とし、特別法人税は撤廃する。また、給付時課税を原則とする観点から、公的年金等控除は縮減の方向で見直す。

なお、確定拠出型年金制度の具体的な仕組みについては、さらに次の諸点を要望する。

  1. 運営管理機関のあり方について
    企業が拠出する場合の制度の運営管理については、第一義的に事業主が責任を持つものとする。その上で、労使合意に基づき、外部の複数の機関に、受託者責任を含めその業務を分散して設定することを可能とする。
  2. 「企業が拠出する場合」の具体的内容について
    1. 労使合意に基づいて定める確定拠出型年金規約は、適格要件を公示した上での届出事項とする。
    2. 確定拠出型年金規約を定める企業の従業員のうち、制度に加入する者の範囲については、労使合意により決められるものとする。また、制度加入について、従業員の選択を認める。
    3. 従業員による運用指図を原則とする。その際、事業主は従業員への制度や商品の説明を十分に行う。
    4. 運用商品については、可能な限り選択肢を広げる。また、選択肢の一つとして「自社株ファンド」を認める。
    5. 企業拠出分に関する受給権については、労使合意により早期に付与する。
    6. 加入者が離転職し、転職先に確定拠出型年金制度がある場合を除き、例外なく指定団体に加入者の年金資産を移管するものとする。
    7. 従業員が年金給付を選択する場合は、本人が民間の年金商品を購入することを原則とする。


V.企業再構築のための税制措置

企業が経済環境、需要構造の変化に対応しつつ、その活力を維持し、雇用に対する責任を果たしていくためには、経営資源を絶えず効率性の高い分野へとシフトし、戦略的な事業の再構築を図っていくことが不可欠である。
これは、企業自らの決断と責任の下でのみ行われるべきことであるが、わが国産業全体の構造改革を進め、国際競争力を維持・向上していくために、国としても企業が事業再構築を推進していくための環境整備を行なうことが求められる。
また、経済活性化にあたって、経済の基盤を支えている個人事業、中小企業の果たす役割は大変大きく、これらの企業が将来にわたって活力を維持するために、事業承継税の円滑化の観点から、相続税について、国際的に見て過重となっている税率構造を含めた見直しが必要である。

[1] 産業再生法(仮称)の早期成立・施行

上記のような観点から、目下、策定が進められている「産業再生法」は、時宜に適ったものであり、今国会において、その成立を図るとする政府の決断を高く評価する。
この法律が、企業の自主的な事業再構築への取り組みを広く支援するものとなるよう、関連する税制措置を含めて、幅広く適用されるものとなることが必要である。
なお、同法に盛り込まれることとなった、欠損金の扱い、分社化等に係る登録免許税・不動産取得税の軽減、ストック・オプションの拡大については、時限的な措置にとどめられることなく、施行期間中に一般的な税制改正として結実させることが重要である。

[2] 新産業・新事業の創出のための税制措置

わが国全体としての経済活力を持続させ、新しい雇用を生み出していくためには、新産業・新事業の創出は不可欠な課題であり、税制面からも、これを大胆に支援していくべきである。具体的には、以下の税制措置の早期導入を求める。

  1. 欠損金の繰越期間の延長
    新規創業の後5年間に生じた欠損金について、無期限の繰越し控除を、全ての企業に適用する。
  2. エンジェル税制の拡充
    現行エンジェル税制(個人がベンチャー企業に対して行なった株式投資により損失が生じた場合、翌期以降3年間の株式譲渡益との損益通算を認める)に加えて、当該年度における他所得との通算、および株式譲渡益との損益通算期間の延長を行なう。
  3. ベンチャー・キャピタル税制の導入
    ベンチャー企業の資本調達を円滑化する観点から、ベンチャー・キャピタルが起業時や創設後間もない企業に対して行なう出資の額の一定割合について所得控除を認める。

[3] 土地をはじめとする資産流動化のための税制措置

土地をはじめとする資産の流動化は、経済再生のための重要な課題であり、税制面からも十分な手当が必要である。具体的には、譲渡益課税についての一層の軽減とともに、登記制度の運営費をはるかに上回る課税となっている登録免許税や、税負担が過重となっている不動産取得税など関係諸税の負担軽減が必要である。
とりわけ、企業の事業再構築の結果生じた工場跡地など遊休不動産の有効活用およびその流動化を進めることが喫緊の課題であり、土地所有者自らが積極的に開発プランを推進していくためには、PFI手法やプロジェクトファイナンスの活用、不動産ならびに債権の証券化など多様な資金調達手段の活用が必要であり、具体的には、以下のSPC等に係る税制措置を求める。

  1. 配当要件の緩和(90%超)
    現行SPC法は、配当可能利益の90%超を配当した場合にのみ、その支払配当が損金算入されるが、不確定要素が高い不動産事業の性格に鑑み、SPCの経営を安定化させるため、配当要件を緩和すべきである。
  2. 登録免許税・不動産取得税の免除
    現在、2年間の暫定措置として、SPCや不動産特定共同事業が不動産を取得する場合の登録免許税、不動産取得税は軽減されているが、収益率の向上のために、これを免除すべきである。

なお、SPC法については、原資産保有者の資産譲渡に係る課税の繰延べ、優先出資の増減資制限の緩和、借入制限の緩和等についても検討が必要である。加えて、住宅ローン債権を証券化した場合、住宅取得者が引き続き住宅ローン控除の適用を受けられることとすべきである。

以 上

日本語のホームページへ