[経団連] [意見書] [ 目次 ]
経団連 産業競争力強化に向けた提言
―国民の豊かさを実現する雇用・労働分野の改革―

【第二部:具体的な提言】


  1. 労働市場の機能強化を通じた人材の適材適所の実現
    1. 職業紹介システムの再構築
    2. 今般の職業安定法の改正により、民間によるサービス提供を厳しく制限していた職業紹介の分野に、民間活力を一層活用していくことになった。民間事業者による労働市場の需給調整機能を最大限活用する観点から、今後政省令を整備する段階では、以下に掲げるような措置を講ずる必要がある。

      1. 有料職業紹介事業の取扱職業の拡大
        今般の法改正により、ネガティブリストの範囲が縮小されることになったが、その際には、取扱職業を大幅に拡大するとともに、ネガティブリストに位置づける場合でも、合理性、公平性等の観点からその明確な論拠を示す必要がある。

      2. 求職者からの料金徴収に関する規制の見直し
        再就職支援サービスやキャリアカウンセリングなどは、求職者がより良好な雇用条件を獲得していく上で有効なサービスである。こうしたサービスを有料職業紹介事業者が提供していくためには、サービスに見合った料金を求職者から自由に徴収できるようにすべきである*2。その場合、就職に対する成功報酬という考え方もあり得る。

    3. 人材移動の円滑化に資する諸制度の見直し
    4. 円滑な人材移動により勤労者の適材適所を進め、社会全体としての労働力の効率的な配置と勤労者の働きがいの向上を実現するためには、企業がまず、年功序列的な賃金・処遇の見直しを、年金・退職金制度なども含めて行なうことが重要である。それと併せて、関連する年金制度・税制等についても、転職と勤続に中立的な制度に改めていくことが強く求められる。
      とりわけ、企業年金制度については、現行制度が確定給付型を骨格としているため、転職時におけるポータビリティが確保されていないという問題点を抱えている*3
      これについて政府・自民党は、2000年度中の導入に向けて、99年7月に確定拠出型年金の基本的枠組みに関する考え方をまとめたが、同制度の導入にあたっては、経団連が1998年9月に公表した提言「確定拠出型企業年金の導入を求める」の趣旨を十分踏まえ、多様な設計を認め、事業主、従業員にとって合理的で魅力ある制度にしていくことが必要である。

    5. 働き方の選択肢を狭めている労働基準法の見直し
      1. 有期労働契約に関する規制緩和
        企業を取り巻く環境が変化するなかで、終身雇用中心のシステムを見直す企業が増えつつある。このような状況下において、判例上、解雇権濫用法理*4 が確立され、手厚い雇用保障が用意されていることは、無期契約で雇用されている正社員への安心感の付与につながるが、一方で、企業にとっては正社員を採用する場合のリスクを高め、その結果、企業の採用マインドは慎重化している面もある。
        このような問題を解決する方策として、解雇法制等の法整備を進めるべきではないかとの意見も聞かれるが、いま一つの有効な施策として、雇用条件(契約期間、勤務地、職務内容等)を明確にした個別雇用契約の締結が考えられる。しかし、その際、制度上の制約がある。例えば、労働基準法では、労働契約に期間の定めをおく場合は、一定の事業の完了に必要な期間を定めるもののほかは、1年(60歳以上の高齢者等については3年)を超える期間について締結してはならないとしているが、このような法制度は個人の働き方の選択肢を狭めている。このため、有期労働契約については、最長5年の労働契約を誰とでも締結することができるよう、規制を緩和していくべきである*5

      2. 裁量労働制の適用職種の大幅な拡大
        98年に労働基準法が見直され、裁量労働制の適用範囲は、従来から認められている(1)新商品、新技術の研究開発、(2)情報処理システムの分析など11業務に加えて、新たに事業活動の中枢業務にまで対象範囲が広げられることになったが、対象とする業務や勤労者などの具体的なあり方について規定することとされている指針は定められていない。
        裁量労働制は、自立的で自由度の高い柔軟な働き方を求める人材の能力や意欲を、より有効に発揮させるとともに、生産性の向上をもたらすことから、指針の制定にあたっては、企画・立案、調査分析などを含め、労働時間管理になじまない職種に適用範囲を大幅に拡大することが不可欠である。

    6. 派遣形態での就労の拡大
    7. 派遣形態での就労は、今後、労働力供給の重要なルートとして役割を果たすことが期待されている。 今般の労働者派遣法の改正では、

      1. 適用対象業務をネガティブリスト化する、
      2. 26の適用対象業務については今後も3年までの派遣が可能であるが、新たに認められる業務については1年の期間制限を設ける、
      3. 派遣できる期間を超える勤労者が、派遣先企業での雇用を希望した場合、派遣先企業は雇用の努力義務を負う、
      などの見直しが行われたが、今後、政省令等を整備する段階では、次の2点に配慮すべきである。なお、今回の法改正にあたっては、「派遣形態での就労の拡大は、常用雇用からの代替を通じ、勤労者の地位低下をもたらす」という議論をする向きがあったと聞くが、派遣形態による勤労者のなかには、派遣形態のまま継続して就労することを希望する者も多数存在しており、このような前提は必ずしも妥当とは言えない。このため、政府においては、政省令を整備すると同時に、派遣形態での勤労者の就労状況等を早急に調査し、必要に応じて労働者派遣法の抜本改正を行なっていく必要がある。

      1. 派遣期間の制限の運用緩和
        派遣形態での雇用継続を希望する勤労者のニーズに応えていくためには、今後新たに認められる派遣期間1年の適用を受ける業務についても、1年を超えて同じ派遣先での就労が可能となるよう、派遣期間の制限に例外を幅広く認めていく必要がある。

      2. 職業紹介事業と労働者派遣事業との兼業規制の前倒し緩和
        今回の法改正に基づく政省令により、職業紹介事業と労働者派遣事業との兼業規制は2000年12月から緩和されることとなったが、現下の厳しい雇用情勢に鑑みれば、適職探しの一環としての派遣就業(temp to perm)の実現を急ぐ必要があり、同兼業規制については、前倒しで緩和すべきである。

    8. 効率的で持続可能なセーフティネットの整備 −雇用保険制度の見直し−
    9. 労働市場の機能を健全な形で強化していくためには、わが国においてセーフティネットとしての中核的な役割を果たす雇用保険制度(失業等給付及び三事業)を、勤労者、企業といった市場参加者の大多数が十分に納得の得られる効率的かつ持続可能なものとして再整備する必要がある。

      1. 就職の緊要度に応じた求職者給付の重点化
        限られた財源のなかで求職者の生活保障を効率的に行なっていくためには、求職者給付を就職支援の緊要度に応じて重点化する必要があり、具体的には、以下の改革を視野に入れて見直しを行なう必要がある。なお、以下の改革が実施されれば、現在、求職者給付におけるモラルハザードの防止策として実施されている就職促進給付、高年齢雇用継続給付については、今後役割は減じていくこととなろう。

        1. 自発的失業や定年退職を理由とする離職については、在職中から本人が予見できるため、解雇等による非自発的離職に比べ再就職への備えを確保できている可能性が高いことから、給付日数を圧縮する。
        2. 定額制とし、扶養家族の有無などに応じて給付単価に差を設ける。また、一定期間終了後は、職業訓練を受けることができるバウチャーを給付し、現金による給付額を逓減する方式とするか、既に育児休業給付で導入されている給付を後払いする方式を導入する。

      2. 雇用調整助成金制度の見直し
        雇用調整助成金は、企業がやむを得ない理由により休業等に入る場合に、賃金の一部を雇用保険から助成する制度であるが、構造的に業績が悪化し続け、将来にわたって回復の見込みのない業種に対しても長期かつ継続的に支給するため、非効率な分野を温存し、産業構造転換を妨げる可能性が高いとの指摘もなされている。
        したがって、雇用調整助成金制度については、その対象を業績悪化等により雇用縮小が短期的かつ急激に発生する怖れがある場合に限定し、給付期間・回数に制限を設けるなどの措置を講ずべきである。
        但し、中高年に対するリストラ圧力が高まり、将来に対する不安感の除去が重要課題の一つとなっている現状においては、厳しい経営環境に置かれながらも、中高年の雇用の維持・安定や失業なき人材移動(出向、再就職あっせん)に取り組む企業を社会的に支援する仕組みを構築していく必要がある。
        現在、こうした企業を支援する施策の一つとして、雇用保険のなかに人材移動特別助成金制度*6 が設けられているが、同制度では、人材の受け入れる企業と送り出す企業との間に組織的に密接な関係が存在するケースが、助成の対象から除外されており、同制度は本来果たすべき役割を必ずしも十分に発揮していないという問題点が指摘されている。こうしたケースを同制度の助成対象に加えた場合、同制度が企業の事業再構築を通じた雇用削減を支援することになる惧れもあるが、現状、わが国の労働市場において中高年に対する求人状況が深刻であり、かつ、親会社から子会社、孫会社など密接な組織関係を持つ企業への出向・移籍が、産業構造変化などにより雇用調整を余儀なくされる企業における勤労者の雇用の維持・安定を図る上で重要な役割を果たしていることを踏まえれば、人材移動特別助成金制度については、受け入れ企業の要件をはじめ助成の対象を見直していくことが適当である。

  2. 個人の職業能力の向上 −自己啓発の重要性−
    1. 勤務時間面での配慮
    2. 自己啓発活動を阻害する要因の大きなものに、「時間がない」ということがある。
      このため、企業においては、個人の取り組みを支援するため、フレックスタイム制や裁量労働制、あるいは自己啓発のための長期休暇制度の導入・普及により、勤務時間への配慮を行なっていく必要がある。一方政府は、99年6月の「緊急雇用対策及び産業競争力強化対策」において、「長期リフレッシュ休暇制度の早期導入を検討する」ことを盛り込んだが、同制度は国内に限らず海外の大学院等への留学を可能とするものである。

    3. 費用負担の軽減
    4. 自己啓発に要する費用負担の軽減も大きな課題の一つである。
      個人の自己啓発による職業能力開発を支援する仕組みとして、98年12月に雇用保険のなかに創設された教育訓練給付制度*7 がある。しかし、同制度は、次のような問題点を抱えている。

      1. 同制度は、雇用保険制度の枠組みにおいて運営されているため、一度利用すると再度利用するためには、5年間の被保険者期間を要する。
      2. 対象者が一般被保険者(在職者)に加えて、一般被保険者であった者(離職者)にまで広げられているものの、わが国の全ての労働力をカバーしているわけではなく、例えば、今後本格的な労働力として戦力化が期待されているパートタイマーなどが除かれている。
      3. 給付の上限は20万円とされているが、高度の教育訓練を受講するためには、必ずしも十分とは言えない。
      今後、人材移動の増加等が見込まれる中で、在職中からの自己啓発が特に重要となるが、以上のように現行の教育訓練給付制度は、個人の職業能力開発を支援する仕組みとしてはなお十分なものとは言えない。
      このほか、個人への融資などによる助成制度の創設・拡充、社会人を対象とした奨学金制度の周知・充実なども有効な手段である。加えて、個人の自己啓発の重要性に対する国民的な認識を深め、さらに個人主導による自己啓発を広く促進していく観点からは、バウチャー制度の導入、あるいは関連経費の所得控除の適用などの税制面での支援などを図る必要がある。なお、以上のような支援策が整備された場合には、教育訓練給付制度は、その役割を縮小していくことになる。

    5. 職業能力の評価・分析システムの開発・定着
    6. 個人の職業能力開発を効率的に進めていくためには、人材の持つ知識・技能や経験・経歴等からその市場価値を評価・分析するシステムを開発し、社会的に定着させていく必要がある。
      こうした職業能力に関する評価・分析システムが、社会的に定着していけば、個人の職業能力開発のインセンティブが増すばかりか、外部機関によるきめ細かいキャリア・カウンセリングも可能となる。

    7. 高等教育機関に対する期待
    8. 職業能力の向上を図る上で教育機関の果たす役割も大きい。とりわけ、高等教育機関は、今後、新たに社会人となる人材のみならず、既に社会人となっている人材のエンプロイアビリティを向上させる上で重要な役割を果たそう。
      このため、高等教育においては、21世紀を支える産業のニーズに合致したより質の高い教育サービスを提供する観点から、競争原理の導入を進めることが重要である。具体的には、国立大学の独立行政法人化、任期制の採用等による大学研究者の人材移動、大学の学部・学科の設置の自由化、大学(国公立・私立)の教育内容等を評価する第三者機関の創設及び評価結果の公表、職業能力の開発に資するコースの設置、コミュニティカレッジの機能強化など社会人教育の充実などを図るべきである。

  3. 女性、高年齢層などに対する雇用機会の拡大
    1. 女性 −税・社会保障制度等における配偶者の取り扱いの見直し−
    2. わが国の労働力率の男女間格差は、他の先進国と比べ大きくなっている。また日本の女性労働力率は、とりわけ25〜44歳層で大きく落ち込んでおり、いわゆるM字カーブがみられる。意欲と能力のある女性に雇用機会を提供していくためには、就労環境の整備や育児負担軽減に資する保育制度の充実が不可欠であるが、ここでは主に、給与所得者の配偶者の就労意欲を抑えている税・法制度上の問題点を指摘したい。

      1. 所得税における配偶者の取り扱いの見直し
        所得税において専業主婦を優遇する配偶者控除と同特別控除があるために、給与所得者の配偶者は、無業者になるか、仮に就労したとしても、パートタイマーとして就労するなどして、控除対象となる所得の範囲内に賃金が収まるよう収入調整を行なう傾向が強い。こうした制度は、配偶者が就労していない世帯の税負担を軽減することで家計毎にみた所得の均等化を図るという面等において意義を有していたと考えられる。
        しかし、少子・高齢化により労働力が貴重化し、かつ女性の高学歴化が進行していく中にあっては、給与所得者の配偶者に対し従来以上に雇用機会を提供するという観点から、直間比率の是正を前提として、所得税の税率構造と併せ、所得税の配偶者控除と同特別控除のあり方を検討する必要がある。

      2. 公的年金制度における基礎年金部分の財源の見直し
        現在、公的年金では、給与所得者の配偶者、すなわち第3号被保険者は、基礎年金部分の保険料が免除されており、就労配偶者との間の負担の公平性という観点から問題であるとの見解がある。これを解決するため、基礎年金部分の財源を税方式とするなど、国民が広く浅く負担する仕組みを構築することが不可欠である。

      3. 企業の配偶者手当、家族手当等の見直し
        企業の配偶者手当、家族手当や社宅制度も、所得制限を設けているケースが多く、このような労働供給に制約を設ける制度は、成果・能力主義に基づく賃金システムを構築する過程で見直すことが望まれる。

    3. 高年齢層 −多様で柔軟な就労形態の提供−
    4. わが国の高年齢層の労働力率は、男子で50歳代後半層で95%、60歳代前半層で75%となっており、諸外国に比べて高い水準*8 にあるが、わが国が世界に例をみない速度で進む少子・高齢化に対応するためには、高年齢層に対して雇用機会を従来以上に確保する必要がある。
      その際、留意すべきことは、高年齢層の場合、その就労目的は必ずしも経済的な理由によらない場合が多く、また、他の年齢層とは異なり仕事と余暇の代替性が高いため、希望に沿う雇用形態が実現されなければ、非労働力化しやすいという特徴を持つということである。
      こうした観点から、高年齢層の雇用機会の拡大に向けて、取るべき施策は、派遣形態やNPOでの就労などを含む多様で柔軟な就労形態の提供である。
      これに対しわが国では、高年齢層に対する雇用対策として、雇用保険による賃金補助や60歳定年制*9 などを通じた施策が講じられている。しかし、こうした施策は、労働市場の機能発揮を妨げているなどの問題点が指摘されており、再構築が求められる。とりわけ、60歳定年制については、年齢によらず制約なく働ける社会を実現するという観点から、そのあり方を根本から見直す必要がある。なお、定年の引き上げについては、法律によりこれを強制することは適当でなく、定年制は企業毎の労使の判断に委ねていく必要がある。

    5. 外国人
    6. 先に指摘した通り、中長期的にはわが国の労働力人口は減少することが見込まれており、こうした中でわが国経済・産業が発展を遂げていくためには、世界の優秀な人材を活用していく必要がある。このため、わが国企業が外国人から就労先として選ばれるよう、魅力ある環境づくりに取り組む必要があるが、同時に、外国人労働力の増大によって、社会的なコストが高まることのないよう、社会保障制度、教育制度等を含めた総合的な秩序ある受入体制のあり方を検討していくことも重要となる。
      このため、まず、管理者、技術者等については、こうした人材確保が円滑に進むよう、企業側が能力と成果に応じた賃金・処遇体系への移行などに取り組む一方で、政府としても、有料職業紹介、委託募集などにおける規制の見直しや年金のポータビリティの確保(諸外国との年金協定の締結等)、教育や医療面での諸問題の解決など、国際的な人材移動を促進するための環境を整備する必要がある。
      一方、未熟練の外国人労働力については、わが国産業・企業が持つ技術、技能、知識を習得し、母国の経済発展に貢献したいという近隣諸国の人々のニーズとともに、慢性的な人手不足問題を抱え、事業存続の危機に陥っている日本企業のニーズも強いことから、未熟練の外国人が実習を通じて技能を身につける機会を法的な秩序・ルールの下で与えている外国人研修制度の運用緩和・拡充(業種・職種拡大、手続きの簡素化、受入人数に関する上限規制の運用の緩和、時間帯制限の緩和など)を図ることが重要である。

  4. 個人・企業のニーズ・意向を適切に踏まえた行政の実現
  5. 経済社会をめぐる環境が変化するなかで、個人・企業のニーズに機動的に対応し、効率的な行政を実現するためには、政策の事前・事後の両面で、費用対効果分析を数量的に行い、とり得る選択肢としてどのような施策があるのかといった情報を開示するとともに、政府の活動の内容や行政が関与する理由を十分に説明するというアカウンタビリティを徹底していかなければならない。その上で、今後重要となる雇用・労働政策をプログラム化し、国民に提示するとともに、策定した政策プログラムを可及的速やかに実施し、情勢の変化に対応して、機動的に見直しを行なっていくことが重要となる。

    以 上

  1. 有料職業紹介事業者は、改正職業安定法第32条の3第2項において求職者の利益のために必要であると認められるときを除き、原則として求職者から手数料を徴収してはならないとされている。

  2. 例えば、20年の加入年数を受給要件とし、20年未満勤続の者の掛金として企業で損金算入された掛金を長期勤続受給権者への給付にあてるような給付設計が行われていて、個人別積立額を算出することができないようになっている。

  3. 期間の定めのない雇用契約については、民法及び労働基準法が解雇自由を原則とする定めを置いているが、実態としては、期間の定めのない常用労働者を解雇することは容易ではない。それは、判例上、解雇権濫用法理が確立されているからである。このように、判例上、解雇権濫用法理が確立されたのは、転職すると一般的に雇用条件が低下しがちであるというわが国の労働市場の特徴を反映したものとも言える。

  4. 98年に労働基準法が見直され、(1)新商品や新技術の開発などのプロジェクト業務に必要な高度な専門的知識をもった者を新しく雇い入れる場合、(2)事業の開始、転換や拡大、縮小、廃止などのために必要な専門的知識をもった者を新しく雇い入れる場合、(3)満60歳以上の者を雇い入れる場合については、労働契約の期間の上限が1年から3年に延長されている。

  5. 人材移動特別助成金制度は、次の4種類の制度により構成される。

    1. 人材移動雇用安定奨励金:送り出し事業所から出向・再就職あっせんにより労働者を受け入れた事業主に対する助成制度。雇い入れた対象勤労者に支払った1年間の賃金の1/2から1/4を支給。
    2. 人材移動能力開発準備給付金:出向等対象労働者に対し、新たな職務に必要な知識、技能、技術を習得させることを目的に教育訓練を受けさせた事業主に対する助成制度。対象勤労者に行なった教育訓練費用の1/2から1/4を支給。
    3. 人材移動能力開発定着給付金:雇い入れた労働者に対し、新たな職務に必要な知識、技能、技術を習得させることを目的に教育訓練を受けさせた事業主に対する助成制度。教育訓練費用の3/4から1/2を支給。
    4. 人材移動雇用環境整備奨励金:45歳以上60歳未満の労働者を出向等で雇い入れた後、労働環境の改善に資する設備または福祉施設の設置・整備を行なった事業主に対する助成制度。
      雇入れ後、500万円以上の設置・整備を行なった企業に対する助成制度。

  6. 雇用保険の一般被保険者(在職者)または一般被保険者であった者(離職者)が、労働大臣の指定する教育訓練を受講し終了した場合、教育訓練施設に支払った教育訓練経費の80%に相当する額(上限20万円)を公共職業安定所から支給する制度である。情報処理技術者資格、簿記検定、社会保険労務士資格などをめざす講座や、ビジネスキャリア制度の認定を受けているホワイトカラーの専門的知識・能力の向上に役立つ講座などが保険対象となっている。

  7. 男子高年齢層の労働力率は、米国、英国では、50歳代後半層で70%台、60歳代前半層で50%台、ドイツ、フランスではさらに低い水準になっている。

  8. 定年制については、「高年齢者等の雇用の安定等に関する法律」において、事業主がその雇用する労働者の定年の定めをする場合には、当該定年は60歳を下回ることができないとされている。このため企業の定年制は、60歳定年制が一般化している。


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