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企業人政治フォーラム速報 No.56

PDFファイル版はこちら 1999年 5月25日発行

産業競争力強化に向けての課題
/堀内光雄前通産大臣
(5月13日政経懇談会)

5月13日の政経懇談会で、堀内光雄衆議院議員・前通産大臣は、雇用問題を中心に、産業競争力強化に向けての課題について語った。

[堀内議員]

■産業競争力会議設置の背景と自民党の取り組み

産業界は、自立的成長のためにこれまでも独自に努力を重ねてきたと思うが、企業側の努力についても大詰めの段階にさしかかり、政府としても競争力強化に取組まねばならないとの認識から、経済戦略会議の答申を受けて、新たに各大臣、経済界代表を集めて「産業競争力会議」を設置した。また自民党も、産業競争力会議へのサポート・協力を行うべく、「臨時経済再生・産業競争力検討チーム」(座長:池田行彦政調会長)を発足させた。
産業競争力強化の対応策策定にあたっては、税制や独禁法をはじめ多くの課題があり、具体化にあたっては行政の対応、さらには立法府の協力も必要となるため、政府としてしっかり受け止めて、根本的な景気回復、経済・産業の活性化に繋げていかねばならない。
内容によっては、特別立法・議員立法の必要な場合もあり、自民党としても、検討チームには池田政調会長はじめ選り抜きのメンバーを集めた。検討チームでは、あらゆる問題を網羅的に取り上げる方式をとらず、問題点を一つ一つ解決しながら進めていきたい。5月については雇用問題について取組むことになっている。法案の処理については総理の判断事項であるので、今国会で処理するか、国会を延長するかといった点は別にして、検討チームとしては、いつでも対応できる体制を作っておく必要がある。

■産業競争力の強化と雇用問題

金融国会で金融システム安定化対策も完了し、残る問題は、いわゆるサプライ面、即ち、過剰設備・投資、不良債権の処理に絞られてきた。これらが社会的に広く取り上げられる中で、雇用対策が大きな問題となってくる。産業競争力の強化により、中長期的には生産・雇用とも拡大が見込まれるが、タイムラグの発生により、短期的には失業率が大きく上昇する可能性があると考えられ、したがって、根本的な雇用・失業対策が必要となってくる。従来日本では、この面での対策は、主に企業任せであったのが現状である。
企業が生き残りをかけてリストラを進める中で、失業率が上昇傾向にある。日本の産業全体では、生産性が低下する中で、企業側も過剰雇用の維持が不可能となった。96、97年頃から労働組合との交渉が開始され、98年になって企業内失業が外部に放出されはじめたといえる。実際、98年に入り、これまで上昇を続けてきた就業者数、雇用者数は初めて対前年比減少に転じ、雇用調整が本格化してきた。今後は大手企業から公表された人員リストラ策等から判断すると、短期的にはかなり大幅な失業者数の増加を覚悟する必要があるのではないだろうか。

■非労働力人口の増加〜労働市場の変質〜

一方で、(専業主婦等の)非労働力人口はこれまで増え続けてきたが、99年3月には減少に転じた。また大学院への進学者等も含まれるものの、大学新卒者のうちの就職希望者が減少していることも問題である。いわば「働ける人間が働いていない」状態で、世帯主の失業率が増加傾向にある中、このような非労働力が労働市場に参入した場合、大きな問題となることが予想される。もう一つの問題として、転職希望者の増加が挙げられるが、99年3月時点では、就業者全体のおよそ1割程度が現在の職に満足していないとの結果もあり、いずれにしろ、労働に対する基本的な認識が従来とは変化してきており、従来の失業対策では対応が困難になりつつある。

■失業対策

現在、日本の雇用・失業対策は、(金額的に)海外諸国と比較しても、非常に低いレベルにある。従来、わが国では、企業の終身雇用制を前提に失業対策を行ってきたが、今後、失業者が増加していく中で、欧州型の慢性的に高い失業率が続くことも念頭に、抜本的な対策を講じる必要がある。
雇用対策としては、第一に、まだ検討の段階であるが、失業保険給付に関しては、任意退職者に対する給付を一時中止することが考えられる。自発的失業が増加傾向にあり、雇用保険の財源の問題からも、検討の必要があると思われる。第二に、今国会で討議中の、民間による就職斡旋に関する法案の早期成立が必要である。(※5月19日に、労働者派遣法の改正案が衆院労働委員会を通過。)現状、(公共の)職安による紹介では、ミスマッチが多数発生しており、失業者に対するケアをもう少し手厚くするという意味でも重要な問題である。第三に、中高年のホワイトカラーについては、現状の(再就職にあたっての)職業訓練では対応困難で、本当に役に立つ再教育システムの構築が必要である。第四に、企業の余剰人員の維持支援策についても、企業がリストラにより雇用を放出していくのであれば、存続の必要がないといえ、雇用調整助成金は、事業転換に重点を置くものとして変えていく必要がある。

■今後の雇用対策〜NPOの活用等〜

米国ではNPOが第三の就労形態として、コミュニティーで大きな役割を果たしている。現状、日本では、NPOはそのような段階まで発展しておらず、まさにボランティアの状態である。米国には、牧師(のボランティア行為)に対してある程度の謝礼を出す慣習があるが、日本でも、競争社会に十分参加できないとか、週に2〜3日であれば働けるというような人たちを対象に、一定の謝礼のようなものを提供する、「就職」ではなく「就業」とでもいうような雇用形態を創出し、そこに、市町村あるいはNPO団体を通じて政府の金を流せるような仕組みを検討しても良いのではないだろうか。
今後は、一般会計支出による失業対策を増加させる必要がある。私は、98年12月に、「緊急雇用創出基金」の創設に注力した。基金そのものは、最終的に、金額・給付対象ともに当初の意図とはずれてしまったものとなったが、今後はこのような雇用対策に対する基金の活用範囲を拡大し、自分の能力を社会に役立てたいという人たちが利用できるようなものにしていきたい。

■経団連側発言(一部)

[堀内光雄衆議院議員プロフィール]

ほりうち・みつお 1930年生まれ。慶大経済学部卒業後、富士急行(株)に入社。32歳の若さで社長に。1976年初当選以来、当選7回。第2次橋本改造内閣では通産大臣を務め、現在、自民党「臨時経済再生・産業競争力検討チーム」座長代理。産業競争力強化に向けての、自民党キーパーソンの一人。(加藤派)



産業競争力強化に向けた経団連提言を発表
(5月18日)

経団連では5月18日、「わが国産業の競争力強化に向けた第一次提言」と題する提言を発表した。これは首相直属機関である「産業競争力会議」の第二回会合(4月28日)での、小渕首相から、経団連今井会長に対する要請を受けて、取りまとめられたもの。供給構造改革・雇用対策・土地流動化対策を中心とした内容。なお同提言は、5月20日に開催された、産業競争力会議の第三回会合にて提出された。


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