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「Reforming the Japanese Economy:日本経済の再生」

ドイツ産業連盟主催シンポジウムにおける奥田会長スピーチ
2003年3月7日(金)
於:ドイツ産業連盟本部

1.はじめに

ただいまご紹介いただきました、日本経団連の奥田でございます。本日は、ドイツの産業界の皆様の前で、お話する機会をいただきましたことに、心よりお礼を申し上げます。
ドイツと日本は、欧州および東アジア、ひいては世界経済の牽引役を期待されていること、また、景気回復や構造改革が緊急の課題であるという点において共通しております。その意味で、このシンポジウムにおいて、お互いが置かれた状況に対する理解を深め、より強固なパートナーシップの確立の可能性を探ることは大変意義深いと考えております。
本日、私が頂戴したテーマは日本の経済再生であります。日本経団連は、本年1月1日に、「多様な価値観が生むダイナミズムと創造」、そしてそれを支える「共感と信頼」を基本的な理念とし、2025年度の日本の姿を見据えたビジョンをとりまとめました。そこで、その内容をご紹介しつつ、長期にわたる経済低迷と閉塞感を打破し、新たな実りを手にできる経済を実現するために、わが国が取り組むべき課題は何かについてご説明したいと存じます。

2.日本経済の現状と改革の必要性

まず、日本経済の現状でございますが、長期にわたる経済の低迷、深刻なデフレの中で、厳しい状況に立たされております。
1980年代半ば以降、プラザ合意に端を発する円高やその後のバブルの発生と崩壊、冷戦構造の終焉による大競争時代の到来など、日本経済を取り巻く環境は、この20年間で大きく変化いたしました。
こうした中で、日本は、これまでの右肩上がりの経済に慣れきってしまい、低成長、あるいはマイナス成長という厳しい現実を受け止めることができないまま、むしろあえてその現実から目を背け、手をこまねいていると言うことができます。
いま必要なことは、国民全てが危機意識を共有し、政治に対して改革を迫ることであります。大胆に改革を実行することができれば、日本は再び輝きを取り戻すことは間違いないと考えております。

3.財政、税制、社会保障制度改革を三位一体で推進

私は、早急に、日本が民主導の自律型の経済社会を確立すべきであると考えております。そのために、財政、税制、社会保障制度を三位一体で改革していくことが重要であります。
具体的には、まず、国・地方を通じて、聖域なしに歳出を削減することであります。たとえば、バブルの形成から崩壊で膨らみ続けた公共投資を大幅に抑制しなければなりません。
加えて、社会保障の給付水準などを引き下げていくことが必要であります。日本では、現在、働く者3.5人で1人の高齢者を支えているものが、2025年には2人で、2050年には1.5人で1人の高齢者を支えなければならなくなります。そのような世界にも類を見ない急速な高齢化の進展により、現在82兆円ほどの社会保障費は、2025年度には、その2倍にまで膨れ上がるとされております。これを現行の所得税や社会保障料に頼ることになれば、現役世代や企業に大幅な負担を強いることになり、経済の活力は殺がれ、日本経済再生の道は閉ざされてしまいます。
こうした事態を回避するために、社会保障制度のセーフティネットとしての本来の役割に照らして、給付の水準を少子化・高齢化が進んでも維持できる水準まで適正化することが求められます。
しかしながら、このような歳出改革、社会保障制度改革を断行しても、少子化・高齢化の急速な進展により、どうしても負担増が避けられない部分につきましては、全世代が薄く広く負担していくべきであるという考え方が必要であります。そうした観点から、税体系そのものを「薄く広く」を原則として改革すること、そして基幹的な税目として消費税を位置づけることが必要となってまいります。
ビジョンでは、2025年度の経済と財政の姿について試算を行いましたところ、消費税率を2004年度から毎年1%ずつゆるやかに引き上げ、同時に給付水準の見直しを行っていけば、2025年時点での消費税率は16%に抑えられます。この水準は、ドイツをはじめ、欧州各国の間接税とほぼ同じであります。
いま申し上げたような三位一体の改革を断行すれば、日本は、2025年度までに、年平均名目で3%、実質で2%程度の経済成長を実現できる、と考えております。

4.成長の源泉はどこに求めるか

そこで、いま申し上げたような新たな成長を確保するための源をどこに求めるべきかについてお話したいと思います。
まずは、連結経営的に日本全体の経済をとらえ、海外投資収益などを日本国内に還流させ、先端的な技術革新に結びつけていくという「MADE "BY" JAPAN」戦略を進めることが必要であると考えております。
今や人、モノ、カネ、情報が極めて速いスピードでボーダレスに行き交う時代であり、国や地域という垣根にとらわれていては、企業も国も成長できません。この中で、日本は世界の力を最大限活用し、科学技術創造立国として、また世界のフロントランナーとして、新技術や新製品を開発し、世界に発信していくことが求められます。
とりわけ、日本の持つ環境技術やビジネスモデルを活かす「環境立国戦略」を推進することが重要であります。資源小国というハンディがあったという現実の中から培われたものではありますが、日本の省エネルギー・省資源の技術やビジネスモデル、あるいはノウハウは、世界最高水準にあると考えております。
日本は、こうした環境技術を世界に積極的に発信し、グローバルスタンダード化していくと同時に、世界の環境保全に貢献していくという戦略を持つ必要があります。
加えて、中国を含め、「東アジアの連携を強化しグローバル競争に挑む」という戦略を日本がイニシアティブをとって進めていくことが重要であります。
もちろん、全世界に対して日本を開いていくという姿勢と取り組みが、その前提となりますが、既に日本が事実上、経済的に強く結びついている東アジア諸国と手を取り合って「自由経済圏」を構築し、米州、欧州とともに、世界の重要な三極の1つを形成していく、という戦略であります。
欧州各国は、政治のリーダーシップのもと、大胆な戦略と不断の努力で、経済統合に努めてまいりました。その努力が実を結び、今日のEUの誕生につながったと、私は認識しております。
東アジア地域の自由経済圏形成にあたっては、ドイツをはじめとするEU諸国の経験から大いに学びたいと考えております。

5.おわりに

本年は、日本経済再生に向けた正念場の年となります。私も日本経団連の会長として、活力と魅力溢れる国をつくるという高い志を持って改革に取り組んでまいる所存であります。
ご清聴、ありがとうございました。

以 上

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