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日本経団連総会における御手洗新会長就任挨拶
「INNOVATE 日本(にっぽん)

−日本経済団体連合会第5回定時総会−

2006年5月24日(水) 午後2時〜4時
於 経団連会館 14階 経団連ホール

  1. 先ほど経団連会長にご選任いただきました御手洗冨士夫でございます。
    今日わが国は、軌道に乗りつつある構造改革を着実に進めるとともに、その成果を踏まえて新たな日本を築くという重要な局面を迎えております。そのような中、日本経団連に寄せられる内外の期待とその社会的使命の重さを考えますと、会長としての責任の重大さに身の引き締まる思いがいたします。
    会員の皆様のご支援、ご協力の下に職務を全うすべく全力を傾注する所存でございますので、何卒宜しくお願いいたします。
    奥田前会長におかれましては、不良債権処理や郵政民営化など大きな変革のただ中にあって、その透徹した見識と行動力をもって新生経団連の陣頭指揮に当たられるとともに、経済財政諮問会議の民間議員として政策運営の中枢に深く関わってこられました。この間のご活躍とご貢献に対しまして、改めて心からの敬意と謝意を表する次第でございます。
    私は、奥田前会長が示されました「活力と魅力溢れる日本をめざして」の路線を踏襲し、「INNOVATE 日本」を旗印に、復活の萌しを見せております経済の活力をさらに強化するとともに、日本を内外の人々にとって魅力あふれる「希望の国」とするため、全力を挙げて取り組んでまいる決意でございます。

  2. さて、本年度、経団連が取り組んでまいります具体的な課題につきましては、先ほど採択されました総会決議通りでございますので、私からは、「INNOVATE 日本(にっぽん)」の目指すところについて簡単にご説明いたします。
    まず、経済面におきましては、構造改革が実を結び活力を取り戻しつつあります。かつて企業を苦しめた三つの過剰はほぼ解消し、企業業績は過去最高水準を更新し続けております。また、実質成長率も2%前後まで回復し、失業率も目に見えて改善するなど、長いデフレもようやくトンネルの出口が見えつつあるように見えます。
    しかしながら、日本がバブルの後処理に追われていた1990年代から今世紀初頭にかけて、世界経済は大きく変貌しております。東西冷戦構造の消滅以後、多くの国々が市場経済に移行するとともに工業化を進め、世界の経済は規模の拡大とグローバル化が進行しました。そして、その中でBRICs諸国に代表されるような新興勢力が目覚ましく台頭してまいりました。
    こうした状況の中で、日本が経済力をより確かなものとし、世界経済の主要なプレーヤーであり続けるためには、彼我の競争力の格差、いわゆるコンペティティブ・エッジを不断に創出し続ける必要があります。
    そして、これを可能とするのが広義のイノベーションによる全要素生産性、いわゆるTFPの上昇であります。
    もちろん、アメリカやEUを始め世界各国も積極的な科学技術振興策を打ち出しており、新しい産業と雇用の創出に力を入れておりますが、資源の乏しい日本においては、勤勉で教育水準の高い国民の能力を生かした産業振興がことさら重要であることは申すまでもありません。
    そこで現在展開しております「科学技術創造立国」の構想をさらに強力に推し進め、夢のある国家プロジェクトをリード役として新商品や新サービスなどのイノベーションを継続的に実現していくシステムを、税制や財政、教育などすべての施策を動員して整備していく必要があると考えます。
    日本が新しい成長のエンジンをフル回転させ、世界のイノベーションセンターとなることができれば、経済が活性化し雇用が増大するとともに、アジアをはじめとする国々との協働・分業関係をより高度なものに進化させ、今までにも増して互恵的な成長を実現することができます。まさにアジアと一体となって世界を支えることが可能になります。

  3. また、イノベートしなければならないのは産業や経済だけにとどまりません。
    日本を活力と魅力あふれる希望の国としていくためには、社会システムや、さらにその根底にある国民意識についても自立に向けて転換していく必要があると思います。
    誰もが、公平なチャレンジの機会を持ち、頑張った人が報われる公平な社会システムを実現しなければ、将来に希望を持つことはできません。結果の平等を重んじた旧社会主義諸国が、息の詰まる官僚制国家となり、やがて自滅していった事実を見れば、「平等」から「公平」へのパラダイムチェンジが歴史的必然であることは明らかであります。
    一人ひとりが自らの責任において、自らの未来を切り拓く気概を持つということは、とりもなおさず、官や国への安易な依存心を持たないということであります。
    現在焦点となっております社会保障制度改革もその一例であります。自ら支払ったものを大幅に越える給付を受けられる制度が、恒久的に維持できないことは明らかであります。そのような制度が設計された背景には、どこかに官依存の甘えがあったからに他なりません。
    しかし、一見優しく見える制度は、子々孫々への負担の付け回しでしかありません。社会保障給付につきましては、少なくとも現在の経済の身の丈にあった水準にまで合わせ込んでいくことが必要であると考えております。
    同様のことは地方制度改革についても同様であります。地方自治は、地方住民が必要な行政サービスを選択し、その費用を自ら賄うことが基本であります。
    そこで選挙を通じて不要な行政サービスは削減され、簡素で効率的な地方自治体が形成されます。
    しかしながら、地方自治を、そのような本来の姿に戻すために始められたはずの三位一体改革が、いつのまにか国と地方との財源の奪い合いに変わってしまったという印象を持っているのは私一人ではないと思います。ここにも国頼みの姿勢が見え隠れしております。
    地方が、国に安易に頼らず、自ら目標を定め、合理的な計画をもって地域振興をリードするのでなければ、地方分権は成り立ちません。道州制の導入が検討されておりますが、これを機に全国的議論を喚起し、地方が自らの意志と知恵によって自立する真の意味での地方分権が進むことを期待しております。

  4. このように、内外に開かれた挑戦のフロンティアこそ、私が思い描く希望の国でございますが、もう一つ必要なものがあります。自立自助、積極進取の精神を縦糸とすれば、他人を尊重し、弱者を思いやる心という横糸がなければ、希望の国は成り立ちません。
    例えば、いわゆる格差の拡大が問題視されておりますが、公正な競争の結果として経済的な格差が生じることは当然のことであります。この場合、格差は問題というよりも、むしろ経済活力の源であり、そのために必要なことは競争に敗れた者に再挑戦の機会が何度でも与えられるということであります。
    また、その一方で、高齢者やハンディを負った方々のために、安心できるセーフティネットを、NPOやボランティアの方々のカも最大限に活用して整備し、安心を担保することは、社会の重要な務めでありましょう。
    市場原理の重要性を明らかにしたアダム・スミスは、「人間社会の全構成員は、相互の援助を必要としている。その必要な援助が、愛情から、感謝から、友情と尊敬から、相互に提供される場合は、その社会は繁栄し、そして幸福である」と説いております。誰もが、自ら隣人や会社のために何ができるか、コミュニティーのためにどのような奉仕ができるのか、そして祖国のため、世界のためにどのような貢献ができるのか、真剣に考え、実行していかなければなりません。
    そしてそれは、企業もまた同じであります。残念なことに企業不祥事が続いており、経団連としてもその根絶を会員に働きかけておりますが、不祥事を再発させないということは各企業にとって等しく最低限の責任であることは言うまでもありません。そして、その上に社会の一員としてより積極的に地域や国、国際社会に貢献していかねばなりません。政策本位の政治を実現するために企業が行う政党への献金も、こうした社会貢献の一つであると考えております。
    こうした思いやりや公徳心を、私は「愛国心」と呼びたいと考えております。この愛国心があればこそ、他人の気持ちや痛みも理解することができ、他国を尊重する態度も生まれます。
    福沢諭吉翁は、「(いやしく)も愛国の意あらん者は、官私を問わず先ず自己の独立を謀り、余力あらば他人の独立を助け成す()し」と説いておられます。
    私は、真の愛国心は、偏狭な排外主義や軍国主義とは全く無縁なものであり、社会人、国際人の精神的よりどころとして、幼いときから育むべき重要なこころであると確信しております。

  5. 将来を展望する時、少子化・高齢化やグローバル競争の激化ばかりを強調する悲観論がございます。もちろん、現実を直視することは大切なことではありますが、日本は、勤勉な人材や優れた技術、協調的な労使関係や安定した政府、また治安の良い社会など数多くのメリットに恵まれております。BRICs諸国をはじめとする新興諸国の台頭につきましても、新市場の出現を始めとするビジネスチャンスの拡大そのものであります。
    個人も、企業も、政府も、一体となって、経済と社会の両面で「INNOVATE 日本(にっぽん)」を進めれば、必ずや日本を希望の国とすることは可能であります。このような信念の下、私は諸課題の解決にひるまず取り組み、責任を全うしていく覚悟でございます。
    重ねて皆様方のご理解とご支援を衷心よりお願い申し上げまして、私からのご挨拶とさせていただきます。

以上

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