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「日本の政治経済状況」

第45回日米財界人会議における日本経団連御手洗会長スピーチ

2008年10月6日(月)17時45分〜18時
帝国ホテル 3階 富士の間

1.はじめに

ご紹介いただきました日本経団連会長の御手洗です。
本日、私に与えられた議題は「日本の政治経済状況」であります。
まず、日本経済を取り巻く現状と今後の課題についてどう見ているかを申し上げ、その後、わが国が直面しているグローバルな課題に関する経済界の考え方をご説明したいと思います。

2.日本経済の現状と今後の課題

はじめに、目下の経済情勢について申し上げたいと思います。
現在、世界経済はかつてない難局に直面しております。
2000年代前半を通じて、日米欧の先進国、中国をはじめとする新興国、あるいは資源国など、世界全体が高い経済成長を遂げました。
これに対し、昨年の夏以降は状況が一転し、住宅バブルの崩壊、資源エネルギー価格の急激な変動、金融システムの不安定化など、次々と問題が発生し、世界経済全体が減速傾向を強めております。

かつてと異なり、経済のグローバル化が進み、各国経済が緊密に結びついた今日において、一部の国が、世界経済の影響をまぬがれて、成長を続けられるということは、もはやあり得ません。世界経済全体の安定成長に向けて、すべての国々の政府当局、そして、われわれ経済界が、協調・連携をとりながら、力を合わせていくべき時であると考えます。

このような中で、日本経済も、厳しい環境に置かれております。ここ数年の日本経済は、世界経済の成長を梃子にして、輸出主導で成長を遂げてまいりました。このため、世界経済の減速と原燃料価格の上昇の影響をまともに被ったのであります。その結果、今年の第2四半期は、大幅なマイナス成長に転じました。
しかし、手をこまぬいているわけにはいきません。
現在、国会では、緊急総合対策に対応した、補正予算案の審議が行われております。まずは、これを早期に成立させ、いま以上の景気の落ち込みを防ぐべきであります。また、必要があれば、個人や企業に対する減税も含め、さらなる対策を打つべきと考えます。
こうした緊急対策により、景気を早期に回復軌道にのせるとともに、中長期的な改革も同時並行で進めなければなりません。その中心となるのが、税制、財政、社会保障制度の改革であります。

いまの日本国民の最大の関心事として、社会保障制度の綻びや、持続性に対する不安が挙げられます。このことが、消費者マインドを萎縮させ、国内の消費が盛り上がらない一因ともなっております。
そこで、経団連では先週、社会保障制度と税制・財政に関する一体改革を、政府に対して提言したところであります。年金や医療などの社会保障制度を安定的に維持し、経済の成長力を強化していくためには、税体系の抜本的改革を行うことが、避けて通れない課題であります。

以上、日本経済の現状と中長期的な課題ついてお話ししてまいりましたが、わが国を取り巻く内外の環境は大変厳しいものがあります。
この難局を克服していくためには、先月、首相に就任された麻生総理の強力なリーダーシップが不可欠です。
麻生総理には、まず足元の景気を立て直すとともに、信念を持って、税制・財政・社会保障の一体改革などに正面から取り組み、国民に日本の進むべき道筋を示していただきたいと思います。

3.わが国が直面するグローバル課題への対応

次に、わが国が直面しているグローバルな課題への対応について、経済界の考えを申し上げたいと思います。
第一は、WTOドーハ・ラウンドの推進を通じた、多角的自由体制の維持・強化であります。
わが国はGATTの時代より、開かれた貿易体制の恩恵を享受して今日の経済発展を遂げてまいりました。
世界で保護主義的傾向が高まる中、わが国は、世界第一の経済大国である米国と共に、今後の世界経済の安定的発展のためにも、この多角的な自由貿易体制を維持し、さらに強固なものにしていく責務があると思います。
その意味で、本年7月にジュネーブで開催されたWTO閣僚会合が、ラミー事務局長の提案を受けて一時は大きく前進したものの、最後の一歩というところで、大枠合意に至らなかったのは、極めて残念であります。
しかし、成長の減速や食料・資源価格の高騰など、世界経済を取り巻く状況を考えれば、一刻も早い局面の打開と妥結に向けた一層の努力が必要です。
9月中旬から少数国による高級事務レベル交渉が再開したと聞いておりますが、今後とも、これまでの合意をもとに、残された論点に関する交渉と作業を精力的に進め、ラウンドの早期妥結に向けて全ての加盟国が全力を挙げることを強く求めていきたいと思います。

第二の課題は、EPA・FTAと呼ばれる経済連携協定/自由貿易協定の締結に戦略的かつスピード感をもって取り組み、世界経済のダイナミズムを取り込むことであります。
こうした観点から、これまでは特に、東アジアを中心にEPAを拡大し、内容的にも深めていくことを政府など関係方面に働きかけてまいりました。
その結果、各界のご理解や協力を得て、わが国のEPA交渉は、これ迄に2国間のEPAが7カ国との間で発効するなど大きく進展しております。
今年に入ってからも、4月にASEAN全体とのEPAである日ASEAN包括的経済連携協定が署名に至ったほか、ベトナム、スイスとの交渉も、先月、大筋合意をみたところであります。
今後は、懸案となっております豪州や韓国との2国間のEPAを推進するとともに、ASEANと日・中・韓・豪州・ニュージーランド・インドの6カ国によるASEAN+6を実現し、東アジア全域に経済連携ネットワークを拡大することが重要であると考えます。
他方、こうした進展はあるものの、わが国がEPAを締結済みか、大筋合意に達している国との貿易額は全体の約15%に止まっており、いわばEPAの第2フェーズに入るこれからが、むしろ正念場であります。特に、貿易額であわせて30%近くを占めるEUや米国とのEPAを実現することが重要と考えております。

米国との経済連携強化については、改めて申し上げるまでもなく、わが国の対外関係の基軸は日米関係であります。日米同盟に基づき、これ迄良好に推移してきた日米の政治・経済両面での連携関係を将来にわたり維持・発展させるための法的枠組みとして、包括的な日米EPAを真剣に検討すべき、というのが我々の基本認識であります。
さらに、日米EPAは、単に日米二カ国の関係のみならず、東アジア地域全体にとっても重要な意義を持っていると考えております。
日米間で包括的なEPAを締結できれば、両国の対外経済政策の協調を促し、東アジア地域の成長と安定、一層の自由化、さらには質の高いルールの整備にも資するものとなることでありましょう。
こうした意味で、日米EPAは、東アジア地域と米国との橋渡しともなるものであり、さらにはAPECの場で検討が開始されているアジア太平洋自由貿易圏(FTAAP)実現に向けた基盤ともなりうるものであります。
経団連では、2006年秋に提言「日米EPAに向けた共同研究開始を求める」を発表した他、昨年1月には米国のビジネス・ラウンドテーブルとの共同声明を発表するなど、日米EPAの実現に向けて、関係方面に継続的に働きかけを行なっております。
来年の米国新政権の発足を睨みつつ、日米財界人会議や、米国の経済団体とも協力して、今後とも、日米EPAの共同研究開始を両国政府に働きかけてまいりたいと存じます。

第三の課題は、地球温暖化への対応です。
言うまでもありませんが、経済成長と両立させながら温暖化問題を解決するためのカギを握るのは、技術革新であります。そこで、技術分野で世界をリードする日米が、技術革新のためのロードマップをしっかり共有し、努力していくことが重要です。
ポスト京都議定書の国際枠組についてもっとも大切なことは、すべての主要排出国の参加です。次期国際枠組では、主要国全てが納得するような形で、公平性が確保される必要があります。
そこで、わが国が現在提案しているのが、90年という京都議定書の基準年の見直しと、セクトラル・アプローチであります。

基準年につきましては、90年の直後に共産主義体制が崩壊した東欧を取り込んだEUに有利な年となっているのは、皆さんご存知の通りです。
また、セクトラル・アプローチとは、セクター毎に best available technology を特定することにより、途上国の参加を促すための技術協力や、温室効果ガスの削減に向けた施策を客観的に明確にすることに活用できます。
こうしたわれわれの提案に対し忌憚のないご意見をいただき、全ての国が納得し参加できる枠組の構築について、お互いの知恵をしぼっていければと考えております。

4.終わりに

以上、限られた時間で駆け足ではございましたが、わが国経済の現状とグローバルな課題への対応についてお話しさせていただきました。
御出席の皆様が、両国経済の課題やグローバル・イシューについて議論される上で、私の話が何らかの参考になれば幸いです。
本日と明日の会議が有意義、かつ実り多いものとなることを祈念いたしまして私の講演を終わらせていただきます。
ご清聴、ありがとうございました。

以上

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