時事解説「トランプ大統領の米国はどこへ行くのか」<6>松井孝太研究委員
司法の動向とトランプ政権への影響
経団連総研研究委員(杏林大学総合政策学部准教授)
松井孝太
米国において裁判所は、大統領および議会と並ぶ重要な政治アクターだ。
現在、上下両院はいずれも共和党が多数派を占めており、第2次トランプ政権の政策を議会が抑制する可能性は高くない。そのため、同政権が進める政策の合憲性・合法性や、大統領権限拡大の試みに対して司法がいかなる判断を示すのかが、今後の米国政治の方向性に決定的な影響を及ぼすと言っても過言ではない。
現在の最高裁判所は、保守派6人、リベラル派3人という保守派優位の構成だ。これは、第1次トランプ政権期に新たに3人の保守的判事が任命されたことによる帰結でもある。
かつてはリベラル派と歩調を合わせることもあった共和党系の穏健派判事が相次いで引退した結果、超党派的な判決の割合は近年著しく減少し、党派によって立場が明確に分かれる判決が増加している。
こうした裁判所の党派化は、司法に対する社会的信頼をも揺るがしている。世論調査では最高裁への好意的評価は歴史的低水準にあり、とりわけ民主党支持者の間で支持が大きく低下している。最高裁そのものに対する評価が党派的に分極化している現状は、司法の正統性にとって深刻な問題だ。
第2次トランプ政権下では、司法省の訟務長官室の役割にも変化がみられる。
訟務長官室は、連邦政府が当事者となる最高裁訴訟で政府の立場を代表する機関であり、伝統的に高度な専門性と一定の独立性を有してきた。しかし、トランプ大統領の私的弁護人を務めたジョン・サウアー氏が訟務長官に就任したことで、訟務長官室と政権との距離は大きく縮まったと指摘されている。
2025年10月~26年6月の最高裁開廷期において、現時点で特に注目される事件を紹介する。
第一は、いわゆる「トランプ関税」の合法性を巡る訴訟。国家緊急経済権限法(IEEPA)を根拠として各国に課されてきた関税措置について、最高裁は2月20日、大統領に付与された権限の範囲を逸脱しているとして、違法・無効とする判決を下した。
トランプ関税については、ニール・ゴーサッチ判事ら保守派からも懐疑的な声があったため、保守派3人(ジョン・ロバーツ首席判事、ゴーサッチ氏、エイミー・コニー・バレット判事)とリベラル派3人が多数派となるという、おおむね予想どおりの判断だった。
しかし、トランプ政権はこの判決後も通商法122条や301条など他の法的根拠に基づく関税政策の継続を試みており、その合法性や企業への関税還付手続きなど、関税問題を巡る司法闘争は今後も続く。
第二は、独立行政機関の委員解任を巡る訴訟。第2次トランプ政権は発足直後から、連邦取引委員会(FTC)をはじめとする独立行政機関の民主党系委員を相次いで解任してきた。
これまで最高裁は、大統領による解任権を一定程度制限する判例法理を維持してきたが、これが変更されれば、独立行政機関に対する大統領の統制は大幅に強化されることになる。
ただし、トランプ大統領が同じく標的としてきた連邦準備制度理事会(FRB)の理事については、その歴史的地位や準民間的性格を踏まえ、正当な理由のない解任は制限される可能性が高いとの見方が有力だ。
第三は、選挙制度を巡る一連の訴訟。25年夏に実施されたテキサス州の選挙区割りを巡る事件では、同年12月、最高裁は共和党に有利とされる区割りを無期限に有効とした。
この判断はトランプ政権および共和党にとって追い風となる一方、民主党側による対抗的な区割り変更の動きも一定程度容認することとなり、選挙区割りを巡る党派的対立を一層激化させる可能性がある。
政治資金規制に関して、政党が候補者と協調して行う選挙活動への支出制限を違憲とする判断が示される可能性も指摘されている。その場合、政治資金規制の実効性はいっそう低下するだろう。
総じてみれば、保守派優位の最高裁は、トランプ政権による大統領権限拡大を一定程度容認する傾向にあると考えられる。
とはいえ、関税訴訟やFRB理事解任問題にみられるように、全ての争点で政権側の主張が無条件に受け入れられているわけではない点にも留意すべきだ。
多数派である保守派判事のなかでも、ロバーツ氏やバレット氏らは相対的に穏健な傾向があり、今後の争点によってはリベラル派判事と多数派を形成することもあり得る。
法の支配を軽視する風潮が強まるなかで、司法の独立をいかに維持し、裁判所としての正統性をどのように確保していくのか。保守派判事にとっても、極めて困難なかじ取りが求められている。









