シンポジウム「『中国式』ルールの台頭とビジネスの針路」を開催しました
左から、倉田研究委員、小嶋研究委員、川島研究主幹
経団連総合政策研究所(筒井義信会長)の中国情勢研究プロジェクト(研究主幹=川島真東京大学大学院総合文化研究科教授)は5月13日、シンポジウム「『中国式』ルールの台頭とビジネスの針路~広がる対外法治網と変貌する香港」をオンラインで開催しました。
前半は小嶋華津子研究委員(慶応義塾大学法学部教授)、倉田徹研究委員(立教大学法学部教授)がそれぞれ講演。後半は川島研究主幹がモデレーターとなって、両研究委員とパネル討議を行いました。概要は次のとおりです。
■習近平政権の法治建設と対外戦略(小嶋研究委員)
習近平政権は、国内の「法治」のみならず、対外関係に関わる「渉外法治」を戦略的に推進している。とりわけビジネス領域における戦略は、主に二つの局面に整理できる。
第一は「法域防衛の強化」であり、外国による法の域外適用や制裁へ対抗するため、中国は輸出管理法や反外国制裁法など一連の法整備を急速に進めている。
第二は「国際紛争解決プラットフォームにおけるプレゼンスの強化」だ。既存の枠組みを利用するにとどまらず、「一帯一路」を舞台として中国主導の紛争解決メカニズムの構築を図っている。その際、国内の法治と海外の渉外法治を接続するハブとして、香港の資源が最大限に活用されている。
こうした動向は、新領域のルール形成を主導し、中国のディスコース・パワーを拡大する狙いがある。日本はグレーゾーンが拡大し流動化する対抗軸を意識し、国際社会で戦略的に規範形成へ関与していくことが不可欠だ。
■変貌する香港の政治経済関係(倉田研究委員)
2020年の香港国家安全維持法(国安法)制定以降、香港の政治・経済関係は大きく変貌している。かつての香港は、政府の不干渉を原則とする自由経済を最大の特徴としていた。しかし近年は、政治が経済に強く介入する「中国式」の統治手法が導入されつつある。
その象徴が「北部都会区」という大規模開発プロジェクトだ。この構想では、政府がハイテク産業の誘致を主導し、同区に限定した法制度の特例や中国式基準の導入を進めている。さらに中央および香港政府は財界に対し、愛国心を示す「実際の行動」として同区への投資を強く求めている。
一方、自由経済の恩恵を受けてきたビジネス界は、表向きは同調しつつも、採算性に基づく冷徹な判断を維持している。高コストな環境でのハイテク産業育成への懸念や米国の制裁という逆風もあり、政治主導の国家プロジェクトと経済的合理性の間には緊張関係が生じており、香港経済の行方は不確実だ。
■パネル討議
川島研究主幹は、両発表に共通する論点として、中国で政治と経済が「法」を媒介に一体的に結び付き、対外戦略にも展開している点を指摘した。
小嶋研究委員は、渉外法治は国内法の単なる域外拡張ではなく、データやAIなどの国際的に流動化する新領域で、中国に整合的かつ他国にも受容可能なルール形成を主導することで、対外的な影響力強化を図るものと説明した。
倉田研究委員は、香港は分野ごとに中国式と国際標準が併存する「インターフェース」となっており、「一都市二制度」とも言うべき状態にあると分析した。政治面で「中国式」統治が導入される一方で、商業・民事の司法実務ではコモンローが維持され、ビジネス界は新たな制度環境への適応を進めつつあると述べた。
最後に、川島研究主幹は、中国が法と経済を結び付けて、ルール形成と紛争解決を通じて規範的影響力を拡大する戦略を整理した。そのうえで、日本を含むミドルパワーは、他国との連携を通じて国際ルール形成に戦略的に関与する必要があると結んだ。









